母親という存在2
「はー・・・」
倒れるようにベッドへダイブする。身体はバウンドし、うつ伏せの状態で軽く沈んだ。
後悔していない、といえば嘘になる。あんなに父に当たる必要はなかった。いつもならあそこまで怒ることもない。それもこれも夢のせいかもしれない。
今の私は無性にイライラしている。だからと言ってあの人に振り回されるなんて情けないにも程があった。
枕に顔を埋める。気持ちも落ちて、もう心の中はわけが分からなくなっていた。
母のことはあまり覚えていない。私が10歳のときにいなくなった。最後には見たのは父とは違う男と並ぶ姿。
小さいながらに悟った。私たちは捨てられたのだとーーーーー
父は連絡がきたと言っていた。今更何の用だ。“早く逃げろ”なんて意味が分からない。
「いったい何から逃げろって・・・いや、そんなまさか」
ふと思い出すのは前野さんの記憶に出てきたあの化け物。
化け物のことかと思ったけれど、あの人がなぜその存在を知っているのか分からない。偶然にしてはタイミングが良すぎるし、逃げろというなら私たちが狙われる可能性があるということだ。
あの人は何かを知っている?
私のこの能力が遺伝なら、あの人も私と同じような能力を持っていて、偶然化け物のことを知った。それで私たちに忠告を?
いくらなんでも考えすぎかもしれない・・・。
あの人が何を思って、連絡してきたのかは知らないけれど、もう私たちに関わらないでほしい。
もうかき乱されるのはごめんだ。
身体を反転させ、ベッドから起き上がる。考えるのは諦めて入浴の準備でもしようとしたその時、1階から大きな音が響いてきた。