5.続きのしおり
再び読者視点。休憩回。
ここまで読んでみて、いくらかわかったことがある。
例えば、書き手が無謀なことをしてることだ。
「無茶しやがって…」
固有名詞を付けずにはじめてしまい、短編一本目や二本目程度ならよかったが、うっかり続けてしまって、かなり息切れをおこして呼び名が大混乱だ。
当初、主人公?と思われる『第一王女』すら、視点が変われば『お姉さま』に『彼女』に『姉姫さん』となる。
元婚約者に至ってはもうカオスだ。
『婚約者』に『公爵家次男』に『野戦騎士団』に『旦那』になって『次期王配』…これはあってるのか心配になってきた。
某王家を参考にするなら、『王太子配』か『王子』か『公爵』あたり?いや、馴染みがないからなぁ…
なんだかわかりにくいから、もういっそ『エアー夫』でも…いや、それだと仮想夫婦みたいで次元の壁ができてしまう。
それなら『空気夫』だと…だめだ、今度は仮面夫婦が出来上がる。おうちの中が冷戦だ。
ううむ。書き手が迷走しているのがバレバレで、そして私もわからん。
しかし、今更名前をつけるのもタイミングが遅すぎてありえない。何という無謀なチャレンジをしたのだ。
大方、ちょっと縛りとか入れてやってみよーと安易な考えで始めたか、名前を考えるのを面倒と思ったかどちらかか、両方だろう。
一話ごと、視点が変わるからその時々の人で呼び名も変わり、子供向けの『ママが、娘で、親友で、ご近所の才女で、取引先のエリートで、後輩が憧れる傑物で、同僚が踏みつけてもらいたいと望む人No.1で、お父さんの大切な人な、立場が変わると名称も変わるよー』といった言葉遊びみたい。
ブロさんだけがオアシス状態だ。
あぁ、いつ息の根が止まってもおかしくない…こう、きゅっと締まりそう。
本から顔を上げ、『やらかしたー』と頭を抱える書き手を思い浮かべる。
うん。自業自得だね。残念だったな!
◆
そういえば、心のオアシス(仮)隠密頭の『ブロさん』について、渾名の由来となるニュウドウカジカ(ブロブフィッシュ)を図鑑で探したところ、これはどう考えてもヒーロー面では…いや、ブロさんはヒーローポジションではないだろうが…
いや、待てよ?外見要素で為人や役柄を決めつけてはいけない。
某鐘衝き人の物語では、見た目は醜くとも心優しいヒーローがいたし、ニュウドウカジカなヒーローがいても…いや、下着をつけるのが基本装備のヒーローというのも…
いや、そもそも主人公はだれ…考えるのはやめよう。期待するだけ無駄である。
そのとき。
はらりとページが捲れ、開いたところには不思議な文章が載っていた。
えーと、ブロさんについて、何々?ブロさんへのインタビュー?
『徹底解剖!今日のゲストは、僕らの強い味方ブロさんです。
隠密として名を馳せ、下僕達からも絶大な人気を誇るみんなの憧れですが、普段は言えないちょっぴり秘密な話をガンガン聞いてザクザク掘りましょう。
問:ブロさんが下着を身に纏うのは何故ですか?
ブ:いきなり攻めてきたな…そのエネルギーを技術取得に充てればいいのだが…まぁいい。
下着か…これはな。己への戒めであり覚悟の表れでもある。
仮に敵陣に捕えられた場合、下着を纏っていることはすぐにバレてしまうだろう。
当然、物凄くいたたまれないし、できれば晒されたくない。
…あぁ、よくある露出狂とは違って、別に見せたいわけではない。そのくらいの常識と羞恥心は持ち合わせてる。
つまり大人の秘めた遊戯であり、他に見せつけるのは迷惑行為というものだ。
だからこそ、敵に掴まる訳にはいかない。失敗は許されない。そう体に叩き込むための勝負下着なのだ。
問:ビキニ型限定ですが、マンキニやスリングショットはだめなのですか?
ブ:あれは公式に水着として認められている。公式ということは、見られても構わないということだ。
先にも申し上げたが、重要なのは、大人の優雅な嗜みとして密かにさらっと楽しむ小粋さ。
また、見えて構わないと思う心は隙になる。裏の世界に生きる覚悟を持つためにも、妥協は許されないのだ。
問:なるほど。強さの秘密ですか…ちなみに勝負下着は何色ですか?
ブ:若い頃は斜に構えていたこともあり、赤や紫を好む傾向があった。まぁ、青さ故に尖ってたもんだ。
派手であればある程、バレるリスクは高く、そのスリルを楽しむ余裕さえあった。
しかし、時間と経験を積み重ねるにつれて、派手であることよりも、品格を求めるようになった。
目立つ色ではないが、質の良いモノ…そうだな、黒や白の手編み総レース等は、繊細な生地を傷めない身のこなし等、背徳感と緊張感で己の限界が試される。
問:ラメありとなしで…』
再び本から顔を上げ、ふぅぅーとため息をした。
……。
ど う で も い い が な !!
◆
気を取り直して。
もう出オチ感がある物語ではないか?続ける意味はあるのか?
今更書き手の技量を求めたところで、読書量の少なさも、文章力のなさも、表現力の乏しさも、キャラクター性の薄さも、ストーリー性の先の見えない不安さ(悪い意味)も、キーワードの『ラブコメ』が『ラブコメ(穴)』で『ラブコメ(迷)』なことも、全てわかりきってることではないか。
この戦場で使われてる武器はバズーカではない。ゴム鉄砲だ。
しかもゴムは伸びてる。引っ張れば劣化で自滅する。諦めろ。
ついでに、この途中で出てきた魔道具少年はいったい誰?
前作までには出てこなかったし、そういえば、設定も少し不思議な世界観が混ざっていた。
おや?
えーと、魔道具少年について、何々?注意書きのメモが書いてある。
『某魔道具少年については、御手許の本をお読みください。
彼は脇役ではありますが、病をこじらせ…げふんげふん。
面倒な方は印のあるページで結構です。
もっと面倒な方は読まなくても大丈夫です。』
御手許の本?…あぁ、いつの間にか自分の隣にもう一冊の本が置いてある。
今度はそこそこボリュームがあるようで本の形をしていたが、またもや、厚いような、薄いような曖昧な印象は続いている。
先の本にしおりを挟んで置いた。
◆
閉じられていたもう一冊の本『エージェント001(中略)報告書』がひとりでに開き、パラパラとページが捲れる。
そうして現れたのは『8通目別紙片 某国の使者』という項目だった。
冒頭の部分を流し読みしてみるが、うーん、魔道具少年から視点だけなら、ここだけ読んでもいいが。
いや、時間はあるし、他にやることもない。どうせなら最初から読んでみるか。流し読みだが。
こうして私は一ページ目から読み始めた。
先に言おう。
蛙の子は蛙。蛙の親は蛙。
蛙のイトコも蛙であり、やはり『阿呆』の仲間は『阿呆』であった。
そして、確かに読まなくても次に進める話だった。
さて、続きを……しおりの次のページが捲れない。
「ページが張り付いてる…これは…!ごはんつぶか!」
側面に微妙についたご飯粒によって、数ページ丸ごとくっついている。無理に開こうものなら、本を傷める粘着度。
うむむ…仕方ない、一枚づつ取れるか試してみよう…って、破ける心配しかない!濡らしてふやかすか?でも本が波打つからなぁ…
「補修のプロはいないのか?!助けて!」
不思議なことに叫んだ瞬間、本が消えて、少ししたら手元にまた現れた。
本のしおりの部分に紙が挟まっていて、「破損や水濡れ等があった場合、無理に直そうとせず、図書館までご連絡ください。」と書いてあった。
司書いるんか。そして図書館の本なのか。
ちび丸迷走スゴロク!
『エージェント(連載)へ場外乱闘しに行く。 一旦休み。』
休みから帰ってきたので、少しだけ進みたい…進めるかな?