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2.現側近

引き続き、元傭兵さんの現側近さん視点。

 思春期の揺れる年頃に突入した妹姫さんに事件があった。


「おねぇさまぁ…」

「あらあら。大丈夫よ。お姉さまがついてるわ。」


 ぎゅむーっと姉姫さんに抱き着く妹姫さんの手首には黒いアミュレット。

 スキル封じの魔道具だった。



 ◇◇◇



 その日、ゴチーンという効果音がぴったりで、およそ王城には似つかわしくない光景があった。


「こんの、馬鹿娘が!」

「だってぇー!」

「スキルに頼って慢心してたからだ。警戒がたりねーぞ。」

「だってぇ…」


 頭を抱えながら、姉姫さん以外から滅多に叱られることがない少女は、ゲンコツをくらっていつもの威勢の良さがない。

 何故こうなったのかと聞いてみたら、コトの顛末は非常に簡潔であまりにもお粗末であった。



 いつも通り、姉姫さん宛ての贈り物を開けたら、まさかの『スキル封じ』な呪いのアイテムで。

 いつも通り、周りが止める間もなく妹姫さんが触れた瞬間、手首に嵌ってしまい。

 いつも通り、スキルは作動して、『カウンター』や『魔改造』を仕掛けたが。

 いつもじゃない呪いのせいで、スキルも封じられてアミュレットも外れない。



 わかりやす!!



「鑑定眼で詳細は出なかったのか?」

「…でた。」

「それを何で対処なしのまま触った?」

「…好奇心?」


 妹姫さんの行動理念『暇潰し』『気に入らない』に、『好奇心』が追加された。

 好奇心…いや、12歳の好奇心じゃ仕方ないよなぁ…自分もそのくらいの年頃は、色んな武器も防具も魔道具も組み合わせを試しては怪我してたからなぁ…呪いのアイテム類は解呪テクがわかるまで手を出さなかったが。


 幸い、カウンターの変種スキル『先制攻撃』と『魔改造』が作動し、完全に封じられてはいないが、それでも今までこういったことがなかったのだろう、ショックを受けてしょんぼりしてる。


 短く一息に叱り、フゥーと息を吐く。

 説教はおしまいだ。


「…怒らないのか?」

「不注意についてはもう叱った。反省してるならそれ以上は不要だろ。」

「だって好奇心で触ったんだぞ?」

「好奇心がない子供がいるなら病気を疑う。医者を呼ぶか?」


 問い掛けにフルフルと首を横に振る妹姫さんは、先に姉姫にも静かなお説教をもらったらしい。

 友や補佐官が少々怯えていた。部屋にいる者もだいぶ怯えていた。

 普段温厚な人程、怒らせたときの笑顔ってこわいよな。


 …もしかしなくても、ショックの原因は呪いのアイテムに嵌ったことでも、しょんぼりの理由は姉姫さんの教育的指導(本気)かもしれん。

 まぁ、いい薬になっただろう。


 ◇


 さて、次に現状を把握せねば。


「出元の情報とモノの詳細はどうだ?」

「BL護衛官が尋問して、出元情報はこちらの紙にまとめてある。モノは古代文化の魔道具らしい。

 対応できる者がいるかピンク侍女が情報を集めている。」

「時代はある程度特定できそうか?」

「アミュレットに刻まれた古代呪文を言語補佐官が解読してありますわ。内容はこちらに。

 使われてる素材は竜種…王家直轄地なら生息してますわねぇ…」


 友と姉姫さんからまとめた情報を貰い、ざっと中を改めれば、条件と伝手次第で何とかなりそうだ。

 こういった魔道具関係は裏稼業や冒険者業なら、情報も経験も多く勘も働く。

 しかし…


「以前、冒険者ギルドで呪いのかかった物を扱ったことがある。古代モノの解呪はルールが決まってる。該当時代の文献を調べて、呪具の流れを読み解き、手順と素材が揃えば外せるはずだ。」

「文献類は調べさせてますわ。解呪式まで作るとなると、数カ月くらいはかかるかも…」

「ルールさえわかれば、呪文だけならそこまで難解ではない。ただし、文様が絡むところが落とし穴になるので気を付けてくれ。」

「あ、本当だ。模様によって流れが変わっている。模様のパターンも起こした方がいい?」

「そのまま書き写した物とピックアップした物で分けて調べた方がいい。例えばAとBのパターンがあった場合、単体だけだと発動しないことがある。」

「相互関係性も調べたいなぁ…古代考古学者と魔道具師の専門家も欲しいね。」

問題の現物(コレ)が出てきたんだ。必要だろ。恐らく廉価版も出てくるぞ。」


 美しくも悪趣味な黒いアミュレットを手首に嵌めた少女。

 数カ月という間、勝気な妹姫さんが大人しければ、異変はすぐにバレる。姉姫さんがもうすぐ臨月という時期で、王城内もピリピリしている。

 いや、出産前だからこんな手を使ってきたのだろう。嵌められるのが姉姫さんでなく妹姫さんや友でも、近しい者が傷つけば、妊婦への強いストレスになる。



 高級素材で作られた細工の美しい古代文化の魔道具。隷属のアミュレット。

 これを嵌められた人間(敗戦国の王族)どういった道(各種奴隷)を辿ったか、知っているからこそ、今、身に付けている者に似合わない。


 …気に喰わない。



 ◇



 頭の中で考えられるパターンをいくつか思い浮かべ、解決するまでの時間と周りへの影響を分析する。


 『封じ』に対して『先制攻撃』と『魔改造』が効いた結果、いつもが10割出力なら、8割強封じ込められて、今は差し引き1割半弱出力といったところか。

 ただし、外から見てアミュレット装着がわかってしまう以上、防御力が弱っている状態は隠し切れない。

 相手が狙って来るとしたら、ストレスを徐々に溜めて行って、臨月に入ってからだろう。あまり時間をかけたくない。


「時間がかかっても確実な手段は、セオリー通りの解呪になる。目安で半年から一年が妥当だろう。」

「あらあら。少し短くできませんの?」

「王族に直接影響を与えるモノを施すんだ。実施前に施術者も実物もテストを数回しないといけないだろう?」

「そうですわねぇ… でも『は』ってことは、他にもあるんでしょう?」


 流石、姉姫さん。にっこり笑って圧をかけてくる。これは成功前提で()()を求められている。

 というか、既に犯人に対して相当腹に据えかねてるようだ。

 友と補佐官の顔色が少々悪い。部屋にいる者も顔色がだいぶ悪い。

 あぁ、成程。こんな感じで妹姫さんもじわじわ叱られたのか。


「下町上がりの冒険者流でやっていいなら、早くて三週間ちょい、遅くともニカ月で終わらせる。

 リスクは小さいが、国を跨ぐから俺の名前だけだと押しが弱い。ちーっと、姉姫さんの名前使わせてくれ。」

「あらあら。どのようになさるの?」

「このアミュレットは『封じ』だ。だから逆をやる。」



 魔道具とは、一定の効果を出すための道具である。

 例えば、『光』という効果と反対の『闇』という効果を持つ魔道具を同時に直接使用すれば、お互い反発しあって効果が相殺する。

 一方が強ければ、相手の魔道具を破壊する。


 そのため、『封じ』とは逆の『活性』で古代呪文と仕様書を描かせ、それを元に魔道具を作成し、身に付ければ壊すことが可能だ。上位種素材で作れば、より効果的。

 地道に解呪式を組み立てる方法よりも手っ取り早いが、作り手の技量や状況に左右される力技である。


 勿論、セーフティで解呪式の分析と研究はやってもらう。

 ブツが現実に目の前にあるのだ。追々似たようなモノが国内で出てくる可能性がある。

 仮に嵌められた者が国を頼ってきた時、こちらが対応に備えていなければ、犯人側(どうやら王族筋っぽい)に付け込まれる。

 逆に言えば、ピンチは最大の攻撃チャンスになりえるのだ。使えるカードは多い方が良い。



「先制攻撃で封じが不完全状態だから、反発特性を用いれば壊せる。

 素材はこれから採取して、そのまま某国の魔道具少年に会ってくる。まだ学生で年は若いが、腕は良い。要望に応じて補完しながら作れる職人気質だ。

 特徴・模様・古代語を書きとった仕様書、王家直轄地の危険地帯の侵入権限と採取権限、相手の家が侯爵家だから話を通す親書をくれ。早馬も頼む。」


 冒険者ギルドS級ランカーのプラチナ証は、各関所や国境をパスできる。あとは一般人が入れない地域への立ち入りと採取許可、貴族家の面倒な謁見の手間だが、これを省けば時間を短縮させられる。

 魔道具少年の家は優秀な間諜一家だから、すぐに魔道具情報を集めるだろう。

 素材と仕様書があれば大抵のものは作成可能という技術とセンスがあり、把握してる中で一番早くて確実だ。


「わかりましたわぁ~ ()()するまででその期間ということでよろしいの?」

「あぁ、完了までだ。途中どれだけ端折れるかは状況次第だな。」

「自信の程は?」

「無ければ言わない。」


 利き腕を前に差し出し、じわりじわりと恐ろしい程冷やかなうっすら笑顔の姉姫さんを、正面から見据えて言い切る。


 己への信頼たる根拠は、プラチナ証(S級ランカー)に刻まれたこれまでの実績と誇りだ。

 『価値無し』と判断されるなら、潔く側近職も冒険者からも身を引こう。



 ◇◇◇



 もし魔道具の作り手が心配なら、ブロさんあたりに聞いてもらえば裏付は取れると伝えたが、姉姫さんは向こうの家名だけで問題ナシと判断し、にっこり笑った。

 どうやら合格のようだ。


「ブロさんから素材は保管品があるそうだ。仕様書と予備も含めて、今準備させてる。」

「ほーん。ならもっと早く終わらせられるな。さて。」


 さっさと荷造りを終えれば、いつもより大人しい妹姫さんに向かい合う。

 腰を落として目線を合わすと、強がっていても奥に戸惑いと不安の色が混ざる。


 それでも弱音も言い訳も吐かないのは、自分の失態を悔いて恥じる以上に、迷惑をかけたことを重く受け止めてるのだろう。

 そんな一流王族の頭をガシガシと乱暴に撫で回して、にかっと笑う。


「おにーさんにまかせなさい。」

「…おじさん発言は撤回する…」

「おう。」



 「ごめんなさい」と頭を下げるこの子に、澄んだ色を取り戻すため、早速城を出た。

お姉さまがオコだよ!

次回、シャルさんちの誰かさんが出てくるよ。

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