表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/192

8-1話 火種

第八章 :城塞都市イリィタナルの内紛:


 大翔(ヒロト)が、タウバァから死に戻りした翌々日。始まった今期の広域戦闘期間(ウォーウィーク)は、互いに精彩を欠いたまま、小競り合いを繰り返しただけで終わる。それは彼が記憶する中でも、最も消極的な戦期となった。


 その原因が、アルテミス側の士気の低下と、主力メンバーの多数の故障にあった事を、ディメテル側の誰も知らなかった。たった一人でトップランカー100人単位を、行動不能に陥れた、真紅の鬼神 を含むイリィの災厄を、激しく警戒しての緊急措置だったのだ。


 そんな事を、まったく想定していない、本人とその仲間達…。


 大翔(ヒロト)のデスペナルティで落ちたレベルを戻すために、巨大カルデラ湖とそこに点在するテーブルロックを、新しい狩場として走り周っていた。


 このエリアのレイドボス、特に『ジヒダの 狂気の暴君(バーサク タイラント) Unique BOSS 』を頭にする同シリーズは、リポップが早く例の吊橋を使って上手く巡回すれば、かなり効率よく経験値(EXP)が稼げたのだ。


 そうして久しぶりに、A.ドボルザーク のメンバー全員でレイド狩りを繰り返せば、二週間程で少年は再び到達者(LV25)へと復帰した。






 ◇






 イリィタナルに転移した一行は、Noisy Labyr(ノイラビ)inth に向けて、だらだらと主街道を昇っていく。


「修理した妖魔軽防具(ファントムアーマ)の具合はどうだ? あれだけ酷く破損してたからな… つか、あの神強化のバケモノ装備を、あそこまで壊すお前が信じられんぞ?」


 幸太郎(コウタロウ)は、少年の背を平手でバンバンと叩いた。大翔(ヒロト)が戻ってからこっち、彼もすこぶる機嫌が良い。


「さすが高レベル鍛冶師様ってところだよ。あの状態から良く修理できたよな?」


 少年が防具の胸部をさらっと撫ぜる。妖魔(ファントム)シリーズは妖聖剣(ネルフィヌ)との相性も良く、彼には欠かせない装備のひとつなのだ。


「そこは鍛冶師MAXの、恩恵ってやつだな!」


「え? マジに? いつの間にレベル10になったんだよ?」


 少年の武器師スキルは、ずっとレベル8で止まったままだ。


「ヒロトが加わってこの半年、アイテムドロップも何倍にもなったからな… おかげで防具合成で経験値(EXP)がウハウハだったわ」


「くそ… 武器はそう簡単に合成なんか出来ないからな…」


 それでも彼の魔改造されたドゥッカの短剣(サブウェポン)は、複数回の武器合成に成功した希少品なのだが。


 そんな兄と弟のようなやり取りを見て、後ろを歩く香音(カノン)彩葉(イロハ)が、にこにこと頷き合っている。


「ヒロトは、だいぶ元気になったみたいね…?」


 セクシー系ダークエルフが少し屈んで、癒やし系僕っ娘エルフに耳打ちをした。


「ほんとうに… 無事に戻って来てくれて、嬉しいよ…」


 少女は無意識に、彼の後ろ姿を眼で追ってしまう。


「あれだけボロボロの死に戻りだったのよ… 無事とは呼べないんじゃない?」


 もちろん復活(リバイブ)した際に、失った左腕や身体的外傷は完全に修復されていた。消耗していたのは心の方だ。


 あの日の早朝、フォー()トBに帰還した少年は、直後に食堂のソファで力尽きるように眠ってしまった。その隣に香音(カノン)も潜り込み、彼を膝に抱いてずっと頭を撫ぜていた。


 ()くした宝モノを、再び手にした子供のように、その瞳は熱を持ち離すまいと身を丸める。


 その愛しそうに眼を細める姿は、朝日に輝く女神のように尊く、また危うい(もろ)さも感じさせた…。







 彼等は見慣れたラテン系酒場風の店内で、いつもの席へと腰掛ける。まだ午後の中途半端な時間で、店内はかなり空いていた。


「いらしゃい… って貴女(あなた)達、大丈夫なの…?」


 珍しくNoisy Labyr(ノイラビ)inth の女店主であるナオミが、自ら水のピッチャーを運んで来る。


「あら? ナオミがホールに出るなんて珍しいじゃない?」


 少しふくよかでいて、女を強く感じさせる妙齢の女店主が、彩葉(イロハ)の隣で腰を屈める。


「上からの嫌がらせが酷くてね… あんたら狩りに出ていたんだろ? ハンター会議の連中が、ろくでもない事言ってきたわよ」


 そこで大翔(ヒロト)が、何かに気づいて顔を上げた。店の厨房とトイレのある通路から、仁王立ちするアイナが、満面の笑顔で手招きをしている。


 うわ… これ絶対に絞められるやつだ……。 


「ちょっとトイレ()ってくる…… 適当に注文よろしく」


 テーブルのメンバーに一声掛けると、肩を落としてトボトボと通路へ向かっていった。


「まったく!!」


 白金色のネコ耳をピンと立てた女給(アイナ)が、開口一番に毒づいた。


「ちょっと裏に来なさいな!」


 元々の猫目をさらに吊り上げて、少年の耳たぶを掴むと、ぐいぐいと引っ張っていく。どう見ても舎弟を連行するヤンキーだ…。


「い、いてててててててっ……」


 完全に説教モードに入っているアイナに、当然抵抗出来るわけもなく、彼は店の裏へと連れ去られていく。


「まったく!! もうっ!」


「お、落ち着けアイナ… その罵倒は二度目だぞ…?」


「お黙り!!」


 美しい毛並みの尾を立てた、セクシー系お姉さんが、指先で彼の額をグリグリと責めて立てる。


「何が人探しするだけよ!!! どんだけ一人で暴れてきたのよ!」


 かなりご立腹のご様子だ…。


「いや… ほら、正当防衛って知ってるか?」


「はぁ!! ひとの街荒らしておいて正当防衛ですって? 真紅の鬼神とかいう、ご立派な二つ名までもらっておいて?」


 ご、ごもっともです……。


 両手を揃えての、直立不動の姿勢で固まる大翔(ヒロト)


「オ、オレも必死だったんだって… 戦う気は無いって言っても、大人数で襲ってくるんだぞ?」


「だったら無抵抗で斬られなさいよっ!! 薄々は気づいてたけど、まさか単騎でうちの主力120名を戦闘不能にするなんて… 貴方って悪魔? いや、だから鬼神なのか…」


「でもさ、誠意を見せるために剣は抜かなかったんだぞ…? 多分死人は出てないはずだけど…?」


「この馬鹿者(うんつく)め!! それが更に話をややこしく……」


 うんつくって… どこの方言だよ……。


「貴方は、ほぼ素手と非攻撃系のスキルだけで、アルテミス側のトップランカー200名と戦って、そのうち122名を戦闘不能に陥れたのよ? これは完全な戦力的バランスの崩壊よ?」


 彼女は額に手を当てて、はぁぁっと大きくため息を漏らす。


「ただでもカノンのクランは、余りに抜き出た戦闘力で危険視されてきたのに、そこに貴方が加わったのを知って、本国は大きな危機感(プレッシャー)を感じているわ」


「そ、そんなに… 大事なのかな?」


「そうよ! しかも武器を抜かずに防御に徹した、貴方の気概(きがい)を評価して、敵ながら半分英雄的な扱いになってるのよ…」


「うそ? ちょっと格好いい感じ…?」


「なに嬉しそうにしてるのよ!」


 そう言って彼の胸をぽすぽすと殴りつける。


「その結果、私達(スパイ)には、鬼神ヒロトを含むイリィの災厄メンバーの監視と、可能ならばアルテミス側への引き抜きの勧誘を… という面倒な指令(オファー)が届いたわ… もう、何だか本当に二重スパイみたいじゃない私…」


「目的を果たせたのは、アイナの情報のおかげだしな… 何だか迷惑かけてゴメンな」


「……… そういうところよっ! 駆け引きしているように見せ掛けて、本心ダダ漏れなんだから貴方は…」


 彼の謝罪に、気怠(けだる)そうなペルシャ猫のように、土壁にゆるりと身を預ける。


「そう… 目的は果たせたのね…?」


「あぁ……」


 その答えの割に、彼の表情は寂しげだ。


「ねぇ… その娘と一緒に居るためにも、本当にアルテミス側に来ない? もちろんカノン達も一緒にね… 貴方達にはこの腐った街は似合わないもの」


 その提案はそれなりに魅力的だ… ま、だからと言って、味方を散々に殺しまくった災厄のメンバーを、暖かく迎えてくれるとは思えない。あくまで戦力強化的な意味合いなのだろう。


「そうだな… 少し考えさせてくれ…… 現状を変える一案には入れておくよ」


「そうね… でもそんなに悠長な事を言ってられないかもね? アルテミス側に火の粉を振り撒いたように、貴方はこの街でも、もう火種として(くすぶ)っているのよ。テーブルに戻ってみれば意味が分かるわ」


 そう言ってもう一度ため息をつけば、ようやくと説教タイムから開放してもらえた。






「この街も、ついに危なく(ヤバク)なってきたな?」


 少年がテーブルに戻ると、幸太郎(コウタロウ)の不機嫌な声が聞こえてきた。


「どうした? 声が裏まで聞こえてきたぞ?」


 彼が椅子に腰を下ろすと、彩葉(イロハ)がピッチャーの水を注いでくれた。


「ハンター会議と特権階級のお貴族様が、フォー()トBの返還要請を決定したらしい… これ絶対、クライ レブナントからの圧力だろ?」


「返還て… あの土地と隣の教会は A.ドボルザーク の名義だろ? システム上、どうにも出来ないんじゃ?」


 この街の不動産は、入り口の看板(パネル)で売買や賃貸を自動契約する仕組みになっている。こういう所だけ不自然にゲームぽい。


「だから嫌がらせなのよ… 街全体から圧力を掛けて、わたし達に屈しろと言ってるの」


 彩葉(イロハ)はそういうと、珍しく不機嫌そうなクラマスの背に、優しく手を添えている。


「それに、このNoisy(ノイジー) Labyrinth(ラビリンス)の借地権も無効にするって、言い掛かりを付けてきたらしい… ふざけんな!」


 幸太郎(コウタロウ)は何処から出したのか、自前のブランデーをショットグラスで飲み始めた。


「コウちゃん、声大きいからね?」


 桜咲(サクラ)は彼の腕に柔らかく抱きついて、自分のグラスにも注げと掲げて見せる。本当に彼女は甘え上手だ…。


「と、そういうトラブルなんだよね… 僕はクランの資金を使って、お店ごと買い取ってしまおうと考えているけれど… みんなはどうかな?」


 香音(カノン)が真剣に全員を見渡してくる。その眉間にシワを寄せる表情で、内心かなりご立腹なのがよく分かった。彼女の提案に一同は問題なく同意する。使い道の無い共同資金が、数億単位であるはずだった。


 彼女は店主のナオミと話をまとめると、二人で入り口のパネルに向かい合う。すぐに店の所有権をクランで買取り、それをナオミが賃貸するという形に書き換えてきた。


「ありがとうねカノンちゃん! それじゃ賃貸料はメンバーの飲食代の完全無料という事で良いのね? 何だか優遇してもらって悪いわね」


 ナオミは笑顔で腰を折ると、ホールの給仕に詳細を説明している。


「これで Noisy Labyr(ノイラビ)inth の所有者は A.ドボルザーク という形になった訳だね。そしてこれは僕らからの、明確な反抗の意思表示でもある」


「それでも所有権が変わっただけで、お店への嫌がらせは、どうにもならないわね… クラマスとしてカノンはどうしたい?」


 全員がお怒りの中、彩葉(イロハ)だけが、お姉さん的な冷静さを保っている。


「挑んで来るなら潰そうかな? 結局は街中だって、()が全ての無法地帯だからね」


 愛らしい笑顔なのに、眼だけがまったく笑っていない…。


「とりあえず明日のハンター会議で、向こうからアクションを起こしてくると思うんだ」


「そろそろ見逃してあげるのも無理かもね…?」


 桜咲(サクラ)がさらりと怖いひと系の発言をする。


「僕らとしては、内戦状態も辞さない覚悟でいこうかな?」


 小柄で可憐な美少女エルフが、更に恐ろしい物言いをした…。


 


 


 






 第八章が始まりました。


 水面下で燻っていた、A.ドボルザークとクライレブナントの軋轢が、現実的な対立として表面化します。それは街全体を巻き込むと、陣営戦争とはまた別の、街の覇権を掛けた闘いに…。




 ご指摘ご感想、↓の☆(ポイント)評価など頂けると、大変に励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ