5-14話 10 vs 2000
第五章:異世界のウォーゲーム:
幸太郎が、コンポスキルの餓鬼喰いの盾を、一軒家の屋根サイズに展開して、攻撃を食い散らかしていた。正規軍の射程に入った途端、雷雨のように矢と魔法が降り注いでいる。
「本隊に回りこまれたな……」
走り込んで来た騎兵団300は、一定の距離を取って周囲を周って牽制している。香音が顕現した『守りの森』が、ドーナツ状に繁殖して、巨大な鳥籠を編み上げているからだ。それは大翔が遭遇した、あの獣喰らいの結界そのものに見えた。
攻めあぐねている騎兵団の外側を、密集する重歩兵が早足で包囲を閉じていく。現状すでに敵軍のど真ん中で、孤立している状況なのだ。
「僕ら三人が防御に徹すれば、ある程度は耐えれるけどね… はたして間に合うかどうか…?」
「カノンたちが支えてくれている間に、少しでも削ろう。籠の結界内から各自遠距離攻撃!」
和稀が率いる乙女たちが、円陣から低く構えると、大弓の射撃で軽装の敵を狙い撃ちする。絡み合う幹と枝の合間を抜いて、見事に命中させる腕は流石だろう。黒魔道士と魔道士の双子の少女は、弓の通らない重装備の敵を、中距離魔法で落馬させていた。
近接系の敵兵は樹木の結界と、そこで暴れる荊棘の鞭に阻まれて近づくことが出来ていない。さらに弓や投擲武器、遠距離魔法攻撃は、幸太郎の防御系スキルと、桜咲の女神の聖盾が安定して防いでいた。
たまに通る爆発系のダメージも、上位持続ヒールである『快癒の賛美歌』によって、数秒で全快してしまう。この三人にとっての防衛戦、特に森林地帯での守備では、鉄壁なまでの能力を発揮するのだ。
(て言ってもねぇ… 植物使いの巣篭もり戦法も、カノンの魔力が頼りだしなぁ)
通常の倍の数を顕現している女神の聖盾が、目まぐるしく稼働して、あらゆる遠距離攻撃を受け止めている。桜咲の能力の大半を、防御に振っている状態だ。
(最初の三連射で、半分以上の魔力を消費したからね… 魔力ポーションを飲んでも、守りの森は持って10分ぐらいかな?)
香音も、殆どのリソースを防御スキルに割いており、分割思考の一枠が、地味に連結キューブを騎兵団の中で弾いていた。
それでもほぼ一方的に、攻撃が通っている状況で、一騎、二騎と戦馬は倒れ失速すると、後続の馬脚を混乱させている。それでも10 vs 2000 の圧倒的な不利が、覆る事はなさそうだ…。
そこで遠距離攻撃の矛先が移り、頭上からの攻撃が無くなると、代わりに籠の結界に向け、爆発系の魔法が集中を始めていた。
太い幹が絡み合う鳥籠へ、火炎爆破や魔弾爆破が連続して着弾すると、幹を根本から粉砕し、編み込みに沿って真っ赤に炎を吹き上げる。
「さすがに籠が邪魔だと判断したか? 壁を破って突入するつもりだろ」
「簡単には入れさせない…」
何十、何百という攻撃に、爆破され崩れ落ちる網目に向かって、新しい幹が絡みついて修復を繰り返す。そんな攻防がしばらく続くと、次第に香音の表情が曇り、額に汗が浮いてくる。魔力の消耗が激しいのだろう。
幸太郎や桜咲は、近距離防御に特化していて、距離の離れた籠の守りには手が届かない。エルフの少女は荊棘の鞭を集めてくると、破壊された穴の修復に、投入せざるを得なくなっていた。
疾走していた騎兵団が動きを変えて、集中砲火に晒されている籠沿いに、最集結を始めていた。三列縦隊に編成しながら、突入のタイミングを図っているのだ。
香音は『倉庫』から、海色の魔力ポーションを取り出すと、小さな口で一気飲みする。希少素材で自作した最上級ポーションなのだが、彼女の莫大な魔力量の、僅か1/10程度が回復したに過ぎなかった。そして魔力ポーションの再使用時間は約5分後になっていた。
(ちょっと持ちそうにもないかな……?)
少女は小さく弱音を漏らす。
「何だ!?」
突然、鋭い風切り音が上空から降ってきた。燃えている籠の外側でドンっと激しく黒煙が立ち上がる。大きく吹き飛ばされた土や草が、バラバラと周囲に降り注いだ。
「まさか… これ、砲撃か?」
珍しく驚いたのか、幸太郎の声が裏がえっていた。敵の包囲が少し下がったのは、榴弾の爆発を避けるためだろう。
20秒程の間を開けて、再び砲弾が落下してきた。今度は確実に鳥籠の正面に着弾すると、幹や枝を粉微塵に粉砕して、広範囲を吹き飛ばしてしまう。
「これは例の攻城砲の攻撃だろ… それにしても原始的な先詰め型の丸弾を想像していたのに、これって速射性の高い後装式か、もしかしたら弾頭に金属薬莢がセットされた、近代的な砲弾を使っているのか?」
彼の解説に誰も反応しなかった… 女子には理解不能らしい。
「これって二子山の丘上から? あんな遠くから届くのかなぁ?」
桜咲の言葉に、何となく全員が丘陵の上に眼を向けた。気づけば、随分と白んでいた山の稜線で、縦長の閃光が小さく光る。敵の怒号で発射音までは分からないが、再び風切り音が鳴り、燃える籠壁が薪のように派手に吹き飛んだ。
「ゴメン… もう修復が間に合わない…」
すでに鳥籠を維持するだけで手一杯になり、破壊された大穴を塞ぐ余力が残っていない。火の粉に混じって、木片と土が此方にまで降ってきた。
「本当にあそこから射撃してるのかい? 投石器の倍以上の射程だよ。数を揃えてきたら砦の防衛が難しくなるな…」
和稀が弓を放ちながら、悔しそうに唇を噛んだ。此方の射程外から、一方的に攻撃できる火砲に、かなりの脅威を感じたようだ。
「「「オォオオオオオ! オオオオオオオ」」」
雄叫びを上げながら一斉に、騎兵団が籠の欠落から飛び込んできた。槍装備の重装を先頭に、横三列の密集隊形で、決壊した濁流のように突き進んでくる。
「こりゃ… マズイ…」
背のハルバートを手にすると、多段突進の充填を開始した。すでに目前には 下級悪魔アーマードと下級悪魔二匹を、盾代わりに配置してある。
「全員、近接戦闘の用意!!! んー、盛り上がってきたぁー」
和稀が叫ぶと、寡黙なる女神たちのメンバーが、高揚したように互いを見つめ手を取り合う… 死を意識したその瞬間、彼女らの狂気が垣間見えた。
(やっぱこいつら、頭のネジが緩んでる…)
本来は歴戦の勇士である幸太郎でさえ、震えが来るほどの戦況なのだ…。
(みんなそうだよ… それぐらいじゃなきゃ、アレスじゃ正気を保てないでしょ?)
珍しく桜咲が悲しそうに眼を伏せた。
それはわたし達もだよ… コウタロウ…。
「とりあえずぶっ放す!!!」
ー 多段突進 ー
一気に突き出された闘気の束が、円形の衝撃波を幾つも連ねて、極太の気弾となって放出された。それは真正面から騎兵団を貫通すると、真っ赤な血飛沫と肉体の破裂が、隊の後方まで連読していく。
悪魔騎士が放った大技で、30騎以上の騎兵が爆散、もしくは戦闘不能になり、縦列した隊の半分が、血と肉の残骸へと変わり果てていた。その数秒、戦馬が動揺して突撃の勢いが乱れたが、気骨ある号令によってすぐに隊列が復活する。
「なかなか優秀な指揮官だね…」
今まさに下級悪魔達に、斬りかかろうとする騎兵達を、正直に称賛するクラマスの少女。すでに表情は真っ青で、杖を持つ手が小刻みに震えていた。
腰だめにした三列のランスが、下級悪魔に向け突き出され、それを漆黒の豪腕が横払で跳ね上げる。騎馬は速やかに左右に割れると、後続の槍列が間髪入れずに突き刺さっていた。悪魔が牙を剥いて咆哮し、三騎の戦馬を殴り飛ばした。
隣では下級悪魔アーマードが、四本腕の得物で突撃を強引に弾くと、騎兵の脳天を戦槌で粉砕していた。後続の騎兵が二手に別れて、逆手で構えた弩を、一斉に香音に向けて狙いを定める。
(みんな!! おまたせーー!)
突然魔導通話に、魅力的なハスキーボイスが飛び込んできた。鳥籠の上部から、赤いセクシーなミニドレス姿が、雷のように落下する。と、次の一瞬で赤い突風が吹き抜けて、弩兵達の大半が、半身や身体の部位を切り飛ばされ、馬上から叩き落とされていた。
彼女が鳥羽を反らせて着地すると、美しくスピンして羽の血糊を飛ばして見せた。直後に上空で手放した40Kg玉榴弾が、螺旋を描くように降ってくる…。
((イロハーー!!!))
全員が同時に彼女を呼んだ。
先の砲撃並の爆発が、隊の半ばから後方へと、円を描きながら連爆していく。凄まじい爆圧が重なり合い、砂や土に混じって肉片や馬具や、短矢の束が、立ち上がる巨大な爆炎から降り注いだ。漆黒の召喚悪魔たちが、血の雨を浴びて頭から赤く汚れていく。
爆撃に巻き込まれた60騎以上が、原型が分からないほど粉砕され、ゴミのように地に散らばった。
そこに上空から、敵軍の翼竜が二匹続けて、錐揉みしながら墜落してきた。一匹は籠の幹に刺さって激しく裂け、もう一匹が爆煙を潜ると、黒い軌跡を引いて騎兵団の後方を跳ね飛ばす。
その竜の背に、ひとりの暗殺者が取り付いていたのを、誰も認識出来ていない… 巨大な爆発に阻まれ、更には翼竜の墜落に巻き込まれた騎馬の列が、行き場を失って左右に溢れていく。
そこで一閃、夜闇の斬撃が足元を水平に襲っていた。幅広の巨大な刃が、並んだ10騎の足をあっさりと切断し、馬達は悲鳴を上げ泡を吹き、主人と共に無様に転げていく。
藍色の斬撃が、視認出来ない高速で瞬くと、戦馬も騎兵も区別なく、まとめて一刀に切り捨てられていく。まるで草刈りをするように、騎馬達が切り刻まれると、後にはバラバラになった肉塊が、壊れた人形のように地に積み上がる。夜妖精の気迫に怯えて、戦馬たちが勝手に後ずさり暴れだしていた。
ー 魔力身体強化 ー
ー 身体能力強化 ー
ー 神の祝福 ー
ー 攻撃速度上昇 ー
ー 上位魔力身体強化 ー
ー 状態異常耐性 解除 ー
連続で届く強化スキルに、香音は薄くエフェクトに包まれると、疲労していた身体が急激に軽くなる。正当な 付与術士による強化は、全員の能力を3倍近く跳ね上げさせた。
(あぁ… ホントに、君の強化は凄いなぁ…)
香音は眼を細めると、嬉しそうに自分の身を抱きしめた。ステータスが圧倒的な数値へと、増加していくのが体感できる。今なら追加で広域魔法を2,3発は撃てそうだ。その強化を受けて、彼の能力がゲームバランスを壊すほどに、高性能であることを実感する。
二人とも来てくれたね……。
混乱する騎兵団の側面から、巨大な妖聖剣と苦悩の短剣を連携して、止まることの無い連続斬りで数を削り、同時に魔力腕で、突き刺し、殴り握りつぶす様子は、戦鬼のような暴れっぷりだった。
爆撃の生き残りが、舞う鳥羽の刃で次々に両断され、蒼い豪腕で戦馬ごと殴り飛ばされると、追撃とばかりに下級悪魔の三匹が、前線へと突入していく。
(( ヒロト!!!! ))
混乱の毒霧を撒き散らし、数本の魔力腕で、敵兵を潰し放り投げながら、少年が香音に振り向いた…。
(遅くなって悪かったよ…)
大翔は困った表情で、ぎこちなく笑ってみせた。
ご指摘ご感想、↓の☆(ポイント)評価など頂けると、大変に励みになります。




