5-13話 ツインヘッドの攻防
第五章:異世界のウォーゲーム:
香音の魔法効果が消失すると、その蹂躙された惨状を踏み越えて、騎兵300と2000近い重歩兵が、雄叫びを上げながら押し寄せてくる。
疾走する騎兵団は、三列に分かれてジグザグに突撃し、それに紛れて個性的なハンター達も鬼のような形相で迫ってくる。その迫力は映画などの比ではなく、怒号に混じって怒りと殺気が、烈風のように大気を震わせる…。
(これだけ叩けば十分だ、ふたりとも後退するぞ!)
実際に間延びした、敵本隊6000の中央部を強襲して、前後の分断に成功している。
樹木の絡んだ砦を捨てると、幸太郎が女子ふたりを両腕に抱き上げた。
「コウちゃん! 上っ!!!」
退路へと飛翔した瞬間、三人の戦斧持ちが、捨て身の跳躍切りを仕掛けてきた。
「この悪魔が、死に晒せええええぇぇ!!!」
蛮族の戦士の咆哮が、気迫の壁となって彼らを襲う。幸太郎は、咄嗟に身を捻り、肩に背負っていた大盾で、彼らの斬りつけを弾き返した。レベル9の盾防御が、盾殴り状態を発揮する。
三方に転げていく大男達に向かって、香音が砲台のように火炎弾を斉射した。
しかし、一度浮き上がった悪魔騎士は見事に失速して、燃え上がるハンター共の目前に着地してしまう。戦士の咆哮によって、薄い恐慌効果が残存して、動きまでもが鈍かった。
「絶妙のタイミングで襲いやがって…」
「いや… 僕が欲を出しすぎたからだよ。広域魔法の三連射に時間を掛けすぎた」
それでも普通に詠唱していれば、一つの広域魔法の発現に2分近くが必要だ。予め並行詠唱していたからこそ、この短時間で三連射を撃ち切れたのだ。
「見逃してゴメンっ。今の子達、翼竜の背から降ってきたんだよー」
敵の狙いはどうであれ、飛行スキルが発動する一瞬の間を突かれていた。脚の速い加速スキル持ち数人が、樹木の砦の左右から回り込んで来た。
「コウタロウ離して! ハンターは迎え撃とう」
クラマスの判断で、素早く左右に散開した。
「ありゃりゃ、これは本気で行きますかー」
桜咲は治療で恐慌効果を消しながら、蒼月十字剣を早抜きで抜刀する。香音も杖を『倉庫』に仕舞い、神剣メルハーンへと持ち替えていた。
「災厄を討ち取れぇぇぇぇ!!」
アドバンスダッシュと疾風を使って、一気に間合い飛び込んだ聖騎士と女剣士。その剣が香音の鼻先に届こうとした瞬間、荊棘の鞭に股間を叩かれ、空へと不自然に打ち上げられた。
蜜色の髪がふわりと踊り、神剣のニ連撃が聖騎士を股裂きにし、無様に回転する女剣士の手脚を、バラバラに斬り飛ばす。派手に鮮血が周囲に散ると、直下の少女を赤く汚した。
いつの間にか絡みついた樹木が解けて、数本の荊棘の鞭と樹木巨人の腕が、彼女を守って立ち上がる。
木々の合間を縫って、30近いハンターと召喚獣が、一斉に襲い掛かってくる。大抵が首や腕に3本ラインの布切れを身に着けた、本隊守備が任務のクランらしい。
「オレが相手だぁ!! おらぁああああああ!」
悪魔騎士が盾を掲げて、挑発の叫びを発動する。少女たちに向いていた殺気が、一気に彼へとすり替えられた。
(戦闘は15秒だけにしょう。直近のハンターを排除したら、騎兵団に囲まれる前に再脱出を試みるよ)
(( 了解!!! ))
大盾を掲げた幸太郎に向け、敵の攻撃が集中していく。その集団の両サイドを挟むように、二人の少女が走り出した。
真正面から茶と黄色の召喚獣が二匹、振り被った豪腕を叩きつけてきた。自分より大きな二匹の打撃を、微塵も動かずに受け止める幸太郎。背のハルバートはまだ抜かず、片腕に覆った巨大な漆黒の爪で、二匹の首をまとめ握り、そのままゴキバキと絞め殺す。
悪魔使いの初期魔法でもある『悪魔の左手』だが、成長したそれは上位スキル並の破壊力だ。防御メインの超近接戦では、ハルバートより使いやすい。
首を折られて脱力した二匹の獣を、ゴミのように投げ捨てた。
そこに半身が黒焦げの戦士が、片膝立ちから豪快に戦斧を振り上げる。香音の、ありえない威力の初期魔法に、辛うじて耐えた蛮族だ。
奴の決死のサークル アタックを、大盾を傾けて滑らせると、崩れた体躯を正面から鷲掴む。幅広の軽装姿に五本の爪が、羊羹を握るように食い込むと、大量に吐血し白目を剥いて、死の痙攣を始めてしまう。
握り潰された肉塊を、殺到するハンターの群れに速球で投げつけた。軽装の二人を巻き込むと、血と内蔵を辺りにぶちまける。それでも彼らの進撃は止まらずに、大剣や刀や、大型の斧が一斉に幸太郎へと振り下ろされた。
ガンガンっと黒いエフェクトが鼓動して、十数打の斬撃を受け止め続けた。10人以上からの攻撃に、ズリズリと足場が押し戻される…。
突然と、右端の侍と忍者のペアが、桜咲の振るう曲斬りで、上半身と両足を切断されて地に転がった。逆サイドの二人は樹木巨人の腕の平手に潰され、飛び込んで来た魔法剣士は、瞬間移動の転移先を見切られて、香音の神剣に串刺しにされてしまう。
(サクラ、左右から押し潰そう)
剣士の胸に貫通しているメルハーンを、軽々と引き抜くと、ドパっと血肉が吹き出した。
対面では桜咲の祭服が華麗に空を舞い、円を描く十字剣が、長髪の侍を刀ごと肋まで切断する。軽やかに逆転する三日月斬りが、隣のスキンヘッドを耳から水平に斬り飛ばした。
香音も、見えない程の剣速で神剣を振り下ろし、刃を返して斬り上げる。剣と盾の合間を狙い、騎士の鎧を斜めに断ち、大盾を鋭く跳ね上げた。空中に浮いた群青の盾を、荊棘の鞭が打ち下ろして、主ごと地へと叩きつける。
幸太郎の引き付けた十数人を、少女二人が左右から斬り倒していく様は、まんま無双ゲームのようで現実味が無かった。
ついに全員を地に転がすと、集合した彼女らの背後から、倒したはずの数人が襲い掛かってくる。正面からは、地に半身を沈めた召喚獣の幻馬が、8本セットの氷の太針を射ってきた。
(こいつら回復してるぞ! 何処かに高位ヒーラーがいる!!)
召喚獣の魔法攻撃を、召喚した石像で受け止める悪魔騎士。
(彼らステータスも高めだしねぇ。希少な回復と付与が混じってる?)
何故かこの世界では、ゲームでは当たり前に居るはずの、回復や付与系の職業が少ないのだ。理由は色々言われてはいるが、自己主張の強い者が多く、他者を支援する職業は好まれないのだろう?
回復した忍者の燕返しを、一合してキャンセルすると、聖なる一撃の大鎚で頭蓋骨を叩き割る。香音も面倒になったのか、始めて剣撃スキルであるモータルスラッシュを撃ち出せば、復活した魔法剣士の臓物を、背後へと爆散してしまう。
(サクラ! 敵の回復の位置分かるか?)
(わたしの索敵能力じゃ、もう追いつかないよぉ。そこら中が敵だらけだよ)
完全に左右から回り込まれて、全周包囲されつつあった。
何時までも終わらない召喚獣の連続攻撃に、ついに石像が斜めに砕けて崩れ落ちる。倒した血濡れた死体達が、光子に解けて幻想的に復活していく…。
(潮時だ、強引にでも脱出するぞ!!)
そこで幸太郎の背後に忍び寄っていた暗殺者二人が、味方の弓術で射抜かれた。
「またせたな。支援に来てやったぞデカブツ」
背後のブッシュから、和稀に率いられた寡黙なる女神たちの数人が、円陣を組むように集合をする。
「マジかよ百合女!! 何で出張ってくるんだよ。今離脱するトコだったんだぞ!?」
「窮地に駆けつけた乙女たちに、その逆ギレは品がないぞ?」
シラっと言い切る超絶美女。眼が獰猛に鋭く光る。戦いたくて仕方がないという、戦闘狂の眼差しだった。
「仕方ないよー カズキちゃん破滅主義者だからさ、追い詰められるの大好きだもん。そして最後は物語のように、乙女と抱き合って果てるのを、至福と感じる自意識過剰な集団よぉ?」
「タイミング悪すぎるだろ!!! オレは十人ぼっちで、正規軍2000と殺りたくない!」
「ロマンも分からないの? 小さい男ね…」
和稀が鼻先でふんと笑う。
「おまえ… さっきまでデカブツ言ってたよなぁ?」
「ぷぷっ」
桜咲がたまらずに吹き出すと、連続する幻馬の攻撃を、女神の聖盾で完封していた。
「まぁ来ちゃったものは仕方ないよ。コウタロウ、プランBでいこう?」
蜜髪のクラマスに肩をぽんと叩かれる。
(これ以上、お前に負担を掛けたくないんだが…)
少女は蒼く透き通る幻馬へ向けて、小さな太陽のような火炎爆破を投射する。破裂する超高温の衝撃に、その存在を蒸発させる召喚獣。更には周囲の巨木も炭化して爆散すると、数本の針葉樹がバリバリと森に倒れていった。
「プランBなんてあったか?」
「またを… 徹底抗戦ともいう…」
「最悪か!!!!」
(僕はまだ頑張れるよ。ありがとね)
「「「ウオォオオオオオオオオオオオオ!」」」
重複する数百の雄叫びが森を震わせる。目前にまで迫った、完全装備の騎兵300が槍や弩を構え、その後ろには重々しく地響きを鳴らしながら、重歩兵1800と遠距離部隊250が、津波のように押し寄せていた。分厚い気迫と殺気が、衝撃波のように彼らにぶち当たる。
(とはいっても… こりゃ異世界激戦ワースト3が、更新されそうな展開だぞ…)
幸太郎は魔導通話で、小さく本音を漏らすのだった。
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