表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/192

1-6話 肉塊の怪物

第一章:異世界リスタエルス:




「いったいどうするつもりなの!?」


 月歌(ツキカ)が悲鳴にも近い声で叫んでいた。


 左右から連続で襲って来る鉤爪の攻撃を、彼は神業のような体術で、間一髪で避け続けている。『短剣術』と『気功武術』の能力(スキル)が、素晴らしい仕事をしているようだ。


 横に掠めた一撃が大樹の幹に直撃して、盛大に木片を飛び散らせた。すでに大翔(ヒロト)を中心にした大地には、幾本もの引き裂かれた後が刻まれていた。


「ツキカは背後の崖上から牽制を続けてくれ。魔力(マナ)はまだ2/3は残っているよな?」


 左上に引き出したパーティ ウィンドウには、二人のステータスが縦並びしているのだ。 体力(HP) 魔力(MP) 気力(VIT) がバー表示で色分けされていた。気力(VIT)が無くなれば身体技能(スキル)が使えなくなり、魔力(MP)は魔法の使用回数に直結する。当然体力(HP)ゲージが0になれば、それはすなわち死を意味した。このあたりの仕様はRPGゲームのお約束だろう。


「もう! まったく勝機が見えないんだけど!」


 月歌(ツキカ)は黒髪を浮かしながら、素早く三点ジャンプをして崖の上に飛び乗った。すぐに十発目を超える破魔矢(マジック ミサイル)影針投擲(シャドウ ニードル)の連射攻撃を詠唱する。


「あっ…!!」


 少女が小さく言葉を漏らした。その連続する二つのスキルが、今までとは明らかに別物なのだ。赤かった破魔矢(マジック ミサイル)は黒い陰影(シルエット)へと変わり、一瞬の()めの後、軌跡も残さず狼人間(ワーウルフ)の右足に突き刺さる。


 パン!と乾いた音が弾けて、剛毛で覆われた人狼の足首が、血飛沫を上げて破裂した。奴は驚いたように動きを止めると、始めてガクンと片膝をつく。


「今のは何だ!?」


 その威力に驚いて少年が声を上げる。


 ー 闇影破魔矢(シャドウ ミサイル) ー


 再び影色の矢が顕現して、狼人間(ワーウルフ)のふくらはぎが吹っ飛んだ。今度こそ、その激痛から、グヴォヴォオオオオ!と悲鳴らしい咆哮を撒き散らす。


「コンポスキルが発現したみたい! 破魔矢(マジック ミサイル)影針投擲(シャドウ ニードル)がコンボになって闇影破魔矢(シャドウ ミサイル)技術(スキル)が追加されたの。威力x220%の増々(ましまし)攻撃よ!!」


 テンション高めの月歌(ツキカ)が、意気揚々と説明をした。


 確かに:コンボスキル:って項目あったよな? そういうシステムですか…。


 彼も魔力弾(マジック バレット)を連射して、破裂した脚の裂傷に嫌がらせのように撃ち込んでいく。そこに崖上から白い躯体が飛び降りると、それは(しな)やかに人狼の背に周り込み、傷脚へと喰らいついた。


「わんちゃん! そのまま後から攻撃ね、火炎は駄目よ! あれは()きが大きいわ」


 それは最召喚されたビーストドックの挟撃だ。更に加勢が追加され、すっかりと大翔ヒロト達の一方的なターンになっている。いや、攻撃が通っているのは少女のコンポだけなのだが…。


 やっぱりオレが要らない子ですか…?


 執拗に連射される闇影破魔矢(シャドウ ミサイル)が、逆脚の足指を肉片へと粉砕した。


 そこまで来てもまだ、少年は回避と遠距離攻撃に集中していた。ゲーム的に言うならば、回避タンクといった立ち位置だ。近戦特化の狼人間(ワーウルフ)に、迂闊に近づく悪手を、冷静な思考が否定していた。


 グヴォグヴォグヴォォォォ!!!


 動きを止められボッコにされた狼人間(ワーウルフ)が、突然と狂ったように絶叫を上げ、腕を滅茶目茶に振り回す。断末魔にも見えた挙動は、再び彼らに衝撃と恐怖を与えていた。


 身体の内から巨大化した筋肉が、表皮を破って膨れ上がり、体高が更に倍近くまで盛られていくのだ。突き出した口は四つに裂けると、それは首の付根までバリバリと割れてしまう。パツパツの肉塊に、細長く裂けた牙だらけの大口が乗っている、醜い化物へと変化していく…。





:鑑定:

『ネルガ ハインジット(ワーウルフ ()()()()() ()L()V()1()1()

人間化LV2 豪腕LV5 身体強化LV5 切り裂きLV5 双拳破断LV4





 グロ… この世界の魔物って凶悪すぎじゃね…?


「身体強化を使ったのか。実質レベルが11になったな… でもこれって殆ど自爆スキルじゃないのか? 身体破壊スキルにしか見えないんだけど…」


「キモいキモい!キモ過ぎるから! 気持ち悪いよー!」


 月歌(ツキカ)が、その狼人間(ワーウルフ)、というか大口肉達磨(にくだるま)と化した怪物を見て、女子高生のように悲鳴を上げている… ていうかリアル女子高生だった?


 ギャギャグァ… 


 自分の強化に順応出来ないのか、肉達磨(にくだるま)の腕がぎこちなく上下に振られている。それがまるで、手招きしているように見えてゾッとさせるのだ。


「どうしよう!? あと2発も撃ったら魔力(MP)切れかも… コンポスキルは消費が激しいわ」


 今にも泣きそうな表情で、それでも唇を噛み、可憐に耐えるその姿は、とても凛々しくて格好良い。


 この娘はオレよりよっぽど強いよ……。


「問題ない!! 奥の手使うからフォローを頼む!」


 大翔(ヒロト)はその勝機を見逃さず、一蹴りで少女の真横まで飛び上がり、次の跳躍で肉塊の直上へと身を投げた。


「ヒロト!!!」


 黒髪を乱して少女が叫ぶ。


 頭上へと飛び込んできた獲物を捉えようと、肉達磨(にくだるま)がグっと身を沈み込ませた。そしてまさに、その強靭な筋力で飛び掛かろうとした瞬間、肉(ひざ)が砕けてズシンと体制が傾いた。月歌(ツキカ)の見事な援護が、奴の気勢(きせい)()いでいた。


「それじゃ沈もうか? 怪物くん!!」


 逆足で踏みとどまり、もう一度獲物(ヒロト)に喰い付こうとした肉塊は、突然現れた小山程もある岩石に硬直してしまった。


 彼が『倉庫』から引っ張り出したのは、4、5階建ての建物(ビル)程もある一枚岩だった。狼人間(ワーウルフ)は突然頭上を覆い尽くした岩盤に、醜い大口を開けたまま、見上げる事しか出来なかった。


 ズドォオオオオオオオオオン!!!!


 地震のように大地が縦揺れし、森の上部から鳥たちが一斉に逃げ去っていく。グラグラと足元が波打つと、爆風のように土煙が吹き上がり、視界は乾いた土色に霞んでしまう。


 大翔(ヒロト)は、その岩上に平然と着地した。巨大な質量に胸から下を押し潰された敵を、高見から見下ろして満足気に呟くのだ。


「少し位置が悪かったな… 次回はもうちょい手前に落とすか」


 まるでタコさんウインナーを連想させる、開き切った口の中に、とどめの魔力弾(マジック バレット)を、十数発も撃ち込んでやった。


 と、意識に直接ポロン、ポロンとレベルアップする音が聞こえてくる。そうしてやっと、初見殺しの怪物を討伐した事を実感できた。


「レベルアップすると音が鳴るんだな…?」


「そ、そうね… わたしは最初の時に、すぐに分かったけど… 何なのこの状況は…?」


 月歌(ツキカ)も岩盤に飛び移ると、ふらっと彼の横で身を崩す。


「ツキカ…?」


 少女の背を支えようとして、二人は一緒に崩れるように座り込んでしまった。


「悪い… 大丈夫か? 怪我はないよな?」


 自分の肩に、身を預けるようにする少女が、小さく震えている事に気がついた。大翔(ヒロト)は位置をずらして胸で受け止めると、戸惑うように彼女の黒髪に、ぽんぽん軽く手を触れる。そこでふっと意識に、本来の感情が戻ってくるのを感じていた…。


「怖かったぁ… もう駄目かと思ったのよ?」


 月歌(ツキカ)は未だに震える手の指を、彼の太腿(ふともも)にギュっと押し付ける。


「こんな大岩… よく『倉庫』に収納できたね…?」


 触れている肩と、それに連なる柔らかい感触が、ドキリと大翔(ヒロト)の腰を浮かせてしまう。間近に感じる甘い乙女の香りに、いたたまれなくて、視線を惑わした。


 彼女いない歴イコール年齢のオレに、この状況はマズイでしょ…? ていうか、彼女は居なかったよな?


「小さな渓谷みたいになってた、岩山があったじゃないか? あそこで試しに収納してみたら、出来ちゃったんだよ。これひとつで3x3の9マスも埋まるけどな… 多分これって、序盤では俺らしか出来ないと思う?」





:鑑定:

『玄武岩 627t』

火成岩系の一枚岩 石積みの壁や床石の建材として使われる





「この岩、627トンもあるらしい… オレ達って家とか丸ごと収納できそうだな」


 そうして、何だか自然に身を寄せて(ほう)けていたが、ようやく月歌(ツキカ)が身を起こすと、照れた様子で地面へと飛び降りる。


「わたしも収納してみて良い?」


 そういって角の目立つ荒い岩盤に手を触れて、一瞬でそれを消滅させた。


「なるほどね… 確かに9マス使ってるね。これ奥の手として持っていて良いかしら?」


「ああ、それでいいよ。俺はもう一個大きいのを収納してあるから」


 えっ、と驚いて振り向く少女。ふわりと浮いた軽やかな黒髪が、やけに艶やかに輝いて見えた。急に女子として意識をしたのか、少女の小さな仕草にも、一々反応してしまうのが情けない…。


「もう一個は4x3で12マス埋まってる…」


「なるほどねぇ… それで倉庫の食材を押し付けてきたんでしょ?」


「うっ! ばれたか…」


 少年の返答に、コツンと彼の二の腕を、可愛い拳で突っついた。


「しかしこんな苦労したのに、これを倒しても素材のひとつも取れないのな… 肉も不味くて食えないってさ」


「こんな気持悪いの… たとえ食用でも絶対に無理だよ」


 完全にプレスされ、ピンクと白色の脂肪色でぐちゃりと潰れた怪物を、拾った枯れ枝で突いてやる。すでにどこにも狼男だった面影は無い。するとその裂けた大口の横に、大きめの革袋が転がっている事に気がついた。


「何だこれ?」


 硬い皮袋の紐を緩めると、中から多くの銀貨と、黒い鱗革(うろこかわ)(さや)に収まった一本の短剣が転がり出てきた。


「それってドロップアイテムってこと?」


 少女と白狼も集まってくると、全員で革袋を囲んでいた。









 ご指摘ご感想、↓の☆(ポイント)評価など頂けると、大変に励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ