表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/192

5-8話 音無しのウィラ

第五章:異世界のウォーゲーム:


 傾斜する地下通路の闇から、数個の丸玉が転がり落ちてくる。


「イロハ!!!」

 

「わかってる!!」




:鑑定:


 閃光玉

 強烈な光を発して敵の眼を眩ませる


 照明玉

 発光して視界を確保する 効果時間420秒




 それは目前まで跳ねて来ると、連続して白色に破裂した。暗闇から白一色へと、視界が暴力的に入れ替わる。それは敵の眼を潰す閃光弾と、光源を確保するための照明弾のニ種だった。


 ハレーションに浮き上がる彩葉(イロハ)陰影(シルエット)は、グラビアアイドルのようにセクシーで色っぽい。彼女は背で実体化する、横長の鳥羽で、自分と大翔(ヒロト)を包むように守護をした。


(イロハ! 手前から暗殺者(アサシン)3、狩人(ハンター)2、降霊術(ドルイド)師2、修道士(モンク)魔道士(メイジ)2、黒魔道士(ウォーロック)の10人パーティだぞ)


(うん! 地下通路で敵ハンターと会敵。戦闘に入るわ)


 魔導通話(インカム)で報告すると、恋びと繋ぎを残念そうに手放した。鳥羽が真横にバサリと開き、水滴を弾きながら閃光の先へと加速する。


「みなさん明かりをありがとね。これで恐れるものはないわ!!」


 それ、怖いって自白してるから…。


 少年は苦笑して、魔導通話(インカム)に漏らしそうになる。


 強烈な光源を背にすれば、五体の濃い人影()()が、左右に別れて岩盤に影を落としていた。更に10m奥の近接系ハンターと、後衛職の男女の縦隊列までも丸見えだ。


 彩葉(イロハ)が右の壁際へ、鳥羽を捻りながら、斜め回転して着地する。同時に潜伏(ハイド)状態の暗殺者(アサシン)二人が、両足を地に残したまま、天井まで跳ね飛ばされた。気を纏わせた鳥羽を、巨大な剣のように振り回したのだ。


「あのね… これだけ派手に光を当てたら、潜伏(ハイド)しててもバッチリ影が出るからね? それとも此方(こちら)の炙り出し?」


 どちらにしても、自分の投げた閃光弾で、位置バレしてたら元も子もない。


 そこで、ようやくと閃光が引いていく。天井に叩きつけられ、血飛沫を跳ね散らせた男がふたり、潰れたトマトのように、びちゃびちゃと床へと落下した。衝撃で切断された足四本が、ボーリングのピンのように、四方へと転げていく。


「ひぃ」


 たまらずに残りの影が、小さく悲鳴をあげてしまった。間髪入れずに、その方向へ青銅色(サイクロプス)の豪腕を振り切った。勢い余って女豹の身体が、綺麗に斜め後転をしてしまう。グシャっと鈍い音が鳴り、何もない空間から茶髪を編み込んだ女子ハンターが、手放した弓もろとも逆サイドまで吹き飛んでいった。


「何だこいつの火力は… まずいぞ、全員一旦下がれ!!」


 後衛から、男の焦り声が響いたが、突出していた前衛はもう間に合わない。ぬいぐるみのように、二転三転する狩人(ハンター)女子が、左翼の人影へと跳ねていく。両腕、両足を逆さに折られ、破壊された防具の下に、広く胸を露出していた。


「うわぁぁ…!]


 恐怖でパニクった男が、潜伏(ハイド)を自ら解除してしまう。真っ青な顔で、無様に腰砕けした小男は、次の瞬間、喉を前後に貫かれて、激しく流血を振り撒いていた。


「悪いな」


 疾風の極意(クイックムーブ)で接近した大翔(ヒロト)の声が、冷徹に洞窟に反響した。首の半分を失った小男は、反動でバレリーナのようにターンしてから、顔面から壁に激突する。


 その血染めの男を、魔力腕(マジックアーム)で支えると、逃げようとする最後の影に、その躯体を押し付けた。


「くそっ!!!」


 思わず抱き止めてしまった仲間を、手放そうと慌てる長髪の男。その暗殺者(アサシン)は何も出来ないまま、背中が縦に破裂してしまう。


 ー 三段突き ー


 超高速で打ち出された三連撃が、ハンターふたりを防具ごと、完全に貫いていた。ステータス強化され、オーバーキルとなった斬撃は、男どもの胸部に大きな裂け目を三列に刻む。上半身は縦方向に破裂すると、壁を赤黒くベタ塗りして、自らの肉片の上に脱力して崩れ落ちた。


(3ポイント先取よ!!)


(こっちは2ポイントだ)


 二人の報告が、ほぼ同時に魔導通話(インカム)を響かせた。


「こ、こいつ、イリィのとこの鳥人間(ドルイド)じゃねえか!!!」


 一気に加速する彩葉(イロハ)の正面に、魔道士(メイジ)黒魔道士(ウォーロック)の中距離魔法が殺到する。


(ごめんね、正体バレちゃったみたい… 仕方ない、ちょっと強引にいきますか?)


 黒魔道士(ウォーロック)影の槍(シャドウ ランス)は、影針投擲シャドウ ニードルの上位魔法で、腕ほどもある漆黒の(ランス)が、必中効果付きで撃ち出された。どんなに高速で動いていても、目視状態で射撃すれば、確実に命中できるロックオン効果を発動する。


 その魔力の黒槍が、彩葉(イロハ)の腕に触れた瞬間、空中側転して機動を変えた。一瞬でも触れてしまえば必中効果は達成され、その後に避けれれば、ダメージは掠り傷程になる。そんな裏技が出来るのも、大翔(ヒロト)の高位強化(バファ)のおかげなのだ。


 続いて着弾する魔弾爆破(マジックボム)の爆圧は、インパクトの瞬間に、気を纏わせた鳥羽で、身を包んで威力を()なした。さすがに背と肩にダメージの一部が通ったが、強引に天井をひと蹴りしてから、彼らの頭上を飛び越えてしまった。


 挟撃(きょうげき)していたはずが、一瞬で5人を()られ、更には前後を押さえられたのだ。突然の窮地に敵のリーダーは、完全に困惑していた。


「…… む、無理だろこれ…? 退路を! 退路を確保しろ!!!」


 動揺したパーティは、後衛職を守ろうと、彩葉(イロハ)へと集中する。というか、すでに大翔(ヒロト)の存在を見失っていた。


 あと一人ぐらいは…。


 迫りくる殺気(プレッシャー)は、まだ僅かに距離がある。


 狼の半身をした降霊術(ドルイド)師に、魔力弾(マジック バレット)を撃ち込もうとした瞬間、引き上げた魔赤金鉱(オリハルコン)の短剣が、大太刀の一撃を受け止めていた。


 その攻撃は、大翔(ヒロト)の通常潜伏(ハイド)を、完全に見切ったものだった。


 キンと蒼く火花を散らすと、黒い翼がバク転しながら跳ね戻る。すぐに悪魔らしい、殴り攻撃と引掻きが、左右同時に襲ってきた。腕四本の殴りは牛鬼の顔を持つ赤黒い悪魔で、カミソリのような爪の引掻きは、性的興奮を誘うような、淫靡な姿の女悪魔だ。

 

 その同時攻撃を身を振るだけで避けて見せると、突然背後に現れた青白い幽鬼が、手の肉切り包丁(ブッチャーナイフ)を振り下ろしていた。そいつだけは探知スキルに反応せずに、無から一瞬で湧き出たのだ。


 しかしその意表を突く斬りつけも、彩葉(イロハ)の回避と同じだった。認知した一瞬からコマを飛ばしたように身を伏せれば、派手に空振りした『背後から襲う者』は、妖聖剣(ネルフィヌ)に縦割りされ、あっけなく霧散した。過剰な夜闇を吹き上げた斬撃が、足元から天井までを三日月型に深く抉る…。


「危ねぇ… やっぱ閉所じゃ妖聖剣(ネルフィヌ)は威力が高すぎか… しかし、あの距離を一気に詰めたのは、その翼の能力かな?」


 見覚えのあるくノ一は、背の翼まで(カエデ)そっくりで、垂れ気味の瞳がやはり愛らしい。彼女は何故かずぶ濡れで、(すそ)の短い和装が張り付いて、豊かな胸が顕になっていた。


「あんた… 今のを避けるのはズルくない?」


 再び三体が、同時に攻撃を仕掛けてきた。悪魔の四本腕が複雑な連打で襲ってくるのを、相対する魔力腕(マジックアーム)で完璧に受け止める。女悪魔は淫靡に笑うと、両腕を広げて少年から生命力を吸(ライフドレイン)収し、その影から大太刀の突き技が、凄まじい速度で届いてくる…。


「ひさしぶり… という程じゃないかな。忍者(くノ一)さん」


 ガキンっと、再び火花が散ると大太刀と魔赤金鉱(オリハルコン)の短剣が、斜めに一合して鍔迫(つばぜり)り合いへと滑っていた。その刹那、女悪魔が、設置された5x5の散弾キューブで壁面まで吹き飛ばされ、牛鬼の悪魔は、頭蓋骨を魔力気(マジックソウル)突刺撃(スティンガー)で、複数箇所を貫かれる。


「まさか、こんなに早く再会するなんて。あなたツイてるんじゃない?」


 配下の二魔が、容易(たやす)退(しりぞ)けられたからか、言い方が皮肉っぽい。大太刀に押され始めた競り合いに、妖聖剣(ネルフィヌ)を十字に添えて均衡を保とうとする。


(ヒロトが敵忍者(しのび)と交戦中… この娘、こないだ襲ってきた『音無しのウィラ』よ!!)


 彩葉(イロハ)の声には、僅かな焦りが含まれている。彼女は最後に残った、降霊術(ドルイド)師と修道士(モンク)を相手に、まるで功夫(クンフー)のような拳の打ち合いの最中だ。


呪術師(シャーマン)の強襲スキルだろ? それと悪魔に淫魔(サキュバス)ということは、悪魔使い(デビルマスター)の上位スキルか… つまり君は多職持ちということだ」


 剣を押し合うように接近すれば、やはり(カエデ)の容姿によく似ている… 小さく表情を緩ませると、大太刀の勢いを背後へと跳ね上げた。再び金属が音を上げて、二人は対角上に立ち位置を入れ替える。彼女は大翔(ヒロト)の表情に気づくと、不審な眼で彼を睨んだ。


「あんただって… 10日ばかりでそのレベル… ()()()()()でしょ?」


 すると側面から、突然と現れた清楚な美少女が、よろよろと腕を広げて近づいてくる… 保護欲をそそる、甘えた上目遣いの少女は、何処と無く月歌(ツキカ)の面影を感じさせた。


「んっとさ… そういうのもう要らないから…」


 その黒髪の少女を魔力腕(マジックアーム)で掴み上げ、首と身体を逆方向にバキっと(ひね)る。


「ピキュウウウウウッ!!!」


 脊髄をねじり折られた淫魔(サキュバス)が、半端に魅了(チャーム)を解いてのた打ち回った。


「だいたいその魔力の腕は何? 上位召喚悪魔の淫魔(サキュバス)を一捻りって?」


「ズルいって言うけど、むしろウィラのほうがフェアじゃない。オレはきっと、君を斬れない…」


「ちょっと! なんで名前呼びなのよ!! わたし気安くないし、意味わからない!!」


 蒼光(あおびかり)する直刀を下段に構えると、凄まじい剣圧で払い斬りを仕掛けてきた。地面すれすれから弧を描く軌跡が、突然横薙(よこな)ぎに向きを変える。


 っ… !!!


 消えた切っ先が、逆手の甲をザクリと切った。一瞬でも大翔(ヒロト)の速度を超えてくる、トリッキーな剣技だった。さらに刃が袈裟斬りに走ると、再び角度が真逆に変わる。


 思わず利き腕の妖聖剣(ネルフィヌ)で弾くと、三度(みたび)軌道が突き技へと変化した。その凄まじい豪剣と速度に、予想不能の切り返しが加わって、大翔(ヒロト)は軽く押され始めた。


(凄いなウィラって… フル強化してるのに、動きを見切れない…)


 耳の上部を切られて、流血が首筋にまで流れてきた。


(無理に打ち合わなくても良いのよ? その娘は敵陣営の最高レベルのハンターだもの)


 それは奇襲と燕返し(つばめがえし)が組み上がった、ウィラのコンポスキル『稲妻斬り』だ。気力(VIT)が続く限り、燕返し(つばめがえし)を連続出来る、恐ろしい多連技だった。


「ただの『燕返し(つばめがえし)』じゃないでしょ?」


 彼女がそう言って笑みを浮かべると、意識が軽く混濁する。その僅かな()きを狙って、4連撃が一つの技のように重なって襲い来る。だが、その不調から一瞬で復帰した少年は、妖聖剣(ネルフィヌ)苦悩(ドゥッカ)の短剣で、忍者(くノ一)の剣技と完璧に打ち合って見せた。


「『自傷の呪い』あたりかな? オレに状態異常(デバファ)は効かないぞ?」


「きー やな奴!!」


 互いの剣技が激しくぶつかり、火花を高速で点滅させる。そのたびに濡れた細身から水滴が弾け、(すそ)から伸びる健康的な生足が眼に眩しい…。


 いったい何合を打ち合ったのだろう? バキン!! と乾いた音が鳴る。妖聖剣(ネルフィヌ)が、大太刀の耐久を0まで削り切ったのだ。彼女の刀は半ばから砕け、切っ先が跳ね飛ぶと、天井に深く突き立った…。

 

「っ!!!! なんて(もろ)いナマクラなのよ!!」


 思わずウィラが悲鳴を上げる。




:鑑定:

 大太刀 蒼鳴り LV22 (Unique)  破損 修理不能




 ユニーク装備をナマクラ扱いか…。


「それに何で追撃してこないのよ!! 受けてばかりで一回も斬り込んでこないじゃない!!」


「言っただろ… ウィラは斬れないって…」


「だから何でよ!!! 馬鹿にしてるんでしょ!?」


 彼女の言葉の勢いに、完全に押され気味だ…。


「君は、その… オレの大事な… 恩人に似てるんだよ」


 後半は羞恥で、消え入るような呟きになる。それはまるで、恋の告白のようだった。


「え…? はぁ……?」


 まったく予期していない内容に、硬直して耳まで赤くなるウィラ。色恋沙汰には(うと)そうだ…。


(ヒロト、第二陣が突入してくるわ。そろそろ、その娘どうにかなるかな?)


(了解、あと15秒待ってくれ)


「まぁ、ウィラは()()()ないと、本気が出せないんだろ?」


 大翔(ヒロト)が倉庫から、二振りの刀を引き出してみせた。



 

:鑑定:

 妖刀 幻蛍舞(まやかしほたる)の太刀 LV24 (Rare Unique Set)

 物理攻撃力(AP)+172 魔法攻撃力(MAP)+45 攻撃速度(AS)152 耐久値 100%

 対魔属性 魔法封印23% 防御貫通35% 体力吸収(HPドレイン)3%  クリティカル率+45% クリティカルダメージ+292% ノックバック発動


 妖刀 幻蛍舞(まやかしほたる)の脇差 LV24 (Rare Unique Set)

 物理攻撃力(AP)+107 魔法攻撃力(MAP)+35 攻撃速度(AS)178 耐久値 100%

 対霊属性 物理貫通効果32% クリティカル率+32% クリティカルダメージ+177%


幻蛍舞(まやかしほたる)のセット効果

 クリティカル率+27% クリティカルダメージ+174%



 

 さすが敵陣営、最高レベル忍者(くノ一)の得物だろう。クリティカルに特化した性能は、暗殺には最適だ。これだけの業物なら、妖聖剣(ネルフィヌ)とも打ち合えるだろう。


「わたしの愛刀…… あのとき、あんたが拾ったのね…?」


「とりあえず、修理だけはしといたからな?」


「なによ、わたしに見せびらかすの?」


 その瞬間、二本の魔力腕(マジックアーム)が、洞窟の左右の壁面に、深々とそれらを突き刺してしまう。


「そんな悪趣味じゃないって。返そうと思って預かってただけだろ。そのかわり、この場は見逃してくれよ?」


 少年は笑顔を見せると、ずいっと忍者(くノ一)に近づいた。


「あんたって…… 本当にバカなのね…」


 ウィラは思わず、可愛い垂れ目を、呆れたように緩めてしまう。その表情は、あの夜の(カエデ)にそっくりに見えた…。


「本当に良く似てる……」


「…………」


 思わず頬に手を伸ばそうとして、それを半端に諦める。彼の茶色い瞳が、寂しそうに(うる)んでいた。


「またな… カエデ……」


 消え入るような呟きに、ウィラの背が小さく跳ねた。大翔(ヒロト)は彼女を置き去りにして、 瞬間移動(テレポート)していった。


 ウィラはそのまま押し黙ると、追ってはこなかった…。








 ご指摘ご感想、↓の☆(ポイント)評価など頂けると、大変に励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ