5-8話 音無しのウィラ
第五章:異世界のウォーゲーム:
傾斜する地下通路の闇から、数個の丸玉が転がり落ちてくる。
「イロハ!!!」
「わかってる!!」
:鑑定:
閃光玉
強烈な光を発して敵の眼を眩ませる
照明玉
発光して視界を確保する 効果時間420秒
それは目前まで跳ねて来ると、連続して白色に破裂した。暗闇から白一色へと、視界が暴力的に入れ替わる。それは敵の眼を潰す閃光弾と、光源を確保するための照明弾のニ種だった。
ハレーションに浮き上がる彩葉の陰影は、グラビアアイドルのようにセクシーで色っぽい。彼女は背で実体化する、横長の鳥羽で、自分と大翔を包むように守護をした。
(イロハ! 手前から暗殺者3、狩人2、降霊術師2、修道士、魔道士2、黒魔道士の10人パーティだぞ)
(うん! 地下通路で敵ハンターと会敵。戦闘に入るわ)
魔導通話で報告すると、恋びと繋ぎを残念そうに手放した。鳥羽が真横にバサリと開き、水滴を弾きながら閃光の先へと加速する。
「みなさん明かりをありがとね。これで恐れるものはないわ!!」
それ、怖いって自白してるから…。
少年は苦笑して、魔導通話に漏らしそうになる。
強烈な光源を背にすれば、五体の濃い人影のみが、左右に別れて岩盤に影を落としていた。更に10m奥の近接系ハンターと、後衛職の男女の縦隊列までも丸見えだ。
彩葉が右の壁際へ、鳥羽を捻りながら、斜め回転して着地する。同時に潜伏状態の暗殺者二人が、両足を地に残したまま、天井まで跳ね飛ばされた。気を纏わせた鳥羽を、巨大な剣のように振り回したのだ。
「あのね… これだけ派手に光を当てたら、潜伏しててもバッチリ影が出るからね? それとも此方の炙り出し?」
どちらにしても、自分の投げた閃光弾で、位置バレしてたら元も子もない。
そこで、ようやくと閃光が引いていく。天井に叩きつけられ、血飛沫を跳ね散らせた男がふたり、潰れたトマトのように、びちゃびちゃと床へと落下した。衝撃で切断された足四本が、ボーリングのピンのように、四方へと転げていく。
「ひぃ」
たまらずに残りの影が、小さく悲鳴をあげてしまった。間髪入れずに、その方向へ青銅色の豪腕を振り切った。勢い余って女豹の身体が、綺麗に斜め後転をしてしまう。グシャっと鈍い音が鳴り、何もない空間から茶髪を編み込んだ女子ハンターが、手放した弓もろとも逆サイドまで吹き飛んでいった。
「何だこいつの火力は… まずいぞ、全員一旦下がれ!!」
後衛から、男の焦り声が響いたが、突出していた前衛はもう間に合わない。ぬいぐるみのように、二転三転する狩人女子が、左翼の人影へと跳ねていく。両腕、両足を逆さに折られ、破壊された防具の下に、広く胸を露出していた。
「うわぁぁ…!]
恐怖でパニクった男が、潜伏を自ら解除してしまう。真っ青な顔で、無様に腰砕けした小男は、次の瞬間、喉を前後に貫かれて、激しく流血を振り撒いていた。
「悪いな」
疾風の極意で接近した大翔の声が、冷徹に洞窟に反響した。首の半分を失った小男は、反動でバレリーナのようにターンしてから、顔面から壁に激突する。
その血染めの男を、魔力腕で支えると、逃げようとする最後の影に、その躯体を押し付けた。
「くそっ!!!」
思わず抱き止めてしまった仲間を、手放そうと慌てる長髪の男。その暗殺者は何も出来ないまま、背中が縦に破裂してしまう。
ー 三段突き ー
超高速で打ち出された三連撃が、ハンターふたりを防具ごと、完全に貫いていた。ステータス強化され、オーバーキルとなった斬撃は、男どもの胸部に大きな裂け目を三列に刻む。上半身は縦方向に破裂すると、壁を赤黒くベタ塗りして、自らの肉片の上に脱力して崩れ落ちた。
(3ポイント先取よ!!)
(こっちは2ポイントだ)
二人の報告が、ほぼ同時に魔導通話を響かせた。
「こ、こいつ、イリィのとこの鳥人間じゃねえか!!!」
一気に加速する彩葉の正面に、魔道士と黒魔道士の中距離魔法が殺到する。
(ごめんね、正体バレちゃったみたい… 仕方ない、ちょっと強引にいきますか?)
黒魔道士の影の槍は、影針投擲の上位魔法で、腕ほどもある漆黒の槍が、必中効果付きで撃ち出された。どんなに高速で動いていても、目視状態で射撃すれば、確実に命中できるロックオン効果を発動する。
その魔力の黒槍が、彩葉の腕に触れた瞬間、空中側転して機動を変えた。一瞬でも触れてしまえば必中効果は達成され、その後に避けれれば、ダメージは掠り傷程になる。そんな裏技が出来るのも、大翔の高位強化のおかげなのだ。
続いて着弾する魔弾爆破の爆圧は、インパクトの瞬間に、気を纏わせた鳥羽で、身を包んで威力を往なした。さすがに背と肩にダメージの一部が通ったが、強引に天井をひと蹴りしてから、彼らの頭上を飛び越えてしまった。
挟撃していたはずが、一瞬で5人を殺られ、更には前後を押さえられたのだ。突然の窮地に敵のリーダーは、完全に困惑していた。
「…… む、無理だろこれ…? 退路を! 退路を確保しろ!!!」
動揺したパーティは、後衛職を守ろうと、彩葉へと集中する。というか、すでに大翔の存在を見失っていた。
あと一人ぐらいは…。
迫りくる殺気は、まだ僅かに距離がある。
狼の半身をした降霊術師に、魔力弾を撃ち込もうとした瞬間、引き上げた魔赤金鉱の短剣が、大太刀の一撃を受け止めていた。
その攻撃は、大翔の通常潜伏を、完全に見切ったものだった。
キンと蒼く火花を散らすと、黒い翼がバク転しながら跳ね戻る。すぐに悪魔らしい、殴り攻撃と引掻きが、左右同時に襲ってきた。腕四本の殴りは牛鬼の顔を持つ赤黒い悪魔で、カミソリのような爪の引掻きは、性的興奮を誘うような、淫靡な姿の女悪魔だ。
その同時攻撃を身を振るだけで避けて見せると、突然背後に現れた青白い幽鬼が、手の肉切り包丁を振り下ろしていた。そいつだけは探知スキルに反応せずに、無から一瞬で湧き出たのだ。
しかしその意表を突く斬りつけも、彩葉の回避と同じだった。認知した一瞬からコマを飛ばしたように身を伏せれば、派手に空振りした『背後から襲う者』は、妖聖剣に縦割りされ、あっけなく霧散した。過剰な夜闇を吹き上げた斬撃が、足元から天井までを三日月型に深く抉る…。
「危ねぇ… やっぱ閉所じゃ妖聖剣は威力が高すぎか… しかし、あの距離を一気に詰めたのは、その翼の能力かな?」
見覚えのあるくノ一は、背の翼まで楓そっくりで、垂れ気味の瞳がやはり愛らしい。彼女は何故かずぶ濡れで、裾の短い和装が張り付いて、豊かな胸が顕になっていた。
「あんた… 今のを避けるのはズルくない?」
再び三体が、同時に攻撃を仕掛けてきた。悪魔の四本腕が複雑な連打で襲ってくるのを、相対する魔力腕で完璧に受け止める。女悪魔は淫靡に笑うと、両腕を広げて少年から生命力を吸収し、その影から大太刀の突き技が、凄まじい速度で届いてくる…。
「ひさしぶり… という程じゃないかな。忍者さん」
ガキンっと、再び火花が散ると大太刀と魔赤金鉱の短剣が、斜めに一合して鍔迫り合いへと滑っていた。その刹那、女悪魔が、設置された5x5の散弾キューブで壁面まで吹き飛ばされ、牛鬼の悪魔は、頭蓋骨を魔力気突刺撃で、複数箇所を貫かれる。
「まさか、こんなに早く再会するなんて。あなたツイてるんじゃない?」
配下の二魔が、容易く退けられたからか、言い方が皮肉っぽい。大太刀に押され始めた競り合いに、妖聖剣を十字に添えて均衡を保とうとする。
(ヒロトが敵忍者と交戦中… この娘、こないだ襲ってきた『音無しのウィラ』よ!!)
彩葉の声には、僅かな焦りが含まれている。彼女は最後に残った、降霊術師と修道士を相手に、まるで功夫のような拳の打ち合いの最中だ。
「呪術師の強襲スキルだろ? それと悪魔に淫魔ということは、悪魔使いの上位スキルか… つまり君は多職持ちということだ」
剣を押し合うように接近すれば、やはり楓の容姿によく似ている… 小さく表情を緩ませると、大太刀の勢いを背後へと跳ね上げた。再び金属が音を上げて、二人は対角上に立ち位置を入れ替える。彼女は大翔の表情に気づくと、不審な眼で彼を睨んだ。
「あんただって… 10日ばかりでそのレベル… そういう事でしょ?」
すると側面から、突然と現れた清楚な美少女が、よろよろと腕を広げて近づいてくる… 保護欲をそそる、甘えた上目遣いの少女は、何処と無く月歌の面影を感じさせた。
「んっとさ… そういうのもう要らないから…」
その黒髪の少女を魔力腕で掴み上げ、首と身体を逆方向にバキっと捻る。
「ピキュウウウウウッ!!!」
脊髄をねじり折られた淫魔が、半端に魅了を解いてのた打ち回った。
「だいたいその魔力の腕は何? 上位召喚悪魔の淫魔を一捻りって?」
「ズルいって言うけど、むしろウィラのほうがフェアじゃない。オレはきっと、君を斬れない…」
「ちょっと! なんで名前呼びなのよ!! わたし気安くないし、意味わからない!!」
蒼光する直刀を下段に構えると、凄まじい剣圧で払い斬りを仕掛けてきた。地面すれすれから弧を描く軌跡が、突然横薙ぎに向きを変える。
っ… !!!
消えた切っ先が、逆手の甲をザクリと切った。一瞬でも大翔の速度を超えてくる、トリッキーな剣技だった。さらに刃が袈裟斬りに走ると、再び角度が真逆に変わる。
思わず利き腕の妖聖剣で弾くと、三度軌道が突き技へと変化した。その凄まじい豪剣と速度に、予想不能の切り返しが加わって、大翔は軽く押され始めた。
(凄いなウィラって… フル強化してるのに、動きを見切れない…)
耳の上部を切られて、流血が首筋にまで流れてきた。
(無理に打ち合わなくても良いのよ? その娘は敵陣営の最高レベルのハンターだもの)
それは奇襲と燕返しが組み上がった、ウィラのコンポスキル『稲妻斬り』だ。気力が続く限り、燕返しを連続出来る、恐ろしい多連技だった。
「ただの『燕返し』じゃないでしょ?」
彼女がそう言って笑みを浮かべると、意識が軽く混濁する。その僅かな空きを狙って、4連撃が一つの技のように重なって襲い来る。だが、その不調から一瞬で復帰した少年は、妖聖剣と苦悩の短剣で、忍者の剣技と完璧に打ち合って見せた。
「『自傷の呪い』あたりかな? オレに状態異常は効かないぞ?」
「きー やな奴!!」
互いの剣技が激しくぶつかり、火花を高速で点滅させる。そのたびに濡れた細身から水滴が弾け、裾から伸びる健康的な生足が眼に眩しい…。
いったい何合を打ち合ったのだろう? バキン!! と乾いた音が鳴る。妖聖剣が、大太刀の耐久を0まで削り切ったのだ。彼女の刀は半ばから砕け、切っ先が跳ね飛ぶと、天井に深く突き立った…。
「っ!!!! なんて脆いナマクラなのよ!!」
思わずウィラが悲鳴を上げる。
:鑑定:
大太刀 蒼鳴り LV22 (Unique) 破損 修理不能
ユニーク装備をナマクラ扱いか…。
「それに何で追撃してこないのよ!! 受けてばかりで一回も斬り込んでこないじゃない!!」
「言っただろ… ウィラは斬れないって…」
「だから何でよ!!! 馬鹿にしてるんでしょ!?」
彼女の言葉の勢いに、完全に押され気味だ…。
「君は、その… オレの大事な… 恩人に似てるんだよ」
後半は羞恥で、消え入るような呟きになる。それはまるで、恋の告白のようだった。
「え…? はぁ……?」
まったく予期していない内容に、硬直して耳まで赤くなるウィラ。色恋沙汰には疎そうだ…。
(ヒロト、第二陣が突入してくるわ。そろそろ、その娘どうにかなるかな?)
(了解、あと15秒待ってくれ)
「まぁ、ウィラはこれがないと、本気が出せないんだろ?」
大翔が倉庫から、二振りの刀を引き出してみせた。
:鑑定:
妖刀 幻蛍舞の太刀 LV24 (Rare Unique Set)
物理攻撃力+172 魔法攻撃力+45 攻撃速度152 耐久値 100%
対魔属性 魔法封印23% 防御貫通35% 体力吸収3% クリティカル率+45% クリティカルダメージ+292% ノックバック発動
妖刀 幻蛍舞の脇差 LV24 (Rare Unique Set)
物理攻撃力+107 魔法攻撃力+35 攻撃速度178 耐久値 100%
対霊属性 物理貫通効果32% クリティカル率+32% クリティカルダメージ+177%
幻蛍舞のセット効果
クリティカル率+27% クリティカルダメージ+174%
さすが敵陣営、最高レベル忍者の得物だろう。クリティカルに特化した性能は、暗殺には最適だ。これだけの業物なら、妖聖剣とも打ち合えるだろう。
「わたしの愛刀…… あのとき、あんたが拾ったのね…?」
「とりあえず、修理だけはしといたからな?」
「なによ、わたしに見せびらかすの?」
その瞬間、二本の魔力腕が、洞窟の左右の壁面に、深々とそれらを突き刺してしまう。
「そんな悪趣味じゃないって。返そうと思って預かってただけだろ。そのかわり、この場は見逃してくれよ?」
少年は笑顔を見せると、ずいっと忍者に近づいた。
「あんたって…… 本当にバカなのね…」
ウィラは思わず、可愛い垂れ目を、呆れたように緩めてしまう。その表情は、あの夜の楓にそっくりに見えた…。
「本当に良く似てる……」
「…………」
思わず頬に手を伸ばそうとして、それを半端に諦める。彼の茶色い瞳が、寂しそうに潤んでいた。
「またな… カエデ……」
消え入るような呟きに、ウィラの背が小さく跳ねた。大翔は彼女を置き去りにして、 瞬間移動していった。
ウィラはそのまま押し黙ると、追ってはこなかった…。
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