4-16話 レベル21の壁
第四章:ヘイネス マーダートリック:
四章完結です!!
「これも五職持ちが居るメリットだよな?」
ハルバートを背に戻した幸太郎が、バラバラに砕かれた土人形の残骸の前でかがみ込んでいる。彼の目前には、豪華な装飾を施された宝箱が、複数個も散らばっているのだ。
「凄いな… 宝箱ってこんなにゴロゴロ出るもんか?」
大翔が物珍しそうに、彼の背後から覗き込む。
「いや、俺らもこの数は初めてだぞ? これはクエスト攻略報酬ってやつだな」
「確かに凄いわね… 宝箱は職業別になっているから、多分ヒロトの分で5箱増えてるのだと思うわ。上部に職業のタグが出るでしょ? 自分のは好きに開けて良いわ」
戦闘直後の、まだ上気した表情の彩葉は、普段よりもさらに色っぽくて、背の鳥羽を収納すると、はぁぁっと大きく伸びをする。
そこのエロ姉さん… 妖しく吐息を漏らすのはやめてくれ…。
ダークエルフの褐色の肌に、流れる汗が艶めかしいのだ。
「おっ、やった!! 獄墨鋼の籠手の別効果のが出たわ」
手前の宝箱を無造作に開けると、赤黒の厳つい籠手を引っ張り出した。
「んん? コウタロウ同じのもう装備してるんじゃ?」
「あ、ヒロトは合成を知らないのか? 生産系、特に武器師や鍛冶師なんかだと、素材から装備を作る事の他に、装備の整備、改造、そして合成なんかも出来るんだ。特にドロップしたレア装備を合成して、上位装備へと作り変えるのは、高レベル生産者の特権なんだぞ」
彼は右腕の甲冑に、今ドロップしたばかりの籠手を、並べて見せてくる。落ち着いて比べると、装備している獄墨鋼装備のほうが一回り厚く、尖りのある甲羅のような装甲板が何枚も重なっているのが分かった。
「ほれ、全然ちがうだろ? これはすでに3種の甲冑を合成して打ち直してあるんだぜ」
「いや、そんな事できるんか…? 修理ぐらいは知ってたけどさ。合成というと… 2種の装備を融合して、強化段階を上げて進化させるとか?」
「いや、違う違う、そういうゲームぽいんじゃないな… なんつか、もっと現実的いうか、ジャンク的いうかな… この籠手だと、同じ獄墨鋼の魔法効果のある主部を、切り離して加工して、それを貼り付けている感じかな? あまり加工しすぎると付与効果を失って、ただの素材に戻っちゃうから注意しろよ」
「それで特殊効果が重ねられのか?」
「まぁ、そういうこった。もちろん熟練度が低けりゃ、失敗して掛け合わせた両方が、ただの鉄屑に変わる悲劇が起きる… いや、ヒロトも一度味わってみろ… 絶望するから」
「んなこと、勧めないでくれ… 考えただけで泣けてきたぞ…」
合成失敗で、妖聖剣がただの鉄塊になるのを想像してゾッとした。
「二次職のレベルを10にすれば、ほぼ失敗は無くなるから頑張れよ。ちなみに俺の鍛冶がレベル6で、まぁ黒白銀ぐらいまでなら、成功率80%ぐらいかな?」
「レベル6でも意外といけるんだな… 武器師あと2レベル頑張るか…」
腕組みしながら、うんうんと頷く少年。特にこういうギャンブル的なものに、彼は慎重派なのだ。
「ヒロト… つうことは、武器師のレベル4なのか?」
「だな、やっと黒鋼が扱えるようになったとこ…」
「まじかああああぁぁ!! ほんとクィンテッドはチートだわ…」
「え? どこらが?」
「おまえ… 生産系のスキル… 特に武器、防具、装飾系はレベルが上がりにくいんで有名なんだぞ? 通説では人口の多い職業ほどレベルは上がりにくいらしい。俺が鍛冶師をレベル6にするのに、2年も掛かってるからな?」
「そなんだ、なんかゴメン…」
そういや他の二次職に比べて、レベル上がり難いって思ってたわ…。
「今回は私達のはハズレね… 希少級の皮ブーツと、護符だったわ… 状態異常耐性+63%の護符は、誰かいる? 付与が一種だからいまいちだけど」
「それ、カノンが持ったら? 何気に精神攻撃に弱いんだもん。それに倉庫枠に余裕あるでしょ?」
桜咲の言葉に、手の細長い護符を少女に差し出して「いる?」と首を傾けて尋ねる。
「僕、状態異常耐性けっこう高いはずなんだけど… そうだね… それじゃ、もらっておくよ…」
彼女は、幻惑された事が恥ずかしいのか、頬を染めながら、そっと両手で受け取った。その楚々とした表情は、ブレずに乙女の仕草にしか見えない…。
香音の恥じらいに和みながらも、宝箱に意識を集中をする。とたんに箱の上部に、名前付きのタグがポップアップする。
『暗殺者:ヒロト シマナ:』
『魔道士:ヒロト シマナ:』
「ちゃんと名前まで表示されるんだな」
「少人数で攻略するほど、ご褒美のランクが上がるんだぞ」
「だから砦の倉庫に、希少装備がゴロゴロ転がってるんか…」
一番手前の 魔道士の箱を開けると、薄手のシンプルな上着が入っている。
:鑑定:
地母神の肌着 (Unique) LV24
体力+35 防御力+45 魔法抵抗+55
状態異常耐性+41% 魔力自動回復20/35秒
やはり装備の揃っていない大翔にとっては、これだけでもかなりの良品に感じてしまう。下に着る肌着にしては、防御力が高すぎる…。
:鑑定:
呪いの腕輪(疾風) LV20
体力-85 敏捷+105 気力+38
暗殺者の箱からは、呪いシリーズの疾風が出た。これは一部のステータスにマイナス効果が付く、癖のある装備品だった。さらに続けて付与術士と 修道士の箱を開封した。
:鑑定:
地母神の守り札 LV20
防御力+57 魔法抵抗+71
:鑑定:
五月雨の羽織 (Rare) LV23
防御力+51 魔法抵抗+65
魔法攻撃吸収34% 遠距離物理回避+44% 自動修復機能
羽織物というよりは、和風の外套といった感じだが、まぁ効果はそれなりだろうか?
「よしゃ!!!」
そして最後の 盗賊の宝箱には、期待していた希少武器が収まっていた。
:鑑定:
魔赤金鉱の苦悩の短剣(Unique) LV22
物理攻撃力+111 魔法攻撃力+68 攻撃速度201 耐久値 100%
防御貫通35% 魔力斬x315% 困惑効果 魔力4%気力吸収5%
手にした黒地に赤い縁取りのある鞘から、大振りの短剣を引き抜いてみる。両刃の曲線が美しい、グラマラスな短剣は、握りから魔力が流れていくと、薄紅の刀身が、濃い血の色へと変化した。魔力によって威力が増す、魔力感応鉱石魔赤金鉱製の一振りだ。
「あら、良い武器でたわね。私のドレスと同じ魔赤金鉱製かな?」
「片手が自作の黒鋼製だったからさ、これなら妖聖剣との、バランスも良さそうだ」
真紅のダガーで低く構えると、上下に何度か剣を走らせて握りを確かめてみる。
「悪くないな… こりゃ良品をゲットしたよ」
«むむ… 主様の浮気ですわ…»
夜妖精が、不満げに耳元で呟いた気がした。
「いや、君の相棒だって… むしろ妖聖剣が威力ありすぎなんだよ。まぁこれからも、どんどん頼っていくぞ?」
それで機嫌を直したらしく、更に何度か素振りを試せば、闇色と真紅の閃光が、対になって鮮やかに交差した。
「その羽織とか、ヒロトのマジック外套の裏地にでも貼ればどう? 革や布製品の合成ならわたしがやれるわ」
「そういえばイロハ、装備を魔改造してくれるって言ってたよなぁ。帰ったら幾つかお願いして良い? 代わりに武器の合成頑張るから」
「ホントに? やったー!! どんな感じに改造しようかなぁ」
う? えらくノリノリなんだけど… なんか急に不安になってきた…。
「今回のクエスト報酬でまともなのは、ヒロトの短剣ぐらいだろうか? まぁまだ一周目だしね」
香音が最後の宝箱から、戦利品を回収して蓋を閉じる。全ての箱が同時に光子状に消え始めると、後には多角柱の転移石が現れていた。上部には『EXIT』のタグが浮いている。
「こいつで帰還して、クエスト終了って事で良いのかな?」
「まてまてっ! それに触れるなよ」
幸太郎が慌てて、転移石の前に立ちふさがった?
「ん? まだ何かあるんか?」
周囲を見渡してみても、あちこちが破損した四角い洞窟が広がるだけだ…。
「ああ、ここで少し休憩したら、今度は一層に向けて戻るんだ」
「はい?」
大翔は、意味が理解できずに呆け顔になってしまう。
「そうだね、ヒロトには説明をしていなかったね」
香音がテーブルセットを、三層の時と同じように並べている。
「今度は迷宮を逆走しながら、全ての魔物を狩り尽くすんだよ。貴重な大量経験値の獲得チャンスだからね。そしてあの仏殿の入り口を、逆に退室すれば、フィールド全体が再設置されるのさ。その帰還ポータルを使ってしうまうと、入場制限が発生して1週間は入れなくなるんだ」
「それってつまり… ズル?」
「はははっ、まぁ、ヒロトの得意な裏技ってやつだね。発見したのはクラン創立メンバーらしいよ。僕らは先人から、それを受け継いだのさ」
五職業持ちのバグといい、抜け技やら、裏技も結構あるし、この世界の設定はかなり緩そうだな…。
「な、なるほど… ちなみに一度外に出た、そのあとは?」
「もちろん、二度目のクエスト攻略だよ! あ、今度はいつも通りにタイムアタックだから、本気でお願いするね。コウタロウ、僕もミルクティが良いな…」
あっと言う間に、二度目のティータイムが豪華に始まっていた。
「…… まさかのタイムアタック…?」
「そうだよ? 普段はクエスト開始メッセージから、ボス討伐までを計測してるんだ。現在最速記録は37分 それを一日に3.4周する感じだね」
「どんだけ過酷な狩りしてるんだ…」
「レベル21の壁って言われてね、レベル20から一気に必要経験値が、数倍に跳ね上がるんだ。だから陣営の上位プレイヤーでも、大抵はそのあたりで頭打ちになる。実際に三層から相当の数の物魔を倒したけど、君はまだレベル20だろ?」
「確かに… 今までの感覚だと、とっくに21になってるか…」
「まぁ、適正な狩場が無いのも原因だけどね。だから、これぐらいの裏技を使ってクエスト回さないと、レベルアップが難しいだよ」
丁寧に陶器の紅茶を受け取った少女は、可愛らしい口元でふーふーと冷ましている。
「な、なるほど… 強化トレーニング… いや鬼畜な特訓か?」
「だいたい僕ら遊撃隊に求められのは、1v1の戦闘じゃないからね… 基本は一人で数人… いや十数人を相手にするような無双戦闘がメインになる。だからタイムアタックぐらいで丁度良いんだ」
「ごめんカノン… あんまりイジメないでくれ…」
要求される能力が高すぎて、飲み食いする前から胸焼けがする…。
その日は、クエスト3周を回すと、次の日からは4周となり、それは4日間、休み無く繰り返されていった… そして壁とやらはどうなったのか? 最終日に大翔は、レベル21にアップした…。
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