4-14話 乱戦
第四章:ヘイネス マーダートリック:
今日も寝坊しました!! 6:30に目覚まし掛けてあるのに、日曜だけ鳴らない設定だった…
。
場はすでに、自分達そっくりの擬態生物約50体との、入り乱れての乱戦になっていた。
そんな混乱の只中にいても、五番目の冷めた思考によって、あらゆるものが鮮明に見えていた。戦闘特化の特殊な分割思考… 何故かそれには、懐かしいような、苦しいような不思議な印象を感じていた…。
近接戦闘はそっちが主導で良いよ。俺は索敵と魔法で補助をするから…。
思考同士の意思疎通が、無意識のうちに芽生えていた。
すでに視覚的には、取り囲む偽物の群れに紛れて、仲間の姿を確認するのは難しい…。
まぁ、あくまで見た目だけの話だな?
右前方に居る自分の姿が、低姿勢で短剣を突き出してくる。剣の構えは悪くないが、その動きは驚くほどに遅すぎた。彼は妖聖剣から持ち替えた黒鋼鏡の短剣で、敵の剣筋の上を滑らしていくと、カウンターでその首を斬り飛ばす。
妖聖剣を下げたのは、暴走気味の夜闇の刃が、混戦では邪魔になるからだ。まだ自在に操れるほど、懐かれている自信は無い…。
そのまま最小半径で身を捻ねると、逆手の得物の鍔が、十字剣の斬撃を受け流し、さらに流れるように回転を続ける正手の剣が、死人のような金色の眼に、深々と突き刺さった。
大翔と桜咲の擬態が、出血しながら解けると、背後から大振りしてくる、赤いドレスの足元に、そっと銃弾系の連結キューブを置いてやる。パンっと上下にキューブが撃ち出され、床板と浮いたスカートを上下に貫通してしまった。
その後ろから2匹追加な…?
動きが止まった女体を突き飛ばすようにして、二匹の香音似の擬態生物が飛び掛かってくる。左右同時に横振りの大剣が迫ってくるが、魔力腕でガッチリと掴み上げると、伸び上がるような左右の剣撃が、二人の腹から肩口までを、同時に両断にしてしまう。
なんかカノンに悪いな…。
何の躊躇もなく、その可憐な姿を切り裂いた事に、罪悪感が湧き上がってくる。そのぐらい第五の思考は容赦が無かった。
時間にして僅か3秒ほどの斬り合いで、五匹の擬態生物が、血溜まりに崩れ解けていた。それでも乱戦は、むしろ激しさを増すと、次々に剣を振るって来る仲間の擬態を、一撃必殺で切り倒していく。
と、そこに凄まじい気を放つ、両刃のハルバートが、二体の擬態生物を横に切り裂きながら、大翔の鼻先でピタリと静止した。代わりに跳ねた血糊が彼の頬を真横に汚す。
(おっと悪りぃ! それは本人かっ?)
目前のハルバートが、逆方向に引き戻されると、正面の偽物の両脚が、千切れてゴミのように吹き飛んでいった。
(ちょ!! 大丈夫だろうな? 0.2ミリぐらい鼻先が切れたぞ!?)
反射的に主思考がクレームを飛ばす。
(はははっ!! 斬れてなーい! ヒロトの動きが速すぎるんだって!!!)
テンションの高い念波が、少年の脳内に激しく響いた。
なぜに魔導通話機なのに、耳が痛いんだろ…?
これだけの乱戦でも大翔の能力は、全員の動きを完璧に把握できている。そして、さっきのようなニアミスは、向こうでも頻発していた。
特に香音と桜咲の大剣同士の絡みは、息もぴったりで華麗でさえあった。直線の動きをする正統派騎士の剛剣と、その間隙で舞うように敵を切り伏せる舞踏の剣が、重なり合うように周囲の数体を両断する様は、まるで舞台の殺陣のように美しい…。
そして圧巻なのは、本気で暴れる彩葉の近接戦闘だ。両腕を降霊術の技術で巨大化させた女豹は、その鍛えられた肢体から、中国武術に近い素早い体術で、大技を際限なく連携させていく。
数匹で彼女を抑え込もうとする偽者は、手脚を不自然に折りながら吹き飛び、花が散るように数匹が天に打上げられると、開脚蹴りと腕の回転を連続させて、伸し掛かる敵どもを、全周囲に破裂させた。
まさに文字通り肉片となって飛び散ったのだ。その重く鋭い剛拳を前にして、高位擬態生物の耐久値など、薄い土壁なみに脆かった…。
さらには鳥羽を展開した彼女は、空中まで使った三次元的な体術で、忌々しい擬態の頭を連続して潰すと、適当に掴んだ敵の身体を、高い天井へと豪快に叩きつけていた。
さすがは、陣営トップの暴れる女豹である。ひとりで15匹は狩っただろうか?
正直、もっと混乱すると危惧していたが、実際はフル強化の掛かっているメンバーは、偽物と比べて動く速度が速すぎた。並んだマネキンと、そこを駆ける人の姿を、見間違うはずもない。
更には飛行不可能な、真似レベルの擬態では、空中戦へと移行する彩葉と幸太郎に、紛れるのは無理があった。
五番目くん、出番はあまりなかったな…?
特に強力な個体もなく、戦いは消化ゲームへと移行していた。
乱戦になって僅かに二分弱、最後の数体を仕留め切ると、周囲は足場も無いほどに、崩れた包帯の残骸とドロップアイテムが、血溜まりにゴミ山のように積まれていた…。
「まぁ… 余裕だよね?」
桜咲が、十字剣の血を飛ばしながら、小首を傾げて仲間を見回す… と、急に表情を引き締めて、香音と大翔の背に手を触れさせた。
「ちょっと嫌な未来が見えたかも… 二人とも… 敵を見失っては駄目だよー」
「え? 俺だけでなくて?」
「そう、カノンもだねぇ」
そう言い切られたクラマスの少女が、困り顔で垂れ耳に手を触れさせる。無意識らしいそれは、困惑したときの癖のようだ…。
「もうちょっと具体的に知りた……」
そこで言葉を遮るように、主殿正面、繊細な刺繍入りの豪華な暖簾が、跳ね上がるように大きく揺れる。途端に少年の危険感知が、悲鳴にのように警告を連呼した。
(ボスが動いた! デカイのが来るぞ!!)
魔導通話機で叫んだ瞬間、巨大な黒影の大鎌が、音も無くその場を切り裂いていた。パキンっと空間が上下に割れると、数匹の擬態生物の残骸が、線を引いたような直線で分断してしまう。
一瞬で背後に下がった大翔は、巨大な死神のような黒炎を、スキルの補助越しに凝視した。魔力でも気功でもないその力場は、範囲攻撃を振り切ると、すっと闇へと霧散する。
すぐに上空で黒炎が集約して、再び凄まじい切れ味の一撃を、容赦なく振り下ろしてきた。無言で二方に別れて、正確に回避するメンバーたち。ど真ん中の板床が跳ね上がり、その先の貴賓席までが鋭く断たれて、綺麗な断面が顕になっていた…。
(これは霊力波… あるいは呪いのほうかな? 呪術師系の上位スキルだね)
地母神の霊力を糧とする、幻術と呪いの執行者である呪術師。その能力は特殊かつ多彩で、攻守回復とあらゆる局面に対応する多様性を持っている。
(あの大鎌に触れてはいけないよ。あれは自爆の首飾りと同じ原理の、空間断絶攻撃だよ。物理、魔法の両防御を完全無効化してくるよ)
蜜色の髪を浮かせながら、妖精のように回避する少女が、丁寧に解説をしてくれた。氷板を割るような乾いた音が何度も鳴ると、数体の死神が同時攻撃を開始した。
(確かに、自爆の首飾りと一緒だな。一瞬、空間ごと断たれると、そこが収縮して黒く燃えて見えるんだ。)
繰り返される死神の大鎌は、幾度も床と壁を切断すると、瓦屋根の客席の一部や足場の板床を、三角形に刻んであちこちが崩壊を初めてしまう。
(本体を殺らないと、回避だけじゃ切り無いわ!)
彩葉の鳥羽を掠めた大鎌が、数枚の蜜柑色の羽を、空中に切り離していった。
未だにボスの姿は、仏殿の中に隠れていて、死神を呼ぶ度に四方の暖簾が、吹き上がるように大きく揺れる。
(わたしが女神の聖盾で数秒つくるよー)
その瞬間、香音の正面で猫耳娘が急停止すると、十字剣を真上に掲げて、目前に多面体を持つ立体的な多層障壁を展開した。魔力、気力、そして次元層が重なった、この世界の全ての力場を、無効化する絶対防御だ。
敵もそれに気づいたように、連射される黒炎の直線が、何本も重なって桜咲の盾に集中する。連続して切り裂かれる女神の聖盾。しかし全てが無効化されると、霧散する黒炎が煙のように、桜咲の姿を霞ませる。
ー 斬撃烈風 ー
女神の聖盾の背後から、香音が水平に神剣を振り抜いた… 彼女が放つ、仕返しのような真空の大鎌が、黒炎の霧を二分するように巻き上げた。渡りが50メートルを超える薄い真空の刃が、その遠距離から本殿を見事に分断した。
土台のピラミッドから、跳ねた瓦屋根へ向けて、斜めに切断された仏殿が、ずれ落ちるように崩壊していく。雪崩落ちる大量の瓦が、土煙を上げながら柱と暖簾を押し潰すと、何かの軌跡が煙と一緒に地上へと走り出た。
(本体が見えたそ!!!)
土煙の中で立ち尽くす、人形の小柄なシルエット…。
と、そこで床全体が金色のオーラに発光すると、朽ちて全滅したはずの擬態生物の包帯が、巻き戻るように再生を始めてしまう。瓦礫の中から立ち上がろうとする数十体は、まさにミイラかゾンビのようだ。
「やらせないって!!」
その崩壊する仏殿と、黒炎の霧と金色の残光の中で、一瞬で距離を詰めた、大翔と香音が、同時にボスに向けて全力の斬撃を叩き込もうとした…。
ツキカっ!!?
切り裂かれた土煙の向こう側… その黒髪の少女の目前で、二人の剣が止まっていた…。
「何で… 君がこんなところに…?」
腰まで有る黒髪が剣圧で巻き上がると、切れ長の瞳は凛として彼を見つめていた。彼が焦がれたあの愛しい表情で、少女は困ったようにはにかんでいる…。
「ぐっ!!!!」
次の一瞬… 背から胸へと彼の内蔵を引き裂いて、血濡れた腕が飛び出していた。
一瞬の躊躇… 息も出来ずに隣の香音に視線を移した。法衣姿の小柄な彼女の背を、骨顔の朽ちた死鬼が抱えている。彼女の胸もその汚い腕に貫通されて、びちゃびちゃと血と臓物を床に撒いていた。
カノンまで何故なんだ…?
目前に居る懐かしい月歌の立ち姿。少女は嬉しいそうに微笑むと、彼に向かってそっと細腕を伸ばそうとした…。
ご指摘ご感想、↓の☆(ポイント)評価など頂けると、大変に励みになります。




