1-2話 異世界の迷い森
第一章:異世界リスタエルス:
最初に感じたのは、背中に当たる小石の痛みだった。濃い森の気配、土と苔と枯れ草の湿った匂いに満ちている。
「あっ!」
そこで跳ね上がるように、がばっと身を起こしていた。
「それで… リアル此処はどこ? 私は誰? ってやつだな」
大翔が起き上がると、背に付いた木葉が、数枚ハラハラと舞い落ちた。世界はまだ薄暗くて、夕暮れ時なのか、朝が近いのかさえ分からない。
周囲には太い根の大樹が、うねるように幹を絡ませていた。そんな縄文杉のような大木が、何十本も立ち上がり世界を密林の影に埋めているのだ。
縄文杉は針葉樹なのだっけ? 杉だし…。
:鑑定:
『アレスシダー』
杉科 常緑針葉樹 不可食 樹液は防水材に、果肉は薬用に用いられる
うーん、針葉樹らしいです… やっぱりゲームなんすかね?
彼は木の幹に表示された、鑑定のポップアップを何事も無いようにスルーした。
「俺は島名 大翔 17歳 男 彼女無し… そして前世の高校三年の冬に死んで、この世界に転生? されったてことでOKですか?」
そんな軽い自分探しを終えると、その場に「よっと」立ち上がった。樹皮に手を触れて荒い手触りを確認すると、その確かな質感と存在感に、此処が現実なのだと実感させられた。彼はトントンと土を蹴ると、そこから軽くハイジャンプをしてみた。
「おぉっと!」
思いのほか高くまで飛び上がって、枝に頭を打ちそうになった。この世界の重力が軽いのか、またはこの身体の身体能力が高いのか? 落ちついて自分に眼を落とすと、亜麻ぽいゴワついた長袖に、黒革の胸当てを装備して、下は革パンツに長めのハーフブーツを履いている。
「凄いな、ちゃんと初期装備的な衣装じゃないか」
パンツのベルトから、サスペンダーのように吊るされた革ベルトには、革の小物入れと、金属の水筒と、一振りの短剣が並べて装備されていた。
大翔は腰の剣をすらりと抜くと、慣れ親しんだように逆手で構えた。その姿はどう見ても、平和ボケした一高校生の手捌きではなかった。いや、決して中二病が再発したわけではない。
「うーん… 何か色々と設定したような気もするんだけど、何ひとつ思い出せないな… ただ、なかなか親切な滑り出しではあるのかな? 神様ありがとう! てっ? 神様なんて逢ったけか?」
左足を軸に構えた低姿勢で、短剣を前後に振り抜くと、ひらひらとステップを踏みながら、突きと切り上げを試してみる。その空きの無い連続した動作は、やはり洗練されていて素人にはみえなかった。
「これって技能ってことだろうな… まぁ、おかげで最低の自衛手段は確保かな? で… 技能オープン… どわ!」
大量の技能が、職業一覧となって視界一面を覆って驚かされた。
:暗殺者:
短剣術(LV1)
暗襲(LV1)
暗闇での戦闘で攻撃力がx1.5になる Delay2.0秒
潜伏
奇襲
三段突き
・
・
・
更に考えるだけで、選択技能の詳細が、追加でプルダウンしていくのだ。まさにRPGのゲーム画面そのままだ。視界の下部には各種メニューのアイコンまで表示されていた。
「まんまコンソールメニューだな。ステータス、スキル、装備、倉庫、地図、クラン、パーティっと… 本当にこれじゃゲームだろ? それじゃ、オープン ステータスっと」
ウィンドがタブ化して、今度は能力が表示された。彼は周囲を警戒すると、少し先に見える大岩の影に身を潜める。心なしか周囲が明るくなっているようだ。
:ヒロト シマナ: 人族 ♂ :LV1:
:ステータス:
体力55(25 +30)
魔力75(25 +50)
気力40(20 +20)
力 55(25 +30)
敏捷40 (20 +20)
知力65(25 +40)
器用55(25 +30)
運20
:職業:
暗殺者LV1(AGI+10) 魔道士LV1(INT+10) 盗賊 LV1(AGI+10) 付与術士 LV1(INT+10)修道士LV1(HP+10)
:二次職:
鑑定士 LV1(INT+10)付与師 LV1(MP+10)武器師 LV1(DEX+10) 細工師 LV1(DEX+10)探検家 LV1(HP+10)
:技術 パッシブ:
短剣術LV1(STR+10) 無属性魔術LV1(MP+10) 付与術LV1(INT+10) 気功武術LV1 (VIT+10)光魔法LV1 (MP+10)
:技術 アクティブ:
暗襲LV1(STR+10)魔力弾LV1(MP+10) 気配探知LV1 (DEX+10)混乱の香りLV1 (MP+10)連撃LV1(STR+10)
:スキルコンボ:
無し
:ユニークスキル:
無し
:称号:
ディメテル連合戦士(HP+10)(VIT+10)
「何だろう… LV1なのに、結構技術が多いのな? 初期ステータスでも補正が凄い… のか? 5種の職業ごとに技術が増えて、その技術には補正が付くと…」
さっきの異常な跳躍力は、力 55(25 +30)の補正によるものらしい。
「力 55 であの筋力だと、成長したらどうなるんだろ…」
なんだか一蹴りで、この大樹を飛び越えそうな気にもなった。むしろ着地の方が問題だろうか…。
ー魔力弾ー
パン!
「っと!!!」
頭上から透明な魔力の塊が飛び出して、幹を砕き青葉を派手に吹き飛ばした。まるで銃弾で撃ち抜いたように強力だ。
どうやら無意識に、攻撃魔法を唱えたようだ。というか、初期魔法などは、スキル名を意識しただけで発現してしまう程に簡単だ。
「まじか… めっちゃ引き金軽いだろこれ。無詠唱で暴発ってやつだ。気をつけよう… まじ気をつけよう」
:ステータス:
魔力72/75(22 +50)
魔力が3消費されていた。
魔力弾LV1で MP-3の計算なんだな。ということは… あと24発撃てるのか。剣技と合わせればそれなりに戦えそうかな?
大翔はしばらく、岩陰に身を隠したまま、技能の詳細を読んでいた。
「よかった明け方だったのか。迷子の上に、いきなり深夜の密林はハードだからな」
薄明かりに朝霧が、視界に白く滲んでいる。特に寒くも暑くもない、快適な気温はありがたい。
彼は思い直してコンソールの地図を選択してみる。四角いMAPウィンドウが表示され、視界の半分を覆い隠した。
まるで衛星写真のような深緑一色の画面に、現在位置がマーカー表示されている。
これじゃ全く意味ない… 縮尺は変えれるのかな?
そう思った瞬間、MAPの解像度が縮小して大まかな全体図へと変わっていく。中央に並んだ幾つもの山脈と、大地を区切るような大河とその支流。この場からなら東へ少し行けば、細川へとたどり着けそうだ。
「これは戦砦かな? あとこの遠いのが街ぽいけど… これって100Km以上あるだろ?」
とりあえず水筒を水で満たすべく、その支流に向かって歩き始めた。足元を這う巨木の根と、茂った下草や岩ころで、それ自体が登山のようだ。幾つかの土崖を昇り降りすると、木々の間隔が開けて、歩きやすくなってきた。
そうしてだらだらと早朝の森を歩きながら、慣らすように使える技術を試し撃ちしていく。
やっぱり予習と反復練習は大事だろ…?
そうして最後に『気配探知』を発現した瞬間に、周囲に淡い光点が浮かび上がった。遠くに見える小さな赤や、進行方向に散在する白い光点、すぐ横にある岩陰の裏には、四足歩行の動物らしいシルエットが透過している。
これが気配探知… 見えていなくても生物の気を感じられるのか。あ、すごいなMAPに連動してるし、これは便利だ。
視界の1/8ほどに縮小された窓には、幾つものマーカーが追加表示されている。一番手前の岩の後ろには『岩飛ウサギLV3』と表示されていた。
LV3… 俺はウサギより劣るのか…? とりあえずこいつを狩ってみるか。いきなり魔獣と実戦とか嫌だからな…。
彼は腰の鞘から短剣を引き抜くと、足音を忍ばせて岩の後ろへと回り込む。
ガルルルルルゥ!!!
うわ………。
見下ろした枯れ草の合間から、大型犬ほどもある茶色の毛並みが、ぬっと二足歩行で立ち上がる。
だ、駄目だ… 眼力が半端ないだろ!
その明らかに凶暴な異世界のウサギは、立ち上がると大翔の身長と大差ない… 可憐な長いウサギ耳の下には、土佐犬似の獰猛な顔が張り付いている。
やっべ… これぽっちもうさぎじゃないし! めちゃくちゃ怖いわ! 異世界怖いわ!
彼は進むも退くこともはばかられて、その場で完全に固まっていた…。




