1-1話 プロローグ
第一章:異世界リスタエルス:
色々な記憶が不確かに白く溶けている。名前、性別、年齢… 自分は何者なのか? 高校生… 小さな子供? 冷徹な男、みんなに好かれる笑顔… そして痛み…。
ああ、そうか… 俺は死んだのか…。
意識が混濁して視界がぼやける。彼は温かい白色の輝きに包まれたまま、自分の掌を広げてみた… だが、そこにはあるはずの腕は見当たらない。そう、その先を視線で追っても己の姿はどこにも無い…。
どうやら今は、肉体を失った魂だけの存在らしい…。
改めて見渡しても、世界には白色の光が満ち、白くぬるい風が渡り、白い床と白い空が何処までも続いているだけなのだ。
まぁ、それはそれで良いのだけども… 何で俺は、こんな状況でゲームのキャラクターをカスタマイズしているのだろう?
周囲に浮かぶ影のない正方形が、この世界の唯一の形あるものだ。そしてその表面には、各種設定が滲むように浮かんで見える。まるで上質紙に色鉛筆で書いたように全てが淡いゴシック体だ。
どうなってるんだ… いや、やっぱり種族は人族だよな?
エルフ、ウッドエルフ、ダークエルフ、ドアーフ、ハーフリング、猫人族…
眼の前に流れていく、多彩な種族の中から当たり前のようにヒューマンを選択していた。
更には体格、顔の造形、髪型、瞳、色…
死んでまでゲームやるって、絶対病んでるよな… それでも途中じゃ止めれない!
無限の組み合わせから、積み上げていくキャラの姿は、マウスを動かすでもなく、パラメーターを調整する感じでもない。ただそれは自分の内にある理想像の具現化に近かった。要するに妄想がそのままキャラに仕上がっていく感じ?
そして、こういうキャラクター制作の時間こそが、ワクワクと胸躍るのは、ゲーマーとしては仕方ないことだろう。
ああ、次は職業選択か… やっぱり暗殺者とかかかな? ソロプレイには良さそうだし。所属陣営は大陸図南側のディメテル連合陣営でいいや…。
赤地に白い六花の図形が描かれた『ディメテル連合』のアイコンを選択する。もう一方の選択肢が青地に三日月と双翼が並んだ『アルテミス銀翼同盟』のアイコンだった。
所属陣営を選択すると、何故か職業選択画面が再び開く。
ん? 複数職業が選べるの? それじゃ… 無属性魔法使いの魔道士かな… ふむふむ。
幾度も繰り替えされる職業選択のダイアログを、意地になって選んでいくと、不意に二次職業の選択画面に移行した。今度は生産系の職業選択らしい。
そういえば… 俺ってどうして死んだんだけ? 年明けには大学入学共通テストを控えていたはずなのに… 何となく最後に、近所の大学病院に行ったのは覚えているんだけど… 何かの病気だったけ?
こういう時って、神様みたいな人が、親切丁寧に送り出してくれたりするのが、定番なんじゃないのだろうか? 「残念なことに君は死んでしまいました…」的に?
しかし相変わらず、自分以外に世界は白色で、何よりヘルプも設定資料も何も無いままに、全ての選択が終了してしまった。
彼は仕方なく、完成したキャラクターをぐるぐると回転させて眺めてみた。身長173cmの黒髪、茶目の日本人タイプの人族だ。少し長めの黒髪は首周りで軽く跳ね、綺麗に流れる二重瞼は、女性にも見える造形に、凛々しい印象を与えていた。
正直完成してみると、リアルの自分に何処と無く似ているのがバツが悪い… 地味に上位互換の外見なのだ。
「そういや… 名前… 名前は… 島名 大翔… あれ? 俺はそんな名前だったか?」
そこで初めて声に出した言葉は、キャラクターの上部に『ヒロト シマナ』と自動で書き込まれてしまった。いちおう訂正することも可能らしいが、しっくり来たのでそのままにする。
:ヒロト シマナ: 人族 ♂
:職業:
暗殺者
魔道士
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『認証』
あっ… 勢いで押しちゃった…。
すると世界が鼓動を打つように輝き出し、強烈な浮遊感に自分が高く浮き上がる。彼は自分という存在が、光源に溶け、ゆるく同化して行くのが分かった。そして今のキャラクター制作の記憶が、あさりと霧散してしまうのだ。
「おぉ… あれが新しい異世界か…」
薄れる意識の中で彼、島名 大翔は、成層圏の上空から青緑色に輝いた、海と大地の美しい惑星にダイブしていた。広大な大洋の中央に浮かぶ、勾玉形の小振りな大陸に向けて、ぐんぐんと高度を下げていく…。
良かった、いちおう世界は球形の惑星タイプだな…。
大翔が無駄に安心する間もなく、火球に見える彼の魂は『大陸アレス』の中央付近、濃い針葉樹林の闇中へと消えていく。
:異世界リスタエルスのチュートリアルを開始します:
何処からともなく、そんな機械的音声が聞こえてくる。しかし少年の意識は、それを覚えること無く、眠るように暗転してしまった…。




