11-8話 無遠慮な魔剣
第十一章 :拒絶の谷の行く先に:
(ホント往生際の悪い奴だ…)
最後の最後で魔力暴走を起こし、盛大に周囲を巻き込んだ魔術師ギガントガーズ… その空間が歪む程の大爆発は、熱帯雨林から街の防壁の一部までもを、巨大な爆心地と変えてしまった。
その爆発の只中で、メンバー達の意識に直接、レベルアップする音が連続して鳴り響いていた。
(レベルアップの音が心地良いわ… でもこんなに沢山鳴るのって、凶獣の森以来じゃない?)
地に開いた大穴を遠目にして、月歌が素直に喜びを表した。実際に全員が、一気に4レベルも上がっている。
(確かにあの森では、ガンガンレベル上がったよなぁ)
大翔の念話が、懐かしそうに声を漏らした。
(イヤイヤイヤ… 目覚めの森で、そんなにレベル上がるヤツ居ないから! 普通は速攻で殺されて死に戻りするのがデフォだから!!)
嫌な思い出でもあるのか、幸太郎が思わず突っ込んでくれた。
(しかし、今回は経験値良かったよな… オレは新スキルまで解放されたよ)
全員が一気にLV29にアップして、大翔に至ってはついに大台のLV32に到達している。
:ヒロト シマナ: 人族 ♂ :LV32:
:新技術:
弱点必殺LV1 魔力斬撃LV1 罠設置LV1 不可視の大盾LV1 気功破砕拳LV1
:新スキルコンボ:
瞬間転移
さすが30台の解放スキルだけあって、火力に直結するものが多い。
そして新たに組み上がったコンポスキル瞬間転移は、何度も連続で使用していた、瞬間移動と疾風の極意がコンポとなった、瞬間移動系のスキルのようだ。
そうして全員が、大幅なレベルアップに達成感を味わっていると、ようやく魔力爆発による霞も消えて、巨大なクレーターが露わになっていた。そして爆心地周辺には、真新しいアイテムが物置をひっくり返したように散乱している。
「あれは何だろ… ? つかボスのドロップ品かな?」
興味を引かれた少年は月歌と手繋ぎしたままで、無意識に瞬間転移を発現してしまう。
「うぉ!!!」
「ちょっとヒロ何をしたのよ!?」
気付けば一瞬で3Km以上を転移して、まだ熱気の残る爆心地の砂利の上に、呆然と突っ立っているのだ。
「これは凄いな… 新しい移動系のスキルコンポなんだけど、視覚的な確認も無しに、行きたい場所に0秒感覚で立ってたぞ? これ意識しただけで、到着地点の安全な座標調整までしてくれるらしい…」
つまり可能性として、視線の通らない敵の後ろや建物の内部にまで、瞬間移動が出来そうなのだ。そのポテンシャルをまだ把握出来てはいないが、瞬間移動の何倍も使いやすいスキルのようだ。
「ヒロ… そんな初見のスキルに、わたしまで巻き込まないでよ… ふたり融合とかしちゃったらどうするの?」
「ごめんごめん、イージーモードだから無意識に発動しちゃってさ… つか融合とか、その発想はなかったな…」
「でも少しぐらいなら、混じり合っても良いかもね… ?」
そう言って上目使いする美少女が、自ら背伸びをして大翔の唇にキスを重ねた。
「んふふ… 勝利の抱擁ならボクにもお願い…」
ようやく追いついて来た香音とメンバーが、熱いキスを重ねている二人の側に集まってくる。唇を離した少年はリクエストに応えるように、今度は蜜色の髪を優しく抱き締め、エルフの少女とも小さく二回唇を触れさせた。
香音はうっとりとキスを受け入れると、そのまま彩葉の二の腕を引っ張って、自分とすり替わるように押し付ける。
「ようやくとハーレム主人公が板についてきたねぇ!」
幸太郎の腕にぶら下がった桜咲が、からかう気満々でニマニマしながら近づいて来る。
「なんか三人対等っていうか… そんな取り決めになってんだって」
大翔が顔を赤くして言い訳をすれば、彩葉から彼の頬に手を触れて、強引に唇を奪いにいった。
「まぁ、みんな幸せそうで何よりだ…」
そんな情熱的な彼女を冷やかすと、幸太郎が足元に散乱する大量のアイテムに視線を落とす。
「つか… このどっ散らかったレア素材は、奴のドロップアイテムって事だろな」
そんな無造作に散らばったアイテムを調べれば、魔赤金鉱や獄墨鋼、黒白銀などの各種鋳塊に、白妖精の錦糸に月銀絹、魔方絹などのレア織物や糸などの、豊富な種類の希少素材が数多くドロップしていた。
中には初めて目にする、不死竜の甲殻や神々の手織物と呼ばれる、伝説級の素材まで混じっている。
「生産系持ってるヤツには、まさに宝の山だろこれ… 問題は今のレベルで加工出来るかどうかだな」
幸太郎は目を輝かせて、種類別にアイテムの整理を始めていた。二人の美少女に抱き着かれたままで、大翔も足元のアイテムを魔力腕で引き寄せてみる。
「この不死竜とかいう素材なら、武器師LV9で扱えるっぽいな…」
彼の身長程もある赤紫の鱗は、少年の魔力に反応して鮮やかな真紅に色を変える。どうやら魔赤金鉱に似た、魔力感応タイプの素材のようだ。
「それよりこれをどうするの? 明らかに死神の杖の一部だよね…」
爆心地のさらに中央で、まるで展示物のように浮かんでいる刀に、月歌がしゃがんで顔を近づけていた。
僅かにアールを描くその片刃剣は、タルワールと呼ばれる曲刀の亜種らしく、刀というよりは短剣に近いサイズのものだ。確かにその中二病心をくすぐる禍々しい装飾の一部は、あの死神の杖の刀身部に酷似している。
「ツキカの言う通りに、あの魔術師の核だなこれは… しかもその刀自体が、何かを開錠するための鍵らしい…」
:鑑定:
魔剣ガーズ (Legend) LV51
物理攻撃力+208 魔法攻撃力+1100 攻撃速度180 耐久値 100%
魔法効果支援x42% 詠唱速度支援x113% 呪印付与27% 麻痺効果18% 魔力吸収11% 気力吸収9% 幻惑魔法発現 妖魔ガーズ・ミィガの加護
霊廟リスティアの第1番目キーアイテム
「武器レベルが51とかいう、規格外のレアものだけどさ… 何かこれ装備したら呪われそうな見た目だよなぁ… 魔法攻撃力がずば抜けて1100もあるんだし、カノンやツキカが使うのが良いんじゃないか?」
半分焦げた木の枝を手に取ると、大翔はそれで魔剣を何度か小突いてみる。すると曲刀はその惰性で、ゆっくりと展示物のように回転を始めてしまう。
そうやって一周を眺めてみても、やはり死神の剣とか呼ばれそうな程に邪悪な見た目だった。
「そんな悪趣味なの要らないかな… ボクはもっと、清潔感があるのが好きだから」
香音は自分が押し付けられないように、彩葉の背後に身を隠す。
「わたしには火神が居るし、それに短剣サイズの武器なんてヒロにしか使えないでしょ?」
レベル51の伝説級装備なのに、女子にはまったく人気がない。
「コウタロウ… はともかく、サクラが使うってのも有りじゃない…」
「可愛くないから要りません!!」
冷たい声音で被り気味に拒否された。つか久々に桜咲の真顔を見た気がする…。
「コイツどんだけ人気無いんだよ。まぁ印象は最悪だからな… いっそ潰して素材にでも…」
≪そこまでとは… 我はそこまで嫌われているのか! 主殿!≫
突然響いた聞き覚えの無い声に、少年がビクンと反応した。ボリューム大きめの主張の強いそれは、いきなりの主呼びだ…。
「ちょっと音量を控えてくれ… 耳というか心が痛い…」
≪も、申し訳ない主殿… 話しを聞いていたのだが、このままでは見捨てられそうな雰囲気に、我も必死にならざるを得ず…≫
「お前… そこの魔剣とやらか…?」
ゆくりと回転していた曲刀が、握ってくれと言わんばかりに、柄を少年に傾けて停止する。やはり何処かに遠慮の無さが滲み出ていた。
≪その通りである主殿、この魔剣に宿りし幻術と呪いの申し子、妖魔ガーズ・ミィガとは我の事である。試練を乗り越えた兵よ、その手で我を取るがいい!≫
その仰々しい言い方に、少年は胡散臭そうな目で一歩後ろに引いてしまう。
≪何故距離を離すのだ! そこはカッコ良く我を手にする所ではないのか!?≫
「幻術…? 妖魔? 一度握ったら二度と手放せない、呪いの剣とかだろお前?」
≪失敬な! むしろ呪いを掛けられていたのは我の方である! 長い時間、意識の定まらぬ希薄な魂で、この地の門番として囚われておったのだ。そんな我を解放してくれた恩人殿… どうか我を主殿の僕の末席に加えて頂きたい!≫
しかし本当に良く喋る刀だな… まぁ性能は断トツだし、この先にある何かの鍵らしいからな。
「ヒロは魔剣と話をしているの?」
長引く少年の独り言に、月歌が話に割り込んでくる。
「あぁ… やっぱり加護持ちの武器だったよ… さて、こいつをどうするか… ?」
≪わたくし、こんな下品な駄剣と並びたく無いですわ≫
そこで腰の妖聖剣が、不満気に言葉を漏らす。
≪これは姫君! 先ほどの痛烈な一撃、感服いたしましたぞ!! どうか我を姫のお供に… いや下僕に…≫
≪覚醒などせず永遠に眠り続けなさい… 何でしたららこの場でわたくしが息の根を…≫
アクの強い魔剣に対して、妖聖剣はやけに辛辣だ。
「まぁ… こんなんでも一応キーアイテムらしいんだ… 妖聖剣の露払いぐらいにはなるんじゃないか?」
≪主様がそうおっしゃるなら… 駄剣よ、ちゃんと品格の違いを認識するのですよ駄剣!≫
うわ… 二度も駄剣を繰り返したよ… 何だかちょっぴり不憫になってきた。
≪もちろんですぞ! この世界での強者である姫君に、並べるこの幸せこそが…≫
≪話のしつこい輩は嫌いですわ!≫
≪…………≫
何か気になる良い方だったが、疲れてきたので良しとしよう…。
「仕方ない… こいつはオレが使うとするよ…」
そうメンバーに確認すると、空に浮く曲刀を左手で握り締める。
「そういや加護って、普通はひとり一種だよな… ?」
最後の最後で、幸太郎が問題発言をぶっこんでくる。
「えぇ!? そうなん? まさか加護同士が反発して暴走するとか…?」
≪お役に立ちますぞ! 主殿に姫君!≫
「ちょ、まっ……」
少年は魔剣ガーズを仲間にした…。
まさかの新キャラ… ?
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