君は心の青薔薇か
宝塚歌劇団月組男役二番手スター・美弥るりか様に捧ぐ。
皆さんは宝塚歌劇団をご存知でしょうか。
兵庫県宝塚市に根差す、世界に類を見ない女性だけの歌劇団。
その歴史は古く大正時代にまで遡ります。
阪急電鉄の創始者・小林一三(小林逸翁)が、阪急電鉄沿線の開発と需要促進のために、温泉施設に余興と集客のために設立した宝塚唱歌隊を前身とし、1914年4月1日に桃太郎から主題を取った「ドンブラコ」が宝塚歌劇の始まりでした。
それから今年で105年、様々なスターが登場しては綺羅星のごとく輝いて、瞬く間に去っていき、今もなおその時代を知るひとの胸で煌めいているのです。
去る4月15日、一人の宝塚歌劇団男役スターが、この日を最後に宝塚大劇場の舞台からご卒業されました。
桜吹雪舞うなか、白のジャケットに身を包み、菫色のシャツを揺らしなが、まるで絵本の中から現れた王子のように麗しく、花の小道を颯爽と歩くその姿。
胸を打たれるものがありました。
さてその方の御名こそは「美弥るりか」様。
宝塚歌劇団史上異例の、サヨナラショーが開催された二番手男役スターなのです。
通常サヨナラショーというものは、男役トップスターと娘役トップスターが、宝塚歌劇団を退団する時に行われるもので、それ以外の団員は卒業セレモニーを行うのみでショーは開催されません。
ごく稀に別格のスターさんがサヨナラショーを開催されることがあるんですが、美弥さんは本当に異例中の異例だと思われます。
何故なら二番手スターがトップに上らず退団すること、それ自体が異例だから。
そしてこの異例の事態が、私にこの文章を書かせる切っ掛けになったのです。
それを説明するには、まず宝塚の制度と現行の月組に少しだけ触れたいと思います。
宝塚歌劇団には現在、花・月・雪・星・宙という五つの組が存在します。
それぞれの組に男役トップスター1名、娘役トップスター1名が存在し、その脇を二番手男役スター、三番手男役スター、その他の男役娘役の役者さん(宝塚に限っては生徒さんとお呼びします)が固め、全体を組長と副組長が纏めるというスタイルで、組長・副組長はその組の最高学年生徒が勤めます。
宝塚の役者さん達を生徒、最年長を最高学年と呼ぶのは、宝塚歌劇団が宝塚音楽学校と一体だったときの名残です。
さて、現在美弥さんが在籍されている月組の体制はと言うと、男役トップスターは珠城りょうさん、娘役トップスターは昨年の「エリザベート」で宝塚歌劇団をご卒業された愛希れいかさんに代わり、この3月15日に初日を迎え4月15日に千秋楽となった「夢幻無双──吉川英二原作「宮本武蔵」より──/クルンテープ・天使の都」で大劇場御披露目の美園さくらさん、男役二番手スター・美弥るりかさん、三番手男役に月城かなとさん・暁千星さん、組長は光月るうさんの布陣。
それぞれに持ち味のある素晴らしい生徒さん方です。
それぞれの持ち味の素晴らしさは、ここではあえて触れません。
何故なら興味をもって、読んだかたが自分で調べて欲しいから。
そして宝塚歌劇団を好きになって欲しいのです。
宝塚音楽学校の狭き門を潜っても、その少数精鋭の中で更なる試練があり、それを越えたひとだけが、宝塚のトップスターの大羽根を背負うことが出来る。
その重みは物理的にも重く、精神的には更に重いものです。
現在月組でその重い羽根を背負っている珠城さんは94期生、対して支える美弥さんは89期生。つまり美弥さんの方が上級生にあたります
珠城さんがトップに就任したのは2016年9月の事。
若すぎるトップの就任に勿論異論がでました。
色んな憶測が流れ、今尚くちさがないひとたちは、それをまるで真実かのように吹聴しているくらいです。
しかし、私は言いたい。
「お前らファンなんだったら、ご贔屓のジェンヌさんの言葉と笑顔を信じろよ!」と。
私は美弥るりかさんをお慕いしております。
彼女は折に触れてトップスターである珠城さんを「支えたい」「支える」と仰っていました。
時には肩を並べ、時には微笑みあう。そんな姿を宝塚歌劇団の宣伝番組や他のメディアでも見せていました。
葛藤は沢山あったでしょう。
それこそ美弥さんと珠城さんにしか解らない苦しみや悲しみもあったでしょう。けれど、喜びもまたあった筈です。
でなければ、卒業に際して「りょうちゃんがトップの時に卒業出来て良かった」「安心する」等という言葉が笑顔で語られる筈がない。
私はその笑顔と言葉を信じます。
彼女たちは役者です。その笑顔も言葉も演技だという人もあります。
しかし、それなら尚更、私は彼女たちのそれを受け入れたい。
彼女たちの演技はすべて、彼女たちを愛する観客である私たち一人一人のためなのです。
その彼女たちがそんな演技をすると決めた何かがあったのならば、その何かを私たち観客に見せてはならぬと思ったからではないでしょうか。
そうまでするものを暴いて何になるというのでしょう。
ファンとしては確かにトップの大羽根を背負う美弥さんが見たかった。
しかし、彼女はそうではなくトップの大羽根を背負う人を支えて、支えきって独り立ちさせて去ることを選らんだのです。
その選択を拍手で何故送れないのか!
「独り立ちさせてから」と感じたのは、先の娘役トップスターの愛希さんは先代の男役トップスターの龍真咲さんの相手役も勤めたことがある方で、トップスターを知るからこそ、珠城さんを導くことが出来たように思います。
しかし今度の娘役トップスターは珠城さんより学年が下で、珠城さんが導いてあげなければいけない立場。
よりトップの羽根は重くなるでしょう。
だからこそ、その背を退団と言う形で「もう独り立ちの時だよ」と押すことを最後の勤めになさったのだと思うのです。
自分の去る背中を見せることを最大の餞になさったのだ、と。
思えばこの間、月組大劇場の演目は「グランドホテル」「All for One~ダルタニアンと太陽王~」「カンパニー」と、男同士の友情や支え合いが濃く表面に出る作品が多く、そのいずれにおいてもトップの珠城さんと友情を育み支えあうのは二番手の美弥さんでした。
例えば「グランドホテル」では、余命幾ばくもない美弥さん演じるオットー・グリンゲラインが終の棲家に選んだグランドホテルですげない対応をされたとき、その願いを叶えるために手を差し伸べた珠城さん演じる男爵。その若き男爵の窮地を、プライドを傷つけることなく優しく手を差し出す事で救ったのはオットーでした。
はたまた「All for One~ダルタニアンと太陽王~」では、若くして英雄になった木訥な田舎出の、珠城さん演じるがむしゃらな青年ダルタニアン。その恋路を応援し、世話を焼いて支えたのは、洒脱で妖艶、陽気な色男でダルタニアンの兄貴分である美弥さん演じるアラミスでした。
更に「カンパニー」は妻を若くして喪い、失意のなかにいた珠城さん演じるサラリーマン・青柳を、時に叱咤し、褒め称え、自分と同じ地平に導き共に歩もうと手を差し伸べたのは、美弥さん演じるバレエ界の孤高の天才・高野でした。
舞台と現実がリンクするように、どちらにおいても二人は支えあっていた。
それが頂点に達したのはホームグラウンドから離れて梅田芸術劇場等で公演された「雨に唄えば」でした。
主役ドンを演じる珠城さんと、その親友であるコズモを演じる美弥さんとの、一糸乱れぬ息ぴったりのタップダンスは宝塚史に燦然と残るものだと思います。
体格的にも、男役として恵まれた背と肩幅、骨太な男前さを持つ硬骨のひとという雰囲気の珠城さんの隣に、華やかで優麗、細身でしなやかで匂い立つような艷めかしい中性的な美弥さんが並ぶ。
それは何と言う美しいバディ像だったことか。
それから「エリザベート」で一人の女性を巡り対立する男二人を演じられた時には、二人が直接顔を会わせるシーンはほとんど無かったものの、お互いの向こう岸にお互いの姿が見えるほど、二人は研ぎ澄まされて見えました。
そして新トップコンビ御披露目公演にして、美弥さんの退団公演となる「夢幻無双─吉川英二原作「宮本武蔵」より」では、未熟な武蔵をおりにつけ気にかけ、時に叱咤し時に手助けし、己のいる頂きに這い上がるのを待っていた佐々木小次郎の姿は、まさに月組に珠城さんが王として君臨するのを見守り続けた美弥さんの姿そのものでは無かったかと。
小次郎は武蔵に破れ、世を去ります。しかし、小次郎は無念だったろうか。
否、小次郎は自らを武蔵が乗り越える可能性を解った上で、自分のところまで上がってこいと言ったのです。
一つの終わりとして、それはとても美しい終り方だったように思います。
また、美弥さん個人では「夢幻無双」の前に、宝塚バウホールにて「アンナ・カレーニナ」で主演なさいました。
主役のアレクセイ・ヴィロンスキーの、一途なまでにたった一つの愛を求める姿は、激しく妖艶、けれど儚くも美しい、宝塚男役の真骨頂を魅せて頂きました。
サヨナラショーの始めに、組長となられた光月さんは「もっと男役・美弥るりかを見ていたかった」と仰いました。
同じ組の、それも上級生にこうまで言わしめた美弥るりかさん。その月組への貢献や人徳・人望の厚さが伺える言葉です。
トップスターである珠城さんを始め、下級生からも慕われ、美弥さんの挨拶の最中、その背中を見ながら月城さんやその他の下級生は必死で涙を堪えていました。
余談ですが、月城さんは二年前に組替えで、他の組から月組に代わってきた方で、最初に打ち解けられたのは、同じく組替えで月組に来たという経歴を持っていた美弥さんが、その不安を知るがゆえに声をかけたのが始まりで、それからとても親しくされていたとか。
普通なら退団する方への挨拶では泣かないように心掛けている珠城さんでさえも、堪えきれずに泣き出してしまったくらいです。
そう、泣きたいのはファンもですが、美弥さんと長く共に同じ舞台を作り上げ、絆を織り成してきた組の皆もだったのです。
美弥さんはご自分の挨拶の中で「宝塚に恋をし続けてきた」と、この17年の宝塚人生を振り替えって仰いました。
その美弥さんの姿に恋して、また宝塚の狭き門を潜る娘さんがいるのでしょう。
そうして宝塚は続いていくのです。
また、美弥さんはこうも仰いました。
「私の存在が誰か一人でも、どなたかの人生のエネルギーになれたと知ったとき、私は初めて自分の存在を、そして生きていく意味を感じることができました」
貴方という存在に喜びを貰い、感動を与えられてきたのは、私の方です。
貴方の舞台を観たい、それが世知辛い世の中を渡る希望になっていたのです。
そう思うのは、決して私だけではないでしょう。
確かに美弥るりかさんはトップスターの大羽根を背負うことは無かった。
けれどこれ程組の仲間やファン、劇団に愛されたタカラジェンヌなど、後にも先にも美弥さんだけなのではないでしょうか。
宝塚歌劇団・月組、男役二番手スター美弥るりか
そは宝塚に咲いた青い薔薇。
青薔薇の花言葉は「奇跡」、そして「夢、叶う」なのです。
この文章を読んだ方、願わくばどうか貴方も美弥るりかさんというタカラジェンヌを知って下さい。
宝塚の青き薔薇の素晴らしさを──
ここまでお付き合い下さりありがとうございました。
これね、ぶっちゃけファンレターみたいなもんだから劇団に送りつけりゃ良かったのかもしれない。
でも大劇場の退団公演やらその前からですね、Twitterで心ないこと呟く五月蝿いのがチラホラ見えまして。
大半の美弥さんのファンは珠城さんとの絆に疑問なんか無いんですよ。だってお二人の舞台は、本当に素敵な舞台だったもの!
だけど心無い言葉の方がさ、インパクト強いでしょ?
少数しかいないくせに声だけはでかいって厄介なんで、それなら私も大声で叫んでやるぜ!と。
「なろう」をお借りするのが良いのか解んなかったけど、私の作品のブックマーク数のがフォロワー数より遥かに多いのでこっちの方が良いかなと思いまして書いてみました。
美弥さんが気になった方は、どうぞ公式にアクセスアクセス!