表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私と労災の1年間  作者: あ
14/19

シャワー

私はもうこの時期から壊れていたのだろう。毎日暴言を吐かれ続け、もはや指導の範疇を超えている。


だが私にはわからない。


「お前が悪い」と強調された事も要因としてあるのか自己否定感も強まっていく。


同時に「職人業界は厳しいもの。暴言は当たり前。」という考えも頭をよぎる。


その2つの考えが重なるとどうなるだろうか。


つまり


「職人は厳しいものだしこれぐらい普通。まず自分が悪いから言われてるんだし親方は悪くない。」


となる。


本来いくら指導とは言え、限度というものがある。


今だからわかることだが、普通部下の指導に「バカアホ死ね殺す」これらの事を日に10回以上繰り返し言うのは明らかにおかしい事だ。パワハラだ。


だが当時の自分にそんな事はわからない。


いくら耳が悪いと言われようと、いくら仕事が遅いと言われようと、いくら死ね殺すと言われようと、全て自分が悪い。




5月下旬。本格的に自分が壊れ始める。


親方は先にも述べているように、自分の発言が無視されるのを異常なほど嫌う。別に無視している訳ではなく本当に聞こえないのだが、言っても無駄だ。「すみません」と謝るしかない。


親方から私に声がかかった際はまず一言「はい」。


親方から私に指示があった際は「わかりました」。


親方から私に暴言があった際は「すみません」。


親方から私に指導があった際は「ありがとうございます」。




毎日朝5時半に起きシャワーを浴び、出勤する準備をする。


シャワーを浴びながら


「はい。わかりました。すみません。ありがとうございます。はい。わかりました。すみません。ありがとうございます。はい。わかりました。すみません。ありがとうございます。はい。わかりました。すみません。ありがとうございます。はい。わかりました。すみません。ありがとうございます。はい。わかりました。すみません。ありがとうございます。はい。わかりました。すみません。ありがとうございます。」


ひたすら連呼して体に染み込ませる。


私は凡人。こうでもしないと返事もまともに出来ない人間。これが当時の私の日課だ。



今なら明らかにこれを異常と言えるだろう。だが当時の私は一人暮らしである。止める人はいないしまず私はこれを異常だと思っていない。


誰だって怒られたくない。暴言を言われたくない。ならどうするか。返事ができないということで怒られるのであれば返事をマスターしよう。これが5月の私が出した結論だった。


凡人な私は実際問題こうでもしないと変わることはできないし、何よりこれのおかげで効果はあった。


常に頭の中に「はい。わかりました。すみません。ありがとうございます。」の4つを浮かべているので、何かを言われた際すぐに言葉を言える。


異常か異常じゃないかは重要じゃない。例え異常であろうとそれに効果があるならやる。もう暴言を吐かれたくない。つらいし嫌だ。


だがこの方法が後に仇となる。もう私は何が正解かわからない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ