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私と労災の1年間  作者: あ
11/19

凡人

仕事というのはつらいものだ。ましてや大工など職人業界は厳しくて当たり前。一般人にすら刷り込まれてる感覚は私の頭から消えなかった。言わば洗脳である。


どんなに言われても「当たり前だから」これで済ます。仕事を始めたばっか。辞めるという選択肢はない。反論しても無駄。我慢。



私の通っている学校にはOJTというシステムがある。簡単に説明すると「仕事も授業の一環という」事である。授業だからこそ仕事にも単位が発生する。


だから私の学校では仕事をしている証明に、月1回OJT報告書というものを書く。ちゃんと仕事をし、どんな仕事をしどんな事を学んだ等を書くのだ。


なら私が4月から5月の間の1ヶ月で何を学んだか。技術面では確かに色々な仕事をした。だが親方から言われたことを正直に書けるか。答えは書けない。嘘をついていい事を書くしかないのだ。


「大工になったばっかの私を優しく指導してくれています。厳しい面もありますが、愛を感じ仕事をしていてとても楽しいです。」


本当の事など書けるはずがない。本当の事を書いて親方にバレるリスクを考えてしまう。


それに最初に書いたように「大工は厳しくて当たり前」という刷り込みがあるので、自分のはまだ軽いと思っている。もっとつらい人もいるのだろうし私のはまだまだだ。


5月中旬。私への当たりが弱くなるわけもなくどんどん暴言はエスカレートしていく。この時期、日に10回は言われていた、バカやアホ、お前は耳が悪い、仕事が遅い、の他にもう1つ「やばい」という言葉を使われるようになる。


一括りに「やばい」と言われても様々な言い回しがある。


「そんなに仕事が遅いのはやばいよ異常だよ」


「俺にできてお前に出来ないのはやばいよ」


「なんで俺とお前は数歳しか歳が離れていないのにそんなこともできないの?やばいよ」


レパートリーは豊富である。


この「俺にできてお前にできない」という言葉の意味を私は理解した。


先に述べたように、親方は大工歴1年半である。普通たった1年とちょっと働いただけの新米に会社が仕事、所謂現場の最高責任者を任せるだろうか。任せるには理由がある。親方には大工の才能があったのだ。


親方は天才肌である。何事も卒無くこなし、仕事も早い。初めてやる作業でも勘だけで成功してしまう。本物の天才だ。


では私はどうだろうか。1ヶ月たっても仕事もまともに覚えられない。毎日怒られてばっか。所謂凡人である。いや凡人以下かもしれない。


天才と凡人。この二人が一緒の現場で二人っきりで仕事をする。凡人は天才がなぜできるのかを理解できないし、天才は凡人がなぜできないのか理解できない。


極論を言ってしまえば私も天才であれば親方の言うこともすぐ理解し、ついていけたのである。


この1ヶ月と少しの間で自己否定感が生まれた。だがこれも私が凡人であるから、私のメンタルが弱いからなのだろうか。


今考えるとこの時期から鬱のような症状も出ていたかもしれない。




凡人な私が悪い。

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