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私と労災の1年間  作者: あ
10/19

我慢

5月上旬。新しい親方と二人っきりで現場に入ってから約数週間の月日が経った。


その頃には親方も私もお互いの存在に慣れてきたのであろう。他愛のない雑談などもするようになってきた。


慣れるとやはり言動も緩くなってくるのか、ちょっとしたいじり等も増えてくる。


それこそ前回に書いた「バカ」等の暴言もまだ冗談として受け止められる。親方も笑顔で言っているし私自身も親方に対して軽い信頼というものがあったからだ。


だがやはり慣れてくると徐々に冗談もエスカレートしてくるのだろうか。親方も私に対して冗談と受け止めていいのかわからないような発言も増えてくる。


最初はやはり「バカ」や「仕事が遅い」等のことから始まる。だがそれの回数が増えてくるのだ。


5月に入るとそれらが毎日言われるようになった。そこまでくると私の精神的にも冗談として受け入れられなくなってくる。


だが相手は親方であり、上司だ。ましてや初めて建築業界に入りまだ一月ほどしか仕事をしてない人間が歯向かうことなど出来ない。発言に対しても「やめてください」等とは言えない。笑って誤魔化すしかない。徐々に私の精神を蝕んでいく。


私は反論もしないし仕事もできない。親方のストレスも溜まっていったのだろうか。


「ほんとに○○君は仕事が遅いなぁ。休憩時間に入ってるしその簡単なの終わってくれないと休憩できないよ。」


「お前ほんとに耳わりいな。俺の言ったこと聞こえねえのか?耳鼻科行けよ。」


もはや冗談としては捉えられない明らかな暴言も増えてくる。


だが耐えるしかない。建築業界は暴言が当たり前なのだと自分に言い聞かせる。


5月中旬。この頃にはバカやアホなどのよく言われる一般的な暴言や、「仕事が遅い、耳が悪い」等の事は日に10回以上のペースで言われるようになる。正直キツい。だが耐える。


この頃よく言われるようになった


「お前は耳が悪い」


建築現場というのは色々な業者が作業をしていてとてもうるさい。決して親方の発言を意図的に無視をしている訳では無い。単純に聞こえないのだ。


だが親方はそれが気に入らないらしく、「ほんとに耳悪いな」「○○くんはすぐ俺の事を無視する」等と言ってくる。流石に私も「現場がうるさくて聞こえないんです。」と正直に答えるも「お前は言い訳ばっか」と流されてしまう。


本当のことなのに言っても理解されない。つらい。


正直に言ってもわかってもらえないなら私はなんて言い返せばいいのだろうか。自分でもわからない。


「本当に聞こえないです。」と正直に言い続けるのか?


「すいません笑耳が遠いんすよ笑」とでもあしらうべきなのか?


私には判断ができなかった。


判断ができない私に再度親方から何かを言われる。現場がうるさくて聞こえない私は意図的にではなくまた無視をしてしまう。そうするとやはり親方から言われるのは


「また○○くんは無視をする」


さぁ私はどう返す。先に述べたようにまた正直に答えるべきか?それともあしらうべきか?どうするのが正解なのか?判断に迷っている私に親方が投げてきた言葉は


「お前ってさぁ、俺に何か言われるとすぐふてるよね。それうざいからやめなよ」


ふてくされてるのではない。親方に対してどう返せばいいか自分なりの結論を出そうとしてるだけなのだ。だがその考えてる空白の時間が、親方にはふてってると捉えられてしまったのだろう。もうどうしようもない。「すみません」と謝るしかない。


今でもこの時の状況を思い出すが、何が正解だったのかわからない。どう返せばよかったのだろう。ただただつらかった。


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