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虎を愛でたい宇佐木さん

作者: 虎石 容果

「宇佐木、話って?」


同級生の虎彦君を呼び出した。

学年一の問題児なんて呼ばれる彼は、髪は金色、目つきも態度も悪い。

彼を見ていると、わたしにとってどの先生が好ましく、どの先生が好ましくないかすぐわかる。

臭い物には蓋をして嫌なものは見ない、そんな事なかれ主義もいれば、必要以上に自分の物差しを押し付ける自称熱血系もいる。

みんな忙しすぎて、一人一人に構える時間は少ないのかもしれないけれど、真面目に考えて向き合おうと言葉や手を尽くす先生はめったにいない。

押しつけがましい先生も何も見てくれない先生も好きじゃない。


虎彦君は、勘なのか経験なのか、ちゃんと見てくれる先生にはちゃんと応えている。

目つきも態度も悪いまんまだし、髪の毛は染め直さないけど。


そわそわと、緊張して少し落ち着かない。

なぜか虎彦君も。

いつも平然と女の子の告白を断っているのを知ってる。

だから、脈ありなのかな?と期待する。


「麻生君、あのね、じつは…」


「ちょーっと待ったーー!!」


おっと、乱入者だ。


「てめぇっまた…!」


虎彦君が牙をむく。

あら?BL展開かしら?


「会長?どうしたんですか?」


「ごめんね、宇佐木さん。実は今罰ゲーム期間中でさ。告白は一切受け付けていないんだ。明日の全校集会でこいつの好きな人わかるから、玉砕された時には一緒に笑い飛ばしてあげてねー」


へらへらと軽薄な笑顔で言う生徒会長の柴北君。ちょっと苦手だ。

虎彦君とはそんなに仲が良くなかったと思うんだけど…。罰ゲーム、というより…


「麻生君、何かしたんですか?」


会長は目を丸くして、あはっと笑う。


「鋭いねー。煙草に飲酒に飲酒運転!器物損壊に軽~く暴力沙汰?まぁ、今後一切しないって事と愛の告白程度でぜんぶもみ消してあげようってんだから、めちゃくちゃ優しいよねー?」


あいの、こくはく。

なんですって。

とらひこくんが、こくはく?


「おい、ちょっ、飲酒運転はしてねーよ!」


「あはーっ虎クン無知ーっ自転車も軽車両だよー?」


二人を見ながらふと気づく。

あれ?虎彦君、顔が赤い?


「あの、麻生君の好きな人って、もしかして会長?」


「「ぶっ」」


「なわけあるかボケェ!!!」


会長は肩を揺らして堪えている。

虎彦君にはめっちゃ睨まれた。

あれ、おかしいな?


「玉砕はないと思うぜ」


ふふんと胸をはる虎彦君は子供っぽくてかわいい。

少し、からかってみたい、むずむずとした欲求に負けてみる。


「麻生君って自信家なんだね。告白される子がちょっとかわいそう。玉砕されたら残念会開いてあげようか」


「ばっ、玉砕なんてされねーよ!たぶんされないと思う。…されないんじゃないかな」


なんかどっかで聞いた関白の歌みたいなことを言い出し首を傾げた。

たぶん、これをバカかわいいとかアホかわいいとか言うのだろう。

だけど、振られてしまえばいいのに、そうすれば私が。


「ごめんね?でも、素行不良でガラが悪くて俺様気質な麻生君を大人しく引き取ってくれる人なんているのかな、なんて思っただけだから」


私以外に。


ズガン、とショックを受けた顔をしている。

え、自分の素行の悪さを自覚してらっしゃらない?

いや、私は珍しい表情を見ることができて、口の端が上がりそうになるを我慢しているのだけれど。


「あれ?宇佐木さんは虎クンに告白しに来たんじゃないの?」


受け付けてないって言ったくせになに聞いてんの会長。


「掃除当番や日直をさぼる麻生君に、クラス委員として文句を言いに来ただけ、かもしれませんよ」


もっともらしいことを言ってみたけれど。

会長はふーん、とか含み笑いしてる気がするけど、無視して帰ろう。

虎彦君はしょぼーんとした様子もかわいい。



翌日、噂は広まっていた。

会長がせっせと流している様子が目に浮かぶ。

全校集会での告白。

どうしようもない虎彦君は、タラシっぽいところがある。

いや、イケメンだからまぁ、モテるんだけどね。

悪っぽいのにちょっと優しいところがあると、コロッと騙される的な。


虎彦君に手を焼いていた先生方は、柴北会長にどう言いくるめられたのか、告白させて大人しくさせる、という提案に賛成もしくは黙認のようだ。

本当に彼を嫌いな人が告白されても悲劇だし、わがまま全部許しちゃうって人が告白されても周囲にとっては悲劇だ。



珍しく元気のない虎彦君が壇上に上がる。

ざわめきが静まっていく。

会長がマイクを手に取り、にっこり笑う。


「今日は、麻生君が中学生の頃からずーーーーーーーーーっと好きだったっていう子に告白してもらいまーす。罰ゲームです。ダメだった時にはみんなで盛大に笑ってあげましょう!さー、どうぞ!お相手は?」


めちゃくちゃ楽しそうな会長を恨めしそうに見てから全校生徒を見回して、ぴた、と止まる。


あれ?なんか、目、合ってる?


いやいや、前とか後とか、別の人ってオチも……


「宇佐木 綾芽」


どきりと心臓が跳ねる。

ざわりと視線が集まる。

すぐさま生徒会役員に壇上へ連れて行かれる。


なんだこれなんだこれなんだこれ。ええっ?さらし者?ってか、わたし?ほんとのほんとに??え、やばい、考えてなかった。


「素行不良でガラが悪くて俺様気質だけど、宇佐木が好きだ。…付き合って、欲しい」


だんだんと自信なさげにしぼんでいく。

ああ、そうだったんだ、だから昨日、あんなに様子がおかしかったのか。


「ふふっ」


嬉しくて、我慢ができない。


「おっかしいよね。どーしようもない人だってわかってるはずなのに、好きなんだから」


にこっと笑うと虎彦君の頬が赤くなる。

とてもかわいい。


「はいはーい、めでたしめでたしってことで、虎クンには誓ってもらいましょー」


会長はポケットから二つ指輪取り出した。

百均で売ってるようなやつだ。


「は?えっ?何を?!」


「麻生虎彦君は、今後生活態度を改め、恋人のいうことをきちんと聞くことを誓いますか?」


「ぶっ」


思わず吹き出してしまった私は悪くない。

だってこれ、会長は指輪じゃなくて、首輪をつけさせようとしてる。


虎彦君は、慌てたり苦い顔をしたり、さっきから忙しい。


「ぐ……う…。ち…かう」


「えーと、宇佐木綾芽さんは、今まで生活態度がひっじょーに悪く傲慢で俺様だった虎クンを大人しく引き取ってくれますか?」


そこまで言わなくても、とむくれ顔の虎彦君を見上げ、にっこり笑う。


「もちろん」


会長からもらったおもちゃの指輪をお互いに手をとり、右手の薬指に通す。

暖かな手をつないだまま、笑う。

虎彦君の顔は真っ赤で、見つめれば瞳が揺れる。


「これから、よろしくね」


「おう」



後日、なぜか飼い主と飼い虎とか言われたと虎彦君は憤慨していたけれど、そんな虎彦君も、大きな虎猫みたいでかわいかった。







読んでくださりありがとうございました。


しばらくはジャンルバラバラで短編ばかりになりそうです。


思いついた話あっても、うまくストーリーにならないと平気で何年も塩漬けになるのです。

一つでも楽しめる作品が届けられれば幸いです。

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