4.くだものナイフと算数
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「おはようございます。お怪我の具合はどうですかな?」
ゴーフリーに話かけられて目が覚める。脇腹にはゴーフリーからもらった高級な薬草が塗られたままだ。昨日に比べ痛みはかなり消えている。
「大丈夫。だいぶ良くなったよ。」
「さようでございますか。それは良かった。」
ゴーフリーは満足そうな笑みを浮かべる。
「ごめん、ゴーフリー、」
「ん?」
「その……。期待に応えられなくて。」
俺はうつむきながら拳を強く握る。
「何をおっしゃいますか、ヒカル様はこの世界に来たばっかりですじゃ。失敗することもたまにはあります。」
「でも……。」
「起きてしまったことは、気にしていても変えることはできません。過去を気にするよりも、これからの事を考えましょう。わたくしめはヒカル様ならきっと、この村をお救いになられる。そう信じておりますじゃ。」
「なんでそんなに言いきれるんだ!?」
「年寄りの勘ですかな。」
ゴーフリーの顔は笑っていた。
出会って間もない俺をこれだけ信頼してくれている。
悔しい。
ゴブリンどもにこのまま負けたままでいるわけにはいかない。
ゴーフリーの期待にも応えたい。
「ゴーフリー、ありがとう。」
「何がですかな?」
「いや、なんでもないよ。色々とお礼が言いたかっただけ。」
「そうですか、そんなことよりささ朝食にしましょうぞ。」
ゴーフリーは特に気にする様子もなく、朝食の準備にかかる。
俺は外の井戸で水を汲み顔を洗った後、着替えを済ませた。ゴーフリーと共に朝食をたべる。トーストの上に半熟卵と羊のベーコンが乗っている。ふわふわのトーストに半熟卵が絡み合い、ジューシーなベーコンの肉汁がしたたり落ちる。
「おいしい。」
めちゃくちゃ美味しい。口いっぱいにほうばったところをミルクで流し込む。異世界の料理ってこんなにも美味しいんだな。異世界に召喚されてよかったかもしれない。
朝食を済ませ、ひと心地ついたところで、俺は昨日のやり取り関してゴーフリーに質問をしてみる。
「そういえば、王都から人を派遣するっていってたけど、あれは何?」
「ヒカル様たち同様、王都で召喚された方々をこの村に派遣して守ってもらうのですじゃ。」
「そうなんだ。それができるんだったら最初からそうすればよかったんだじゃない?」
ゴーフリーは少し気まずい顔をしながら返答をする。
「王都からの派遣の条件は『増税』と『兵士たちをもてなすこと』です。増税は村の財政を圧迫し、貧困に陥る可能性が高いです。また、兵士たちの柄が悪かった場合、この村の治安にも影響が出てきます。」
「そんな状況なのになんでドルドは兵士たちを呼ぼうとしてるの?今までのように穀物をゴブリンに渡しておけばいいんじゃない?」
「ここ最近、ゴブリンの出現率が増えておりますのじゃ。どうやら隣の村で強い剣士の召喚に成功したようで、ゴブリンが隣の村を襲わなかくなった代わりに、この村が襲われる頻度が高くなっておりますじゃ。最近はけが人も出るようになっております。ドルドの娘もこの前、怪我をしたようですじゃ。」
娘が怪我をしたのであれば、警護を強化したい気持ちもわかる。
「そうなんだ。それなら兵役に出ている村人を呼び戻せば良いんじゃない!?」
確か召喚されたときに村の若い人は兵役に出ていると言っていたはずだ。
「それもおそらく叶いませぬ。彼らは数年前から戦の最前線に駆り出されておりますじゃ。作戦は秘密でここ数年連絡すら来てない状況です。しかし、実際はこの世にいるかどうかも怪しいのですじゃ。息子もどうなっていることやら。」
「マジか……。」
戦ということは、この国と戦っている別の国があるのだろうか。あまり穏やかな話ではない。
「ヒカル様を召喚する際も村で意見が分かれておりました。ドルドは王都から兵を派遣することを主張しておりましたが、わたくしめは魔晶石を購入し自衛を貫くことを主張しておりました。もちろん魔晶石での召喚は失敗することも多いですし、どういった方が召喚されるかわからないというリスクがあります。」
「ゴーフリーはリスクを負ってでも召喚した方が良いと思ったってことだね。」
「わたくしめは、その昔王都へ留学しておりました。村の発展のために一生懸命勉学に励んでおりましたが、王都では田舎もの扱いされ、ひどい目にあったこもあります。王都がどのようなところであるか十分に理解しております。」
「そうなんだ。」
「ただ、ドルドが言うように、村を守るためには、王都の力を頼ってみるのも一つの方法かもしれませぬ。自衛で守ろうなどというのは年寄りの古い考えであるかもしれませんな。」
ゴーフリーは悲しそうな顔をしている。
「あのさ。ドルドが王都の兵士たちの派遣を正式に申請するのはいつくらいになりそうかな?」
「う~ん。おそらく2週間後の納税時に行うと思います。」
「そうするとタイムリミットは2週間か。」
俺は食器を片付け、軽く屈伸をした。
「ヒカル様、何を?」
「兵を鍛えて隊を作り勝利に導くのが軍師の役目なんだろ。」
「え?」
「やられた俺が言えるセリフじゃないかもしれないけど2週間の間、俺を信じてチャンスをくれないか?」
「もちろんですとも!ありがとうございますじゃ!」
ゴーフリーは感激で涙を浮かべているようだ。
期待に応えたい。昨日のような失態は犯したくない。
必ず何とかしてやる。
俺は新たな決意を固めた。
「で、ヒカにゃん。こんなところに集めてなにするにゃん?」
広場の隅に呼び出したフィーフィーが不思議そうな目で質問をしてくる。
「修行だよ修行。」
「フゴ―!シュ、シュギョウズル」
イノックはやる気十分なようだ。
「でも、ここはいつもの広場の端っこにゃん。」
「あぁここで十分だよ。」
フィーフィーの質問に俺はニヤリと笑みをこぼす。
「う~ん。なんか怪しいにゃん。」
「ヒカル様、準備できましたぞい。」
ゴーフリーからくだものナイフを数本受け取る。
「ありがとう、ゴーフリー」
「はて、注文通り、あそこに木の板を立てかけた事とくだものナイフを数本持ってきただけですが、これから何をされるのですか?」
広場の隅には一本の木に板が立てかけられており、その中に円が描かれている。
「まぁ見ててよ。イノック、数は数えれる?」
「ガズ……。イヂ、ニー、ザン、ジー……。」
「わかった、数えれるみたいだね。ありがとう!」
「フゴ―!」
「じゃあ今から俺とフィーフィーであの的に向かってナイフを投げるから、当たった数を声に出して数えてもらってもいいか?的に書いてある円に50回当たったら終了だ。」
「ガゾエル。ワガッダ。」
イノックは興奮しながらガッツポーズを見せる。
「ちょっと、ヒカにゃん!なんでそんな面倒なことしなきゃならないにゃん。」
「フィーフィーも昨日のことは、悔しいと思ってるんだろ。」
「それはそうだけどにゃん。」
フィーフィーは面倒くさそうな表情を見せる。
「あっ。もしかして、自信がないの?俺に負けたらどうしようかなとか思ってたりして。」
「そんなわけないにゃん。女猫戦士がこれくらいでただのヒューマンの『もやし』に負けるわけないにゃん!」
おいおい、『もやし』って。そう思ってたのかよ。まぁ勝負に乗ってきてくれたからいいか。
「じゃぁ勝負だ。一投ずつ交互に投げて、先に50回当たった方が勝ち。」
「わかったにゃん!あたいが先になげるにゃん!」
フィーフィーがナイフをゴーフリーから受け取り10メートルほど離れた的に向かって投げる。しかし、ナイフは的のわずか左側に外れる。
「あー!おしいにゃん!的が小さいから意外と結構難しいにゃん。」
「よし。次は俺の番だ。」
くだものナイフの刃を親指と人差し指の間に挟み、振り下ろすように投げる。板に刺すことはできなかったが、なんとか的に当てることはできた。
「よっしゃー!あたったゾ!」
「クッソー。やられたにゃん。」
「ヒカル……、イジ。フィーフィー……ゼロ!」
「イノックにゃん!うるさいにゃん!ゼロなんて言わなくてもいいにゃん!」
フィーフィーはムキになっているようだ。すぐさまくだものナイフを構えて投げる準備をする。
「いくにゃーん!」
フィーフィーが力を込めて投げる。が、当たらない。
「ヒカル様、これは一体どういう修行なんでしょうか?わたくし目にはあまり意味が無いように思えるのですが。」
「まぁ昼食の時にでも説明するからまぁまずは見ててよ。」
しばらくフィーフィーとくだものナイフを投げ合い、僅差で俺が勝利した。
一段落したところで少し遅めの昼食をみんなで取ることにした。
「さて、ヒカル様、この修行の意味を教えていただけませぬでしょうか?」
「あぁそうだったね。」
俺は口に入ったパンをミルクで流し込み、ゴーフリーの質問に答える。
「まず最初に前回の襲撃でイノックにびびって短剣のゴブリンが逃げ回ってたんだけど、あれはもしかしたらわざとだったんじゃないかなって思ってるんだ。」
「と、申しますと?」
ゴーフリーが不思議どうな顔でこちらを見つめてくる。
「動きが俊敏な短剣のゴブリンがこちらの一番の戦力であるイノックを引き付けることで、戦力を無力化しようとしたんじゃないかってね。」
「つまり、あのゴブリンは囮だったということですかな?」
「そのとおり。だからイノックは状況に合わせて臨機応変に行動できるよう知力をアップさせたいんだ。特にあの大柄のゴブリンをイノックに抑え込んでもらって向こうの最大戦力を無効化させてほしい。」
俺はイノックが短剣ゴブリンを追い回していたのではなく、短剣ゴブリンがイノックを誘導していたのではないかと睨んだ。
「なるほど、それであの算数のようなことをやらせているのですな。」
「そう。どれくらい効果があるかわからないけど、思い付いたことはどんどん試して見ようかなと思って。後、イノックはまだ子供だしちょうど良いかなと。」
「なるほど。では、くだものナイフを投げる意味はなんですかな?」
「次にあの弓ゴブリンなんだけど、弓ゴブリンの遠距離攻撃に気を取られていると攻撃する間がなくなり防戦に陥りやすい。それだけ遠距離攻撃ってのは驚異であると言えるんだけど、逆にこちらも遠距離攻撃ができるようになれば相手にプレッシャーを与えることができると思うんだ。投げナイフを活用することでなんとか打開策を見出したいと思っている。」
「戦術の幅を広げておきたいと言ったところですかな。」
「その通り。まぁ上手くいくかはわからないけど、ここ最近襲ってくる奴らはあの4匹ばかりだというから、この作戦で上手く嵌めたいと思ってる。」
「いや~。関心しましたぞ!召喚されてわずか1日で軍師の顔をされるようになっております。いやはやこの先が末恐ろしいですぞ。」
「まだやってみないとわからないよ。少なくとも昨日の二の舞にだけはなりたくない。村のみんなの役に立てるよう頑張ってみると。」
「なんとありがたきお言葉!ヒカル様、よろしくお願いいたします。」
会話を終え、昼食を済ませると、俺たちはすぐに午後の訓練に移った。
的当ての精度は少しずつ上がってきている。
それから約1週間、ナイフの投てきの他に、槍や短剣と対峙した際の対策や敏捷を鍛えるため坂道ダッシュを行った。ナイフについては精度だけでなく飛距離も伸びてきている。
また、イノックには足し算や命中率の計算なども徐々に教えていった。学習のおかげもあってかイノックの暴走がなくなり、こちらの意図を的確に掴んでくれることが多くなってきた。
「この1週間の猛特訓でかなり上達してきたと思うけど、ここら辺りで修行の成果がステータスに反映しているか確認したいんだけど。」
「わかりました。ヒカル様。聖水写しの準備に取り掛かります。」
ゴーフリーは、水が入った桶と聖水を用意する。前回と同様、血を数滴垂らす。
◆ヒカル=オオマエ
◆レア度:★1(ノーマル)
◆種族:ヒューマン
◆職業:軍師(ただの高校生)
◆ステータス
・筋力 22 (H)→筋力 23 (H)
・敏捷 36 (H)→敏捷 38 (H)
・耐久 29 (H)→耐久 30 (H)
・知力 61 (H)→知力 70 (H)
・技 32 (H)→技 45 (H)
得意武器:なし
特殊能力:なし
戦闘スキル:なし
生産スキル:なし
◆氏名:フィーフィー
◆レア度:★1(ノーマル)
◆種族:キャットピープル
◆職業:女猫兵士
◆ステータス
・筋力 54 (H)→筋力 55 (H)
・敏捷 103 (G)→敏捷 104 (G
・耐久 47 (H)→耐久 49 (H)
・知力 61 (H)→知力 62 (H)
・技 68 (H)→技 81 (H)
得意武器:爪(熟練度3)、短剣(熟練度1→2)
特殊能力:(青)身のこなし〇
(赤)気まぐれな行動
(赤)狂喜乱舞
(赤)集中攻撃×
(赤)団体行動×
(赤)熱耐性×
戦闘スキル:猫みかわし
生産スキル:なし
◆氏名:アレクサンドロ=イノック
◆レア度:★1(ノーマル)
◆種族:岩人形
◆職業:岩鎧戦士
◆ステータス
・筋力 112 (G)→筋力 112 (G)
・敏捷 10 (H)→敏捷 13 (H)
・耐久 134 (G)→耐久 134 (G)
・知力 3 (H)→知力 26 (H)
・技 37 (H)→技 39 (H)
得意武器:拳(熟練度2)、ハンマー(熟練度0)
特殊能力:(青)頑丈な甲殻
(青)電撃耐性〇
(赤)戦術理解▲
(赤)反応速度×
(赤)動作遅延
(赤)不器用
(赤)水、氷耐性×
戦闘スキル:強烈な一撃
生産スキル:なし
「すげー!みんな狙ってたステータスが上がってるぜ!」
「効果抜群ですな。よほど効果的な修行でないとこうはなりませぬぞ!」
「死ぬほど頑張ったからにゃん!」
「フゴ―!イノッグ、ガンバっダ!」
3人とも能力が向上している。
「しかもフィーフィー殿の短剣熟練度が上がってますな!」
「最近、ナイフを扱う精度が上がってきたにゃん!威力が出てるにゃん!」
「熟練度0や1は普通の人が扱うのとそこまで変わりませぬ。熟練度2以上になってはじめて恩恵が受けられますじゃ。」
「恩恵?」
「はいですじゃ。ステータスの上昇は神々からの恩恵ですじゃ。ランクや熟練度が上がるとその恩恵を大幅に受けられますじゃ。」
「へぇー。そうだったんだ。」
ステータスの数値自体にも恩恵の効果はあるが、ランクがあがると大幅に能力が向上するらしい。因みステータス『H』は一般市民の能力の範疇らしい。つまり俺は普通の人とあまり変わらないようだ。
フィーフィーの熟練度については、確かに目に見えるほど効果が出ていた。このまま上げて行けば達人クラスに到達することも可能だという話だ。
「あれ?ちょっと待てよ。イノックの特殊能力って変わってない?」
ゴーフリーが書いたメモを見る。
「本当でございますな。戦術理解×が戦術理解▲になっておりますぞ!」
「すげーじゃねーか!イノック!」
「イノッグ、ガジゴクナル、タノジイ!」
戦術理解が改善されたってことは、戦術にあわせて臨機応変に判断する事ができるようになったってことなのかな。
イノックは勉強することが楽しいようだからこれからも改善されることが期待できるかもしれない。8歳で戦闘ばかりに明け暮れてたようなので今回の取り組みは非常に良かったと言える。
やれることはやった。
後はあいつらが来るのを待つだけだ。
前回の襲撃から10日目の昼過ぎにその時はやってきた。
「カンッカンッカンッカンッ!出たぞー!ゴブリンの襲撃だ!」
村の見張り台の方から鐘が鳴り響く。
「来た!」
前回と同様に入口の方から村人たちが走り避難してくる。
その向こう側にはゴブリンが小走りでこちらに向かってくる姿が見えた。
「よしっ!やってやる!イノック、フィーフィー行くぞ!」
俺たちは村を防衛すべくゴブリンどもの方へと向かっていった。




