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3.ゴブリンたちの襲撃と涙

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 小走りでこちらに向かってくるゴブリンを肉眼で捉える。

 4匹のゴブリンたちはそれぞれ持っている武器エモノが違うようだ。大柄のゴブリンはこん棒、残りの小柄なゴブリンは弓、槍、短剣を持っている。4匹は村の入口に差し掛かると別行動を取り始めた。

 そのスムーズな行動からかなり手慣れている事がうかがえる。


「ヒカル様、いつも襲ってくる奴らですじゃ。どうかよろしくお願いいたしますじゃ!」

「いきなり戦闘!?」


 戦えるのか不安でいっぱいだ。そもそも俺は喧嘩もあまりしたことがない。


「ヒカル様、早く!お願いしますじゃ!軍師様として指揮をとってくだされ!」

「っつ。わかったよっ!」


 ゴーフリーに急かされて俺は覚悟を決める。


「とりあえず、イノックは正面の敵を迎撃!フィーフィーは蔵に近づいてくるゴブリンをやっつけて!」

「フゴ―!」

「わかったにゃん!」



 イノックが正面に向かって走っていく。

 ゴブリンはそれぞれ散り散りになっているが、短剣を持ったゴブリンが正面突破を図ろうとしている。

 短剣ゴブリンとイノックが対峙する恰好となった。


「フゴ―!フゴ―!」


 イノックは拳を振り回しながらけん制する。短剣ゴブリンは慌てて村の入口まで引き返していく。


「おお!イノック良いじゃん。あの迫力は魔物にも有効なんだな。驚いて逃げてるぞ!」


 逃げる短剣ゴブリンを追いかけるイノック。一方的な展開でこれなら問題なく撃退できそうだ。


「よしっ。イノックの方は大丈夫そうだ。フィーフィーの方はどうかな。」


 フィーフィーは倉の前で槍ゴブリンを相手に1対1で戦っている。相手の射程の長さに苦戦しているようだが、攻撃を紙一重で躱しながら反撃している。


「フィーフィーも押してるな。これならいけるんじゃないか。……ってフィーフィー危ない!」


 善戦するフィーフィーの足元に矢が飛んでくる。フィーフィーは寸前のところで猫のような動きでスルリと躱した。

 槍ゴブリンの背後から弓を持ったゴブリンがフィーフィーに向かって矢を放ち攻撃してきている。

 突然の遠距離攻撃に状況が一変する。フィーフィーは槍と矢の両方を交わす。降り注ぐ矢と時折来る鋭い槍の突きがフィーフィーに反撃の間を与えない。

 防戦一方の戦いとなった。


「クッソー。弓矢が面倒だな。」


 弓ゴブリンをなんとかしたいが、正面から降り注ぐ矢をかいくぐって懐に入るなんてことは俺にはできない。


「弓ゴブリンの背後に回って、石を投げながらフィーフィーを援護するしかないか。」


 俺はバレないように低い姿勢を維持しながら移動する。途中で小石を拾い集めながら広場の隅にある小屋の裏手に回った。

 小屋はちょうど弓ゴブリンの背後を捉えている。

 弓ゴブリンは小屋から20メートルくらいといったところか。この場所なら弓ゴブリンの側面を突くことができ、弓矢で反撃されても小屋を盾にすることができる。


「よしっ。ここからならなんとか援護できそうだ。いくぞ!」


 俺は弓ゴブリンに向かって石を全力でなげつけた。が惜しくも弓ゴブリンの横を掠めていった。


「おらっ!」


 続けて2投目、3投目と投げていくが中々当たらない。


 「ギッ!?ギギッ!?」


 弓ゴブリンが俺の存在に気づきこちらに振り返ってくる。

 小石とはいえ全力投球で連投しているためスピードもそれなりに出ている。弓ゴブリンもこちらを警戒しないわけにはいかない。

 弓ゴブリンは矢を放って反撃してくるが、俺はすぐさま小屋の壁を利用して矢を避ける。


「ギエー!ギエッギエッ!」


 弓ゴブリンが悔しそうに何かを発しているが注意は完全にこちらに移った。


 「今がチャンスだぞ!フィーフィー!」


 フィーフィーは矢が飛んで来ないとみるや、隙を見て槍ゴブリンへと猛攻をしかける。

 相手の突きを交わしながら、鋭くとがった爪を下から植に突き上げゴブリンに見舞う。素早い連続攻撃に対処するため槍ゴブリンの攻撃回数が少なくなりフィーフィーのペースになってきている。


「なかなかいい展開になってきてる!」


 俺が弓ゴブリンを引き付けることでかなり有利な状況を作れている。このままフィーフィーが槍ゴブリンを倒してくれれば、後はフィーフィーと連携をして弓ゴブリンを集中攻撃すればいい。行ける。初陣にして勝利の道筋は見えた。


「ギエッ!ギエー!ギエー!」


 弓ゴブリンが矢を放つのを止め、何かを叫んでいる。

まだ悔しがってんのか?ってあれ?ゴブリンは4匹いたよな。そういえば大柄のゴブリンはどこに行った?大柄のゴブリンが見当たらない。


「ボゴゴゴオォォォッォーーーーン!!!!!」


 突然、俺の背後から凄まじい衝撃音が鳴り響いた。

 振り向いた先には、破壊された小屋の壁飛び散り土煙舞っている。

 土煙が徐々に収まってくるとその中からこん棒を持った大柄のゴブリンがうっすらと見えた。


「マジか。」


 優位な状況が一転する。

 大柄のゴブリンに背後をとられた。俺は急いで逃げようとするが、恐怖で足が思うように動かない。大柄のゴブリンはこん棒を上へと持ち上げ、そのまま勢いよく俺の脳天へと叩きつける。


 「ヤベーッ!!!」


 俺はギリギリのところでサイドステップでこん棒を躱す。

 こん棒が肌をかすめ、強烈な風圧が顔に伝わってくる。

 まともに喰らったら間違いなく致命傷だ。


 「に、逃げなきゃ。この攻撃はヤバい。」


 早く逃げなければならないという事を頭では理解しているが、気持ちが焦り身体が思うように動かない。

 ゴブリンは地面に叩きつけたこん棒をそのまま横に振り力をためる。そのまま横殴りのような動きでなぎ払ってきた。ヤバイ。避けられないッ!!


「バギバギバギィィィィィィィィーーーー!」


 こん棒が俺の横っ腹にに食い込んでくる。激しい衝撃と痛みが走る。

 空中へと投げ出され目まぐるしく景色が変わる。ほんの一瞬の出来事が何分もの時間が経過しているかのように周りの景色がスローに見える。空、地面、空と次々に景色が変わり、最後に硬いものに身体が打ち付けられたかと思った瞬間、目の前がぼやけ真っ暗になっていき、そのまま意識を失った。




「うっ……ううっ……。」


 ぼんやりと目が覚める。辺りは暗闇につつまれており、俺はベッドの中で眠っていた。身体に汗がべっとりとまとわりついていて気持ち悪い。徐々に意識が戻ってくる。


「い、いてぇ。」


 横っ腹がめちゃくちゃ痛い。顔や手足も擦りむいたような痛みがある。

 大柄のゴブリンに吹っ飛ばされたところまでは記憶があるがその後はどうなったのか覚えていない。


「大丈夫にゃん?」


 声がする方を向くとフィーフィーが心配そうに見守っていた。今回は爺さんではなく、美人でグラマーなコスプレ女が目の前にいた。


 「フィーフィー……。」


 フィーフィーが近くに居てくれたおかげで、少し安心した。


「全身が痛い。と、とりあえず水がほしいんだけど」

「わかったにゃん!」


 フィーフィーはテーブルの上にある瓶を取り、コップへと水を入れていく。


「はいにゃん!」

「ありがとう。助かるよ。」


 俺はフィーフィーからコップを受け取り、水をゆっくりと飲む。喉の渇きが潤い、落ち着くことができた。


「あれだけ吹っ飛ばされてよく無事だったにゃん!」


 フィーフィーは頬に手を当てながら俺を見つめている。


「そんなに吹っ飛ばされたの?」

「それはもう、盛大だったにゃん。ヒカにゃんが激突した小屋の壁が破壊されるくらいの衝撃だったにゃん。」

「そうだったんだ。小屋に激突したのか。」


 硬いものにぶつかったとは思ったが、小屋を破壊するほどだったとは。


「ヒカにゃんが吹っ飛ばされた後、ゴーフリーが駆けつけて、急いでヒカにゃんを助けたにゃん。さっきまで高級そうな薬草もふんだんに使って介護してたにゃん。感謝するにゃん。」

「そうか。ゴーフリーが助けてくれたんだ。」


 村人を助けるつもりが、逆にゴーフリーに助けられてしまった。


「ゴブリンどもは?」

「穀物を持って帰ったにゃん。まぁ見事にやられたにゃん。」

「そうか。やられたのか。ゴーフリーに謝らなきゃ。今、どこにいる?」

「奥の家で村人たちに状況説明してるにゃん。一緒に行くにゃん!?」

「うん。助かるよ。」


 フィーフィーに身体を支えられながら、奥の家へとたどり着いた。家の中から村人たちの声がする。


「あんたの言う通りにしてきたけど、もうたくさんだ!!」


 村人の怒号が聴こえる。


「落ち着いてくれドルド、まだ始まったばかりだ。軍師様も召喚できたことだし、これからきっと良くなるはずじゃ。」


 ゴーフリーの声も聞こえてきた。どうやら今後の方針を話し合ってるようだ。


「何言ってんだ!あの軍師が一番役に立たなかっただろ!俺は見てたんだ。遠くからこそこそと石を投げつけてただけで、最後には大柄のゴブリンに吹っ飛ばされただろ!そのおかげで、後はむちゃくちゃだったじゃないか!」

「まぁ結果としてはそうかもしれんが……。」


 相手の勢いに押され、ゴーフリーの声が小さくなっていく。


「小屋は破壊される!穀物は持っていかれた!でもそれだけならまだいい。いつも通りだし、想定内の被害だ。だけど、今回は蔵まで破壊されてるじゃないか!しかもゴブリンが襲ってくる前の訓練で壊れたって言う話だ!これだったらいない方がマシなくらいだ!」

「……。」


 ドルドという男の怒りの訴えに対して、さすがのゴーフリーも何も言い返せないようだ。なかなか的を射ているだけあって外で話を聞いている俺まで胸が痛くなってくる。


「あんな『ごくつぶし』どもには出て行ってもらおう。ゴーフリー!あんたにはもう従えない。以前から検討していたように王都から兵を派遣してもらう!」


「それはならん!そうやって王都の介入されることで、財政が苦しんできた村をいくつも見てきたじゃろう。」


「いーや!これは村人みんなの総意だ。今回は何があろうと俺に従ってもらう!それとあんたには今日限りで村長を辞めてもらう。これもさっきみんなで話しを結論だ。悪いが俺が村長を引き継がせてもらう!」


 どうやら俺の失敗のせいでゴーフリーが責められ、村長を降ろされるようになっているようだ。

 召喚されたばかりでわからないことも多いが、俺のせいでゴーフリーが村長を降ろされるわけにはいかない。

 役に立とうと思ったのに足を引っ張ったままではいたくない。


 俺は思い切って部屋の中に入る。


「ちょっと待ってください!」


 村人の注目が一斉に俺に集まる。


「なんだよ。あんたか。なんか文句でも言いに来たのか!」


 ドルドがこちらを睨みつけながらすごんでくる。


「今回は、本当にすみませんでした!」


 俺は今回の失態を素直に謝罪し、頭を下げる。


「あんたに謝られても意味がないんだよ。村の話し合いなんだから出てってくれ!」

「ゴブリンの退治がこんなに大変な事だとは思ってませんでした。今回は俺の認識の甘さが招いたことです。もう一度チャンスをください!」

「もう一回だけって……、もう遅いんだよ!」

「そこをなんとかお願いします!必ずなんとかしますので……。」


 いきなり召喚されて訳のわからないままゴブリンと闘い敗れてしまったが、このまま引き下がる訳には行かない。俺にもプライドはある。

 困っている村の役に立ちたい。期待して俺を信じてくれるゴーフリーに良いところを見せてやりたい。


「もう決まった事なんだよ……。」


 必死の懇願も虚しくドルドが手を払いながらあっちへ行けと言わんばかりの仕草をする。俺はそのまま頭を下げ続けるが、沈黙が流れるだけで状況は一向に変わらない。


「ヒカル様、もう頭をお上げになってください。大丈夫ですじゃ。また日を改めて私が話をつけますから。今日のところは一旦帰りましょう。」


 ゴーフリーがゆっくりと俺の身体を起こす。

 顔をあげるとゴーフリーは心配するなと言わんばかりに静かな笑みを浮かべていた。こんな苦しい状況でも俺の事を気遣ってくれているのだろう。

 ゴーフリーと一緒にそのまま家から外に出た。

 暗闇の中を歩きながら帰る。


「なんか悔しいな。」


 何だかわからない無力感に襲われ、自分の情けなさに腹が立った。


 家に戻るとゴーフリーは薬草の後片付けしだした。

 俺はそのままベットに転がり込んだが、痛みと悔しさでなかなか寝ることができなかった。


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