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13.金策の秘策

『異世界の職業は軍師見習いだった件』を読んでいただきありがとうございます。

投稿を再開しても需要があまりないかと思っていましたが、意外と読んでいただけているので嬉しい限りです。


内政パートが少し続きます。

個人的には内政パートを書くのは楽しいのですが、戦力増強や激しい戦闘シーンの方が需要があると思うので、まずはそこまで書けるよう頑張ってみたいと思います。



ーー1ヶ月半前ーー




「これで解決できると思うんだよね。」


「こ、これは……。」


 俺は小袋に入っているものをテーブルの上に置いた。


「釘!?」


 村人達が取り出した釘を見てきょとんとした表情をしている。


「ヒカル様、これは一体どういう事でしょうか?」


 ゴーフリーが問いかけてくる。


 「今から説明するからちょっと待ってて欲しい。村のみんなとフィーフィーとイノックも広場に集めもらえないだろうか。」


 ゴーフリーに村人全員を広場に集めてもらった。作業小屋に隠れていたフィーフィーやマリン達もいる。これから皆の前で現状を説明するつもりだ。


 今回の危機を乗り越えれるかは、この演説に懸かっていると言っても過言ではない。


 全員が集まったところで俺は演説をはじめた。


「みんなに集まってもらったのは他でもない。先ほどのショウエイという王都の官吏と話をつけてきた。まずは大変申し訳ないのだが、知っての通り穀物を大量に渡す事となった。皆さんにはかなり苦しい思いをさせてしまうことをお詫びしたい。」


 村人の反応はまちまちであるが、当然ながら多くの人達はネガティブな反応をしている。


「もう一つ悪いお知らせがあります。ショウエイはイノックを兵役に出すことも要請してきましたが、私はこれを避けるための交渉をいたしました。イノックの兵役を取り止めてもらう代わりに1ヶ月半後に金貨5枚を納める必要があります。」


 村人達が困惑気味になり、ざわざわと騒ぎ出す。


「金貨5枚なんて村の羊全て売却しても足りませんよ!軍師様はそんな交渉をして、私達に飢え死にしろっていうんですか!?」


 広場には『そうだ!そうだ!』といった罵声が飛び交う。


「皆さんのお気持ちはよくわかります。ただ、私はこの状況を打開するための方法を考えています。しかし、それには村中の力を合わせる必要があります。村を救うため力を貸していただけますか?」


 再び村人達がざわつき始める。独断で交渉したことに強い不信感を持たれているようだ。俺を疑うような目で見てくる者もいる。


「私は軍師様に協力します!」


 マリンだった。大きな瞳を真っ直ぐ見開き、はっきりと透き通る声で協力することに同意してくれた。


 「俺も手伝うぜ!この村は俺達の村だ。俺が守ってみせる!」


 続けてジニーが賛同してくれた。活発な少年らしいはっきりした声だった。

 二人の勇気に影響されたのか、広場では前向きな発言をしてくれる人も少しでてきた。


 「ありがとう!」


 俺はマリンとジニーに感謝する。広場の空気が良い方向に少しだけ変わりつつある。


 「軍師殿、協力するのは構いませんが、この状況を一体どうやって解決するおつもりなのですか?具体的な案をお聞かせ願いたいですぞ。」


 ドルドが冷静に発言をする。具体案を出せと。現実主義の彼はやる気だけではどうにもならない事であるということを理解しているのだろう。


 「解決方法はあります。これです。」


 俺はあらかじめ用意していたものを取り出した。


 「木の盾……。ですか!?」


 以前ゴブリンを退治した時に利用した木の盾を村人達に見せた。


 「それを一体どうしろと?まさか我々にもゴブリンを退治するために木の盾を使えと言っているのですか!?」


 ドルドが何がしたいのか全く理解出来ないといった表情でこちらを見つめてくる。


 「いいえ、これ(木の盾)は使うのではありません。作るのです。」


 村人達は状況を飲み込めていないようで呆然としている。


 「つ、作るのですか!?」

 「そう。みんなで作って商人に売る。それが私が考えた秘策です。」


 再びざわざわとした声が広場を包み始める。俺は一つ呼吸おいてから村人に秘策の詳細を説明をする。


 「先日、北にあるグレンデル砦がアンデッドに襲われたため、王都ではそれを奪還しようと戦闘準備が進められています。戦闘が始まるということは武器や防具の値段が上がります。事実、リルムフォルムは市場にある武具の値が大幅に上がっていました。」


 俺はリルムフォルムの町を出る際に市場で武具の値段をチェックしていた。鉄製の武器はもちろんの事、棍棒や木の盾などの値段も大幅に上がっていた。


 グレンデル砦には北の防衛戦で多くの武器が格納されているらしい。今回のアンデッドの襲撃はその武器を放置して逃げ出すほど不意を突かれたものだった。今は木製の武具ですら必要としている。


 「みんなで森の木々を伐採、加工する。そうやって武具を作ることができれば、約束の金貨5枚だけでなく王都に納めた分の食料を購入するお金が生まれると思っています。大変な作業になると思いますが武具を作る事に協力して欲しい。」


 村人達は各々で話し合っている。

 しばらく様子を見ていたが、俺のやりたいことを理解してくれた人も多く、前向きな発言が多くなっている。

 仕事や重要なプロジェクトは携わる者の一人一人が納得しモチベーションを高く保つ事が一番重要だ。奴隷のように強制的に働かされる事ほどつまらないものはない。そういったプロジェクトは大体失敗する。

 このまま村人全員がやる気になってくれればきっと良い結果が生まれるはずだ。

 俺は皆の反応に手応えを感じた。


 「ヒカル様、武具を作って売るのは良いアイディアだと思いますが、2つ大きな問題がありますじゃ。」


 意外にもゴーフリーが俺の提案に『待った』をかけてきた。


「一つは、森に入るという事はゴブリンに教われる可能性が少なからずあるとういことですじゃ。自分達の身を危険にさらすことになりかねません。また、もう一つの問題でありますが、我々の中には武具を加工できる者がおりませぬ。以前は木を切って木材として町に卸しておりましたので木材を確保する技術はありますが、その先の加工するということをやったことがありませぬぞ。」


 ゴーフリーの言葉に盛り上がっていた村人達も静かになる。しかし、俺はこの問題もあらかじめ想定し対策を考えてある。


 「もちろんリスクはあるし大変な事だと思う。でも今はリスクを承知でやるしかないと思ってる。」


 俺はゴーフリーの方を見ながら説明を続けた。


「考えはある。まず、ゴブリンの襲撃にはフィーフィーとイノックで護衛してもらいながら木を切り倒してもらう事になると思う。倒した木はイノックを中心になんとか森の作業小屋まで運んでもらいたい。作業小屋なら広いスペースがあるからゴブリンに襲撃されたとしても迎撃したり、村に逃げ込んだりすることができると思う。」


 大木を運ぶのは大変だが、イノックのパワーがあればなんとかなるはずだ。危険な場所からいち早く運ぶことができればリスクを軽減することができる。


「それなら俺にも手伝えそうだね!」


 ジニーが前向きな発言をして再び俺を援護してくれる。すっかりやる気になっているようだ。


「そして、盾の加工の方なんだけど、この盾のように板状に加工しなくても、もっと簡易な方法で作ることもできると思ってる。たとえば、大木をそのまま輪切りにして、裏に取っ手をつけるだけでも盾の機能は果たせるはずなんだ。まぁ見映えは少し悪くなるけどね。」


 木の盾というよりは切り株の盾のようなものになるが、輪切りにした木材の後ろに釘で取っ手をつければ盾としての機能は十分に果たすはずである。

 通常時では売りにくいが、物資が不足しているこの状況であれば、見た目より性能を重視するためそれなりの値段で売れると読んでいる。また、加工作業を簡易なものにすることで、大量に作成が可能なはず。質も大事だが今回は『量』を確保していきたい。


 村人達から「なるほど」といった声が出てくる。ほとんどの人が納得してくれているようだ。

 すでにやる気になっていて力こぶを作りながら「任せろ!」と言ってくれる人もいる。


「ふむふむ。わかりましたですじゃ。正直、ここまで計算に入れておられたとは思いませんでしたぞ。官吏を相手にしているときは、ヒカル様がおかしくなられたのかと心配になっておりましたがここまで思案されていたとは。やはり安心してお任せできるようですなぁ。」


 ゴーフリーにも相談せずに強引に事を進めていたため心配させてしまったようだが、わかってくれたようだ。気難しいドルドも納得してくれている様子だ。


「さて、そうと決まれば皆のもの。ヒカル様を信じて力を合わせる時であるぞ!精一杯頑張るのじゃ!ハッッハッ。」


 ゴーフリーの笑い声が広場に響く。


「お爺様!さっきまで疑ってたのに調子が良すぎです!」


 調子に乗っているゴーフリーにマリンが釘を刺した事で広場全体に笑いが起きた。いい雰囲気だ。これなら行けると確信する。




 翌日から役割分担を決め、早速作業に移ることにした。


 オーレンとジニーが斧を担ぎ、交互に大木に切り込みを入れていく。大木に斧の刃を入れ込む度にカーン、カーンという気持ちいい音の響きが村まで届いている。


「いやー。久しぶりの作業で身体に堪えますなー。」


 オーレンは齢60歳を迎えようかという年齢だ。


「ご協力ありがとうございます。オーレンさんがいて助かりました。あまり無理せずジニーに任せてください。」


 オーレンは木こりではないが、若いときはよく伐採の手伝いをさせられたという。年齢は高いが貴重な経験者である。斧の手入れから扱い方までをジニー根気よく指導してくれている。


「それはないでしょ。軍師の兄ちゃん。これ結構大変なんだぞ!メチャクチャ手が痛いし。ホラ見てよ。」


 ジニーが俺に手のひらを見せてくる。確かに手にマメができはじめているようだ。


 「うわー。痛そうだな。」


 俺はジニーの手を見て思わず声をあげる。


 「これは酷い。後でシャルロット婆さんのところで薬草を貰って来なさい。あの婆さんの薬草は良く効きから大丈夫だ。」

「ありがとう、オーレンさん!ホラ、兄ちゃんもぼーっとしてないでゴブリンが襲ってこないようにちゃんと見張っててくれよ。」

「あぁ。わかってる。」


 伐採作業を始めて丸1日が経とうとしている。オーレンとジニーが伐採作業を行い、俺とイノック、フィーフィーで周囲を見張る。常にゴブリンの襲撃を警戒しながら伐採作業をしている。ゴブリンが襲ってくる気配はないが、伐採作業は直径50センチあろうかという大木を斬り倒すのに苦戦している。

 二人共かなり頑張ってくれているが、切り込みは3分の1を過ぎたところだった。


「このペースだと期限まで少し厳しいかもですな。作業小屋で待機してくれているハルバン達に申し訳ない。」


 作業小屋には大型のノコギリで大木を輪切りにするメンバーと、取っ手を付けたり、形を整えたりするメンバーが待機している。今は道具の手入れを行っているが、大木を運ばないことには作業が進まない。


「そうですね。確かにこのままだと少し厳しいかもしれませんね。もう少し細い木に変えてみますか?」


 俺は無理をせずに、もっと切りやすい木に変えることを提案する。


「それも一つの手かもしれませんが、切り株の盾として売りに出すのであればこれくらいの幅があった方が良いかと思います。若いときはもっと早く切り倒すことができたのに申し訳ない。」

「いえいえ、始まったばかりですので、あまり無理はなさらないようにお願いします。」


 60歳を迎えようとするオーレンに無理をさせることはできない。若いときと違って単純に力が足りないのだろう。ジニーも頑張っているが、14歳の子供には少し早すぎる作業なのかもしれない。


「ジニー、代わろうか?」

「いいよ。兄ちゃんは軍師なんだかちゃんと周りを見張っててくれ。それに兄ちゃんだってそんなにパワーがある訳じゃないんだし、大してペースは変わらないよ。」


 そういうとジニーはひたすら斧を振り続けた。この森にある大木はレッドシーダーと呼ばれ木の密度が濃く頑丈なものらしい。斧の性能を考えるとこのペースが精一杯なのかもしれない。せめてパワーがもっとあれば別なのだろう。


「んっ!パワー!?」


 パワー(力)と言えばゴーレム族であるイノックがこの村で一番だ。イノックが斧を扱えるかはわからないが試してみる価値はある。

 すぐにオーレンとジニーにイノックに伐採作業をやらせてみてはどうかと提案してみた。二人とも少し不安そうではあったが、やってみる価値はあると判断してくれた。


「おーい。イノック!ちょっとこっちにきてくれ。」

「ン!?ドウヂダ?ヒカル?」


 離れたところでゴブリンを警戒していたイノックを呼ぶ。


「ちょっと斧を使って木を伐採してみてくれないか!?」

「ワガッタ。」


 オーレンがイノックに斧を渡し伐採の手解きをする。イノックはオーレンの教えをきちんと理解したようで、俺たちに少し離れるよう促してから斧を思いっきり振りかぶった。


「ゼーノ!ウオォォォォォォ!!」


 イノックの渾身の一撃がレッドシーダーめがけて放たれる。


「ガキーンッ」


 イノックの斧は、木の側面に真っ直ぐ入らず、妙な角度で当たってしまった。斧が弾かれ大きな金属音が鳴り響いた。


「イ、イデェー」

「だ、大丈夫か?イノック!」


 木に弾かれた衝撃でイノックが痛がっている。


「やっぱり無理だったか。これは時間がかかっても地道に切ってくしかないね。」


 俺は少し落胆をした。そもそもイノックの背丈と間接の硬さでは低い位置に斧を上手く入れられないようだった。


「すまない、イノック。やっぱり無理があったみたい。ゴメンな。」


 俺はイノックに申し訳なさそうに謝った。


「ヒカル、コノギヲタオセバイインダナ!?」


 イノックが珍しく俺に問いかけてくる。


「あぁ、木をしたいんだけど怪我しちゃうし無理しなくていいよ。」

「ヒカル、オデニマガゼル。」


 イノックは『俺に任せろ』と言っているようだ。イノックが再び俺たちに木から距離を置くように言ってきた。と同時に両手を組ながら振りかぶる。


「ウオオォォォォ!」

「え!?ま、まさかこれは。」

「スマッジュインパグドォォォ!!!!!!」


 イノックの両拳はまるで巨大なハンマーが振り下ろされるかの如く大木の切り目に叩きつけられた。


「ドガガガガッガーーン!!!!!!!!!!」


 激しい音と共に砂煙が辺りを覆う。俺は反射的に瞑ってしまった目をゆっくりとあける。


「ギ、ギィィィィ」


 大木が反対側へゆっくりと倒れていく。

 イノックの必殺スキルであるスマッシュインパクトは、木の切り込みに命中し、そのパワーで裂け目を大きく広げたらしい。

 やがてズドーンという音と共に大木が倒れた。斧で斬り倒したようにスッパリとした切り口にはなっていないが、木材としては加工できる範囲で切り倒すことができた。


「す、凄いな。」


 俺は切り口を見ながら思わず声をあげる。

 ジニーも切り口を見て感心しているようだ。

 オーレンはその圧倒的なパワーに唖然としている。

 そして、イノックは倒れた木を見て子供のようにはしゃいでいた。


 イノックのパワーのおかげで盾の大量生産にまた一歩近づくことができた。

次回は盾の生産模様ともうひとつの金策を書いて行きます。

もうちょっと内政パートです。


宜しければ感想より忌憚のないご意見を頂けると幸いです。

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