11.帰還と交渉
久しぶりに投稿します。気楽に更新。
感想あればお気軽にください。
リルムフォルムの町を出て3日目になる。
盗賊や魔物に襲われることもなく馬車の旅は順調だ。
従者の話では数時間もあればバーミントン村に辿り着くそうだ。これで特殊能力を鑑定するという当初の目的はようやく終了できそうだ。
「お客様、この丘を越えるとバーミントン村が見えてきますよ。」
「そうか。ありがとう。」
バーミントン村へと繋がる道は段々と整備されたものになってきている。いよいよこの丘を越えれば久しぶりにみんなと会える。良い報告ができそうで心が踊る。
馬車はそのまま丘の頂上に向かって移動していた。頂上には一本大きな木が生えており丘のシンボル的な存在となっている。
「あれ!?大木の下に誰かがいるようです。」
従者に言われて俺は大木の木陰を見つめる。確かに誰かいる。女性のようだ。従者が馬車のスピードを少し落とし周囲を警戒する。
女性を囮にしていつの間にか盗賊達に囲まれているなんてこともあるとトーマスが言っていた。従者と同様に俺も警戒を怠らないよう周囲に気を配るが、女性の正体がわかるとすぐに警戒を解いた。
「マリン!?こんなところでどうしたの?」
木陰に立っていたのは、ゴフーリーの孫娘のマリンだった。
「ヒカル様!来てくれて良かった。」
マリンは少し青ざめている表情をしていた。
「そりゃ鑑定が終われば帰ってくるよ。それよりなんかあった?またゴブリンどもの襲撃にあったとか!?」
俺がいない間にゴブリンが復讐してくる可能性も十分にあった。そのための避難方法なども十分に打ち合わせて町に出かけたはずだが、もしかしたら十分でなかったのかと心配になった。
「違うんです。ゴブリンはあれから大人しくなって全く襲ってきません。」
「それなら、何があったの?」
とりあえずゴブリンの襲撃ではないようだ。
「それが……。」
丘の頂上にある大木で従者に別れを告げるとマリンと一緒に村に向かう。
大木の下でマリンに話を聞いたところ、昨日の昼頃に王都から派遣されてきた官吏達が村へとやって来たようだ。
どうやら北にあるグレンデル砦がアンデッドに占領されたことにより、村から
兵糧となる物資と戦力を提供するように強制されたようだ。
特にイノックの存在は周辺でも噂になっているため、グレンデル砦奪還に向け、壁役として召集すると言われている。
俺とフィーフィーについては存在が公になっていないため、官吏は知らないようだ。フィーフィーには森の近くにある小屋で隠れてもらっており、マリンは俺もそこに隠れるようゴフーリーに言われて俺を待っていたようだ。
「で、イノックはどうしてる?」
事情が掴めてきた俺はイノックの状況を確認する。
「今はお祖父様が官吏を説得してるので、まだ村に滞っています。官吏にはイノック様を連れていかれるゴブリンからの襲撃に耐えられなくなり、村が全滅する危険性があるとお祖父様から伝えているところです。」
「そうか。官吏の反応は?」
「意に返さないようで、イノック様を派遣できないのであれば、代わりのものを提供するように言ってきています。官吏達も代わりになるような人材なんて村には無いって事は知ってるずなのですが」
「拒否したらどうなるの?」
俺の質問にマリンが青ざめた表情でうつむく。
「王都より兵士が派遣され、彼らから相応のペナルティが与えられると思います。食料は強制的に獲られ、責任者やその家族は罰せられます。また、他の村では代わりに若い娘を連れていかれたケースもあると聞いています。」
村の責任者は当然ゴーフリーの事を指している。そして、その家族はマリンということになる。若い娘という意味でもマリンがなんらかの被害を被る確率が高い。
「そうなんだ。それはあまり良くない状況だ。」
「交渉の状況はフィーフィー様が隠れてる小屋に報告してもらう事になってます。」
「わかった。じゃあ、とりあえず小屋に連れていってくれ。」
「はい。」
俺たちは大回りをして村を避けるように移動した。
村から離れた場所に大森林があり、様々な植物や大きな木々が広がっている。
マリンに案内されるまま、森の中へと入っていくとすぐに小屋があった。
小屋の外には切り株があり、周辺には斧やのこぎりなどが置いてある。
「ここは木こり小屋になってます。ゴブリンが現れる前はここで木材を加工して町に卸してたのですが、最近はすっかり寂れてしまいました。」
マリンが言うように小屋や周辺にある道具は少し劣化しているようであったが、手入れすればなんとか使えるようでもあった。
小屋の入り口に立つとフィーフィーを呼びながらドアをノックする。
「フィーフィーさん、いらっしゃいますかー?」
しばらくすると小屋の中から返事があった。
「合い言葉を言うにゃん!ゴブリン退治に必要なものは?」
フィーフィーの声がする。どうやら合い言葉を決めているようだ。かなり慎重になっているようだ。
「強いゴーレム、美しい猫戦士、ちょっとスケベな軍師見習い」
「オーケー入るにゃん!」
マリンが合い言葉を言うとドアが開いた。と言うか俺だけ何かおかしくないかと突っ込みたくなる衝動をぐっと堪える。
フィーフィーの姿が見える。髪は少しボサボサだったが、相変わらずセクシーな体型で胸元が空いている。
「おっ!スケベ軍師!帰ってきたかにゃん!」
「スケベ軍師ってなんだよ!勝手に人の事スケベ呼ばわりしてんじゃねーよ!」
俺は少し語気を荒めスケベ呼ばわりしていることを咎める。
「ヒカルはスケベにゃん!たまに胸元みてくるにゃん!まぁ全然構わないけどにゃん!」
たまに胸元に目が行くことがバレているようだ。
「それはフィーフィーがいつも絡んでくるからだろ!」
言い訳にもならないような事を衝動的に言ってしまった。思いがけない事態に動揺が隠せない。
「だから、別に気にしてないにゃん!男はスケベな生き物にゃん!ムキにならなくてもいいにゃん!マリンもそう思うにゃん!?」
フィーフィーがニヤリと笑ってマリンに話しを振る。
「わ、私も男性は少しくらいスケベでも良いと思います。」
マリンは少し顔を赤らめてる。勝手にスケベ認定されていることが悔しい。
「あー!もう!今はそれどころじゃないだろ!村に来てる官吏をどうにかしないと。」
俺は強引に話を本題に戻す。
「そうにゃん!イノックが連れてかれてしまうにゃん!ヒカルなんとかするにゃん!」
フィーフィーは俺の手を掴み身体を近づけてくる。意識的にやっているのか全く読めないが、またスケベ認定されるわけにはいかないと思い軽く振り払う。
そのまま小屋の中に入り俺達はゴーフリーからの使いのものが来るのを待つことにした。
しばらくすると外から人の気配がした。俺達は身構え警戒体制をとった。
ドアのノックが鳴り、マリンが対応する。
「ゴブリン退治に必要なものは?」
「強いゴーレム、美しい猫戦士とエロの軍師」
マリンがそのままドアを開ける。って軍師のところだけさっきと違わないか!?ってもう好きにしてくれ。
「ジニー!ルーディア!さぁ早く中に入って!」
ジニーと呼ばれた少年とルーディアと呼ばれた少女が部屋の中に入ってくる。
ジニーは活気のある少年である。俺達の訓練にも興味があるのか、よく遊びに来ていた。細かいことはあまり気にしないタイプなので合い言葉も彼の中で微妙に変化してしまったのだろう。
ルーディアはドルドの娘で以前ゴブリンから怪我を追った事があるという話だった。金髪の美少女でどこか繊細な印象を受ける。ドルドとは似ても似つかないのが不思議なところだ。
二人ともマリンと同じ年で幼なじみである。
ジニーとルーディアを椅子に座らせて状況を聞くことにした。
「で、交渉の方はどうなった?」
話を振ると普段は明るいジニーが少し暗い顔をした。交渉はあまり上手く言っていないのだろう。
「正直、厳しいみたい。村長が必死に訴えかけてるんだけど、どこの村にも同じような条件で要請していると言って話を聞いてくれない。」
「やっぱりそうか。」
官吏も物資の確保と戦力増強が目的で来ているのだから簡単に引き下がるわけがない。
「向こうが言ってきてる条件は?」
「村が普段税として納めている穀物の倍の食料とイノックさんの兵役が条件で、もし断った場合、村の羊全てと若い娘を強制的に連れていくってさ。」
「そ、そんな。倍の量なんて納めたら食べて行けないじゃない!私達に飢え死にしろっていうの!?」
マリンが思わず机を両手で叩く。倍の税とイノックの兵役が条件とは穏やかでない。
「緊急事態だから協力しろって言って聞かないんだ。」
「そんなにヤバイ状況なのか?」
「詳しくはわからないけど、アンデッド達は北の砦を拠点にして南下してくるんじゃないかって。そうしたら王都だけでなくこの村も危うくなるって。」
「アンデッドが南下してくるのは確定情報なのか?」
「わからない。今は砦に籠ってるみたいだけど。」
「そうか。」
ジニー達からはこれ以上の情報が出てこなかった。
「マリン、以前にも教えてもらったけど魔召石って確か高い物で金貨3枚、安い物で銀貨80枚って言ってたよな?」
「はい、中級の魔召石で確か金貨3枚で低級は銀貨80枚だったと思います。」
「なるほどな。」
俺は少し考え、対策を練る。小屋にしばらく沈黙が流れる。
「ジニー、ゴーフリーと一度話がしたいんだけど。」
「わかりました。まだ話し合いの途中だと思いますが、呼んで来れるか聞いてきます。」
「いや、こっちから出向くよ。」
「え!?」
「俺は村に雇われた軍師って事で官吏との交渉にあたるよ。まぁそれが事実だしね。フィーフィー、マリン、ルーディアはここにいてくれ。」
「私も行きます!」
「フィーフィーもいくにゃん!」
マリンとフィーフィーが俺の指示に反対してくる。
「ダメだ。ゴフーリーがなんのために君らをここに隠したか理解してやってくれ。村へは俺とジニーで行く。」
フィーフィー達は納得してなかったが、強引に押しきる形で俺達は小屋を出た。
村に着いたところでこっそりとゴーフリーを呼んでもらう。
「ヒカル様!ご無事でなによりですじゃ。」
「あぁ、鑑定も無事終わえてきたよ。それより今の状況について聞いたんだがヤバイ状況みたいだな。」
「はいですじゃ。役人どもが押しかけてきて穀物の提供とイノック様の兵役を求めてきてますじゃ。」
ゴフーリーは落胆し、肩を落としている。ゴーフリーの疲労度からすると交渉が苦戦している様子が伝わってくる。
「ゴーフリー、ここは少し俺に任せてくれないか?」
「と、申しますと?」
「俺が直接官吏と交渉したい。もしかしたら上手く交渉できるかもしれない。」
「え?」
ゴーフリーは少し驚いた表情をしている。
「もし交渉してもダメだったらイノックの代わりに兵役を受けるよ。」
「それは困りますじゃ。」
「イノックが連れていかれても困るでしょ。」
「それはそうなのですが。」
「まぁ任せてみてよ。これでもビジネスでの交渉は慣れてるつもりだから。」
「はぁ、そうですか。」
腑に落ちていない表情のゴーフリーと一緒に官吏の待つ家へと入る。
部屋に入ると痩せ細った目付きの鋭い男が中央に座っており、鎧を身に纏った厳つい男達が両脇に座っていた。細い男が官吏だと一目でわかった。
「どうも、はじめまして。私はこの村に軍師として雇われているヒカルともうします。」
「はじめまして、王都から来ましたショウエイと申します。バーミントン村に軍師が雇われているとは初耳ですな。」
ショウエイは柔らかな表情をしているが、言ってる内容は軍師を雇っているのは聞いていないぞということだろう。早速主導権を握りに来たようだ。
「いや、軍師のと言ってもまだ見習いの身でして、経験を積むためにこちらからお願いして雇ってもらってるのですよ。この村はゴブリンの被害にあってると聞きまして、撃退することができれば私の評価も上がり他でも雇われやすくなりますからね。」
俺はゴブリンの被害を話題に出しつつ、軍師については俺からお願いして雇ってもらったという事にした。微妙な駆け引きだが、これでショウエイに主導権を握られるのを回避できたはずだ。
「そうでしたか、雇われ軍師も大変ですな。実は私共も北の砦が一つアンデッドに占領されてしまって困っているところです。ゴブリン退治よりもこちらを手伝って欲しいものです。」
ゴブリン退治を軽視するかのような言葉にゴフーリーや村人達の目付きが変わる。場の空気が一気にヒリついたものになる。
「そうそう、先ほどちょうどその話を聞いたところです。何でもグレンデル砦を奪還するために食料の提供と戦力の増強が必要であるとか。」
「そうなのです。我々も非常に困っておりまして、この村にも協力をお願いしているところなのです。」
無理矢理でも奪っていくつもりなのに何が『協力』だ。と言いたいところだが、ぐっと堪えて笑顔を崩さずに本題に入る。
「ゴーフリーから聞いたところによると、食料が普段税で獲られている倍の料金で、戦力の増強はイノックの兵役と聞いていますが間違いありませんか?」
「その通りです。苦しいお願いではありますが、これも国の平和のためです。」
条件は確認した通りのものだった。俺は息を整えると、ここから交渉するために切り込んでいく覚悟を決める。
「その条件についてご相談があるのですが、内容を少し変更してもらう事はできませんでしょうか?」
「これは、これは。軍師殿が何をおっしゃるかと思っていましたが、やはりそういうことですか。先ほどゴーフリー殿にもお伝えしましたが、残念ながら条件を緩和することはできません。この条件は国の決定なのです。本意ではありませんが飲めないとなると強制的に対応することになりますぞ。」
先ほどの穏やかな口調とは異なり、明らかに語気が強くなっている。断れば承知しないと言った空気が流れる。
「いえいえ、何も条件を緩和してほしいなどと言うことではありません。ご提示いただいたものと同等の内容で良いのですが、少しだけ条件を変更いただきたいのです。」
「と、申しますと?」
「食料の問題については、村全体が更に倹約することで、なんとかし凌ぐつもりですが、ゴブリンの襲撃についてはイノックの力がどうしても必要です。」
食料の問題は無条件で飲むと伝えたことでショウエイの聞く態度が少し変わった感じがした。ここが勝負所とみて発言を続ける。
「もし、食料が少ない状況でゴブリンの襲撃を受けてしまった場合、ゴブリン共は今までよりも激しく村を襲うでしょう。そうすると村が全滅してしまう可能性もあります。村が無くなって税が取れなくなるのは国としても本意ではないと思いますがいかがでしょうか?」
「それは確かにそうだが、グレンデル砦奪還に向けた戦力の増強も急務であるためこの村からも兵士を供給してもらう必要はあります。」
ショウエイに折れる様子はない。
「そうですよね。そこで提案なのですが、イノックの代わりに魔召石と同額の金貨でお支払いするというのでいかがでしょうか?」
「お金で支払うと?」
「ええ。イノックは元々魔召石で召喚されただけなので、同じように王都で召喚していただければ戦力増強としては問題ないのでは?」
俺の提案に村人達がざわつく。
「なるほど、面白い提案ですね。それができるのであればこちらとしては異存ありません。」
ショウエイがニヤリと笑みを浮かべながら交渉に応じる。
「ヒカル様、この村には魔召石を買うだけのお金はございませんぞ!」
ゴーフリーが慌てて耳打ちをしてくる。俺は大丈夫だと伝えゴーフリーを落ち着かせる。
「但し、一つだけお願いがあります。今すぐに金貨を用意できないため、村にある資材を売却したいと思います。少しだけ期間を待ってもらいたいのです。」
「ほう。それはどれくらいでしょうか?今にでもアンデッドが迫ってくる可能性があるため、いつまでも待つということもできませぬぞ。」
ショウエイが話に乗ってきている。俺はあとひと押しで交渉が成立する事を確信をする。
「処分するものも多いため最低1ヶ月、できれば2ヶ月いただきたいと思います。勿論その分の利子はお支払します。1ヶ月であれば金貨4枚、2ヶ月であれば金貨5枚でどうでしょう?」
「なるほど、利子つきですか。いいでしょう。但し、1ヶ月半で金貨5枚を条件にいたします。お支払いできればイノック殿の兵役は取り止めましょうぞ。また、お支払いできなかった場合は相応のペナルティも覚悟ください。」
「ありがとうございます。もしお支払い出来な買った場合は私も兵役に参加させていただくというのではいかがでしょうか?矢避けの盾くらいにはなれましょうぞ。」
「うむ。それでいいでしょう。」
ショウエイはこちらの条件変更を飲み、条件が書かれた証文を部下に作成させた。ゴーフリーも条件をのみ、証文にサインするがその表情には不安が浮かんでいる。
「では、これにて私達は食料を王都に運ぶ準備に移ります。次は1ヶ月半後にお会いしましょう。」
ショウエイはそう言うと、できるものならやってみるが良いと言わんばかりの表情を浮かべながら部下と共に部屋の外へ出ていった。
「ヒカル様、食料も無い状態で金貨5枚などとても払えませぬ。もしやと思いますが、ゴブリンから得た宝石がうんと高く売れたのでしょうか?」
ゴーフリーが心配そうな顔で問いかける。
「あっと。そういえば宝石売ったけどお金渡してなかったね。」
俺はテーブルの上に銀貨20枚を出す。
「えっと。これだけですかな!?」
「うん。これだけ。」
「うん。と申されましても……。」
ゴーフリーと俺のやり取りを見守っていた村人からも憤りの声が上がってくる。中には悲観して泣き出しそうなものもいる。
「ヒカル様、お金がないのであれば先ほどの交渉は全く意味の無いものだと思いますぞ。お金があれば我々も最初からそうしていたはずですじゃ。」
ゴーフリーだけでなく、部屋にいた村人全員から批判の声が上がる。ドルドに至ってはうつむき何か考え事をしているようであった。
「まぁ、みんな落ち着いて。俺に考えがあるんだ。実はこれを使おうと思ってるんだけど。」
俺はあるものを取り出してテーブルの上に置いた。
「これで解決できると思うんだよね。」
「こ、これは……。」
テーブルの上においたものを見て村人達は唖然としていた。
交渉や内政が出来て軍師として一人前だと思っています。
交渉はサラリーマン時代の営業スキルを元に展開って感じにしたいです。




