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1.社蓄サラリーマン軍師

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「ようこそ軍師様」


 突然の呼びかけに身体が反応できない。

 頭が重く、高熱が出たときのようにぼんやりとしている。

 身体を起こそうとするが鉛のように重い。腕を動かすことで精いっぱいだ。


「うっ……あ、あれ!?何が起きたんだ!?」


 俺は一体どうしたのだろうか。身体がダルく、手足が鉛のように重い。かろうじて開いているまぶたに力を入れながら視界を確保する。

 まぶたの開く大きさと比例して、ぼやけた世界が徐々にクリアになってくる。


 目の前には肌色のようなものが蠢いてた。

 何かを叫んでいる様だ。

 そして、その音が聴こえてくる中心からは時折、不快な液体が飛んでいる。


 (どうなっている!?早く起きなければ!)


 そう思った瞬間、俺は急激に意識を取り戻していった。

 と同時に俺の目の前に小汚い爺さんが顔を近づけていることに気づいた。


 爺さんは白い髭を口元にフサフサと蓄えており、スキンヘッドというか、髪の毛が無くなり頭皮が露出している。

 齢60は超えているであろうその老人はひどく興奮しているようだ。

 そして、俺は気づいてしまった。

 俺に降りかかっていた液体の正体は爺さんが口から発する『それ』(唾)だった……。

 こんなに目覚めが悪い状況は今まで生きてきた中でも稀である。


 (なぜ目の前にじいさんが!?何が起きているんだ!?)


 何も思い出せない。思い出せそうにない。

 記憶を甦らせようと頭を左右に振ってみるが効果はない。

 パニックになり、慌てる俺をなだめるかのように老人が話しかけてきた。


「おぉ、軍師様!転移されたばかりですのでご無理をなさらずに。とりあえず、これを飲んでくだされ。」


 老人から透明の液体が入ったコップを渡される。

 俺は、震える自分の手を押さえつけながらゆっくりとコップを口に運ぶ。―――が、力が入らずこぼしてしまう。


「軍師様!大丈夫ですか?この老いぼれが代わりに飲ませて差し上げましょうぞ!?」


 老人はなぜか口元を尖らせながら手を差し伸べてくる。

 地獄のような光景が目の前に広がっていた。

 俺は老人が差し出した手を無視して自分の力でコップを口まで運ぶ。


 「ゴクリッ。」


 液体が口の中に広がる。冷たく透明感のある液体は先程降りかかってきた『それ』(唾)とは違い、爽やかな潤いを俺の全身にもたらした。


「お、おいしい。」


 俺は思わず言葉が出た。


「おぉ、それは良かった。気分はいかがですかな?」

「頭が少しぼんやりするけど、大丈夫です。」


 爺さんの問いかけに答えながら、俺ははっきりと意識を取り戻した。

 そういえば俺は何してたんだっけ?っていうか何この状況?そしてこの爺さんは誰なんだ?

 様々な疑問符が頭をよぎる。


「ゴホンッ。」


 爺さんは口に拳をあてがいながら咳払いをした。


「改めまして、わたくしめはゴーフリーと申しますじゃ。早速ですが軍師様のお名前を教えていただいてもよろしいでしょうか?」

「軍師様!?お、俺はヒカルって言います。」


 ヒカル!?反射的に出たその言葉に俺は思わず驚く。そう。俺の名前はヒカル。毎日会社に通っては疲れて帰ってくるサラリーマンだ。確か出社途中だったはず。それがなぜこんなところに寝ているのだろう。


「ヒカル様!?おぉ、なんと神々しいお名前であるか。これぞ神のお導きに違いない!」

「い、いや名前だと思うんだけどな。」


 俺はゴーフリーと名乗る爺さんの質問に答えながら、改めてゆっくりと周りを見渡した。

 壁には赤土色のレンガが引き詰められており、目の前には暖炉が備え付けられているようだ。部屋の中央には木目調のテーブルの上には瓶が置いてあり、たっぷりと水が入っている。どことなく西洋の建物の雰囲気を感じさせる造りだ。


「あの~。ここは、ヨーロッパですか?」

「ヨーロッパ!?はて?ここは、バーミントンの村でございます。」


 ゴーフリーは少し不思議そうな表情を浮かべる。


「バーミントン?聞いたことないんですが、どの辺ですか?イギリスとか?」

「いえいえ、ここはヒカル様がいらっしゃった世界とは別の世界でございます。」


 ゴーフリーが得意そうな笑みを浮かべ会話を続ける。


「あなた様は、軍師として異世界よりに召喚されたのでございます!」

「へ?」

「さぁ軍師様!その才能をいかんなく発揮し、我らが宿敵であるホブゴブリンどもを一網打尽にしてくだされ!!!」


 ゴーフリーと名乗る老人は、拳を真上に突き出しながら天井に向かって大声で叫んでいる。その声は力強く、興奮していることが伺える。


 俺は呆然としながらも状況を頭のなかで状況を整理する。

 老人の言葉はゲームや小説やアニメでよくある異世界転生の可能性を示唆している。

 もし仮に異世界へ転生されたのであれば、会社に通う必要がない。

 そして、俺は知っている。

 異世界に飛ばされた者は例外なくチート能力を持っている。

 こういう展開は与えられたチート能力を使って大活躍。そこからハーレム作ってウハウハな生活を送ることがお約束のはずだ。

 もし本当に異世界に召喚されたのであれば最高だ。夢ならこのまま覚めなくていい。


「ゴホンッ。失礼。久しぶりに召喚が成功して興奮してしまいました。ヒカル様のランクはレア度★1でございましたが、この魔晶石で軍師様を召喚できたことは、この村にとって非常にありがたいことです。」


 ゴーフリーが崩れた石の結晶とカードのようなものを渡してくる。

 色白で黒い髪。線を描いたような細い目。カードには、至って平凡立ちの俺が描かれている。そのままカードを受け取り、書かれている内容を確認する。


 レア度★1(ノーマル)

 種族:ヒューマン 

 職業:軍師見習い


「これは?」

「ヒカル様のカードでございます。召喚された方のレア度や職業が刻まれておりますじゃ。」

「召喚……。俺はここに召喚されたの?軍師……見習いとして?」

「はい!その通りでございます。魔晶石を使った召喚儀式では、どのような方が召喚されるかわかりません。まさか軍師様が召喚されるなど思ってもいませんでした!」

「えっと。見習いって書いてあるんですが……。」

「どれどれ……。」


 ゴーフリーがカードを覗き込むように確認する。


「えー。ゴホンッ。細かい事は気になさる必要はございません!見習いとはいえ軍師様であることに違いはありませぬ!」


 ゴーフリーは再び天井に拳と突き立てて叫びだした。ウォォォォという声が部屋中に鳴り響く。


「そ、そうですか……。」


 カードに記載されている情報とゴーフリーのテンションの高さにギャップに不安を感じる。


「ちなみに召喚に使った魔晶石は貴重な物で、村中の資産を売り払って手に入れた代物です。村の皆がヒカル様の活躍を期待しておりますぞ!」


 ゴーフリーの話しから俺は魔晶石というもの使って現実世界からされたようだ。そしてレア度や職業からしてチートではなく、むしろ弱い部類の能力であることが推察される。

 ただ、最近の異世界ものは弱いと見せかけて特殊なチート能力を発揮することもある。通常とは逆で★1が最も上位のレア度かも知れないし、まだ俺にもチャンスがあるはずだ。


「あのー。ヒカル様、私の話を聞いてますかな?」

「あっ、はい。すみません。」


 俺は考えるのをやめてゴーフリーの方へ顔を向き直した。


「ゴホンッ。では続きを。先ほどもお話したように魔晶石を使ってヒカル様を召喚させていただきました。」

「はい、それはさっきも聞いたので理解しました。」

「その召喚は村の期待を大きく寄せたものであったのですが、ヒカル様のカードにレア度★1が表示された際には村人全員が絶望の淵へと追い込まれた気分でございました……。」


 やっぱりレア度★1は弱いようだ。俺は思わず肩を落とす。


「しかぁーし!ヒカル様の職業が貴重な軍師であったことから、今、村中は大騒ぎとなっておりますじゃ!早速ですが、ホブゴブッ、うっゴホッゴホッォォッ。」


 ゴーフリーは話の途中で咳き込んでもがいている。苦しそうだ。


「だ、大丈夫ですか!?ゴーフリーさん!?」

「ゴホッゴホッ。フー。フー。失礼。興奮しすぎて気管に唾が入り込んでしまいましたわ。ハッハッハッ。」


 ゴーフリーが一人で盛り上がっていることに俺は更に不安を感じた。


「失礼いたしました。ということで、つまりはヒカル様には軍師として我らが憎っきホブゴブリンの巣を殲滅してきてほしいのですじゃ!!!」

「え!?」


 巣の殲滅という言葉に思わず息を飲む。ホブゴブリンってよくゲームに出てくるあのゴブリンの親玉であるということは理解できる。大柄で筋肉隆々の奴のはずだ。

 その巣が存在するということは、複数のホブゴブリンを倒す必要があるということを意味している。

 チート能力があれば別だが、ただのサラリーマンにいきなりホブゴブリンを倒してこいと言われてもとても無理な事のように思える。


「あの~。軍師って超強い能力持ってたりするんですか?チート能力みたいな。」

「チート能力!?何ですかなそれは?」

「例えば時間を止める事ができたり、空間を削り取る能力のような反則級の能力のことです。」


ゴーフリーは少し考えた様子で首をかしげる。


「はて!?そのような能力を持った者が召喚されたということは聞いたこともございませんな。ましてや最弱のレアリティ(レア度★1)の方が反則級の能力を持っているとは到底考えられませんな。」


 やっぱり……。っていうか最弱って言ったよな。やっぱりレア度★1って最弱なんか。いよいよ厳しい状況のようだ。


「あのー。これって夢ですよね?」

「夢?これは現実でございますよ。ヒカル様。せっかく貴重な魔晶石で召喚させていただいたのですじゃ。夢であっては困りますわい。ヒカル様にはこれから思う存分に活躍してもらわねばいけませぬからな。ハッハッハッ。」


いや、全然面白くない。

お気楽に笑っているゴーフリーに少し苛立ちを覚える。


「と言っても俺、普通のリーマンですよ。しかも平社員だし。」

「平社員?」

「組織の中で一番下っぱで、まだまだ修行中ってこと。」

「なるほど。修行中の身ですか。いやはや、これはレア度が★1ということも納得ですな。逆に言うと今がまさに伸び盛り!未知の可能性が十分に秘められているということ!いや~これは実に楽しみですな~。」

「……。」


 ゴーフリーのテンション高さに俺は閉口してしまう。

 この爺さんは危険人物のような気がしてきた。

 俺は下手に刺激しない方がいいかと考え直し、とりあえず話を合わせて情報を引き出すことに専念する。


「あの~。ゴーフリーさん。」

「ゴーフリーで結構ですじゃ。」

「あ、じゃぁ。ゴーフリー。」

「なんですじゃ?」

「ホブゴブリンを倒せばいいって話はわかったんだけど、とりあえず、軍師って何すればいいの?ほら、俺はまだ見習いだし、なんつーか、突然召喚されて何をやればいいのかな~って。」

「これはこれは、わたくしめとしたことが、説明不足で申し訳ございませんですじゃ。軍師の役割は、兵を組織すること。すなわち兵を鍛えることが第一にありますじゃ。そして隊を作り指揮をする。最後に戦を勝利へと導いていくのでございます。」


 なるほど。軍師の役割は現実世界とあまり変わらないようだ。


「レア度の高い軍師様は何万という兵を動かし、時には天候を操り、時には特殊な戦略や戦術を練り、計略などを用いたりもするようですが、我々の目的はホブゴブリンですじゃ。まずは兵を鍛え、戦力を整えながら奴らを殲滅してほしいですじゃ。」

「へ~。兵士を鍛え、敵を倒す。俺だけが戦うわけではないのならできそうな気がするな。」

「『できそうな気がするな。』じゃないですじゃ!できますとも!何と言ってもヒカル様はわが村待望の軍師様なのですから!」

「は、はぁ。」

「さぁ、ヒカル様ッ。一流の軍師となってこの村をお救い下され!」


 ゴーフリーは膝をつき、涙目で懇願している。

 喜怒哀楽が激しくてなんだか胡散臭い爺さんだけど、ここまでされるとなんか断りづらい。それに自分一人で戦うのではないということに少し安堵感を覚えた。少しだけ軍師とやらをやってみる気になってきた。


「まぁ、せっかく召喚されたので、やれるだけやってみます。」

「ありがとうございますじゃ。では、早速ですが、こちらへ来てくだされ。」


 俺はゴーフリーに促されるまま、部屋の隅の方へ連れて行かれる。部屋の隅には水が貯めてある桶が置いてあった。


「何をするんですか?」

「ヒカル様のステータスを確認するのですじゃ。」


 ゴーフリーは水の張った桶に小瓶の液体を垂らす。


「これは聖水写しという手法でございます。水面に聖水を垂らした後に……。ちょいと失礼。」


 針のようなもので突然、ゴーフリーが俺の指を刺してくる。


「痛ッ。何するんですか!!」

「これは失礼。聖水写しでステータスを確認するには、本人の生きた血が必要なのですじゃ。桶に血を数滴垂らしてくれませぬか。」


 そういうことは先に言ってくれという言葉を飲み込みながら渋々血を桶に垂らす。

 ポツンッという音を立てながら、血が桶の水のなかに沈んでいく。

 沈んだ血は波紋のように広がっていき、赤から黒へと徐々に変色しながら文字が浮かび上がって来た。


 ◆氏名:ヒカル=オオマエ

 ◆レア度:★1(ノーマル)

 ◆種族:ヒューマン

 ◆職業:軍師見習い

 ◆ステータス

 ・筋力 22 (H)

 ・敏捷 36 (H)

 ・耐久 29 (H)

 ・知力 61 (H)

 ・技  32 (H)


 得意武器:なし

 特殊能力:なし

 戦闘スキル:なし

 生産スキル:なし


「うん?なんか出て来たぞ。」

「おお!出ましたかな。こ、これは……。」


 ゴーフリーが目を見開きながら言葉を溜める。弱そうなステータスだが、もしかしたら俺はかなり強いのか?期待を胸にし、ゴーフリーの言葉を待つ……。


「最弱ですな。」

「えっ!?」

「いえ、いい間違えました。普通ですじゃ。特に特徴もございません。」


 最弱!?確かに今、最弱というフレーズが聞こえてきた。

 そして続けて特徴なく普通であると言い、最弱というフレーズをゴーフリーは誤魔化した。これはヤバい状況なのではと脳裏に嫌な予感がよぎる。


「しかし、安心してくだされ!これは今のヒカル様のステータスを反映しているだけであって、成長段階のヒカル様はもっともっと伸びるはずですじゃ!」


 ゴーフリーは額の汗を拭いながら必死で訴えてくる。


「っていうか、伸びてもらわないと困りますじゃ。ここは何としても伸ばしてもらってですな!そんでもってホブゴブリンを討伐してごにょごにょ。さらにはグレイトごにょごにょ。最終的にはごにょごにょ……。」


 ゴーフリーは興奮しすぎてよくわからない言葉を発している。

 とりあえずこの場を落ち着かせるためにも前向きに協力することを伝えておいた方がよさそうだ。それにホブゴブリンの巣を殲滅する努力をしてみることは悪いことではない。やってるうちにこの世界のこともわかってくるはずだ。

 もし、上手くいかなくてもできない事はどうやっても無理なのだから、その時は諦めてもらえば良いだけの話だ。


「わかりました。頑張ればいいんですよね。とりあえずみんな困っているみたいだし、俺ができることは協力しますよ。だから一回落ち着いてくれ。」


「本当ですかな!これは嬉しゅうございます!」


 額に汗を搔きながら、目には涙が溜まっているゴーフリーを見てこれはいよいよヤバイところに召喚されてしまったことを悟る。


「で、ゴーフリー、俺は軍師なんだろ。どうやって兵士を鍛えればいい?村にはどれくらいの人がいるんだ?」

「う~ん。小さい村ですからな。ざっと50人程度といったところですかな。」


 50人とは思ったより少ない。村の作業もあるだろうから鍛えられるのは5人から10人くらいかな。


「じゃぁ、さっそく若い連中を鍛えるから村を案内してくれよ。」

「ん?ヒカル様、何か勘違いしておられませぬか?」

「勘違いって、兵士を鍛えるんだろ?」

「それはそうですが、村の若い連中は兵役を課されており現在は誰一人おりません。」

「ん?そうなの?」

「はい、鍛えるのは、ヒカル様より先に召喚した戦士様達ですじゃ。」

「え?俺よりも先に召喚されてる人がいるの?」

「はいですじゃ。召喚はヒカル様を含めて3回行われておりますじゃ。各々の能力をを鍛えあげ、ホブゴブリンを殲滅するのがヒカル様の使命でございます。では、早速、他の二名を連れてまいりますじゃ。」


 ゴーフリーは家の外に出て村人と何やら話をしている。おそらく先に召喚された先輩たちを呼びにいったようだ。


 俺より先に召喚されている人がいるなら心強い。同じ異世界からやって来た者として村のことや敵の強さなどを色々と教えて貰いたい。

 頼れる人材がいるのであれば意外とすんなり行くような気がしてきた。


 安堵感に浸りながら異世界から召喚された先人たちの到着を待つ。

 しばらくすると扉の先から複数の人影が見えた。おそらく召喚された方々に違いない。

 ゴーフリーの他に二つの影が段々と近づいてくる。どうやら一つは大柄な影、もう一方は、ほっそりとしながらも胸が突き出ている影が見える。シルエットから察するに、おそらく男女一名ずつであろう。

 女性の足元からは、何か細長いものが『ぶらぶら』と揺れている。

 二つの影が近づくにつれ、緊張が増してくる。

 先に入ってきたゴーフリーが二人を手招きする。


「ヒカル様、こちらが先に召喚された二名の御仁でございますじゃ。」


 ゴーフリーが外にいた村人が二人を部屋へと通す。


「どーも!にぁはははっ。」

「えっ。ううわぁぁ。」


 威勢の良いかけ声とともに猫耳をつけたグラマーな女性が勢いよく部屋へと飛び込んで来た。あまりの動きの速さに俺は思わず声をあげてしまう。

 女性は髪は赤茶色でショートカットでくっきりとした大きな目をしていた。小顔で整った容姿をしている。かなりの美人であるがどこか違和感を感じる。

 よく見ると耳が頭の上にある。被り物の猫耳のような突起が2つ、頭から生えているようだ。


「はっじめまして!あたいはキャットピープルのフィーフィーだにゃん。ヒカルにゃん、よろしくだにゃん。」


 そのまま俺の周りを素早い猫の動きで駆け回る。そして、品定めするかのように見まわした後、いきなり飛びついてきた。

 身体が密着する。フィーフィーのお尻からは尻尾のようなものが『ぶらぶら』と揺れている。


「ちょ、ちょっと!何するんですか!」

「何するってスキンシップだにゃん!気に入った相手にフィーフィーがする初めましての挨拶はいつもこうにゃん!」

「挨拶って……。ちょっと離れてくださいよ。」


 柔らかい肌の感触が食い込んできて、俺は動揺を隠しきれない。


「にゃははははッ。照れてるにゃん!」


 フィーフィーは恥ずかしがる俺を見て、からかっている様子だ。


「フィーフィー殿、ヒカル様が困ってらっしゃるのでその辺にしてくだされ。」


 ゴーフリーがフィーフィーを制しながら声をかける。


「わかったにゃん。とにかくよろしくにゃん!」


 よろしくにゃんって……。馴れ馴れしくてかなり不安なんですけど。ていうかこの衣装コスプレなんかな。まさか本当に猫女ってわけないよな。ゴーフリーとは違った意味でテンションが高く、不安になってくる。


 まぁいいや、もう一人ごつそうな人がいるし、この人はどうなんだろう。

 俺は、騒ぎ立てるフィーフィーを無視してもう一人の先輩に挨拶すべく扉の方に身体を向き直した。


 もう一人の先輩は硬い質感に筋肉隆々といった感じだ。

 というかこの人2メートル以上ある。色は灰色だし、筋肉というよりは、岩!?


「は、はじめまして、ヒカルです。」

「フゴー!フゴー!ハ、ハジメ、マシテ。」

「え、えーっと……。」


 なんか、話し方がたどたどしいんですけど。ていうかゴーレムみたいだし、怖すぎだろおい。この人もコスプレ?ってそんなわけないよな。


「ヒカル様、失礼いたしました。こちらの御仁は岩人形ロックゴーレムのアレサンドロ=イノック殿です。」

「イ、イノックさん、ヒカルです。よ、よろしくお願いします。」

「フゴー!フゴー!」


 おいおい、会話になってないぞ。大丈夫か?かなりごついし、強そうではあるんだけど。驚きの連続で頭が混乱している。


「というわけでヒカル様には、この2名を率いてホブゴブリンの巣に向かってもらうことになります!」

「えっ!ええーーー!」

「よしっ!さぁいざ行かん!ホブゴブリンの巣へ!!!!!」


 ゴーフリーが盛り上がりエイエイオーと言いながら片手を翳し、気合いを入れる。

 自由気ままな猫女、会話もままならない岩人形、何の変哲もないただのサラリーマンで攻略って……。

 なんか無理ゲーな予感がしてきた。


 部屋の中では、猫と岩人形と老人が各々好き勝手に暴れ続けている。


「と、とにかくみんな落ち着いてください。まずは外に出よう。ゴーフリー、ホブゴブリンの巣に乗り込む前に二人の行動や特徴を確かめさせてもらいたい。」


 暴走する三人を落ち着せながらゴーフリーに話を振る。


「おぉ、さすが軍師様!我々はこういう方を待ち望んでいたのであります!いざ行かん!中央広場へ!」

「にゃははははッ!」

「フゴ―!フゴ―!」


 はぁ、何これ。まじでもう嫌。

 俺は悲惨な光景を目の前にし、肩を落としながらうなだれるしかなかった。


わかりにくい表現や誤字があればご指摘いただけると嬉しいです。

改善点なども歓迎です。

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