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ぼくと執事と守りたい街  作者: たかと
19/33

テレビ

 注文したテレビはちょうど一週間後の休日に届いた。龍館にまで続く道には車が通れないので、業者さんが台車を使って運んでくれた。薄型ではあるけれど大きなテレビだったので、でこぼこした道を運んでくるのは苦労したと思う。


「どこに置きますか?」


 玄関ホールで一息ついた業者さんにそう聞かれた。


 テレビを置くところは最初自分の部屋だと決めていた。執事はそもそも興味がないのでべつに独り占めにしても遠慮する必要はないと思っていた。


 けれど、いまはりょうちゃんがいる。ぼくは隣に立つりょうちゃんを見た。


 十代の子がテレビなしで生活するのは大変だ。常識では考えられない気がする。りょうちゃんは女の子なわけだし、ぼくの認識では女の子というのはより情報をほしがるものだという印象がある。


 そもそもぼくはそれほどテレビに執着がない。芸能人にはあまり興味がないし、どうしても見たい番組というものもない。施設や一之瀬家でもテレビを見ない日というのもむしろ多かった。サッカー関係の情報をチェックできればそれでいい。


 それに、りょうちゃんはさっきから梱包されたテレビを興味深そうに見ていた。まさにそれは食い入るようで、その姿を見ると、ぼくひとりで占領するのは申し訳なく思う。


「じゃあ、一階のサロンのほうにお願いします」


「どうしてですか?」


 業者さんが動く前にりょうちゃんが言った。


「自分のお部屋に置くと、ジンさんは言ってましたよね。どうして急に変えたんですか」


「りょうちゃんは見たくない?」


「わたしのことなら気にしないでください。テレビはなくても平気ですから」


「好きな番組とかないの?」


「ないです。これまでずっと修行に明け暮れていましたから」


 修行?


「ですから、ジン様のお好きなようになさってください」


「じゃあサロンに置いてもいいよね」


 りょうちゃんは特に何も言わなかった。


 細かい設定を終えて業者さんは帰っていった。なんだか慌てて逃げ帰るみたいだった。りょうちゃんがお茶を出すのも断わっていたし、たぶん、龍館の中にいるとおかしくなるみたいな先入観があるからだと思う。まあ事実には違いないんだろうけど。とにかくテレビをつけることにした。リモコンのスイッチを押すだけでなんだか緊張した。


 最初に画面に表示されたのは料理番組だった。というかバラエテイー番組の中の料理コーナーらしく、芸能人が楽しそうに料理に取り組んでいた。


 料理にたいして興味のないぼくがチャンネルを変えようとすると、身を乗り出すようなりょうちゃんの姿が目に入った。


「興味ある?」


「あ、いえ」


「見てもいいよ」


 ほら、とリモコンを差し出すと、りょうちゃんは胸の前で両手を振った。


「せっかくのご好意ですけれど、もうそろそろお買い物の時間ですので」


「そうなんだ」


 いってらっしゃい、という言葉をぼくは飲み込んだ。


「あ、ぼくも一緒に行ってもいいかな」


「ジン様もですか?」


「うん。だめかな」


「かまいませんけど、結構たいへんですよ」


 ぼくはその言葉の意味をあとで知ることになる。


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