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ぼくと執事と守りたい街  作者: たかと
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お買い物

 ぼくらはテレビを買いに行く。テレビを買うとなればやっぱり大型の家電量販店だ。


思えばいままで一度も足を運んだことがない。すごく楽しみだ。たくさん商品が並んでいるだろうから、選ぶのに時間がかかってしまうかもしれない。テレビの違いってよくわからないから店員さんにいろいろ聞いてみよう。そういえばそういう店にはポイントカードなるものがあるらしい。そういうのとかつくれたらうれしいな、とわくわくしながらシートに背中を預けていると、ふいに車が停まった。


「あ、あれ?」


 ぼくはきょろきょろと周囲を見回した。そこはなんの変哲もない住宅街の中で、近くに大型の店舗らしきものはまったく見当たらなかった。


「お客さん、つきましたよ」


「おい、貴様、さっさと降りろ」


 執事に促されてタクシーから降りるぼく。その目に映ったのはキムラ電器店という看板。道路に面したガラス張りの店内は狭く、奥行きのない一部屋にちらほらと電化製品が置かれている。最近失われつつあるという、いわゆる町の電気屋さん。電気屋さん? ま、まさか。


「入るぞ」


「ちょっと待ってよ」


 ぼくはキムラ電気店に向かおうとする執事の腕をつかむ。


「まさか、テレビを買うって、ここ?」


「ほかにあるのか」


「あるよ。ほら、この町にも大型の店舗があるじゃない」


 執事は呆れたような目でぼくを見た。


「貴様はいまだに自分の立場というものがわかっていないらしいな」


「ど、どういうこと」


「お主人というものは単に封印を強化するための一齣ではない。その地域全体の治安を維持するためのシンボル、つまり市民にとっての心のよりどころとして存在する義務がある。そういう立場にいる貴様がほかに本社のあるような店で買ってどうする。安定をもたらすべきお主人が地元の人間に愛される努力をしないということは、自分の存在を否定しているようなものだ。それがわからないのか」


「そこまでこだわらなくても」


「貴様のような若者がこの国を滅ぼそうとしているんだ」


「でもテレビなんて置いてなさそうだし」


「安心しろ。カタログは豊富だ」


 結局、店では一番新しくて人気のある商品をお願いした。気持ちがげんなりして、カタログはほとんど見なかった。何か書類にサインしている執事を置いてひとりで店を出た。


 道路に戻ると、タクシーは若干移動していた。近くにバス停があるからだ。ため息をつきながらそこまで行った。いつまで経っても扉は開かない。ノックしても反応がなく、ぼくは運転席のほうにまわった。そこで息を飲んだ。タクシーの運転手は殺されていた。目をつぶされて。


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