まなざし
こちらは『とけた』の別視点ver.です。
照りつける、暑い日差しと蝉の声。
途中、コンビニで買ったアイスは溶けはじめていた。
……オレは夏生まれだけど、この暑さはやべぇ。
ぱくぱくと食べ進めたアイスはすぐになくなって、残ったものは熱気だけ。
「あぢぃ」
「口に出して言わないで。余計暑くなる」
「勝手に出ちまうんだっつの」
隣を歩くのは、幼馴染みのすず。
細い身体に大きな瞳。少しミステリアスな雰囲気だけど。笑った顔は可愛い。
そんなすずはどこかぼーっとしていて。どことなく、足どりが悪い。
「おい、大丈夫かよ。つかアイス溶けてんぞ」
言って日よけがわりになればと、頭にタオルをかけてやった。が
……返事がねぇ。
ぽたぽたと溶けゆくアイスはそのままに、ふらりと揺れるすずの身体は
ゆっくりと倒れていった。
「…!おいッ 大丈夫かよ!?」
咄嗟に出した腕の中、小さい身体はすっぽりと収まった。
「……大丈夫。いつものことだよ」
ンなわけあるか。
昔から暑いの苦手なのは知ってたけど、まさか倒れそうになるなんて。
もっと早く気づいてやりゃよかった。
でかい図体を曲げて覗いたその顔は、少し。弱々しくみえて。早くなんとかしてやんねーとって、思ったのに。
………あれ?
なぜか不覚にも、胸が鳴った。
潤んだ瞳とか、紅潮した頬とか。
その他いろいろ。
なんだ、これ。
ぶわっと一気に駆け巡る衝動と。吹き抜けた熱い風に揺れる髪。
ぽたりと落ちた、汗とアイス。
こんな状況で、不謹慎だとは思うけど。
すずの紅いその顔が、もっとみてぇなんて。
───どうかしてる。
夏の日差しは強さを増して、今まで以上に降り注ぐ。その中で。
全部ぜんぶ……夏のせい、暑さのせいにして──。
アイスで濡れたすずの指を、舐めてみた。
「おっし。んじゃ帰ろーぜ」
あの後、調子を戻したすずは終始真っ赤だった。
大きな目を見開いて、思った通りにビクつく身体。
真っ赤な顔して固まって。ぱくぱくと空気を食む姿は、とても可愛らしかった。
なんつーか、いいもん見れた。
くるりと背を向けると、平気なフリを決め込んだ。
悟られないように。歩き出す。
……暑いことには変わりねぇのに。
熱をもったオレの頬を、夏の風が撫でて
燦々と降りそそぐ太陽の下
緩む口元を隠した。
恋だと知るのは、もう少し先のこと。