怪物
「なんだ・・・これ」
変わり果てた世界に彼は恐怖する
「さて、話して貰うわよ。あなたは何者?」
大鎌の切っ先を彼の首筋にソッと押し当てる。
すると観念したのかポツリポツリと話し出した。
曰く、彼は他人の心が読めるらしい
「コントロールできる訳じゃ無いんだ。読もうと思って読める訳でもない。突然頭の中に他人の思考が流れ込んでくるんだよ」
なるほど
心が読めるなんて普段の私なら信じられない
しかしこの世界を共有しているという事実は、彼の言い分を信じない訳にはいかなかった。
「ぼ、僕からも質問するぞ。君は何者だい? この世界は一体何なんだ!?」
何者?
不思議な事を聞くものだ。
「私は姫路愛、どこにでもいる普通の高校生よ」
「そんなわけあるか!? この世界はどう説明するつもりだよ!?」
「妄想よ、単なる妄想。想像力は豊かな方なの」
「そんな馬鹿な・・・こんな、現実と見分けがつかないくらいリアルな妄想なんてあるわけが・・・」
まあ混乱するのも無理はない。私にとっては当たり前の事なのだが
どうやら他人が自分ほどリアルな妄想の世界を持っていないらしいと気がついたのはいつのことだったか
私の中にある世界は現実とほぼ区別がつかない。モノを触った感触も時折吹く風の冷たさも感じられる。周囲の人の話を聞くには、どうやら私が異端らしいのは分かるのだが・・・
「生憎と私は現実と非現実の区別はつく方なのよ。こんなとんでも空間、私の妄想に決まってるでしょう?」
「いや、でも・・・」
「まあ、私の事はどうでもいいのよ。問題はあなたが・・・」
咆哮
ビリビリと大気を震わせる獣の咆哮が私の言葉を遮った。
「な、今度は何だよ!?」
土間透はパニックになったように周囲を見回すが、私にもわからない。
今の声は一体なに?
「運動場の方向ね、行ってみましょう」
返事を聞かずに走り出す。
全力で走り抜けた先にソレは立っていた。
艶やかな漆黒の毛並み
発達した強靭な四肢
二本の捻れた角が天を差し
鋭い犬歯がギラリと光る
ソレは怪物だった
一匹の怪物が私の目の前で佇んでいた。