第94話 容赦などない。
残虐シーンありマス
「兄貴…本当に来るんですかね?」
「さてな。どのみち俺達は言われた事に従うしかない…これでフェリアちゃんを返してもらえるならな。だからお前もこの前みたいな軽率な行動は控えろよ…ギブン」
パン屋で武器を抜いた事を言われてギブンはバツが悪そうに肩を竦める。
「すんません、どうにも癖で…」
ブランドン商会の一人娘…フェリアが誘拐されてから1ヶ月、俺達ブランドン商会は商人ギルドのサントレイド支部長…パドックの指示を守るしか無かった。
「あのパン屋を標的に、と指示された意味も分からないが…」
「俺には難しいこたぁさっぱりでさぁ。とにかくフェリアさんが無事に帰ってきてくれたら…」
ギブンがそう言う途中でドアがノックされて来客を知らせる。
「…来たか、ギブン…連れてこい」
頷くとギブンがドアを開ける。
「金は持ってきたか?」
入ってきた銀髪の女に問うと頷いた。
「さっそく確認させてもらうぞ」
女はどうぞ、と言って机に袋を放り投げる。
袋は重い音を立て机には溢れた金貨が数枚散らばる。
「…手渡そうとは思わないので?」
「なんで私がそこまでしてあげなきゃいけないの?余計な事を喋る暇があるならさっさと数えたら?」
そういって勝手に椅子へと座った女の肩をギブンが掴もうとした瞬間…
「…私に触るな。触った瞬間、あんたの首は胴体にお別れを告げる事になるわよ?」
いつの間に抜いたのかすら分からなかった。
座っていたにも関わらずギブンの首筋には銀髪の女が腰に帯びていた剣が添えられ、珍しい形のその刀身にギブンの冷や汗を垂らした顔が映り込む。
「私はね、今機嫌が悪い。あんた達がさっき話していたのが本当だとしてもそのせいで傷付く者や迷惑を被った者がいる。これでも我慢してる…これ以上苛立たせるな。馬鹿共が」
強烈な殺意を向けられて二人は口を開く事すら出来なくなる。
駄目だ…コイツは本物だ。
今まで何度か危険な目にあってきたが…この目の前にいる女は別格だ。
「…早くしろと言った、本気で死にたいのかしら?」
「わ、分かった。少し待ってくれ…」
金貨を袋から取り出しながら10枚ずつの山を作っていく。
しかし…その途中で…
これは……?
チラっと銀髪の女を見るが相変わらず刺すような殺気を纏わせて座っている。
「……2枚多い。これは返す」
返された金貨をリンが受けとり"2枚…ね"と言って椅子から立ち上がる。
「さて、それじゃもう用は済んだから帰るわ…と言いたいけど…いい加減出てきたら?狙いは私でしょう?」
そう言い捨てると壁が揺らぎ、薄汚れた外套を纏った大男が現れた。
「…大したもんだな。アンリ達を殺しただけの事はあるぜ」
「誰よそれ?残念だけど記憶にないわ。人違いじゃない?」
リンは煙草に火を灯すと紫煙を吐き出す。
「それと…あんたの話なんてどうでも良いって言った筈よね?……お前が何処の誰であろうが関係無い。お前か?私の身内に手を出したゴミは?」
「気のつええ女は嫌いじゃねぇな」
リンの物言いに腹を立てる様子もなくニヤついた笑みを浮かべる大男にリンも嗤う。
「俺はハキム、それなりに有名でな"首狩り"って呼ばれてるんだが…どうだ?俺の女にならねぇか?」
「…話をするだけ無駄ね」
煙草の残りを一気に吸い紫煙をハキムの顔へと吐き出すと口を開く。
「私がここに来たのはお前達を狩る為だ。最初はカオリ、次はカレン、そしてスレイ。私を直接狙うならまだ良い…だがな分かるか?貴様達は、私の身内に!3回も!手を出した!…だから………死んで詫びろ」
リンの村雨がハキムの首へと振り抜かれ…刃は火花を散らして何かに阻まれた。
「おっと、いきなり斬りつけるのはいけねぇな」
「…馬鹿か。死んで詫びろと言った…それと、お前達は消えろ。邪魔よ」
何が起こったか分からず呆然としていたブランドン商会の二人に言い放つと二人はすぐに逃げ、それを見たリンは更に村雨に力を込めてハキムを押さえつける。
「俺と力比べってか?そんな細腕で…」
ハキムがリンを弾き飛ばすが身体を捻って着地、今まで片腕で握っていた村雨を両手で構え直すと上段に構える。
「いつまでも余裕なのは隠れたもう1人がいるからでしょ?」
リンの言葉にほんの一瞬だが眉をひくつかせたハキム。
「そうだとしたらお前が勝てる可能性は無いと分かるよな?」
ハキムのセリフにリンは声をあげて笑う。
「ふふ、あはははは!出来の良いオツムで笑えるわ!……たったの二人で私に勝てる?そう思って余裕こいてた自分達を恨むがいい!」
上段の構えからの振り下ろし、それはリンの力と村雨の重量…2つを合わせた破壊力はハキムの武器ごと本人を両断するには十分すぎる威力だった。
神速といえる速度で振り下ろされた刃は何も無かったかのようにハキムをすり抜け地面へと沈む。
「…で?それで終わりか?」
ニヤリと笑うハキムにリンは構わずホルスターからハンドガンを引き抜くと天井へ向けて4発立て続けに発砲、手足を撃ち抜かれ悲鳴をあげて落ちてきた黒ローブを見て嗤う。
「武器からしてこの大男じゃない。お前だな?スレイに怪我を負わせたのは」
肩に村雨を担いでゆっくりと近づいてくるリンに黒ローブは痛む手足を必死に動かして後ろにいるハキムの所まで這う。
「おい!あの女を殺せ!早く!」
足元まで来て叫ぶがそこで異変に気付く。
何故ハキムは動かない?
「…まさか」
「あは!死体に助けて貰えると思ってる?ソイツはとっくに死んでるわよ?」
黒ローブがハキムを見上げると見た目に傷はない…だが、ハキムは最後に嘲るような表情をしたまま虚ろな目で虚空を見ていた。
「知ってる?神速を越えた一撃って斬られたという自覚すらさせないの。コイツは幸せね…だってなんの苦痛も感じないまま死ねたんだから」
しゃがんで目線を合わせるリンに黒ローブは歯をガタガタ言わせながらも逃れようと必死に撃ち抜かれた手足を動かす。
「命乞いでもする?許さないけど。それとも最後の勝負に出る?どのみち殺すけど。……苦痛の果てに死ぬか起死回生を狙って死ぬか…さぁ、選べ」
ゴリッという音を立てて額にデザートイーグルを突き付けるリンに黒ローブは…
「油断、したな!貫け!"幻影の腕"」
予め仕掛けていた、来ると分かっているのに何も仕掛けない訳がない。
恐怖で何も出来ない、そう錯覚させる為に惨めな格好までしたのはこの為だった。
魔力で顕現した腕がリンの心臓目掛けて伸びる…これで、終わりだ。
「…残念。罠があるなんて想定済みなのよ」
延びてきた腕と身体の間、そこに腰に帯びていた村雨の鞘を割り込ませて払う。魔剣たる村雨の鞘は魔力に干渉する、それをリンはある出来事で知っていた。
パァンという音と共に魔力の腕が弾け、それを成したリンが黒ローブに顔を近づけて囁く。
「もう終わりか?ならば苦痛の果てに死ね」
リンはデザートイーグルを突き付けたままもう片方の手でナイフを引き抜くと迷わず黒ローブの太ももに突き立てる。
「ギャァァァァ!?クソがぁぁぁぁ!!絶対ゆるさ…」
叫ぶ黒ローブを無視して刺したナイフをグリッと回すリン。
更に悲鳴を上げると引き抜いてもう片方の足にもナイフを突き刺す。
返り血を浴びながらリンは嗤う。
「私はね、我慢してたの。この世界で息子も出来た、教え子も出来た、仲の良い友人も出来た…だから我慢していたの」
「…こんなごどじて……ただでぇいぎゃあぁぁぁ!?」
嗤いながらナイフを突き刺す目の前の女に絶望しながら叫ぶ。
「タダで済むと思うな?それはこっちのセリフよ。…後のメンバーを吐くなら楽に殺してあげるけど……どうしたい……?」
耳元で甘く、狂った声音で囁くリンに黒ローブは心底ゾッとする。
「だ、だれがおまえにおしえ…」
「次は…ここかしら?」
足と足の間…股にあるソレをナイフで指しなぞる。
「く、狂ってる!!殺すならころせぇぇぇぇ!!」
ザクッ。
絶叫し、泡を吹き意識を手放そうとした黒ローブの腕をデザートイーグルで撃ち抜いて覚醒させる。
「最後のチャンスよ?残りのメンバーを言え。そうしたら終わりにしてやる」
血の泡を吹きながら微かに口を開く黒ローブが話した内容に笑みを浮かべたリン。
「聞くべき事は聞けた、なら約束通り…」
リンは手に持った血塗れのナイフを振り上げて…黒ローブの耳を削ぎ落とす。
「楽に殺してあげる…それは嘘よ。最初に言った通り苦痛にまみれた死を。…安心して、残りの奴ら全員に同じ事をしてあげるから」
もう叫ぶ気力もない黒ローブ…それから10分以上の苦痛の果てに黒ローブは息絶えた。
血塗れのリンは近くにあった椅子に腰かけて煙草を吹かす。
「…ねぇ?隠れてないで出てきたら?」
「君は……どうして…」
声と共に出てきたのは冷や汗をかいたジンだった。
「……何が?」
「ここまでする必要が…あったか?これではまるで…」
ジンの言葉にリンは笑う。
「まるで、何?私の方が悪党だと?それとも…"狂ってる"と?」
「………」
「…何か言いたいなら言えば良いじゃない!ジン、あなたが今までこの世界で何をしてきたか知らない。だけどね、私は…貴方が考えてるほど綺麗な生き方はしてきてない。私はね、貴方が生きてきた中の常識だとか良識なんかとは無縁の世界で生き抜いてきたの。分かる?分からないわよね?だって私が生きてきた世界なんて知らないのだから!」
ダンッという音を立ててテーブルにナイフを突き立てたリン。
「そう、かも知れない。だけどじゃあ何で君は…そんな悲しそうな顔をしてるんだ?」




