第92話 事態はより複雑に
いやいや…どうしてこうなった。
確かに私が言い出したよ?カレンが落ち込んでるのを見てやっぱり買い物にいこうか、と。
だけどそれは旅に必要な物を買う予定であって断じて私の服や水着を買いに来た訳じゃない……筈だったんだけどな。
「先生にはこっちのビキニくらい過激な方が似合うと思うんです!私達と違ってスタイル良いし…大人の色気で攻めましょうよ!」
アディが持っているのは黒色で胸の中央で紐を結ぶタイプの水着だが布面積が…というかこんなの着る訳がない。
「……あのね、言っておくけど私は水着に拘るつもりないわよ。そもそも水錬に使うだけなんだから」
あんなビキニのどこが良いのか…あれじゃ激しく動いたら脱げる可能性があるじゃないの。
「…先生。ならとりあえずここで試着だけでも!」
やけに食いつくわね……?何故かカレンとカオリも頷いてるし。
「せっかく先生が連れてきてくれたんだからこういうのも見てみたいと思ったけど…駄目?」
カレンが手に持っているのもやたら露出の多い水着だし……カオリならそれなりの物を……
「これ…良いですね!先生の髪の色を引き立てるような…」
駄目だ。カオリもビキニを持ってくるとは…
「なんで皆私にビキニを着せたがるのよ………私は実用性のある…こんなのがいいわ」
リンが手にしたのはどこぞの囚人が着るような白黒の縞模様が特徴で腕や膝までをカバーするタイプだった…勿論、露出はない。
「これなら泳ぐのに支障もないし…ほら、お尻の部分にポケットもついてるから良い感じよ?」
「……流石にそれは無いと思いますけど。というかなんでそんなにビキニを嫌がるんです?今時これくらい普通だと思いますけど…」
「別にそういう水着とか嫌いって訳じゃないけどね。まぁアディ達には分からない事よ。……それと、先に言っておくけど!ジンとくっつけようとか考えるのも禁止!分かった??」
お節介というか面白がってる節があるからね、ベアトとかは特に。
「えー。良いじゃないですか!ジンさんって格好いいし、先生やカオリのピンチに何を置いても駆けつけてくれるなんて…すっごく素敵だと思いますよ?」
アディに同意してカレンも頷く。
「確かに。私もあの時居たんですけど…光る魔方陣の中から現れた時はなんというか…」
「…でも先生が放っておいてって言ってるんだし…余計な事はしなくても良いと思うよ?ジンさ…兄さんもこの前…っ!」
カオリが言いかけて慌てて口をつぐむ。
「なに?カオリはなんか知ってるね?どれ、アディさんとカレンさんに話してみなさい!」
三人が騒いでいるのについていけないと悟ったリンは店の奥で笑っていたこの店の店長…クレハに話しかける。
「煩くてごめんなさいね、店の迷惑でしょ?」
「とんでもない!むしろ賑やかで良いですよ!最近よく来てくれるんでアディちゃん達とはお友達なんですよ?」
へぇ、それでクレハ服飾店に行こうって言ってたのね…確かにここは服の質や値段も良いし私も結構お世話になってるからね。
「ところで…お兄さんを見ないけどどこかに行ってるの?いつもならすぐに出てきて筋肉自慢してくるのに…」
「兄なら数日前に突然『閃いたわ!グリフォンの毛皮でコート…すっごいお洒落よね!!』って叫びながら出ていったきりですね」
クレハはいつもの事なんですよ…と言って死んだ目をしながらどこか遠くを眺めていた。
「それ…大丈夫なの?グリフォンって危険度Sクラスだったと思うけど…」
「大丈夫ですよ、ああ見えて兄は異名持ちの冒険者ですし」
は?あの頭おかしいおネエになりきれてない筋肉ダルマが??
「…今物凄く兄の事変な人だと思いましたよね??確かに変ですけど…元は凄く頼りになるお兄ちゃんだったんですよ?何故か今は変ですけど」
何気に2回変って言ったわね。いやまぁあれは確かに変としか言えないけど…異名持ちの冒険者なら問題ない、のかな?
「その内帰ってきますよ。前にもドラゴンの鱗で水着を作れば…とか言って水竜を探しに行ったりとかスリーピングシープの毛皮でベットを作る!とか…とにかくいきなり思いつきで動く人ですからね……あはは。…はぁ」
その間は店を私1人で見ないといけないし大変なんですよ?とクレハは言うが…
「でもクレハは本気で嫌とは思ってないんでしょ?顔にそう書いてあるわ」
「そうですね…両親が亡くなって今まで兄さんが代わりに育ててくれて……だから兄さんは好きに生きて良いと思ってるんです」
「まぁ人それぞれ趣味はあるだろうけど…もうちょっと自重するように言った方がいいと思うわよ?初対面であの容姿はクるものがあるというか…インパクト強すぎでしょ」
筋肉モリモリのオカマって誰得って話よ。
「それは常に言ってますよ!でも何故かそこは譲らないんですよね…リンさんからも言ってくださいよ」
「無理。今までああいうのに関わって良いことなんて1つもなかったし。…そもそも言って聞くならあそこまで拗れてないでしょ?諦めなさい」
「ですよね…」
さてそろそろカオリ達も買うものが決まったかな?時間的にもそろそろ夕刻だしここらで一旦家に……ってあれは…?
店の中からでチラっとしか見えなかったが…向かいの建物の屋上を走っていたのはスレイだった。
そのすぐ後ろを追いかけている黒いローブを纏った人間…あのローブは見覚えがある。
確かあれはカオリを狙ってきた…それが何故スレイを?
「…カオリ、これで支払いを済ませたら家に戻ってなさい。私は少し寄る場所があるから…」
「え?分かりました…アディとカレンは?」
「私とカレンは寮に帰るって言いたいけど…夜ご飯は外で食べるって寮長に言ってきたんだよね。だからどこか食堂に寄っていく予定…「なら二人とも私の家で食べていきなさい。どうせ後からカレンの家に行く必要もあるからその時まとめて送っていってあげる」
有無を言わさずな雰囲気のリンに頷く三人…皆に真っ直ぐ帰るのよ?と言ってからクレハにまた来ると挨拶をして店を出る。
走っていったのは北の方角だったけど…あっちには確か…
「貸し倉庫が並んでいる区画があったはず。それにスレイは誰かを抱えていた…間に合えば良いけど…」
あの黒ローブはアルバートにも警告されていた奴ら…闇ギルドだったかしら?迷惑な連中に目をつけられたものね。
トンッというくらいの軽快さで屋根を移動していくリンがスレイに追い付いた時、目の前に広がっていた光景…それは…
「スレイ!?」
血溜まりに倒れているスレイの姿だった。




