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私が異世界に流されて…  作者: カルバリン
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第91話 死人の鎌


「は?金貨100枚ですよ?あなたが払うのですか??」


馬鹿にしたように笑う男にイラっとくるが別に払えない額でもない。


「そう言ってるでしょうが。その詐欺みたいな契約書通りにキッチリ100枚払ってやるわよ」


「先生…それは…」


カレンが止めようとするがリンは手で制すとさぁ、どうする?と男に問う。


「…良いでしょう、ならば払って貰いますよ。我々は払って貰えればそれで良いですからね…しかし困りました、今は原本を持っていないのです」


わざとらしく肩を竦める男…


さて…払っても良いけどこの手の奴が大人しく満足して終わるとも思えない。


「…こうしましょう、これから我々の拠点まで来ていただいて払って貰う…どうですか?」


「…まぁ良いわよ。何か企んでも構わないけど…約束を破るなら容赦しないっていうのは覚えておきなさいよ?」


「勿論。では…先に行ってお待ちしてますよ。場所は…こちらの紙に書いてありますので」


去っていく男達を見ていたリンが振り返るとカレン達がカレンの父親を手当てしていた。


「私はカレンの父親でトランと言います……カレンから聞きました、あなたがカレンの学校の先生だと。…お見苦しい所をお見せしたばかりか巻き込む形になってしまい……」


「いえ、自分から関わったのでお気になさらず。しかし…あんな詐欺紛いの行為は訴えてもいいのでは??」


「そうできれば良いのですが…我々が登録している商人ギルドのサントレイド支部と彼ら…"ブランドン商会"は密接な関係にありますから…」


なるほど、逆らえば商人ギルドに睨まれるという訳か。

どこの世界でも権力に群がる奴らってのは賄賂やら裏工作やらするのが当たり前ってね。


「去年の冬が不作だったらしく小麦が高騰して材料費で圧迫されて…ギルドへの支払いが出来ない状態になってしまい…仕方なく借りたのですが」


これは……商人ギルドと組んでるからそりゃ契約書の改竄くらいやっても何とかなるって訳か。


うーん、この世界の汚職とかはっきり言って興味無いし好きにしたらって思う………但しそれは私の周囲に害が及ばないなら、って話。

私は不正を絶対許さない正義の味方でも救世主でもない、元の世界でもこんな事は常に蔓延っていたし、全ての人を救うなんて馬鹿みたいな事出来る訳が無い。

私がやってきたのはずっと同じ事…"自分が守れる範囲は必ず守る"それだけなのだから。


「アディ、せっかく誘ってもらったけど…今日は無理ね。あなた達はカレンと一緒に居てあげなさい、もし危険だと思ったら近くにスレイが居るはずだから呼んで私の家に逃げれば問題ないから」


「私だってAランクの冒険者ですよ?それなりに戦えますし!」


「……アディ、あなたが冒険者ってのは分かってるけど…一人で複数護衛なんて並みじゃ出来ないのよ?レリックやスレイ、カリムは経験でそれを知ってるから動く事が出来る」


「……でも!」


不満そうなアディにため息を吐くとリンは真剣な顔でアディに近づく。


「でも、じゃない。自分が出来る事を見誤っては駄目よ?アディ、あなたのメイン武器はなに?弓でしょう?魔術も詠唱しないと使えない、咄嗟に動く事が出来る訳でもない…そうでしょ?」


強く言い過ぎとは思うけど…勘違いさせたままだといつかアディは取り返しのつかない失敗をすると思うから。

実力があってそれ相応の実績があるのかもしれないが…見ていて感じるのはあらゆる事態に一人で対処出来る程経験は積んでないという点。

カオリとカレンを入れて3人で組めば多少は大丈夫だろうが近くにスレイが居るなら敢えてそんな危険を犯す必要は無いのだから。


「…………」


「アディ、今度しっかり遠距離での立ち回りを教えるから必ず約束を守って無茶はしない。大人しくカレン達とここで待ってる事…それが難しい場合はすぐに助けを呼ぶ事。アディは冒険者だから分かるわね?」


不満気だが頷くアディの肩をポンっと叩くとリンはカレンの父親に向き直る。


「いつも息子が買ってくるパン…美味しいです。こんな嫌がらせみたいなやり口に負けずこれからもパンを焼いてくださいね?」


「勿論です!ただ…お金に関して……」


そこまでトランが言いかけた時、リンは背後からの殺気を感じて反射的に村雨へと手を伸ばす。


「よくもウチの旦那に!!そんな馬鹿みたいなお金を払う気は無いっていったはずでしょ!!」


物凄い勢いで駆けてきて有無を言わさず殴りかかってきた妙齢の女性の拳を受け止めたが…すぐにその女性は膝蹴りをリンの身体に打ち込んで密着してくる。


「っ!?いきなり…!」


「カレン!あたしの"レガース"を持ってきな!!この女…この前の馬鹿共とは一味違うじゃないさ!」


ん?良く見たらカレンに顔立ちが似てるし…さっきトランさんの事を旦那って言ったわね?


「待って、話を…」


「馬鹿共に雇われたんだろうけどこっちは不当に払うつもりなんて無いんだ!さっさと帰りな!!」


反撃するわけにもいかず繰り出される攻撃をいなしたり受け止めたりしていたリンだが…服を掴まれてそのまま店の外へと二人で飛び出す。


「お母さん!!やめてよ!その人は……」


「ミリア!その方は…」


唸りを上げて迫る拳を払ってガードするリンだったがカレン達の話が聞こえない位頭に血が昇ってるらしい女性をどうするか迷う。


叩きのめすのは簡単だけど…流石に生徒の親をってのは…不味いか………と思うけどさっきから割りと痛いのよね。特に蹴りが。

拳は牽制で本命は魔力で強化しているらしい蹴り技…地味にガードの上からダメージが入る程に強烈な蹴りで鈍い痛みが段々とキツくなる。


「カレン!トランさん!話を聞かない以上反撃しても良いわよね?!」


リンの叫びに二人は何度も頷く…それを見たリンはニヤリと笑う。


「人の話を聞かないそっちが悪い…後から文句言わないでよ?」


スッと構えたリンに思いっきり力を込めた蹴りが迫り、当たった瞬間…宙を舞ったのは女性の方だった。


「……は??」


何が起きたか分からずただ呆然と宙を舞う女性の足を掴んで思い切り振り回すリン。


「人って振り回せるんだね……」


カオリの呟きにアディもソウダネ、と乾いた笑みを浮かべる。


そしてそのまま放り投げると振り回されて感覚が狂った女性は地面に落ちて転がった。

本当は思い切り地面に叩きつけるのだけど…それは流石に死んでしまう。


地面に落ちた衝撃で完全に気絶した女性を片手で拾い上げると慌ててトランが駆け寄ってくる。


「ミリア!……ウチの嫁がとんだ迷惑を!本当に申し訳ありません!」


「いや、気にしてないので…それに一応手加減はしましたけど私も手を出した訳ですし。心配のあまりやったことでしょうから」


しかしそれよりも気になるのはカレンの母親が意外と強かったって事ね。

あれだけ強ければ…いや、権力を振り翳されたらどうしようもないか。


「はぁ……とりあえずミリアさん、が目を覚ますまで待ちましょうか。手加減したとはいえ心配ですからね…それから払いに向いっても遅くはないでしょう」


さて…と。


リンが近くで様子を見ていたスレイに視線を向けて合図を送ると頷いたスレイはすぐに建物の影に消えていった。


こっちの意図を汲んで動いてくれるから助かるわ。スレイがアイツらを調べてから動いても問題無さそうだし…


チラリとカレンの母親に視線を向けるが完全に気絶しているみたいでいつ目が覚めるかも分からないとなればここに居る必要もないな。


「夜まで時間が出来たから予定通り買い物にいくわよ。私が側にいれば問題は無いからね」


ここに居てカレンの母親が起きた時また襲われないとも言えないし………面倒な相手は避けるに限るのよ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


リンが3人を連れてカレンの家から出た頃…スレイは屋根伝いに男達を追っていた。


アイツらはブランドン商会の連中みたいだが…向かっているのはブランドン商会の建物じゃないッスね。


ブランドン商会は今向かっている方向とは反対の通りにある筈…元々この街に来た時点である程度調べていたスレイは首を傾げる。


姐さんとのやり取りを聞いた限りじゃ向かうべきはブランドン商会の筈ッスけど……


暫く追跡していると二人は周囲を警戒しつつ見た目は普通の民家へと入っていく。


スッと気配を消してその民家の屋根へと移動したスレイは屋根に設置された窓の隙間から中を伺う。


「……あれは………!」


いや、まだそうと決まった訳じゃないっすね…もしこれが奴ら(・・)ならかなり面倒なことになるッスけど……。


「…申し訳ない。途中で変な女が出てきて金を払うって話になった」


「なに…?どういうことだ?」


黒いフードを被った男が不機嫌そうに口を開く。


「言われた通りにやったんだ!そしたらいきなり現れた銀髪の女が金を払うって言うから夜ここに持ってこいと…」


「……馬鹿が。ソイツは…」

「いいんじゃねーか?多少計画とは違うが問題ねぇさ。銀髪の女…リンって奴に間違いないだろ」


更に奥から現れた男を見てスレイは確信する。


フードの男と違って堂々と姿を晒した男をスレイは知っていた。

あれは闇ギルド…"死人の鎌(デッドマンサイス)"の幹部…"首狩り"の異名を持つ殺し屋でスレイ達が所属していた傭兵団とも幾度か争った敵だ。


スキンヘッドに刺青を入れた男は首狩りという異名の通り狙った獲物の首を刈り取るのが特徴で過去何度も暗殺依頼を受けて必ず首を刈る…スレイからしてもあまり相手にしたくないと言える敵だった。


これは厄介な事になったっすね…しかもあの口振りからすると元々の狙いは姐さんみたいっすけど。


「あの女にはこの場所に来るように紙を渡したんで…これで約束は果たしたって訳にはいかないですか?」


「……どうするよ、ウェスリー?」


「まだ駄目だ。あの女を始末するまでは付き合ってもらう」


フードの男の言葉にそんな!と言う男達…それは約束が違う!と。


「反論は受け付けない。協力が出来ないのであれば…彼女(・・)の安全は保証しかねるな」


………相当厄介な感じになってきたっすね……一先ず報告…いや、奴らが言う彼女(・・)とやらが何なのかも確かめた方が良いんじゃないか?


男二人が出ていった後、首狩りはさも面倒臭いといった雰囲気で椅子に音を立てて座る。


「なぁウェスリー、こんな面倒やらずに直接その女ブッ殺せばいいと思うぜ?大体よ…学院のガキ拐おうとして結局失敗したってのに」


「これも命令だ。奴1人なら正面から仕掛けて勝てるが周りにいる連中が厄介だ」


「へぇ?別に何人いても変わらねぇがな」


ウェスリーは溜め息を吐くと首狩りに紙束を渡す。


「可能な限り調べたが…何度か気付かれそうになった場面もある。はっきり言ってあの家はそこらの要塞より守りが硬い…本人である"銀髪の悪魔"、"天剣"、"灰塵"、"欠け月"、元傭兵団"暁の翼"の二人……更に最近になって"剣鬼"まであの家に住んでるんだぞ?それを聞いても正面から勝てるというなら好きにしろ。俺は御免だ」


「……こりゃまたとんでもねぇな。だが今日の夜…ここに来るんだろう?ならそんときに片を付けるしかねぇな」


「それしか無いだろう。後は人質をどうするか…」


「殺しとくか?ガキを殺すのは良い気分しねぇんだがな……」


首狩りが立ち上がり部屋を出ようとした時、扉をノックする音が聞こえた。


「…………ウェスリー」「ああ」


首狩りは扉から死角となる場所に移動し、ウェスリーが扉の様子を窺う。


しかし扉の外には誰もいない………。


「……ウェスリー、ちっと嫌な予感がするんだがな」


「…まさか!」


何かに気が付いたウェスリーが慌てて2階へと走り、そのままの勢いで扉を開くと…


「やられた!人質を奪われた!」


部屋に居た筈の人質…ブランドン商会の娘である少女が消えていた。


「まぁいいじゃねぇか。どうせもう必要無かったんだしよ」


無駄な処理をする手間が省けたじゃねーか、と言う首狩りにウェスリーは頭を抱えるとそうじゃない!と叫ぶ。


「あぁ!面倒な事になった!少なくとも俺の魔術を解除出来るレベルの人間が人質を連れていったんだぞ?!それが…」


言いかけたウェスリーは口を閉ざす。


「慌てるなよ。逃げたなら追いかければ良いだけだろ?」


目の前の首狩りから放たれる殺気はウェスリーをして身震いさせられる程に強烈だったが…それで冷静になったウェスリーは首を振る。


「…お前が行けば必ず騒動になる。俺が行く」


そうかい、と言って首狩りは部屋にあったベッドへと転がる。


「場所を変えるぞ、街の北にある廃教会に行っててくれ」


了解、と言って手をヒラヒラさせる首狩りを見たウェスリーは窓から飛び出す。

それを見送った首狩りは先ほど渡された紙束から1枚を取り出して眺める。


「…銀髪の悪魔ねぇ。あぁ、早くブッ殺してぇなぁ」

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