第86話 狂乱…
「えっと…本当にいいんですか?私とジン…さんも一緒にって話ですけど…」
「勿論よ、カオリが嫌じゃなければだけどね」
放課後にリンから呼び出されたカオリはリンから一緒に住まないか?と言われ迷っていた。
「嫌じゃないです!…そうじゃないんですけど」
「カオリ、私にはあなたが必要なのよ!」
ガシッと肩を掴まれたカオリは驚いてリンを見るとリンは真剣な顔をしてカオリを見つめていた。
え、えぇ…??
間近にあるリンの整っているが迫力がある顔…さらに吸い込まれそうになるそれぞれ異なる色彩の瞳に見つめられてカオリは頬を染める。
「あ、あの…ち、近いです…!」
あ…でも先生って凄くいい匂いがする……。
「ゴホッ!!…リンよ、なぁにをやっとるんじゃ!」
後ろからアルバートの声が聞こえてハッとしたカオリはリンから慌てて離れる。
「ん?何ってさっき話したでしょ?カオリをウチの子にしようと思って」
カオリを近くの椅子に座らせて長い髪を払いながら自分も隣に座る。
「お主はもちっと自分の容姿に関して考えんとダメじゃな。そのように色香を振り撒けばその内大変な目に遭うぞい」
首を傾げるリンにアルバートがため息を吐く。
「カオリ君、君は望まない結果とはいえ帝国や聖教国と関わってしもうた。リンやレリック殿、スレイ殿からもカオリを守るには学園寮では難しいとの意見が出ての…安全を考えた場合リンの屋敷が一番安全だとなったんじゃ」
無論、望まぬ場合は他にも候補はあるんじゃよ?とアルバートは柔らかい笑みを浮かべる。
カオリは横にいるリンをチラッと見るが…リンはカオリが決めなさい、と言って笑った。
「私が…」
今までこの世界で自由になった事なんてほとんどなかった。
「選んでも……」
だけど…今は…
「いいんですか…?」
リンとアルバートは二人とも頷く。
「先生……お世話になっても…良いですか?」
カオリがそう言った瞬間、リンはガバッという感じでカオリを抱き締める。
「幾らでもお世話してあげるわよ!地球にいるご両親の代わりとは言えないけど…危険は私が排除する、寂しい思いもさせない!…絶対にね」
そうだ、この感触…あの夜抱き締められて眠ったあの時みたいな…
駄目だ…最近私って…泣いてばかりだな…
嗚咽を漏らすカオリの背を泣き止むまで擦りながら天を仰ぐ。
カオリのご両親に…あなた達の子供はちゃんとこの世界で生きています…って伝えられたら良いのにね。
「リン、ワシは手続きを済ませるでな。カオリ君が落ち着いたら連れて帰りなさい」
「ええ、分かったわ。アルバート、あなたには感謝してる…ありがとう」
手をヒラヒラさせて部屋から出ていったアルバートにもう一度心の中で礼を言う。
……暫くして泣き止んだカオリと学園から出る。
外に出るともう太陽が沈み始めて街は綺麗な茜色に染まっていた。
「さぁて!今日はお祝いよ!」
「えっと…その…色々とすいま…」
言いかけたカオリの口を人差し指で塞ぐ。
「気にしないの。今まで迷惑なんて思った事はないし、子供は大人に甘えるものよ?」
夕陽を背に微笑むリンにカオリも笑みを溢す。
「はい…!これから…お世話になります…先生!」
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「ジンは2階の右端の部屋ね、隣はレリックとスレイだから部屋を変えたければ二人と相談してね?カオリは…好きな部屋を選んでいいわよ、といっても私の隣か1階の端部屋しかないけど…ああ、なんだったら私の部屋でも良いわよ?」
「それはちょっと…」
「ま、そうでしょうね。急ぎって訳でもないしゆっくり決めたらいいわ」
それからは空いている部屋をそれぞれ見たり、訓練から帰ってきたレンとカリムと話をしたりしたあと…二人はキッチンへと来ていた。
「…先生、もしかしてとは思っていたんですけど……料理が…苦手です…?」
「カオリ、それ以上は言わないでちょうだい…分かってはいるのよ。…で、でもね?食べられないって事はないと思う訳で…」
「えっと…まぁそう…ですかね?」
見ていた感じでは普通だったのに何故か美味しくない……というか不味い。
苦手…いや、それ以前の問題かもしれない…とは言えず珍しく弱々しいリンの姿を見てカオリはそっと壁に掛けてあった食事当番ボードに書いてあったリンの名前を消して自分の名前を書き込んだ。
「…え、カオリ?」
「大丈夫です。先生の代わりにやりますから!」
えぇ……。
「こう見えて料理はそれなりに出来るので!」
抵抗は無駄と悟ったリンはカオリに任せる事にしたが…その日の夜、ベアトリクスと酒を飲んでいたリンはしょんぼりとしていたという…。
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「わたしだってぇ…れんしゅうしてるのにぃ…」
「リン、あんたもうやめときなよ?飲み過ぎだって」
あちゃあ…最初は愚痴を面白可笑しく聞きながら飲ませてたけど…やりすぎたわ。
「べあと!まだたりないわ!さけをもってこ~い!」
ふらふらとした足取りで棚からまた1瓶"火酒"を取り出して一気に呷る。
「馬鹿!そんな飲み方したら…!」
普通の人間なら火酒をイッキ飲みなんてしたら卒倒するのだが…リンはあらゆる耐性が高いからか完全に酔っぱらってはいるものの倒れたりはしなかった……しなかったのだが…
「うるひゃいわね!べあとぉ…?あんたものめ!」
「うぷっ?!ちょ、ちょっとまっ!?」
口に瓶を無理矢理突っ込まれて飲まされるベアトリクスが抵抗しようと力を込めてもまるで歯が立たない。
酔っぱらってんのにこの馬鹿力!くっ!一気に飲み過ぎて視界が回る……
それから一時間…さらに被害は拡大する事となる。
「スレイ、お前は先にリンの所へソレを持っていってくれ」
レリックがスレイの持っている袋を指して言うとスレイは頷く。
「了解っす、まさかこんな良いモノが手に入るとは思わなかったっすからね。姉御達が喜ぶっすよ~コイツは」
「俺はちょっと部屋に荷物を置いてくるよ。レリックは?あなたも1杯やるんだろ?」
「いや、今日は俺が飲まずにいようと思う、明日はスレイに任せる予定だから明日だな俺が飲めるのは」
リンの家に居候している3人は順番で警戒を行っている。元々はレリックとスレイでやっていたがジンが当番の存在を知って参加すると言ったから今は3人でやっている。…ちなみにカリムは寝る必要がないので常に当番に入っている。
「そうか…なら任せるよ。一応何かあればすぐに動ける程度しか飲まないけどね」
「ジンさんは真面目っすねぇ、俺は呑むっすよ?どうせいつもみたいにベアトの姉御から呑まされて潰されるッスから。リン姐さんが早めに止めてくれたら別っすけどね」
大抵の場合はリンもベアトリクスも面白がってスレイをオモチャみたいにしてからかっている。
毎回次の日にスレイが"頭…割れそうっす"と言ってぐったりしている。
だがたまにリンが止める時もあるし、レンが止めてくれた事もあった。
しかし彼らは知らない…今から向かう談話室がとんでもない事になっているということを…。
「ベアトの姉御~!これを…っぷ?!」
スレイが扉を開いた時…部屋の中から強烈な酒精の香りが漂ってきた。
「…す~れ~い~!は~や~く~さけもってこ~い!」
「スレイ!た、たすけれぇ…!」
スレイの目の前にはくんず解れつしながら床に転がっているベアトリクスとリンの姿…それを見たスレイは…固まった。
ベアトリクスはリンから逃げようとしている内に上半身の服が脱げてそこそこはある胸が見えているし、リンに至ってはそもそもズボンすら履いていない。
引き締まっているけれど女性特有の柔らかそうな肉体を惜しげもなく晒して絡み合う2人をみて固まったスレイはすぐに正気に戻ると慌ててベアトリクスからリンを引き剥がそうとする。
「ちょ!姐さん!?一旦落ち着いて下さいッス!!色々と丸見えっすよ!?」
出来るだけ見ないようにリンの腕を掴むと力を込めて引き剥がそうとしたが…動かない。
「酔っぱらってるクセに何でこんな力があるんすか!?レリック先輩!た、助けて下さいッス!!って!姐さん!?あっ!ちょっ!そこは……アーーーーーーッ!!?」
スレイの悲鳴が響きわたり慌ててジンとレリックが駆けつけると……
「うお?!」「は、裸?!」
「うへへぇ、にがさな~い」
羽交い締めにされるベアトリクスとリンの間で苦悶とも幸せそうともいえる顔で挟まっているスレイ。
「…とりあえず、酔いを醒まさせるとしよう。ジンはリンを頼む。俺はベアトリクスを助ける」
頷いたジン。
レリックはリン達に向けて手をかざすと"ウォーター"と唱えた。
すると空中に大きな水球が現れてリン達3人にバシャッと音を立ててぶちまけられた。
「あとは…」
レリックは続けて棚の引き出しから紫色の液体が入った小瓶を取り出すと迷わずリンとベアトリクスの口に流し込む。
飲ませる直前、ベアトリクスが「なんでわたしまで?!」と言っていたが無視したレリック。
「それ…大丈夫なのか?」
飲ませた途端、パタッと倒れたリンとベアトリクスを見て不安になったジンの問いにレリックは頷く。
「これは魔力回復薬だからな。といっても普通の魔力回復薬じゃなくて失敗作を買い取ったものだが…性能に問題はない。……但し気絶するほど不味いがな」
気絶するレベルに不味いって…それは既に魔力回復薬じゃなくて毒では?と内心思ったがそんな物がこの部屋の棚から出てきたということは…
「もしかして前にも…?」
「ああ、といっても酔いすぎて動けないスレイに俺が飲ませただけだがな。リンがここまでその…乱れてるのは初めてだ」
そういって近くに落ちていたリンのシャツとズボンを拾ってリンを抑えていたジンに渡す。
「そっちは任せたぞ」
レリックはベアトリクスを抱き上げてソファーに連れていくと乱れていた服を整えだした。
「…手慣れてるなぁ。…というかこれを俺に着せろと?」
手元にあるリンのシャツとズボン…当然そこにあるということは…そういうことである。
覚悟を決めて服を着せようと腕を掴んだ瞬間、目を開いたリンと視線が重なった。
「あっ……」
「…………ん?階堂君…?」
リンはジンが持っているものを見てから視線を自分に向けた…そして…
「いや、違う!?俺が脱がせた訳じゃ…」
慌てるジンの頬にバァンとビンタとは思えない音を響かせてリンのビンタが炸裂しジンは宙を舞う。
彼は宙を舞いながら思った…理不尽だ…と。




