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私が異世界に流されて…  作者: カルバリン
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第83話 カオリとジン


「…ねえ?カオリはどうやって"剣鬼"を呼んだのさ?知り合いってだけでも驚くのにまさかあんな現れかたするなんて思わないでしょ」


「多分…これです。このミサンガに術式を込めたって言ってたので…気休めみたいなものだって今まで思ってたんですけど…」


腕に巻いていたミサンガを外してベアトリクスへ渡す。


「……ちょ!?これ…付与魔法が3つも付与されてるわよ?!『保存』『召喚』『アラート』こんな小さな装飾品に3つも付与するなんて…一流の付与師でも無理よ」


そんなに凄い物だったんだ…でもそうか、ジンさんはこのミサンガをとても大事にしていたから。

その大事なミサンガを渡す事でいつでも私はジンさんから守られていたんだ。


「ジンさんには…私がこの世界に飛ばされたばかりの頃…ゴブリンに襲われていた所を助けて貰ったんです」


緑色の気持ち悪いナニか…何が起こったか分からないまま呆然としていた私に組みかかってきたゴブリンを蹴り飛ばして救ってくれた…


『大丈夫かい?』


間に合って良かった、と言って手を差しのべてくれた時…ジンさんは目を細めながら"キミは…日本人か?"

頷いた私に少し悲しそうな顔をしたのが未だに印象的で…


「そっか…キミ、名前は?俺は階堂刃…ジンって呼んでくれ」


「…わ、私は篠田、篠田香織です。助けていただきありがとうございます!」


「はは、日本人って感じだなぁ…篠田さんはもしかして転移者かな?」


転移…?


「ああ、すまない!まだ良く分かってなかったみたいだな。簡単な説明位しか出来ないが…良かったら俺と来るか?」


それからジンさんに聞いた話で自分に何が起きたのか理解した。

元の世界で死んだ筈が今ここで生きている理由…そしてもう戻れないだろうって事も。


ジンさんは元の世界で死んだ訳じゃなく召喚によってこの世界に来た"召喚者"という部類で私のような元の世界で死んだ状態で世界を渡ったような人は"転移者"そして元の姿ではなく魂だけが転移して生まれ変わるのが"転生者"という分け方をする。


私のような場合は転移者になる。ただこの世界の認識として私達には必ず"ギフト"と呼ばれる技能が付与されるらしいけれど、ギフトを持ってない人はギフト無し…と言われて蔑まれる。


……だけどこれは本来間違っている。そもそもギフトを持っていない異世界人はいない(・・・)。その人にあるギフトが目に見える形の物でない場合、つまり武器やステータスチェックなどで見える魔法や戦闘全般の技能など以外の時…例えば少しだけ物事の確率が自分に有利に働く、能力の成長倍率が人より高い等…それ以外では後天的に発現するものもあったらしい。


いつだったかジンがカオリに対して語ったのが『ギフト無し、そんな言葉に惑わされるな。元の世界で死んでしまった、もう家族には会えない…確かに悲しいさ、だがカオリは召喚者のように他人の都合でここにいる訳じゃない。死んでこれからの時間が無にならずに新たに人生を歩む…その機会が与えられたんだと思えば良いんだ。君の両親だってカオリが生きていられる方法があるのならそう願うはずだ』


大丈夫、俺も長くは居られないが…すぐに用事を片付けて戻ってくる。実を言えばカオリは俺の妹に似てるから放っておけないんだよなぁ…

だけど俺がやるべき事は絶対にやる…本当は連れて行ければいいが危険だしカオリを危ない目に合わせたくない。


連れては行けない、だがその代わり…これを大切に預かっててくれ。俺が元の世界から持っていた唯一の物なんだ…


渡されたミサンガはカオリから見ても編み間違って太さもマチマチだし色ズレも酷いけど…大切にしているんだと一目で分かった。


「こんな大切な物…自分で持っていた方が…」


「これには俺が術式を刻んである。それに必ず帰るって約束がわりさ」


大丈夫、もしカオリが助けて欲しいと願ったら…飛んで帰ってくる。内緒だけどこう見えて俺は昔世界を救った事もあるんだぜ?


そう言ったジンの表情は悪戯っぽくて自分と同年代みたいだった。


それから私を学校へと入学させる手続きをしたり、旅に必要な物を準備してからジンは旅に出た。


"帰ってきたらその他人行儀な呼び方は変えてくれよ?せっかく俺とは砕けた口調で話せる様になったんだからな。その方が俺は家族みたいで嬉しいからな"


旅に出る直前まで冗談を言ってくれたジンさん…先生を助けて帰ってきたら前に言えなかった事を言おう。


過去の話をしたっきり街の門の前で黙って外を見ていたカオリ…カレンやガイはカリムが学生寮へと送っていったのでこの場にはベアトリクスしかいない。


「…あんたも、色々あったんだねぇ。あの"剣鬼"はカオリとの約束は守ると思うからさ、そんな不安そうな表情してないで信じてあげな」


門の横の壁に背を預けて眺めていたベアトリクスの言葉にカオリが顔を向ける。


「考えてみなよ?剣鬼が何を目的にしてどこを旅してたか知らないけどそれを二の次にしてでもカオリ、あんたの願いを聞いて馬鹿みたいな転移陣を使って戻ってきた。そんな事は並みの奴に出来る事じゃないよ?よっぽどカオリを大切に思ってるんだろうし…家族(・・)として認めてるでしょ?カオリも剣鬼をさ」


そう…なんだと思う。ジンさんが魔方陣から現れた時私は…安心したんだ。


「……ありがとうございます、ベアトリクスさんに言われて改めて気が付きました。ジンさんが居なくなってから感じていたモヤモヤする感じ…」


そういったカオリの表情を見てベアトリクスも微笑む。


「そっか…ならいいんじゃない?……ほらあれ見てみな」


ベアトリクスが指した方向にはこちらに向けて歩いてくる数人の人影…


シュノアと知らない男の人、それから男の人に抱えられたアディに……


「先生!!レン君も!」


ボロボロではあるけどしっかりと自分の足で歩くリンがレンを抱っこしていてその隣にいたジン。


駆け寄るカオリ…それに応えるようにリンも手を振る。


「心配かけたわね、まぁ見た目より元気だから…そんなに泣かないの」


頭を撫でるリンを見てジンも


「な?必ず助けるっていっただろ?」


「うん…!ありがとう…ジン…お兄ちゃん(・・・・・)


カオリの言葉にジンが驚いた表情をして固まる。


「…か、カオリ…?今……」


「…今までずっと私が気付かない間も守ってくれてた…最初に助けられた日からずっと…旅に出たあの日言い出せなかったからずっと言いたかったの!私だって…大切な家族だと思ってるよ…って」


泣きながら言うカオリの頭を撫でていたリンはスッと手を話して横にずれる。


「…ほら、階堂くん。()が泣いてるんだから抱き締めてあげたら?」


ゆっくりとジンがカオリを抱き締めるとカオリもジンの背中に手を伸ばす。


「ごめんな、一人にしてさ。だけど…嬉しいな、カオリからお兄ちゃんって呼ばれるなんてさ」


「大丈夫…最初は寂しかったけど…最近は皆とも仲良く出来たし…先生にも良くして貰ってるから…。ジンさんも…無事で良かった…」


「……そこはお兄ちゃんって言って欲しかったな!」


「……皆の前だとやっぱり恥ずかしいから…」


そんなぁ!と言って情けない声をあげるジンを見てカオリも笑う。


「んじゃ、帰ろっか?……あ、それとリンは説教だからね?まーた人の忠告無視してくれちゃってさ。クライスさんも大変だって言ってたかんね?街で暴れた分と奥さんの治療から逃げた分と…覚悟しときなさいよ」


流石のリンもそれを聞いて苦笑いを浮かべるしかなかった。


「ま、しょうがないわね。今回は息子共々色んな人に迷惑を掛けちゃったし…甘んじて説教を受けるとするわ」


「ぶは!嬢ちゃんが説教されるなら俺も見学してえな!」


黙っていたガルが口を開くとリンは睨みながら


「ガル、あんたもよ!私のせいとはいえシュノアがあんな場所に居た理由から何から全部白状させるからね?」


「うへぇ…やぶ蛇だったか…だが俺にゃこの全盛期の肉体が…」


そこまで言った瞬間、ガルの身体が光を放って消えていき、抱えていたアディが地面に落ちてグギュっという女性があげてはいけない悲鳴をあげた。


「そうそう、その腕輪に貯められた魔力が切れたら強制的に本体に戻るから」


『まじか…せっかく身体がって思ったのによぉ』


文句を言うガルを尻目にシュノアが落とされたアディに手を差し出して起こす。


「いたた。もう…何なのよ。ってあれ?ここは…ってカオリ?それに知らないイケメンと…べ、ベアトリクス様?!」


「へ?私?確かにベアトリクスだけど…様ってなによ」


「あわわわ…ほ、本物だ…!わ、私ベアトリクス様に憧れて…」

「はい、ストップ。アディ、それはまた今度ね。とりあえず皆疲れてるし私の家に皆来てちょうだい、今日はゆっくり休みましょう」


皆が頷くと渋々ながらアディも頷く。


「そうと決まれば急ぐわよ!汗臭くてお風呂にも入りたいしさ」


女性一同の賛成!という声で再び歩き出したリン達だった。

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