第82話 ミサンガに込められた想い
「カオリ殿、さぁ手を…」
「カリムさん…先生に攻撃されてましたけど大丈夫でしたか?」
「なぁに、リン殿は弱っているのだから見た目ほど威力は込められておらぬよ」
骸骨の顔が笑った様に感じたけど、それどころじゃないのを思い出した。
「そういえばアディと先生は?!」
さっきの爆発で周りに人が集まってきているけれど…そこに先生達の姿はない。
「リン殿が一緒ならそう危険な事にはならないとは思うが…これ以上は我らに出来る事は無さそうだ。早めにベアトリクス殿達に連絡をしたほうが良い」
「あ、居た!カオリ!ってうわっ!?何でスケルトンがここに?!」
人混みを掻き分けて来たのはカレンとガイだった。
「む…彼女らは??」
「私の学友です、女の子がカレン、男の子がガイって名前なんですけれど…」
「カオリ!…アンデットが何でこんな街の中に…!?」
カレンが背中に背負っていた大剣を引き抜くと一気に距離を詰めようと動き出した瞬間…
「はいはい、ストップ!カリムはそういうのじゃないから止めなさいな」
カレンの目の前に割り込んで腕を掴んだのは燃え盛るような紅い髪の女性…ベアトリクスだった。
「え…?!」
驚いて落としたカレンの大剣を片腕でキャッチし、クルリと回転させてカレンの背中に戻したベアトリクスは腕を離す。
「リンの生徒でしょ?今はちょっと忙しいからカオリと一緒に大人しくしててねぇ。…それで?この騒ぎはなんなのよカリム?」
「リン殿が逃走した。間違いなくレン君を探しにいっただろう…少々マズイ展開だ」
あちゃあ…やっぱりこうなったかー。…まぁリンを止められる様な人間なんてそう居るわけもないしカリム1人付けただけじゃ流石に無理だったわ。
「私とガスもすぐに向かう予定だったのにリンってば…こうなったら仕方ないね。黒竜と遭遇する前に見つけるしか…」
ベアトリクスが言いかけた時、遠くに見える山の方で強大な魔力反応と共に光の柱が立ち上った。
「ここまで分かる位に強烈な魔力って…」
"リンがまともに動く事が出来ているのが不思議なレベルだよ"
いつもより動きも鈍かったし私達相手に苦戦してた先生…あんなに強力な魔力を持ったドラゴンに襲われていたのなら…
"ここには貴女を害する人間はいないわ。だから今はゆっくり眠りなさい"
あの夜先生に抱きしめられて眠った時の温かさ…普段怖い時もあるけれどいつも優しくて。
拐われた私を颯爽と助けに来てくれて…だけど、今回は嫌な予感がする。
「先生…」
「ねぇ!何が起こってるの?!カオリは何か知ってるんだよね!?」
カオリに詰め寄るカレンをガイが慌てて止める。
「カレン!ちょい落ち着けって!」
呆然としているカオリだったが…
「そうだ…これ…」
腕に着けていたソレに触れる。…この世界で最初に助けてくれたあの人から預かった大切なミサンガ。
"カオリが助けて欲しいと思ったら助けてって念じれば…どこに居ても駆けつけるからな"
本当に助けに来てくれるはずはない…だけど、もし本当に助けに来てくれるなら…
「ジンさん…もし…本当に助けて貰えるなら…お願いします…先生達を…助けて」
心の底から願ったカオリ…自分が拐われた時ですら願わなかったカオリだが他人の為に身体を張って助けてくれたリンを助けたい…だけど自分ではどうにも出来ない…そんな悔しい気持ち…自分勝手で他力本願な願いなのは分かっているけど…それでも…
強く願った瞬間、ミサンガから魔力が放出されてカオリを中心として魔方陣が展開される。
「カオリ君!これは…」
突然の出来事にカリムとベアトリクスはすぐに自身の武器を引き抜く。
「こんな魔方陣見たことないわよ?!」
「わ、私にも何が…」
魔方陣が更に輝きを放った数舜後…そこには…
「……約束通り、助けに来たぞ」
う、嘘…本当に…来て…?
そこにはボロのローブを纏った黒髪の日本人…
「…ん?カオリが助けてって強く願ったから来たが…敵はコイツらか?」
剣を抜いた状態で固まっているベアトリクスとカリムを見て現れた男…ジンは腰に差した剣の柄を握る。
「は…?!ち、違うよ!この人達じゃない!」
慌てて止めるカオリに首を傾げたジン。
「…?じゃあ何で俺は呼ばれたんだ?本気で助けてって願わないと発動しないようになってたんだが…」
考え込むジンにようやく驚きから立ち直ったベアトリクスが口を開く。
「まさかあんた…"剣鬼"?!」
「…俺を知ってるのか?…いや待てよ?紅い髪にその大剣…そいつは炎剣"プロミネンス"だな…てことはお前…"灰塵"か!?」
お互いに驚くジンとベアトリクスだったが…
「ジンさん!お願い!ハヤサカ先生達を助けて!」
カオリの言葉にジンが固まる。
「…今何て?ハヤサカ…もしかして早坂っていったのか?」
「う、うん。そうだけど…」
まさか……だがハヤサカなんて名字はわりと居るからな…
「…剣鬼はリンの事知ってんの??」
な、名前まで…もしかして…本当に………
「カオリ、その先生って髪の色が銀髪だとか?」
驚きながらも頷くカオリ。
「ははは、なんてこった。彼女まで巻き込まれて欲しくない一心で召喚をする馬鹿な連中を減らし、元の世界に帰る方法を探してたってのに……まさかすでに巻き込まれてた…なんてな」
俺が召喚をしている馬鹿な組織を潰しまくっていたのは元の世界で暮らしているだろう彼女…早坂燐を巻き込ませないようにする為だった。
俺の初恋…叶わなかったが俺の勘違いじゃなければ早坂さんには少なくとも嫌われていなかった。
俺がサッカーの試合に出る事が決まった次の日にくれたミサンガ…慣れてないのか所々色がずれていたけど、大切な物だった。
"上手く出来なかったけどあげるわ"
最後に聞いた彼女の声。
俺はそのすぐ後にここ、アーレスへ飛ばされた。
もう会うことは叶わない、なら…せめて俺と同じ目に合わないように。
こんな異世界に彼女が飛ばされるのだけは止めたかったが…そうか…彼女も来ていたんだな。
「助けたいのは早坂燐さんで間違いないな?」
頷くカオリの頭を優しく撫でる。
「……ありがとう、カオリのお陰で大切な人を失わずにすみそうだ」
「先生を…知ってるの?」
「あぁ、そのミサンガをくれた人さ。…それはまた後で話そう、早坂さんはピンチなんだろ?」
「リンは今までのダメージが酷いの。普通なら死んでる位にね…剣鬼、あんたがリンのなんなのかは知らないけど私からもお願い、リンを助けてあげて。リンは私の命の恩人でもあるの」
ジンの問いにベアトリクスが答えるとカリムやカレン、ガイも続く。
「…我もリン殿に救って貰った」
「先生にはまだ教えて貰いたい事があるから…お願いします!」
「お、俺も同じだ!あの先生だけだからな、俺達を見ててくれるのはさ」
彼女は…この世界でも変わらないんだな。
「…任せろ。必ず助けるさ」
ジンはそう言って魔力が渦巻く山の方を見る。
「間に合ってくれよ………『転移』」
そしてこの後ジンはレン達の前に現れた。何年も想い続けたリンを助ける為に…




