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私が異世界に流されて…  作者: カルバリン
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第80話 内にあるもの


身体をゆっくり動かす…大丈夫、今までの様な身体の怠さや痛みも無い。


「さぁ、私の可愛い息子や生徒に手を出した以上、無事で帰れると思うなよ?」


魔力(マナ)は気と同じ…身体に巡るものを操り強化する、それが身体強化。


さっき使った時に分かった、あれは私が使って良いものじゃない…私の場合気と魔力が混ざりあってとんでもない威力になってしまう。


それに今なら身体強化なんてしなくとも問題はない。それくらいに身体の調子が良い。


"もう、我慢する必要なんてないと思わない?"


頭に突然響いた自分自身の声(・・・・・・)に目を見開くリン。


「……っ?!…駄目…!……油断した……」


顔を押さえて膝をついたリンを訝しげに見ていた黒竜だが…その選択は間違いだった。


ユラリ…と立ち上がったリンは自然な動作で拳を振り抜くと直接触れた訳でも無いというのに黒竜は殴られた様な重い打撃音と共によろめく。


『ごふッ!…な?!なんだ…』


よろめく黒竜だったがリンはそのまま低い姿勢で黒竜へ向けて走り、そのまま組伏せて馬乗りになる。


「あは…!捕まえた…!」


握った拳がミシッと軋む位に力を込め、それを振り下ろす。


グシャッ!!!


その一撃は黒竜の顔面を打ち据えて衝撃で地面へとめり込んだが…リンは笑みを浮かべて地面にめり込んだ黒竜の顔面を鷲掴みにして引きずり出す。


『ぐっ…うぅ…』


「あはぁ。中々頑丈なようで安心したわぁ…」


リンの瞳が怪しく紅に輝く。


『お、お前はなんだ(・・・)?!さっきまでの…「うるさいなぁ」』


ゴシャッ!!


更にもう一撃…リンは殴りつける度に拳を黒竜の血で濡らし、何度もそれを繰り返す。


「いっつも…いつも……我慢…がまん…ガマン………あぁ!!そんなだから肝心な時に動けない……こんなに素敵な血を!肉体を!持っていながら!」


なんだ…なんなのだコレは!?


殴られながら黒竜は馬乗りになって妖艶かつ妖しい笑みを浮かべて叫ぶリンを見て初めて恐怖…という感情を抱いた。


『や、やめ…』


「や・め・な・い☆……だってせっかく頑強な精神を突破して出てこられた(・・・・・・)んだから!……もっと楽しみましょうよぉ!」


リンがまた拳を振り上げた瞬間、黒竜は一気に魔力を集めリンへ向けて放つ。


竜形態より劣るがそれでも放たれたブレスはリンの腕から肩にかけてを消し飛ばし、その隙に馬乗りだったリンから逃れる。


『やりおってからに…これで…』


「あーあ。酷い…肩まで吹き飛んじゃった…」


血が吹き出している失った肩をチラリと見たリンがため息を吐く。


…なんてね。


「表の私は自分の(・・・)使い方(・・・)を分かってない(・・・・・・・)。この程度の傷は私に対して無意味なのよねぇ」


言葉と同時に吹き出し、流れ落ちていた血が逆再生されるかのように集まると、元から何事も無かったと言わんばかりに腕と肩は元通りだった。


『…貴様!?まさか…ヴァンパイアか!』


黒竜が叫んだ瞬間、目の前に現れたリンが吐息が感じられる様な距離で口を開く。


「そんな低級(・・)な存在と一緒にするなんて…ムカつくわねぇ……殺しちゃう?ねぇ……ってあら?なぁに?邪魔するの?」


リンの肩を掴んで止めるジンにリンは冷めた視線を向ける。


「これ以上子供を怖がらせるのはやめた方が良い。早坂さんはそれを望んでいないんだろ?」


お互いに睨み合う事数秒間…息を吐いたリンはゆっくりと黒竜を放す。


「言っておくけど…()が出なかったとしても結果は同じだったわよぉ?…まぁどうでも良いわ、どのみちもう時間も無いし…今回は許してあげる。だから…さっさと尻尾巻いてお逃げなさい…じゃないと…」


凄まじい殺気を放ったリンに黒竜は怯み、元のドラゴンへと姿を変えて空へと舞い上がる。


『こ、今回は見逃してやる!だが二度はない!!』


「あー、はいはい。分かったから早く行きなさいよ」


飛び去る黒竜を見て興味を失ったリンはジンへと向き直ると両手を上げる。


「そんな怖い顔しなくても、これ以上暴れるつもりはないわ。」


「母さん…もう大丈夫?」


ジンの後ろから顔を出したレンを見てリンはゆっくりと歩いていく。


「……あなたのお母さんを返すわ。だから泣かないでちょうだい…でも、覚えておいて。私だってとても心配したのよ?もう無茶な事はしたらだーめっ!分かった?」


レンが頷いたのを見て満足そうに頷いたリンだったがジンに視線を移して意味ありげな笑みを浮かべる。


「まさかあなたとこの世界で再会するとは思ってなかったわ…階堂君。助けてくれてありがとう…出来ればこの後も…私と話してあげてね。()はあるからさ」


昔告白してくれた事…忘れてないみたいだし。


「ブッ!?な、なにを…」


真っ赤になったジンを見てカラカラ笑うリンだったがそうだ、といって座り込んでいたガルへと近づく。


「な、なんだよ?嬢ちゃんの見た目だからって…」


よろよろと立ち上がったガルだったがリンはそのまま隣でアディを介抱していたシュノアの腕を掴んでその腕に装備されていた"顕現の腕輪"を取り上げた。


驚くシュノアを無視して腕輪をガルへと放り投げる。


「あまり時間がないから手短にいくわ…貴方の事表の私は存外気に入ってるの。だからその腕輪を渡したみたいよ?」


「…どういうこった?」


訳が分からないといった感じのガルに説明を続ける。


「その腕輪を身につけていたシュノア君?だっけ?その子と貴方の魔力がその腕輪に込められて馴染んでるのよ。その腕輪の名前…忘れてない?」


「顕現…!まさかこれの効果は…おぃおぃ…それがマジなら」


「貴方がその腕輪を嵌めれば効果はすぐに発動するから急いだほうがいいわよ?」


そこまで言ったリンの瞳からゆっくりと紅い輝きが失われていく。


「まぁ、ここまでやれば…許されるでしょ。…じゃあ皆さん…また会う日まで(・・・・・・・)


完全に輝きが失われると同時に倒れたリンをジンが抱き止める。


「……気を失ってるだけだな。良かった…本当に…」


まるで恋人を抱き止める様な雰囲気のジンを見てガルはレンを抱き上げる。


「レン、俺が肩車してやるよっと。…ありゃ邪魔するのは野暮ってもんだろ…しっかしまぁ嬢ちゃんには驚かされてばっかだなぁ。まさか顕現召喚を使った上でこうして存在出来るとは…魔剣人生で一番の驚きだぜ」


自分の腕に嵌めている腕輪を眺めるガルにシュノアも頷く。


「先生がくれた腕輪にこんな使い方がある事は驚いた。目が覚めたら礼を言わないと」


「あぁ、そうだな。……さて、そろそろいいか色男さんよ!いつまでもここに居ても仕方ねぇから嬢ちゃんの家に行くぞ。移動しながら話でも聞かせてくれや」


ジンが頷いたのをみてガルは肩車しているレンにしっかり捕まるように言うとまだ気絶しているアディを脇に抱える。


「嬢ちゃんはお前さんに任せるが…変なとこ触ったりすんなよ…?」


「す、するわけないだろ!?」


慌ててリンをお姫様抱っこで抱えるジンにガルは笑う。


「…嬢ちゃんって見た目より重かった筈だけどなぁ。やるじゃねぇか」


「これくらい重い内に入らないさ。シュノア君、だったかな?ちょっと来てくれ」


言われてシュノアが近くに行くとジンはリンを片手で支えて地面に深く突き刺さった村雨を力任せに引き抜いてシュノアへと渡す。


「それを運んでくれると助かる。さすがに片手じゃ早坂さんを運べないからね」


「わかりました、任せて下さい」


「よっしゃ、準備出来たなら行くぞー?さっさと帰って休もうや。レン達も疲れてるだろ?ってありゃりゃ?」


レンは肩車された状態で器用に寝息を立てていた…


「…気がゆるんだんだろーな。ま、起こさないようにゆっくり帰るか…」


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