第74話 レンとシュノア
「まさか先生が死蝶症を発症しているなんて…」
レンから聞いた話ではリンは死蝶症らしくそれを治療するためには精霊の蕾が必要らしい。
『…なるほどなぁ。それでお前さんはリンを助けたくてリンに内緒でソイツを持ち出したってぇわけか?』
一瞬レンがビクッとしたのを見てシュノアは溜め息を吐く。
「悪いことは言わない、早く先生の所に帰った方が良い。キミが危険な事をすれば先生が悲しむんじゃないか?ましてその魔道具を勝手に持ち出したりすればどうなるか…」
「う…うぅ」
『まぁまぁ、あんまり脅かしてやんなや…子供が親を助けたいなんて当たり前だろ?お前さんならわかるんじゃねぇのか?シュノア?』
「っ!…黙れガル!」
ドン!とテーブルを叩いた拍子に周りの客が驚いて此方に視線を向ける。
「…す、すまない」
「…ごめんなさい。僕じゃどうしても精霊の蕾なんて手に入れる事なんて出来ないですよね……」
俯くレンにガルは…
『まぁ、レンよぉ?お前さんの周りには凄腕ばかり集まってるんだからよ、ソイツらに頼めばいいんじゃねぇか?灰塵や天剣なら普通に取りに行くだろ?他にも欠け月や雷槍なんかもいるだろうしな』
「…はい。そうしてもらいます…」
それから家に戻っていくレンを見送った所でガルが口を開く。
『シュノア…こりゃ俺の勘なんだがよ…』
「あぁ、分かってる…間違いなくレン君は行くだろうな。彼の目には覚悟があった」
『だな。…んでどうするよ?嬢ちゃんに報告すっか?』
「……先生は今の状態で動けると思うか?」
『あー、嬢ちゃんなら動けるだろうなぁ。ただしどうなるかは分からねぇな…死蝶症は正直言って俺の時代じゃほぼ死ぬ病だったしよ。普通は3日と持たずに死ぬ病だからな…確実に大丈夫とは言えねえな』
「そうか…多分先生はかなり弱ってるんだと思う。カオリから聞いた決闘の話でも動きが鈍かったらしいし、さっきの戦いでも明らかに今までより動きが鈍かった」
『…お前に気付かれるくれぇだから嬢ちゃんはよっぽど弱ってるな。元が規格外だから周りは見過ごしてるんだろーよ』
本当なら報告した上でレン君を止めるべきなんだと思う。
だけど…
「多分聞いてはくれないだろうな。怒られると分かっていて先生の魔道具を持ち出したくらいだからな」
『……しゃあねぇな。とりあえずついていって守ってやるしかねぇんじゃねぇか?先輩よ』
「…あぁ、行くか」
一先ず追い付かないといけないな…そんなことを考えながら歩き出す。
『ちなみに…まぁいいか』
「??」
ガルは『後から嬢ちゃんに怒られるのは間違いねぇけどな!』と言おうとしてやめたのだった。
シュノアとガルが動き始めた頃…リンとの戦いが終わった後の鍛練場ではシレーナがカリムに説教を受けていた。
「まったくシレーナ嬢は何を考えているのだ!あの様な大規模魔術なぞ使えば周りを巻き込むに決まっているであろう!昔よりも大人しくなったと思っていたんだが…」
「お恥ずかしい限りです…まさかあんなに楽しいとは思わず…つい本気を」
「つい、であの様な大規模魔術を使っては駄目なのだよ!子供達の見本となるべき我々大人がそれでは…」
「まぁまぁ、それくらいにしてあげましょうよ。領主サマだって反省してるんでしょうしさぁ…それに被害者はリン1人でしょ?あの子は殺しても死にそうに無いわけだしね」
ベアトリクスの言葉にガストロノフは
「…よく言う。リンが気絶したのはお前が最後にリンをしばいたからだろ?」
「あ?なんかいった?」
「いや別に」
二人で言い争っているのを他所にカリムとシレーナの所へとシレーナの執事であるアルフォンスがやってくる。
「シレーナ様、緊急事態です」
アルフォンスの言葉にシレーナが先程とは別人のように真剣な表情で頷く。
「内容は?」
「はい、街の東にある山脈で古竜が確認されました。早急にギルドと連携して対策を立てなければならないかと…」
「…嘘でしょ?災害指定のエルダードラゴンなんて来たら一瞬でこの街は壊滅するわよ」
古竜とは…長い年月を経て知識を蓄え、様々な経験を積んだ竜であり、現在確認されている古竜は災害指定されている種もいる。
エルダードラゴンは大まかに色で識別出来る…白、黒、赤、翠、茶、青…それぞれが種族毎に特徴を持っており、人と敵対するエルダードラゴンは黒、赤、青で他の種は人に危害を加えられない限りは襲ってくることはまず無い。
黒竜、赤竜、青竜の3種は好戦的でまず出会ったら襲われるのは間違いない。
エルダードラゴンは基本的に会話が可能だが自分より弱いモノにはまず話などしない…道端の虫に話しかけるようなものなのだ。
「…どのエルダードラゴンが来たか確認出来てますか?」
もし白竜や地竜、風竜ならばこちらから何かしない限り大丈夫だが…シレーナはどうか最悪の事態になりませんようにと祈りながら答えを待つ。
「……報告では黒竜だと」
「……分かりました。早急に討伐隊を編成しましょう」
シレーナはアルフォンスに指示を出すとベアトリクス達に向き直る。
「今からギルドにも緊急依頼が発令されます…出来れば参加してもらえると有難いのですが」
「あたしとガスは参加で良いけど、カリムはどうするの?」
「我も参加するとも。この街には護るべき人が多く居るのだ」
「分かりました、ならばお願い致します。…こうなるとリンとの模擬戦はやるべきでは無かったですね…リンが参加出来れば…」
「…今回は流石に無理だろう。アイツは最近無茶をし過ぎている…戦闘に参加させるべきではないな」
この場にいる全員が頷く。
「それでは一旦私は館に戻ります。また後程お会いしましょう」
そういってシレーナは歩き去って行ったのだが…
「また後程って…領主様自ら参戦するのかよ……俺の周りにはか弱い女性は居ないのか…」
ガストロノフ…彼の周りには戦闘力が高い女性しか居ないということに改めて気付かされたのだった。




