表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私が異世界に流されて…  作者: カルバリン
72/130

第68話 想像が出来ない過去

シレーナの屋敷から帰ってくると、丁度カリムが庭でレンと鍛練をしている最中だった


最近はレリック、スレイ、カリム…たまにベアトやガスもレンの鍛練に付き合ってくれていた。


今は体術を練習しているみたいでカリムが繰り出す攻撃を避け、たまにレンが避けることが難しい攻撃を繰り出されると腕を使っての受け流しを繰り返しているみたい。


子供はやはり覚えるのが早い。あれだけ動けるなら同年代には負けないわねぇ……少し試してみようかしら…?


完全に気配を絶ち、レンの後ろへと縮地で回り込むと真正面にいるカリムがこちらに気付いて一瞬だけ警戒したが私だと分かると何をするのか察してスッと後ろに下がった。


さて、レンがどこまで動けるか楽しみね…




「や!は!」


目の前の彼は可愛らしい掛け声を上げながらも10歳とは思えない動きでこちらの攻撃を受け流している。

リン殿の話によれば基礎を重点的に教えている途中らしいが…レン君がとる独特の構え…こちらに右半身ないし左半身を向け、胸の下辺りで両腕を軽く交差させる構えは実に攻めにくい。


今まで見たことがない構えだが最小限の動きで対応出来る構えだろうな…。


だが、歳相応の力に身体強化をしているのが…まだまだ荒い部分が目立つ為に付け入る隙がある。


基本はこちらの攻撃を最後まで見て避けるを繰り返すのだが、時々は避ける事が出来ない攻撃を繰り出して受け流す。


リン殿から鍛練は容赦なくやっていいと言われているから当たれば多少は吹き飛ぶ位の強さでやっているのだが…思いの外良い動きをするのでそろそろもう一段階上の攻撃を仕掛けようかと思案していた時、一瞬だけ周囲の空気が震えた。


そして気付いた時にはレン君の背後に立つリン殿が唇に人差し指を充てて、ジェスチャーを送ってきていた……ここまでのレベルで気配を隠遁できる人物は中々居ない。


彼女とは1度戦ってみたいものだ…勿論、完全な状態の彼女とだがな。


今の彼女は普段と変わらず生活をしているが…彼女は夜中誰もが寝静まった後、音が響かないように風呂場で荒くなる息を抑えながら頭を抑え、何かしらの苦痛を耐えている事を偶然知ってしまった。


彼女は我が居ることに気付いてから若干バツが悪そうにしていたが…


「カリム、今のは見なかった事にしておいて」


「しかし…その苦しみ方は…」


「ただの頭痛よ…どちらにしろ治療院に行くから心配はいらないわ…あぁだけどちょうど良かった、包帯を替えるの手伝ってくれない?カリムなら問題ないでしょ?」


リンはそう言うとカリムに背を向けて服を脱ぐ


「う、うむ。我で良ければ手伝おう…」


カリムはリンの包帯を替える時にリンの身体を見て唸る


リンのしなやかな肢体は引き締まっていて全く無駄がない…それでいてその白い肌は女性としての魅力を最大限に放っていたが、カリムが唸ったのはその身体に刻まれた歴戦を思わせる傷痕を目の当たりにしたからだ


「むぅ…リン殿は一体どの様にして生きてきたのだ?女性の身でここまで鍛え抜いてある事もだが…これは…」


カリムの骨の指がリンの古傷に触れる


「傷痕の事?私は…異世界人なんだけど…元の世界でもずっと戦ってきたからね、嫌でもこんな風に傷痕は残るし…私が元居た世界の戦争は本当に一瞬で命が無くなる。向こうは飛び道具や爆弾が主流で魔法なんて無かったから…魔法も恐ろしいけれど、私は銃や爆弾…向こうの世界の…兵器が一番恐ろしいわ」


リンはそう言って傍らに置いてあるホルスターからデザートイーグルを取り出してカリムに渡した。


「それが私達の世界で普及してる武器…銃よ。その引き金を引けば次の瞬間には相手に致命傷を負わせる事が出来る…誰が使っても、ね」


カリムは渡された銃を暫く眺めてからリンへと返す


「なるほど…それは恐ろしい代物だな…ではリン殿もこれで?」


「そうね、銃で撃たれた事は何度もあるわよ?戦場だから。今みたいに身体能力が上がってる訳でも無かったから何人かに囲まれれば…ね」


話している内に包帯を巻き終わったリンは


「…さて、寝ましょうかね…。カリム、今日の事はくれぐれも…」


「分かっている。秘密は守るとも…だが早めに治療院へと行ったほうがいい」


リンは頷くとヒラヒラと手を振りながら自室へと消えていった。





数日前の出来事を思い出しているとリン殿がレン君へと振り上げた腕を打ち下ろそうとしていた



「レン、頑張ってるみたい、ね!」


私の声に気付いてレンはこちらを振り向く…のではなく、後ろに転がってわたしが振り下ろした拳を避けた


「わわっ!か、母さん!?…いつの間に後ろにいたの?!」


直ぐに立ち上がって構えたレンに追撃で足払いを繰り出すがそれもギリギリではあるがジャンプして避けられた…だけど


「レン、他にも避ける方法があるのだから空中に飛んで回避するのはやめなさい。空中だと動きが制限されるでしょ?もし今の足払いが空中に誘導するためのフェイントだったら…追撃されるわよ、こんな風にね!」


空中にいるレンへと肉薄して片手でレンの頭を掴むと、そのまま地面へと叩きつけ…る直前で背中に手を添えてポンっと地面に降ろした


「うん、かなり動きが良くなってきてるわね、レンは毎日鍛練を真面目にやるから覚えるのも早いわよ」


「…早く母さんに勝てるくらい強くなりたいから頑張るよ、でもまだまだ勝てそうにないや…」


少ししょんぼりしているレンの頭を撫でながら


「大丈夫。毎日続けていれば私なんかあっという間に追い抜けるわよ?私がレンと同じ位の時はお祖父ちゃんやお父さん、お母さんからこっぴどくやられてたからね」


今でも思い出すあの地獄の特訓は2度とやりたくない。まぁあれがあったから今の私があるのだけれど…


それから少しだけレンの鍛練を眺めてからカリムへと近寄る。


「レン君は中々に筋がいいぞ、彼は将来冒険者になりたいらしいが…彼なら間違いなくSランクまでは確実になれる。そし経験次第ではリン殿達が居る境地…SSランクも見えてくるだろう」


「…そうね、レンは独り立ちするのも案外早いのかもしれないわね……まぁそれまでには私が持つ全ての技術、とまではいかないまでもその辺の奴に負けない位の技術は教え込むつもりよ」


煙草に火を灯しながらそう語るリン殿の横顔は少しだけ寂しげに見えた


「あ、そうそう。貴方が使っていた剣ね…一応確認してきたわ」


「ふむ、一応と言うことは何か問題があるのだろう?」


カリムに今日シレーナ邸であった出来事を話す。


「大体こんな感じだったんだけど…とりあえず明日は一緒にシレーナ姉さんに会いに行きましょ」


話終えた後、カリムにそう告げる。


「ふむ…色々と衝撃的な話だが…まさかリン殿がジャックの血縁だったとはな。まぁその話は後から詳しく聞きたいが…問題はシレーナ嬢か…この姿で再会するのは気が引けるが…」


「そこは我慢してちょうだい。私から説明はするし、疑われても話をすればわかってもらえるんじゃないかしら?」


生前の、本人しか分からないようなエピソードの一つでも語れば大丈夫でしょ。


「…確かにそれならば問題はないが、もし戦闘になれば今の我では勝てぬ」


ん???


「なぜ戦闘になるのよ…普通に話して本人だと分かれば問題無く剣を渡してくれるんじゃないかしら?」


「なるほど、リン殿はシレーナ嬢の今の姿しか知らないのだな。シレーナ嬢は元々ジャックとは別で傭兵団を率いていたのだ…数人しか団員は居なかったがいざ戦闘が始まれば我々双月の牙や暁の翼にも引けをとらなかった…というよりも純粋に戦闘力だけでいえば傭兵団…『餓狼』は飛び抜けておったのだ。その団長であったシレーナ嬢は我先に戦場の真ん中へと飛び出して長柄のグレイブや魔法で敵を蹴散らすといった荒々しい闘いの姿から『暴風』(ハリケーン)などと呼ばれておった」


昔は相当荒い性格だったそうで、有名なのは餓狼のメンバーの家族を人質にしたある国の砦を単身で襲撃、後に残ったのは瓦礫と敵の屍だけだったらしく、彼女が通った後は大災害があったかの様な惨状になることからついたあだ名もあるらしい。


「へぇ…意外ね。全然そんな風には見えなかったんだけど…」


「領主となった事で落ち着いたのかも知れぬ。だが我からしてみれば落ち着いたシレーナ嬢は想像が出来ぬ…」



…明日、すんなりと渡して貰えればいいのだけれど……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ