第6話 ギルドマスターと私
ギルドマスターのアルバートについて歩いていくとギルド職員の視線をひしひしと感じる。
階段を登りさらに廊下を進んでいくと重厚な扉の前に着いた。
「ここがわし、ギルドマスターの部屋じゃ。さぁ中に入ってくれ」
中に入るといたって普通の部屋…ではなかった。
扉はそもそもかなり頑丈に見えるし、窓もあれは鉄格子がある。それになにより壁にある鏡の裏に何者かの気配を感じる。
「そこの椅子に座ってくだされ、飲み物はなにがよろしいですかな?紅茶か珈琲しかありませんがの」
とりあえず席に座ったはいいがなんだか落ち着かないな…
「それで、お話というのはなんでしょうか??壊した床ならちゃんと弁償しますから許してくれませんか?」
「いやいや、あれは鉄拳が悪いでな、お嬢さんに払わせることはないから心配せんでええ。ワシが聞きたいのは別の事じゃ」
アルバートから感じる気配が少し鋭くなったのを感じる。
「では本題に入るとするかの。お主何者じゃ?あの武器しかり、お前さんの気配や身のこなし、さらには報告書によればワイバーンを単独撃破したらしいではないか。先程の戦いもワシが止めに入らなければ鉄拳を殺すつもりだったじゃろ?あやつは素行に問題があるがの、ギルドでも中々の実力があるのでな、それが一瞬であのザマじゃ」
…この老人は騙せないかもしれないな…ならば面倒だから猫を被る必要もない。
「……そうか、で?私をどうしたいんだ?」
「ほぅ、お前さん、纏う気配が随分変わったのう。先程鉄拳と揉めたときと一緒じゃな、そちらが本性ということかの?いやなに事情を聞き出すつもりはないんじゃよ、ただお前さんの武器に興味があったんじゃ」
「…私の武器ねぇ。いいわ、見せてもいいけど…ただし……コソコソしてる奴がいなくなったら、だけど」
そう言い放つと手の内にデザートイーグルを取り出して鏡に向けて構える。
なにをするつもりなのかは分からないけど見張られてるのは気分が悪い。
「やはり、気づいておったか…いやはや参った。それを下ろしてくれんか?今から下がらせる」
アルバートが手をパンと叩くと気配が遠ざかっていくのが分かった。
「これでええじゃろ?すまなかった。少し戯れが過ぎたらしいのぅ、しかし嬢ちゃんは話し方が荒い…せっかくの美人が台無しじゃて」
「放っておいて頂戴。まぁいいわ、他言しないなら武器は見せてもいい」
デザートイーグルのマガジンを抜いてアルバートに渡す。
「…こんなに簡単に渡してもいいのかね?ワシが嬢ちゃんにこいつを使わないとも限らんじゃろ?」
「心配ない。あなたには扱えないし、私にそれを向けても意味がないから…それとも試してみる?」
妖しく笑うリンにアルバートは肩を竦める。
「いや、遠慮したいのぅ。ここまで簡単に渡す以上は渡しても問題無いと判断しとるんじゃろ?……しかしこれは一体…?この様な武器は初めてじゃ、魔力を感じないから魔道具ではないようじゃし…この武器はなんというんじゃ?」
アルバートはデザートイーグルを眺めたりしながら問いかけてくる。
「説明してもわからないだろうけど一応教えてあげる。名前はデザートイーグル…様々な仕様があるけどこれは.50AE弾を使用する14インチモデルで、長銃身版の大型自動拳銃よ。私のは様々な部分がカスタムされているから元のデザートイーグルとは大分違うけど…」
そう言ってマガジンから一発弾丸を取り出すとアルバートへ向けて放り投げる。
「それが弾丸。引き金を引くとそれの先端部分が撃ち出されるって訳よ、ちなみに威力はさっき見た通りよ。人に当たれば痛いじゃ済まないのは分かるでしょ?」
どうせ分からないだろうけどね。これで分かってもまた困るけども。
「さっぱりわからん、じゃがこのような物はドワーフでも作れんじゃろうな。お前さんはこれをどこで手に入れたんじゃ?」
「私の故郷で作られた物よ。ただ、もう新たに作られる事もなければ世に出回ることもないわ」
まぁもとの世界の物だしまず手に入らない。
「ふむ…、新たには作れんか。まぁええじゃろ、こいつは返すぞい」
デザートイーグルを私に手渡すとアルバートは自分の椅子に深く腰掛けてため息をついた。
「ギルドでのもめ事はこれからはなるべく穏便に解決してくれんかの??お前さん登録にきたんじゃろ?ならまだルールは分かってなかったんじゃろうから今回はいいが…今度からはギルド内で武器を抜けば罰則が課せられるからその辺は覚えといてくだされ」
「わかったわ。今回は私もやり過ぎたから反省はする」
「わかってくれればええ、嬢ちゃんの事情もその内話して貰えると助かるんじゃが……まぁこれで話は終わりじゃ。さあ、下の受付で登録をしてきなされ、これからのギルドでの活躍を期待してるぞぃ」
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下の階に戻るとクライスがこちらにやってきた。
「リン、大丈夫だったか?なにか処罰を言われたか?」
「大丈夫です、やり過ぎだって言われましたけど処罰は無しだそうですので」
「ならいいが…まぁとにかくこれがワイバーンの売却金だ」
かなりの重さの袋を渡される、中には金と銀の硬貨が入っていた
「……元の国と通貨が違うので価値が分からないけどこれって大金なのでは?」
振る度にガチャガチャと音がする袋だが貨幣価値なんて分からない。
「…リン、お前さん旅してたのにそれはどうかと思うぞ」
しまった、そこまで考えて無かった…リンが言い訳を考えているとクライスは苦笑しながら首を振る。
「まぁ、いいさ。なにか事情があるのだろう?無理に話さなくてもいい」
…クライスさん達を騙すのはやっぱり心苦しいな、今度改めて事情を説明しよう、信じてもらえるかは別として。違う世界から来ましたとか普通は信じないだろうし、からかってると思われるのも嫌だ。
「すみません。事情は今度お話します…」
クライスはリンの肩をポンと叩くと首を振る。
「その内でいい、別にリンの素性がどうであれ私達夫婦は君の味方だ」
私はクライスさんに出会ったことを神様に感謝した。
…………あの変態神ではなくこの世界の神様だけどね。
「それより、通貨の話だったな?袋の中には金貨50枚銀貨5枚が入ってる。通貨の価値だが、その袋には入っていないが銅貨が100枚で銀貨一枚、銀貨が10枚で金貨が一枚になる。他にも白金貨もあるが金貨100枚で1枚だから日常で使う事はないだろうな、大きな買い物をするときにギルド内の換金所で両替してもらえばいい。大体銅貨5枚で安い宿なら泊まれるぞ、だから基本は銅貨と銀貨一枚持ち歩いていれば大丈夫だ」
なるほど。それなら袋の中はかなりの大金ね、あのワイバーンがそんなに高く売れるとは…
「ちなみに素材としての値段は金貨30枚だ、残りはワイバーンの討伐依頼や、素材の収集依頼なんかの複数の依頼を集めた報酬の合計だから、ギルドで登録したらリンが達成したと記録されるぞ」
「大体分かりました、では登録をしに行ったほうがいいですね」
受付カウンターを見ると人が並んでいるカウンターも少なくなっているみたいだ。
「そうだな、受付で説明があるだろうからギルドの説明はしないが多分リンはワイバーンを倒してるからランクは最初から高くなるかもしれないな」
そうか、ワイバーンはBランクモンスターだったわね、ならBランクになるのかな??
「ではちょっと行ってきますね」
実は冒険者になるのは少し楽しみではある、今までは兵士と傭兵、あと学生の時にアルバイトを少ししただけの職歴である私。だから新しい仕事って言うのは楽しみだ。ちなみに彼氏なんて出来た試しはない、学生の頃も忙しかったし、なにより家庭の問題が………
家族に会えないのは寂しい、でもこれからは少しだけ自由にしてもいいのかも。
そんなことを考えながら私は受付へ向かって歩き出した………。
なんとか投稿出来ました!週初めで仕事が始まってしまった……。
簡易人物紹介
『本日の営業は終了致しました』
『………ちゃんと仕事しろだって?俺ゃいそがしーんだよ!』