第65話 リンと神様(へんたい)
腕の中から消えていった…いや、旅立っていったエルを見送って立ち尽くしていたリンに
「…まぁなんだ、とりあえず涙を拭けよ」
そういいながら自身のポケットから布を取り出して差し出してくる神様。
「あなたから優しくされるとは思わなかったわ…でもありがとう」
布を受け取って涙を拭うリン。
なんだろう…とても懐かしい匂いがする…あ、このハンカチからお母さんの匂いがする…元気にしてるのかな……
ん…?
涙を拭って視界がクリアになったリン
「……ってなんてもんで涙を拭わせるのよ!!馬鹿じゃないの!?」
リンの手の中に収まっていたのはハンカチではなく……パンティだった。
握っていたパンティごと拳を神様に叩き込む。
「ぬわ!いきなりなにしやがる!?俺が命懸けで奪取したお宝を貸してやったのになんたる横暴!」
「真面目に話してたかと思えばいきなりこんな破廉恥な!なんで最後まで真面目に終われないのよ?!」
私が繰り出す拳をひらりとかわしたかと思うと、その場でビシィッとポーズを決めて
「それがおれの生き様だからさ!っぶべら!?」
ポーズを決めたのが仇になった神様にリンの拳が炸裂し、神様は回転しながら吹き飛んでいくが…
「何度吹き飛ばされようと俺は諦めない!!このリンのパンティに誓ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?!」
吹き飛ばされながら握ったパンティは先程の物ではなく…真紅の紐パンだった。
「…?!いつの間に?!」
何故か自身がさっきまで履いていたパンティを握って不可思議な断末魔をあげながら吹き飛んでいく馬鹿
「毎回いつ取られたのかわからないのも悔しいけれど……」
溜め息を吐きながらとなりに視線を投げると…予想通りそこにはリンのパンティとリンに渡した筈のパンティを握ってご満悦のか…変態が何事も無かったかのように立っていた。
「よしよし、これで親子のパンティをゲットしたな!ありがとぉぉぉぉ!!」
どうせなにをしても意味がないなら怒るだけ気力の無駄よねぇ………ん?!
「ちょっと?今親子って言ったわね??もしかしてその下着は…」
「その通りだ!これはお前の母、裕子の下着…いや、パン「言い直さなくていい!下着でいいでしょ!それより…」
「どうやって手に入れたか…だろ?話は簡単さ、裕子さんとその他の野郎がここに来たからだ」
嘘……。ここに来たってことは……
「ちなみにお前が考えている様な事ではないぞ?あいつらは死んでここにきたわけじゃあないからな」
最悪の展開では無かった事にホッとするが
「じゃあなんでお母さんはここへ??」
「あいつら…ユウコ、レイジ、ジャックは特殊な道具を使ってこの空間に乗り込んできたんだが…特殊な道具の事についてはノーコメントな?あれはもう使えねぇから」
お母さんだけじゃなく父さんやお祖父ちゃんまで?!
「いま3人は何処にいるの?!」
物凄い剣幕で詰め寄るリンから数歩距離を取った神様は…
「教えて欲しければ、今日のぶら《グシャ!!》ぐぼぁ!!」
また馬鹿な要求を繰り出そうとした神様の顔に結構本気で拳を炸裂させる
「…痛いじゃないか!お前はもっと神様を敬う精神をだな…あ、すいません!もう殴らないで!違う趣味に目覚めそうだ…」
「馬鹿なやり取りはここまでにして頂戴。で?何処にいるの?」
神様にゴミを見るような視線を投げると、流石にまずいと思ったのか真面目に話だした
「んー、実はな…お前の両親達はすでにアーレスに送ったんだ。ちょいと手違いで空中に転移したが普通に生きてるぞ?今は魔族領で暴れてるがな」
空中にって…まぁあの人達ならそれくらいはなんとか出来る…ってか普通に生きてるのね。
「とりあえず生きているなら良かった…」
「お前含めて誰一人として普通に殺しても死なないだろうけどな…しかも転移させるのに大量のマナを使っちまったからな…リンとお前の両親にはとにかく長生きして貰わなければ割りに合わん。まぁそれはいいが、もうそろそろお前を戻さないと羨ま……大変な事になってるっぽいぞ?」
「ん?大変って?」
「今回はお前が死にかけてるのとタイミングよく気絶したから呼べたんだが…アーレスで寝ているお前の胸が揉まれてたり、服を脱がされたり、近くで暴れてる奴が居たりって感じだな」
ちょ!内容が気絶してる人間にする仕打ちには思えないんですけど?!
「と言うわけで早めに戻った方がいいとおもうぞ?」
「わかったわ…って」
戻りかたなんて解るわけないじゃない。目の前の馬鹿が戻りかたが解らない私を見てニヤついているのが更に苛立たしい…
「ニヤついてないではやく戻しなさいよ!」
「おやおや?良い大人が人にモノを頼む態度じゃないなぁ」
この野郎…。自分から呼んでおいて帰りはお願いしろと言うか!
「ほら、どうした?『お願いします、私をもとの場所に戻して下さい』って言わないのか??…いや、それだけだと駄目だな。胸を強調しながら媚びるように、を追加な」
くっ…!こんな変態に頭を下げるなんて……し、しかも屈辱的なポーズまで……
「………し……す、わ、わた……」
顔を真っ赤にして言われた通りにするリンに対し…
「聞こえないなぁ、もっと大きな声で、可愛らしく言わないと」
「…お願いします!私をもとの場所に戻して下さい!」
ヤケクソで叫ぶリン。
「………却下。可愛くない、エロくない。やり直しを要求する!」
ブチン!
「…人が下手に出てれば調子に乗りやがって…!」
リンは怒りのままに自分史上最高速度で蹴りを繰り出した………神様の股間へと。
ドゴッ!!!
物凄い鈍い音を立てて股間を蹴りあげたリン。馬鹿が蹲って唸りピクピクと痙攣し始めたのを見て幾分かスッキリした。
「……………!?!?…ぬぅおぅぅぅ?!」
「ふん、あんまり調子に乗るからよ。あとこれも返してもらうから」
奴のポケットからはみ出していた自分の下着と母親の下着を奪い取った所でリンの身体がうっすらと輪郭を失い始める
まさかまがりなりにも神様であるあのへんたいにダメージを与えたから消滅するとか……
そんな考えが脳裏を過った時、どこからか涼やかな声が聞こえる
『…大丈夫ですよ、今から元の場所に戻しますから…あの人には良い薬でしょうしね』
「誰……?」
リンの疑問に声は
『私はヘレナディウス。今はアーレスの守護神をやっている者です、ガイウスがご迷惑をお掛けして申し訳ありません…私からも叱っておきますから許してあげてくださいね?彼は普段はこんなでも貴女は自分の世界の子だと言って貴女に降りかかる災厄を限界まで引き受けているのです』
「え…?」
咄嗟にガイウスの方を見るともう唸り声はあげておらず、ただ蹲っているだけだった。
『……すみません、本来なら私の世界は私が護るのが当たり前なのですが…無秩序に異世界から人を召喚する事が当たり前のようになってしまったアーレスはマナが枯渇寸前になってしまい、世界を維持する為に大半の力を割いている私には大した力が残ってないんです…この神域ですら顕現出来ない位に……』
声音からは心の底から申し訳ないという気持ちが切実に伝わってくる。
「転移のデメリット…ね?なら私の両親達も…?」
「いや、それに関しては俺の方で受け持ったから大丈夫だ。俺の世界はどの枝もある程度発展しているし、なにより魔法の存在が少ないお陰でマナは充分に蓄えてるからな」
やはり何事も無かったかのように…いや、若干内股になっているからダメージは残ってるっぽい。
それについては自業自得だろうからあえて無視してヘレナディウス様に話しかける
「…私になにか出来ることはありますか?」
ヘレナディウス様は敬意を払うに値すると思ったリンはしっかりと敬語で問いかける。
『貴女にはこれ以上に迷惑はかけられません…ですがお願いはあります』
「なんでしょうか??」
リンの身体は既にほぼ見えなくなり、意識も段々とボヤけるなかで……
『これからもアーレスで無事に過ごし、貴女自身の幸せを見つけて下さい。それが私の…いえ、私とガイウスの願いです…どうかわすれないでくださいね』
もう返事をすることも出来なかったがその言葉を胸に私は意識を手放した。




