第60話 バドの店にて
暫く歩くとリン達は目的の場所…バドの店へと到着した。
「バドじぃ!来たわよ!」
リンは扉に取り付けてあるノックをゴンゴン鳴らして扉を開く
すると店の奥からバドが木箱を抱えて出てきた。
「おぅ!やっときおったな…、そっちの嬢ちゃん達が例のアレか?」
「一人は付き添いなんだけどね、頼んでた物と情報は?」
「ちゃんと準備しとるわぃ。先にコイツが例の物だ。確認してくれ」
バドは手に持った木箱をリンへと差し出す。
それを受け取ったリンは…
「これはちゃんと普通の武器なんでしょうね??村雨みたいなのだと扱いきれないわよ?」
「大丈夫じゃ、ソイツはちゃんと鑑定してあるからな…曰く付きではあるが呪われてるやらタチの悪い魔剣なんぞではないから安心せぃ」
バドの言葉にリンはひとつ頷くと手に持った木箱の蓋を開ける
中には一振りの刀が納められていた。
「…見た感じ普通ね。まぁあればいいかなって感じだったから…まぁ日本人が召喚されているならカタナは作るわよねぇ」
木箱から刀を取り出すとそれをカオリへと差し出す。
「え?」
カオリはいきなり差し出されたその刀を受け取ったはいいがどう反応してよいか分からずに刀とリンを交互に見る
「村雨はカオリじゃ扱えないからね、そこのバドに頼んで探してもらってたのよ。
勿論、使う以上は技術を身に付けて自分の身を守れるようになるまでは私がキッチリと教えてあげるから…とは言ってもカオリは正直言って格闘術があるから必要は無いのかもしれないけどね」
「ねぇ?せっかく貰ったんだし抜いてみたら?私の鑑定ではそれ英雄級以上だと思うよ?」
アディの言葉に驚きながらカオリは自分の手にある刀を見ると頷いて鞘からゆっくりと引き抜いた
「凄く綺麗な刀身…」
抜き放った刀は刀身からチリチリと火の粉が舞い落ちている…一振りするとその軌跡を追うように幻の様な炎が尾を引いていた。
「そいつはな、陽炎っつー名前らしい。俺のオヤジに村雨と同じようなモン見つけてくれって頼んだら送ってきたんだがよ、リンみたいに使い方を分かってる奴が持つべき代物だと思ってリンに渡す予定だったんだがリンから頼まれてな…お嬢ちゃんに渡してくれってさ」
言われてリンの顔を見ると口元に笑みを浮かべている…まるで悪戯が成功したみたいな笑みだった。
「私には村雨があるからね、別に必要無いってのもあったんだけど…その刀もあなたみたいな刀マニアに持っててもらえれば大事にしてもらえるだろうしねぇ」
リンはそこまで言うと誰にも聞こえないような声で「綺麗な刀身に無闇に血を吸わせる事もない」と呟いた。
カオリの様な日本人の子供に他の命を奪う事が出来る訳もない。
そもそもリンが特殊なだけなのだから。
「いいなぁー、先生から武器プレゼントされるなんてさ。私もSSランクの冒険者から武器選んで貰いたいよー」
「…え?アディさんいまなんて??SSランク?先生が?」
危うく持っていた陽炎を落としそうになったカオリ
「知らなかったの??って…あーそっか。先生って学校ではランクとか話したりしたことなかったっけ?私も冒険者だからわかった事だしそりゃ知らなくても当然かー」
アディが一人で納得しながら話していると
「なんじゃい、自分の子供にも話しておらんかったみたいだったが…生徒にも話しておらんかったんか」
バドが呆れながら言ったのだが…
「いや、待って?なんか衝撃的な話題が出たような気が…」
アディは先ほどのバドの言葉に驚いたが訪ねる前にリンが口を開いた。
「まぁそれはそれとして…私はSSランクと言っても特に何もしてないから言うほど大したものじゃないわよ?むしろガスやベアトの方が凄いんじゃないかしら」
「…そういえばベアトリクスさんとガストロノフさんとも仲良さげだったし……」
カオリは思い出したように先日貰ったカードを取り出して見てみる
ちなみにこのカード自体普通なら貰えるような代物ではない。
「あー、あの二人から貰ってたカードね?」
リンが手に取ろうと手を伸ばすがそれよりも先に横から伸びてきたアディにカードは掴まれた。
「嘘…?これってガストロノフさんとベアトリクス様のパーティカードじゃん!?なんでカオリが持ってるのよ?!これって冒険者が本当に信頼出来る人にしか渡さないモノなのに…!」
アディの態度からするととんでもないモノみたいだけど…
「そんなに凄いの?ソレ?」
クワッ!!とこちらに振り向いたアディに若干引くリン
「凄いなんてものじゃないですって!!!天剣絶刀と灰塵のお二人はパーティカードを誰にも渡したなんて聞いたことが無いですよ!!」
うん、結構な代物でした。
「へぇ、普通に渡してたから別に珍しくもないのかと思ってたけど…あぁなるほど!だからシュノアはあんなに嬉しそうだったのね」
「シュノアも貰ってるんですか!?う、羨ましい……」
「ま、SSランクになるような奴等は行動基準や人を気に入る基準がよくわからんからな、そこの嬢ちゃんはその変人達(SSランク)に気に入られるなにかを持ってたんだろうよ」
アディがカオリに色々と突っ込んでいる間にリンはもうひとつの用件を済ませるべくドワーフ用に低く作られたカウンターの上に腰掛けると足を組んだ。それを見たバドは呆れながら
「リンよ、お前は少し恥じらいを持った方がいいぞ?その…あれだ、見えとるぞ」
リンの今日の服装は上はTシャツに似た服で下は最近流行っているらしいタイトスカートっぽい何かである。
当然といえばそうなのだろうがスカートで足を組めばまぁ下着は見えるわけで…それで無くともリンの鍛えられているがしなやかな脚は男性には刺激的だろう。
「そういえばスカートだった…まぁラッキーだったと思って見なかった事にしておいて頂戴」
「…まぁいいがな。人間の小娘の下着なんぞ見たところでなんとも思わんし…それよりお前さんから頼まれてた事なんだが…ドワーフの仲間に聞いたら似たような武器を使う事に関してある国の名前が出てきたぞ」
私がバドに頼んでた事は…まず刀を使っている人がいるのか?と居るのであれば村雨の元の持ち主の身元に心当たりが無いかどうかの確認がしたいである。
というのもレンと毎週末エルの墓を掃除しに行くのだけど、その時に一緒に村雨の持ち主の墓にも花を添えにいくのだが…墓に刻まれた文字を読んだ時このままにしておく訳にはいかないと思ったからだ。
墓にはこう刻まれていた
『もし、某の亡骸をどなたかが見つけてくれたのであれば某を故郷にて待つ妻の元へどうか連れて行って欲しい。
このような地にて果てようと武人としては悔いはない…だが妻の…アリアの元へ帰れるのであればそうしたい。
未だ見ぬお方よ、どうか……願いを聞き届けて貰えることを願う。 伊丹龍蔵』
バドが防具に書かれていたのをまるごと墓に刻んだその言葉は日本語であったからか深く心に響いた…それにアリアという名前…もしかするとこちらの世界に来て結婚したのかもしれない。
「…その国っていうのは?」
「国の名前は修羅だ。この国の騎士は独特の剣と業を使いこなすと言われ、戦闘に特化した集団らしいぞ?曰く『修羅の騎士は腕が無くなろうが足をもぎとられようが敵に食らい付き葬る』なんて言われてるみてぇだぞ?」
独特の剣と技…ねぇ。
「修羅…私の元居た世界には阿修羅って鬼神の話が伝承で残ってるのよね…となるとやはり独特の剣技って言うのは刀術かな。他には判ったことあったりする?」
「いや、今んところはそれだけだな。……あぁ、後は手掛かりになるかは分からんが『カルネの冒険記』を読んでみたらどうだ?」
「冒険記?」
「おう、カルネの冒険記はカルネ自身が体験したことをそのまま記録したもんなんだ。海賊とヤりあったり、古代の遺跡を探索したり、隣の大陸では巨大な鉄の船を見つけたなんてのもあったな…だが最後にカルネは空に浮かぶ城を見つけたって報告を最後に連絡が途絶えた…とまあそんな内容なんだがな?その中に修羅の国に似た話もあったと思うんだが…なんにせよ俺が若い頃に読んだからあんま詳しい内容は覚えちゃいねぇがな」
色々と気になることがあったけれど…意外と面白そうだし探して読んでみようかな
「多分ギルドには置いてあると思うぞ、聞いてみたらどうだ?」
「ギルドならこの後寄る予定だったし丁度いいわね…色々とありがとう。またなにかわかったら教えて貰えると助かるわ」
そうして後ろでなぜかベアトリクスの凄さを語り続けていたアディからカオリを解放してバドの店を出たのだった。




