第57話 終わってみたら庭が戦場跡のようだった…
「あらま、こりゃ一体なにが起こったんすか??」
ギルドでの依頼を終えて帰ってきたレリック、スレイ、カリムの3人はまず庭の惨状をみて驚いた
「庭で戦争でもやらかしたのかね?」
庭は所々に大穴が空き、地面は抉れ、植えられていた木々は無惨に倒れている
その中央で倒れている二人の子供の隣で胡座をかいて座っているのはこの家の主である女性なのだが…
しかしやたらとスッキリした顔をしてるのは…なぜだ?
「あら、帰ってきたのね。少し鍛錬をしていたんだけど、あなた達もやる?」
「いや、遠慮する」「無理っす」「流石にまた死ぬのは勘弁願いたい」
三者三様の返事を返されて苦笑いするリン
「で?ギルドの依頼は片付いたのかしら??私は別に依頼を受けてくれたんだから必要経費はこっちで持つつもりだったんだけど…」
依頼を出した以上は報酬は払うし、拘束期間が無制限だからせめてこちらで生活は見ても問題ないと思ってたんだけど…
「依頼自体は簡単な魔物の討伐だったから問題なく片付いた。依頼主であるリンさんにそこまで世話になるわけにはいかない。これは俺達の償いだからな」
「そう…まぁ住む場所が決まるまでは昨日の部屋を好きに使って頂戴。別にそのまま住んでも構いはしないけれど…」
「それは…女性として危機感が無さすぎではないか?」
レリックが困ったようにそう言ってくるが…
「あら?別に襲って来てもいいけれど、それは命が要らないという前提の話だけど…ね」
「いや、まだ死にたくは無いな。暫くは厄介になるとするが、早めに住処を決めるとするさ」
「つまり返り討ちにあっても良いならチャレンジするのはアリって事っすよね?」
「好きにしたらいいわよ、それとも…今死にたいのかしら?」
アイテムボックスから村雨を取り出して鯉口を切ると…
「ちょっとそれは洒落になんないっつーか、ほんとに死ぬからやめてほしいっす!」
素早くレリックの後ろに退避するスレイ
「ふむ、とにかくそこで伸びている二人を部屋に運んだほうが良いのではないか??」
「それもそうね、レンもそろそろ帰ってくるだろうし」
彼女はおもむろに二人を担ぎ上げて家に向かって歩き出す
「軽く担いだな…、我らの出番は無さそうだ」
「そのようだ…」
「そっすねぇ」
3人の男の溜め息が重なったのだった。
伸びた二人を部屋まで運んだリンはリビングに戻ってきて煙草を吹かし一息つく
『嬢ちゃん、あんたさっきのカオリの一撃はなんともないのかよ??」
壁に立て掛けたガルからそんな言葉が掛けられる
「まぁあのくらいなら平気ね、この世界に来てから結構頑丈になったみたいだし」
さすがに拳を叩き込まれた箇所は痛いけど。
『異世界人はなんともデタラメっつーか…アイツを思い出すな』
「アイツ?」
『まぁ俺が生きていた頃にいた送り人なんだがな、ソイツは国崩って呼ばれてた男だったんだが』
「国崩?また随分物騒な…」
最近どこかで聞いたような気もするけど…?
『呼び名の由来はまぁそのまんまさ、アイツは一人で国を4つ滅ぼしたからだから笑えねぇが』
わぉ。スケールが違うわね…、どうやったら国を4つも滅ぼせるのか気になるけど。
『つか、嬢ちゃんもやろうと思えば出来んだろ?国なんて一番偉いやつからぶっ殺して行けばその内滅ぶだろうからな』
「ほう、国崩とはまた懐かしい名前ではないか。確か最後は自身の力に耐えられずに自爆したのだが…」
丁度リビングに入ってきたカリムが話に加わってきた
「カリムはその人を知ってるの?」
「うむ、奴とは我が友と一緒に度々衝突していたからな。そもそも奴の最期というのも我が友であるジャックと全力で戦った結果であるのだ」
『…あぁ』
「そして貴殿の事も覚えているぞ?『凶刃』であろう?」
『ちっ、覚えてやがったか…。だがもうその名で呼ぶなや…凶刃はあの時の戦いで死んだんだ』
苦虫を噛み潰したような声音のガル
「人には触れられたくないこともあるだろうしね、所でそのジャックって人はやっぱり有名なの?」
おじいちゃんと同じ名前だから興味あるのよねぇ。
『ジャック…アイツは強かったなぁ。今でも忘れねぇ…アイツを初めて見た時は生きて帰れねぇと思ったからな』
「そういえばお主はジャックとも剣を交えていたな」
『あぁ、俺を殺した張本人だ…忘れもしねぇよ。おめぇにも散々やられたがな!』
「それは此方も同じ事だ。貴殿に付けられた傷は数知れず…我が古きライバルよ」
昔の話を聞いてみると互いに思うところはあるようだけど…別に恨みがあるとかじゃなさそうだった。
リビングでいつものように煙草を吸っているとレンがお風呂から出たようで、リビングにやってくる
「そういえば母さん、この前頼まれたおつかいだけど…メモ渡し間違えてなかった?」
ん?おつかい?
「あー、牛乳とか頼んでたやつね?間違えてた?」
「うん、メモの場所に行ったら武具のお店だったよ?」
あらま。カオリに渡す筈のメモをレンに渡してたのか…ならカオリに渡したのがおつかいのメモだったのね。
「そうだったの、ごめんね?間違えて渡したみたいね」
「ううん、行ってみたら色々楽しかったからいいんだけど…、伝言を頼まれてたんだ」
「伝言?なぁに?」
「例の物が届いたからいつでも取りに来なさいって」
あぁ、ならやっぱり刀はこの世界でも手に入れる事が出来るって事か…まぁ日本人が送られて来てるんだから誰かが作ってもおかしくは無いわよねぇ
「わかったわ。ありがとうね」
そう言って頭を撫で撫でしているとレンが
「母さん、今度ボクとスタン、シアをギルドに連れていって欲しいんだけど…」
「んー、なんでギルドに行きたいのかしら??」
「母さんってSSランクの冒険者なんでしょ?この前行った武具屋のおじちゃんが言ってたんだ、スタンに聞いたら物凄く強い人じゃないとなれないって」
「そう、まぁ隠してる訳じゃないからいいんだけど…ってまさか…」
「僕も冒険者になりたいんだ!ギルドで登録出来るんでしょ??スタンとシアの3人でパーティを組みたいんだ」
うーん。駄目だって言うのは簡単なんだけど…さてどうしたものか……。
正直、レンにはまだ早いとしか思えないのよね…その友達は見たことないから分からないけれど、同じ年代ならそう実力は変わらないだろうし…
「レン、冒険者には危険が付きものよ。今のレンだと死ぬか大怪我をする可能性の方が高いの。今は鍛錬をしっかりこなして学校を卒業してから冒険者登録した方が良いわ」
駄目じゃないけどまだ早い。それが私の考えだからとレンに伝える
「…分かったよ、それなら今度からスタンとシアも一緒に鍛錬してもいい?」
「もちろん良いわよ?同年代の子と一緒にやるのはお互いを成長させるからね」
「うん!じゃあ明日学校でスタンとシアに一緒にやろうって言ってみる!」
「じゃあもうそろそろ寝なさい。明日も学校なら早めに寝ないとね…寝る子は育つ!早く強くなりたいならそういう所からはじめるのよ?」
「うん!」
レンは元気に返事をして走って行くが、途中で立ち止まると振り返ってから
「…あんまり無理しないでよ?いくら強くても心配になるんだよ?母さんの事は本当の母さんと同じくらい好きだから…いきなり居なくならないでね」
そう言うとお休みなさいと言って行ってしまった。
暫くその場で佇んでたけれど…自然と頬が緩む
「エル、あなたの息子はとっても逞しく育っていたみたいよ…?貴女の死をあの子なりに乗り越えようとしてるもの。天国からこれからもあの子を見守って頂戴。私が生きている間はどんなことがあっても守り通すから…」
目を閉じて黙祷する。
それから暫くして煙草を揉み消すとリビングから寝室に向かうリンの背中を見送るのは一振りの剣
『…つーか嬢ちゃんは俺の存在を忘れてたな。ま、良いもん見れたからいいか…』
安き眠りを……とガルの呟きを最後にリビングは静寂に包まれたのだった。




