第5話 冒険者ギルド
あれから数日後、日常生活を送る程度の体力が戻ってきたので私は街を案内してくれると言うクライスの申し出を受けて色々な場所へ連れて行ってもらっていた
街の中を歩きつつ周りを見ていると…
「リンはこの前から思ってたんだが普段と戦闘中の雰囲気が全然違うな、戦闘中は口調が鋭い。だが普段は穏やかだから余計に違和感があるというか…」
うーん、自分ではあまり変わらないと思うんだけど、確かに戦闘とかになると口調がキツくなるのは前の世界でも色々な人に指摘されてきたことでもあるし…
「確かによく言われるけど自分ではあまり変わらないと思うんですけどね」
ここ数日でクライス夫妻にはとても世話になったけどいつまでも世話になり続けるわけにもいかないし…早めに生活するための手段を確保しないといけないなぁ
「クライスさん、いつまでもお世話になる訳にはいかないからお金を稼ごうかと思うんですが、どこか仕事が探せる場所を教えてもらえませんか?」
この規模の街にならどこなりか仕事の斡旋場所があるはず。
「ん?俺達は別にいつまでも居てもらって構わないんだがな、妻も君と居るのは楽しいらしい」
確かに楽しく話をしたりするけど日本人としては恩を受けっぱなしというわけにもいかない。
「…だがまぁそういうことなら冒険者ギルドに行ってみるか?丁度君が討伐したワイバーンの買い取りが終了したと連絡がはいっていてな、それを受け取りに連れていくつもりだったんだ」
「そうなんですか?あれが売れるんですか…」
かなり酷い状態だったような…頭を吹き飛ばしたし胴体には派手に穴を開けたし…
「大丈夫だ、ワイバーンの素材はかなりの価値があるからな。多少損傷が酷かろうと高値で売れるぞ?」
そうやって話をしながら歩いていると正面に大きな建物が見えてきた。
「見えてきたな、あれが冒険者ギルドだ。あそこなら登録さえすれば色々な仕事が受けられるぞ」
そして私達が扉をくぐると中はかなり広かった、壁には掲示板があり一面に紙が貼ってある。近くにはカウンターがあってそこで依頼を受けている最中であろう人達が何人かいる。
しかし他にいた人々は入ってきた私達に視線を向けてくる…主に私が目立っているみたいだけど。
「リン、ちょっとここで待っててくれないか?今からカウンターでワイバーンの報酬受け取りの手続きをしてくる、そのあと冒険者登録をしよう」
クライスは私を近くの椅子に座らせると空いている受付に歩いていった
それにしてもやっぱりファンタジーね。今まであんまり実感沸かなかったけどこの光景をみたら納得するしかないなぁ。
ギルド内に視線を向けて観察してみると、様々な装備をした人たちがいる。そしてその全員に言えることが一つ…すなわち私を見ているということかな。
確かにまだ顔の包帯も全部が取れたわけではないのだから目立つのはわかるけど…。
その中でもずっと私にゲスな視線を向けているおっさ…じゃなくておじさんがおもむろに私に近づいてくると隣に座ってくる
「なぁお嬢さん、怪我してるようだがなにと戦ったんだ?まぁそんな大怪我するくらいだから弱いんだろ?」
む…このおっさ…おじさ…もういいか。おっさん腹立つな、息も臭いし。
「俺が守ってやるよ、ただし……その時は礼の仕方くらい分かるよな?」
そういうと手を私のお尻に這わせてくる。とゆうかおっさんはこんな怪我してて顔も分からないような女のどこが良いのか…まぁそれは別としてナチュラルにセクハラしてくるのは腹が立つな。
「…………触るな。気持ち悪い。息が臭い。体臭も臭い。おじさん、毎日風呂に入って歯も磨いたほうがいいわよ?匂いが耐えられないから近くに来ないでもらえるかしら?」
私のお尻に這わせていた手を弾くと周りにいた人々がさーっと離れていく。…なるほど、関わり合いになりたくないと、そういう訳ね。
「おぃ、あの女やりやがった!鉄拳のダルトンに喧嘩売ったぞ?離れねえと巻き添えくらっちまうぜ」
「しかし笑えるな、みなが思ってる事全て言ったぞあいつ。だが後がどうなるか…」
「…こ、このアマ!死にてえらしいな?!この俺を誰だと思ってやがる!Bランク冒険者鉄拳のダルトンだぞ!」
「へー、鉄拳のダルトンね、似合わないなぁ。体臭のダルトンに改名したら?人を殺せるわよ?その体臭」
ほんとに臭いからあっちに行って欲しい。
何を言われたか理解したダルトンは顔を真っ赤にして立ち上がる。
「殺す‼喰らえ!」
ダルトンは右の拳に魔力を乗せて私に向けて放つが…
「…はぁ、逆ギレとはね。私に殺意を向けた以上、逆に殺されても仕方ないわよね?」
そういうと手の内にデザートイーグルを取り出すとダルトンの放った拳を左腕で受け流す。
「な!俺の拳を受け流しただと!?」
ダルトンはさらに左の拳を下から振り抜く体勢に入っていく。
「ほう、体臭は酷いが実力はそれなりにあるようだ。だがな」
しかしアッパーもリンには届かない。リンはアッパーを繰り出して延びきった体勢のダルトンの腕にデザートイーグルを叩きつけると鈍い音が響いた。
「ぎゃぁぁぁ!!俺の腕がぁぁァ!」
叫びながら膝をついたダルトンの頭部に蹴りを放って言い放つ。
「ぎゃあぎゃあと五月蝿いんだよ!大の男が腕を折られたくらいで騒ぐな!情けない」
未だに叫んでいるダルトンへ向けて銃口を向けると冷酷な笑みを浮かべた。
「他人を殺すと言ったんだ。逆に殺されても文句は言えないな?」
引き金に力を込めようとした所でどこからか現れた老人が私の腕を掴む。
「それ以上は止めておかんかのぅ?ギルドの中での私闘は禁じているでな」
「あら、仕掛けてきたのはあっちよ?邪魔しないでもらえるかしら?」
老人の手を振り払おうとしたが動かない…この老人…一体何者??
「なんとまぁ、勇ましい嬢ちゃんだ。だがの、いくら馬鹿でも殺すのはやりすぎじゃて」
デザートイーグルを一旦下ろすと老人を見据える。
「そんなこと言うならもう少し早く出てくることね?おじいさん?今回は殺すのはやめておくわ。ただし……」
お尻を触られた分のツケは払って貰わないと駄目よねぇ!
再び銃口をダルトンに向けると引き金を引き絞る…連続して轟音が鳴り響き、空薬莢が床に落ちる度にキィンと甲高い音が響き渡る。
「落とし前はつけさせて貰ったわ。2度と私に殺意を向けて来ないでちょうだい…次は殺す」
ダルトンの周りの床にはダルトンを囲うように弾痕が広がっていて当のダルトンはズボンを濡らして気絶してしまっていた。
暴れたせいで顔の包帯がほどけて床に落ち、隠れていた顔が顕になる。
長い白銀色の髪に切れ長の目…そして柔らかそうで薄く紅を塗ったような唇、顔には斜めに一筋、顔の左側…目の少し上から頬にかけて縦に一筋の傷が走ったその風貌に人々は魅入っていた。
「…おい、リン。お前はなにをやっているんだ……」
後ろからクライスが包帯を拾いながら声をかけてきた事で血が上った頭が少し冷えた。
「クライスさん…すみません、やってしまいました……」
クライスは顔に手を当てながらため息をつく。
「普段はこんなに大人しいのになぜ君はそう性格が荒々しくなるんだ…まさかほんの少し目を離した間にこれだけの騒ぎを起こすとはな」
呆れた表情のクライス…だがそこに先程の老人が声をかけてくる。
「そこの嬢ちゃんは悪くないのじゃよ、まぁちとやり過ぎた感はあるがのぅ」
「そういえば、おじいさんは誰?」
「おぉ、名乗っておらなんだのぅ、ワシはこのギルドの責任者…ギルドマスターのアルバートじゃ、とりあえずお前さんにはわしの部屋まで来てもらうぞい。床を壊したあの武器にも興味があるしのぅ」
私は事情をクライスに話すと待っててもらうことにする。
「事情はわかった、とにかく用事を終わらせてきなさい。登録などはその後にしよう」
「話はまとまったようじゃな?それではギルドマスター室に来てもらうぞい」
そうして私はアルバートの後ろについて歩き出した。
簡易人物紹介
【鉄拳のダルトン】
【年齢】 32才
【ランク】 Bクラス
【特徴】 両手の鉄甲 女好き
【ギルドの一言】 実力はあるが素行に問題有り。