第50話 逃走からの迎撃
「レリック先輩!後ろから1人追ってきてるっすよ!?」
森の中を全力疾走していく二人…その後方からは追手が迫ってきていた
「いや、3人だ…!別の方向からも二人来ている」
このままだと追い付かれるな…。
「スレイ!魔力の残量はどうだ?!まだ行けるか?!」
俺の魔力はまだ暫くは持つがスレイは俺から見ても普段より余計に魔力を消費しているのが分かる
「このままのペースだと辛いっすね、カオリちゃんはいいんすけどこの剣見た目から分からない位にクッソ重いっす!!」
カオリが持っている村雨を見ながらスレイが叫ぶ
「すいません…、私も自力で走りますから」
カオリが申し訳無さそうにしてそう告げるが
「ははは、大丈夫っすよ!これでも傭兵としてかなり鍛えたっすから、限界が来てもカオリちゃんは俺がキッチリ運ぶっす!」
…どうする?どのみちどこかで迎撃しなければいけないのだが…スレイの魔力が尽きれば彼女を守るのは厳しくなる。
「先輩!!やっぱ人拐いなんてやったから罰がくだったのかもしれないっすね…前をみてください」
レリックが前方に視線を飛ばすとそこには……
「……スケルトンナイトだと?!なぜこのタイミングで…!」
3人の進行方向を遮るかのように木々の間から現れる無数の骸骨…しかし通常のスケルトンが何も身に付けていないのに比べて前方に出現した骸骨は朽ちているとはいえ甲冑を装備し、それぞれの手には剣や槍などを持っている
スケルトンナイトは傭兵や冒険者には厄介な魔物と認識されている魔物で通常の個体はランクC相当なのだがスケルトンナイトの特性が厄介と言われているのだ。
スケルトンナイトは戦士や騎士などの戦闘職が生前の能力をある程度保持した状態で蘇り、通常はCランクだが個体によってはその強さはA~Sランクに届くような個体も稀に出現する
一番有名なのは今も海を彷徨っていると言われている海賊『皆殺しのベンウィック』や、『深淵の鎧騎士』などだが…
「厄介な…スレイ!お前は前方のスケルトンナイトを少し足止めしてくれ、俺が後方の追手を片付ける!」
レリックは言いながら背中の大剣を引き抜いて反転する
それに対してスレイの行動は速かった
スレイは右手に魔力を集め
「了解っす!『ライトニングボルト』」
スケルトンナイトに向かって初級魔法のライトニングボルトを放つ
ライトニングボルトは初級魔法の中でも発動から敵に当たるまでの時間が速く雷属性の適正があるものなら最初に覚える魔法だ
ライトニングボルトが当たったスケルトンナイト達は足を止め、スレイを警戒するようにそれぞれの武器を構える
「カオリちゃん、ちょっとだけ待ってて下さいっす」
そう言ってカオリを地面に下ろすとスケルトンナイトの方に向き直る
「いえ!私も戦います…!」
カオリが村雨を構えてスレイの横に立つと一瞬だけ驚いた表情をしたスレイだが
「分かったっす、ただし…無理だと思ったら迷わず引いてください」
カオリが頷いたのを見てスレイは右手に自分の愛槍を取り出してスケルトンナイトへと走り出す
「っだらぁ!!!邪魔なんだよ!素直に墓の下に戻れ!」
槍を回して突撃するスレイにスケルトンナイトの1体が手に持った長剣で斬りかかる
ギィィン!と甲高い金属音を上げて槍と剣がぶつかりあった
「まだまだっすね!」
受け止められた槍を馴れた手付きで回して戻し、真横に振って槍の柄でスケルトンナイトを殴り付けて吹き飛ばすスレイ、さらに追撃でライトニングボルトを放つ
「まず一体っ!」
すぐさま左右から迫る2体を槍を地面に突き刺し、その槍を軸に自ら回転しながら蹴りを叩き込んでよろめかせると地面から槍を抜いて強烈な突きを放って1体のスケルトンナイトの頭部を粉砕する
「凄い……!」
カオリはスレイの体捌きを見て感嘆の声を上げる
そんなカオリの前にも槍を装備した1体のスケルトンナイトが向かってくるが…
「私だって…!」
鞘から抜けない村雨でスケルトンナイトが振るう槍を受け流し、そのまま村雨を突き出して柄頭で頭部を粉砕するカオリ
「やった!」
村雨を引き戻し、次のスケルトンナイトへと村雨を振り抜くが、しかし先程までの個体とは動きが違った
「え…?!」
手に持った剣で村雨を受け流したスケルトンナイトは盾でカオリを弾き飛ばす
「きゃぁぁぁ!?」
「ちぃ!!どけ!邪魔ッスよ!」
行く手を阻むスケルトンナイトを蹴散らしてカオリの元へと駆け出すスレイ
向こうは…っ!?
レリックは一瞬スレイたちの方へと視線を向けるが…
「余所見してる暇があるのかい?」
レリック目掛けてダークが2本飛んでくる
「くそ!ちょこまかと!」
レリックは大剣でダークを弾く
レリックの前にはローブを纏い、顔を覆面で隠した追手が新たなダークを取り出して佇んでいた
「こんな仕事引き受けるんじゃなかったわ…まさか『悪鬼』と『雷槍』がいるなんてね」
「む、女?俺達を知っているのか…?お前は何者だ?」
「さぁねぇ…とりあえず頼まれた仕事だけはこなさせて貰うけど…ね!」
手に持ったダークを投げる女に対し、レリックは咄嗟に大剣でガードするが
「…しまった!!避けろ!」
ダークが投げられた先はレリックではなくスケルトンナイトに弾き飛ばされて気絶しているカオリだった
くそ!!ここからでは俺もスレイも間に合わん!
ドッ!ドッ!
2本のダークが突き刺さるが………
「っつ…なんて物私の生徒に投げてるのよ…」
そこにはカオリを庇って背中にダークが突き刺さったリンがいた
「もう追い付いたんすか!?」
背中のダークを引き抜いてカオリが握っていた村雨を取るリンは
「あんたたちが遅いのよ。それよりも……」
後ろから剣を降り下ろしてくるスケルトンナイトに対して裏拳を放つリン。
その裏拳はスケルトンナイトを粉々に粉砕した
「邪魔よ」
「へぇ…あたしのダークを受けてまだそれだけ動けるんだぁ、ふふふ」
ローブの女はリンを眺めながらそう呟く
「さて…と」
リンは周りを見渡しながらまずスレイの周りにいるスケルトンナイトを見る
あのローブのやつはあの大剣使いが抑えるから…あっちの槍の方をまずは自由にしてやるべきか
おもむろに村雨をその場で思い切り振り抜くと地面を切り裂きながら斬撃が走りスレイの近くにいたスケルトンナイトをまとめて消し飛ばす
「うわっ!あっぶねーすよ!」
素早く飛び退いたスレイが文句を言ってくるが無視して叫ぶ
「あんたはカオリに付いてなさい!!いいわね!?」
後はあのナイフ使いか…アイツはカオリを殺そうとした。
なら…別に殺してもいいだろう?




