第48話 事の推移
「見つかったか…!」
スレイはレリックに目で合図するとそのまま足に魔力を集め屋根へと駆け上がり逃走する
「待て!!」
少年は腰に差した剣を鞘から抜き放ってスレイを追おうと一歩踏み出すが
「ふ、行かせんよ!」
レリックが大剣を引き抜いて少年……シュノアを迎撃する
硬質な金属がぶつかる音が響く
「…なぜカオリを拐う!?」
シュノアの剣を巧みに大剣を操り反らすレリック
「さてな!教える気は無い…!」
レリックは大剣を押し込んでシュノアの体勢を崩し、蹴りを放ってシュノアを吹き飛ばす
「くっ!?」
咄嗟に空中で回転して着地するシュノア
「甘いぞ…、小僧!」
レリックは既にシュノアとの距離を詰めて大剣を振りかぶっている
『シュノア!右に跳べ!!』
ガルが叫ぶと同時に右に跳んだシュノア
「街の中で堂々と子供襲うとは良い根性してんじゃないの!!」
入れ替わる様に何者かが割って入りレリックの大剣を受け止めた
受け止めた大剣を強引に薙いでレリックを弾き飛ばす乱入者
「君、大丈夫??」
まさか、この人は………!
『コイツも相当強ぇな。シュノア、お前より遥かに格上だぜぇ?この女…』
目の前に立っていたのは身の丈ほどの大剣を肩に担ぎ、圧倒的存在感とその特徴的で燃え盛る様な紅い髪を靡かせた女性、誰もが知っている有名人……
SSランク冒険者『灰塵』ベアトリクス=シュヴァイツァーその人だった
「で?アンタはなんでこの子を襲ってるのよ?返答次第じゃ……」
ベアトリクスは凄まじいプレッシャーを放ちながら肩に担いだ大剣に魔力を通す
大剣の刀身から紅蓮の炎が沸き上がり始める
「くっ!まさか『灰塵』とはな…!」
レリックはスレイが充分な距離を稼ぐにはあと少し粘る必要があると頭の中では判断しているが、それと同時にSSランクを相手にするのは…特に『灰塵』の二つ名を持つ目の前の女性は危険だ、と…結論を下す
「お前には関係の無いことだ、灰塵…」
大剣を握る手が、背中が冷や汗で濡れるのが分かる
「ソイツともう一人が俺の級友を拐ったんです!」
シュノアがベアトリクスにそう言うと
「級友…?まさか騎士学校の……?」
シュノアが頷くとベアトリクスは大剣を構え
「ねぇあんた、今すぐに拐った子を返した方が良いと思うんだけど?」
「なにを馬鹿な事を…こちらも依頼なのだ。譲る訳にはいかない」
ま、そうだろうけど…アタシより数倍恐ろしい化け物の逆鱗に触れると思うけどねぇ……
「ならとりあえず消し炭になって反省するといいわ…ブレイズ…」
「いや、ここまでだ…充分な時間は稼いだ」
レリックが懐から取り出したモノを地面に叩きつけると辺りは眩い閃光で埋め尽くされる
「閃光玉?!」
目が光に慣れた頃にはレリックの姿は無く、ベアトリクスとシュノアだけが残される
「くそ!早く追いかけないとマズイ!」
「まぁ待ちなさい、闇雲に追いかけても一緒だから」
シュノアが駆け出そうとするのを止めるベアトリクス
「しかし!」
「待てっていってんのよ!大丈夫よ、ちゃんと私の連れが追跡してるから」
「…連れ?ですか??」
「そそ、任せておいて大丈夫だからとりあえずあなたの先生に助けてもらいにいきましょうか」
「なー?レンの母ちゃんのおつかいって武器屋にいく事なのか??」
隣を歩くスタンは首を傾げながらレンに聞くが…
「うーん、この紙に書いてある通りの場所なんだけど…」
目の前には武器が飾ってはいるけれど店内には誰も居ない…
「すいませーん、どなたかいませんかー?」
レンが問いかけると奥から
「おぅ!まっとったぞぃ!リンから話は聞いとる…ってなんじゃ??」
奥から出てきたバドはレン達二人を見て首を傾げた
「リンは自分の生徒がくるっちゅーておったが…お前さん等はなんじゃ??」
「母さんから渡された紙にここの場所が書いてあったんですけど…」
レンがそう言うとバドはレンの事をまじまじと見た後、
「む、よく見たら確かにリンの面影が…しかしあやつにこんな歳の子供がおったんか」
「あ、あの…」
「おぉ、すまんすまん!してリンの遣いで来たんじゃったな?だが…使う本人が来ない事にはなんの意味もないんじゃよ」
バドがカウンターの下から取り出した物を見てレンは目を輝かせた
「あ!母さんと同じ剣だ!」
その独特の形状の剣をバドはレンとスタンの前で鞘から引き抜いて見せる
「そうじゃ、こいつはワシの親父に頼んでた物でな。ドワーフの鍛冶職人達だけが知っているルートで取り寄せたのじゃよ、まぁリンが持つ剣に比べるとあれじゃけどな」
引き抜いた刀身をレンとスタンに見せる
「なんかすげーな、でもこんな細い剣だとすぐ折れるんじゃね?」
スタンの言葉にレンは
「母さんも前に言っていたけどこの剣は使い方が違うんだってさ、スタンが使ってるような剣は斬ると言うより叩き斬るとかそういう使い方らしいけど…」
レンがリンから寝る前に聞かされている話を思い出しながらスタンに説明していると
「そうじゃな、この剣…カタナは斬る時は引いて斬るんじゃろう、リンが前にそういっておったわぃ」
「へぇ…なんか使いづらそうなんだな」
「うーん、でも母さんは使いづらいとかは無さそうだったけど…というか手入れをしている時以外で鞘から抜けてるのをみた事無いんだよね。母さんが構えたと思ったら次の瞬間には魔物が斬られて倒れてるから」
「うへぇ…まじか。お前のかーちゃんって話を聞けば聞くほど人間じゃないんじゃないかって思うなぁ。そもそもそんな事出来るとか…SSランクの人達なら分かるけどさぁ」
「そう言えば母さんのランクってなんだろ?聞いたことないな…」
「なんじゃ?自分のランクも息子に教えとらんのか、リンはSSランクじゃよ…しかもラルフのボウズも爆裂娘のベアトリクスも敵わんと言うくらい強いぞ?リンは」
バドの言葉に二人は固まる
「「えぇ~~~~!!!」」
バドの武具屋に二人の叫びが木霊したのだった……




