第44話 ガレイオスの目的
「……あんたは一体…」
レリックの問いかけにリンは少しだけレリックに視線を投げるとすぐにカオリの方を向いて
「…なにがあったのかは大体シュノアから聞いたわ…ごめんなさい、急いでは来たんだけど…怪我はしてない??」
リンの問いにカオリは首を横に振る
「そう、よかった…怖かったでしょう、もう大丈夫だから」
カオリさんは無事だったからまずひと安心だけど…
さて、こいつらはどうしてくれようかしら?生徒であると同時に同郷のカオリを拐うとはね…
リンは銜えていた煙草に取り出したジッポで火をつけて一息吸う。
「……ところで誘拐犯と首謀者が仲間割れしているのはなぜかしら?」
リンの問いに先に口を開いたのはガレイオスだった
「貴女が何者かは興味がありますが…一先ず質問に対して答えるならばそちらの二人が依頼主を裏切ったといった所ですかねぇ、先程の話からすると別に依頼主が居るようですし」
先程までと変わらぬ余裕の態度をとるガレイオス
「…依頼主ねぇ。まぁいいわ…そっちは後からそこの二人に直接聞くから。ところであんたは何者?随分と質の良い護衛を引き連れてるみたいだけど」
ガレイオスは優雅に一礼すると
「今更隠しても意味が無いようですし改めて…私は帝国魔導研究所副所長でガレイオスと申します。貴女の御名前をお聞かせ願えませんかね?」
「リンよ、短い付き合いになるだろうから名前は覚えなくていいわ」
暗に“お前は殺すから覚える必要は無い“との発言にも余裕の表情を崩さないガレイオスは
「まぁ、そう言わずに…貴方はかなりの実力をお持ちみたいですから是非お近づきになりたく…「能書きはいいわ。なぜあの娘を拐ったのかを教えなさい」
言葉を遮られたのも特に気にせずにガレイオスは続ける
「せっかちな方ですね…さて、理由ですか?簡単な事ですよ、送り人は基本的に身の内に我々を遥かに上回る魔力を宿し、さらにギフトなんていうそれこそ反則級のスキルを持たされているのですよ。そして何よりも重要なのは…素晴らしい事に保有魔力とギフトは確率で遺伝するのですよ!考えてもご覧なさい、強力なギフト持ちは一人で国を相手にして勝利を納める様な化け物です、あなた方も知っているでしょう?『災厄の勇者アキラ』や『国崩マルコシアス』『巨壁のヴォーウィック』名を挙げればキリがない位にギフト持ちはその力によって歴史に名を刻んでいる…、そのギフトが遺伝で受け継がれるということは…」
ガレイオスの言葉にレリックが呟く
「まさか、ギフト持ちだけの軍隊か…」
「正解ですよ、そう…ギフト持ちの軍を保有すると言うことはつまり世界の頂点の座を手にいれる事も可能なのですよ…だが忌々しい事に聖堂教会の聖女の妨害によりここ最近は送り人の入手も困難になっていたのですが…。
ここで先程の貴女の質問に答えましょう…彼女を拐ったのは我々が所有するギフト持ちと交配する為に必要だからですよ…」
ガレイオスはさもそれが当たり前の事の様に語るが…彼は気づいていない…彼が話を続けるにつれて周りの騎士や、ワイバーン…レリックにスレイ、そしてカオリ…ガレイオスを除く全ての存在が周囲一帯の空気がなにかに押し潰されるかの様に息苦しくなってきているのを感じていた
そしてその元凶と言える女は目の前で腕を組んで黙している
「…………」
レリックは自身の頬に冷や汗が伝っていくのを感じる
俺達はもしかするととんでもない人間を敵にまわすかも知れない…、目の前の女性が事情を言わせるだけの時間をくれればいいが…
だが依頼主に危害が及ぶのだけは必ず阻止する、なにが相手であろうとだ。それが傭兵団『アカツキの翼』の絶対のルールだ、今でもそれは変わらない。
「所有、交配ね…」
リンが銜えていた煙草を揉み消しながら発したその言葉が纏う雰囲気に流石にガレイオスも気付き冷や汗がどっと吹き出すのを感じる
「どこの世界にも居るものね、人を人と見なさずに自分達の趣味や都合で振り回す様な糞みたいな奴は」
リンはそう言ってガレイオスのすぐ目の前まで一瞬で距離を詰めるとガレイオスの胸ぐらを片手で掴み地面から浮き上がるほどに持ち上げる
「最強の軍隊?世界の覇権を握る?冗談じゃないわよ…あんた達がなにしようと構わないわ、それこそ他の国に喧嘩を売ろうが裏でコソコソ動こうとね。だけどこれからも生きていたいならこれだけは覚えておけ……私の周りを飛び回るな、国ごと潰すわよ?」
そこまで言うとリンは無造作にガレイオスを放り投げた後、ゆっくりと村雨の柄に手をかける
「どちらにしろ私の教え子を拐った落とし前は付けないとねぇ…」
リンはスッと構えたかと思うと次の瞬間にはガレイオスや重装騎士達の背後に立ち……
「早坂流刀術……『黄泉路流し』」
リンの言葉と共にチィンと鍔鳴りが響き渡ると
ゴギンッと鈍い音が何重にも重なって聞こえた後全ての重装騎士がその場に倒れこみガレイオスも自身の身体の異常に気付き叫びをあげる
「ぎゃあぁぁぁぁ!!?わ、私の腕がァァ!」
ガレイオスの腕はあらぬ方向に折れ曲がり地面をのたうち回る
「騎士には全員気絶して貰ったわ…流石に生徒の前で殺しを見せるわけにも行かないし」
まぁ黄泉路渡し自体は相手の首を飛ばす為の技だから繰り出す直前までは殺すつもりだったけど……とっさに峰打ちに変更した。
峰打ちとはいってもガレイオスの周りの重装騎士は1人残らず泡を吹いて倒れてるわね…鎧で軽減されなかったら峰打ちでも切り飛ばせそうだ
チラリとガレイオスに視線を向けると未だに腕を押さえて叫んでいたので
「腕が一本折れただけでしょ、それとももう一本も折られたいのかしら?本当は切り飛ばすつもりだったんだけど……」
「わ、私にこんなことをして…帝国を敵に回すつも「…まだ元気があるみたいね?次はどこがいいかしら?足?それとも……」
リンは言いながらガレイオスの首筋を指でなぞる
「ここにするのか?それが嫌なら2度と私の近くをうろちょろするな。次は確実に殺す」
リンから向けられた濃密な殺気に当てられて今度こそガレイオスは気絶し、辺りに静けさが戻る
「五月蝿いのは黙らせたわ、次は……あんた達ね」
リンは後ろにいたレリックとスレイの方を振り向いてそう言い放つのだった……




