第43話 知らない場所に連れていかれるみたいです…
…………なんでこんな事になってるのだろうか。
私は揺れる馬車の中で半ば諦めた様にぼんやりと考えていた
私は思えば運が悪すぎるのかもしれない…くじ運は常に毎年大凶を引くし、2択とかも当たった試しが無いし、なにかにつまづくなんて日常茶飯事だった。
この世界に飛ばされたあの日も朝から普通に学校に行って勉強して、友達と遊んで、趣味の刀剣観賞を楽しんで…だけどそんな日常は2度とやって来ることは無くて、あの日…私こと、篠田香織はこの世界に飛ばされた。
あの日の朝、家を出た私は幾分か焦っていた。
普段は寝坊なんてしたことなかったのだけどその日に限って寝坊してしまったからだ
慌てて学校を目指して走るがこのままだと間に合わないよね…
「あそこを通れば…間に合うかも!」
いつもの通学路の途中にある住宅地の横にある道を突っ切って行けば多少は短縮出来ると考えて走った
でも、今思えばそれがそもそもの間違いだったんだよね…
私が通路から出た所で目に入ってきた光景は……
横断歩道が赤になっているのも気付かずに小学生の女の子が猫を追いかけている光景が飛び込んでくる
向こうからはトラックが迫って来ているのも見えた
私は咄嗟に猛ダッシュすると女の子を突き飛ばして歩道に押し出す
その直後ブレーキ音が響き、トラックに撥ね飛ばされた私は身体がバラバラになったかの様な衝撃を受けて吹き飛んだ
「……う」
周りの音が妙に遠くに感じる…
さっきの女の子が私の近くで泣いているのが紅く霞んだ視界に入る…無事だったなら良かったと思い、腕を伸ばして頭を撫でようとして気付く。
身体に力が入らない…
「…泣…かな…い…で…?だい…じょ…ぶだ…か…ら…」
声を振り絞って目の前の女の子にそう伝えた所で私の視界は暗転していき、記憶はそこまでで途切れていた…
それからは気がついたら森にいたり、状況も分からないままにゴブリンに襲われたり、…この世界で私の事を拾ってくれて生活を助けてくれた命の恩人…同じ地球からの転移者に助けてもらったり、ギフト無しだと言われて肩身が狭かったり…この世界に来てからも本当にろくな目にあってないなと思う…今回も学園での授業が終わって買い物をしに行こうとしたらいきなり変な薬を使われ、捕まってしまったし…
ぼんやりとそんな事を考えていると
「先輩、このまま待ち合わせの場所に行くのはちょいとまずくないすかね?依頼主が俺達を黙って帰すとは思えないんですよね、正直逃げる手段も色々用意した方がいいと思うっすよ」
「あぁ、それなら馬車を手配している。後は煙幕と閃光玉もな」
さっきのチャラい口調の男がもう一人の人と喋っている声に耳を傾ける、どうやら私は何処かに連れていかれるみたいなんだけど…
するともう一人のすごくデカイ剣を背中に差してるおじさんがこちらに近づいてきて
「手荒な真似をしてすまなかった、と言っても許されない事をしているのは分かっている。恨むなら恨んでくれて構わない…それだけの覚悟はしたうえで君を連れ出した」
「私は…どうなるんですか?」
「君を保護したいという帝国からの依頼でな。帝国にある送り人を保護している施設に連れていかれるらしいが、詳細は知らされていない」
保護、施設?なんでそんな所に…怒りを通り越して悲しくなる
「行きたくありません…!私を元の場所に帰して…なんで私なんですか……なんでよ…」
気付いたら涙が溢れていた、今まで散々な目にあってきたけどこんなのってない…
「私がなにかしたんですか…!今までの生活を奪われて!この世界に来てからも散々な目にあって!やっと最近人並みに暮らせる様になったのに…あんまりだよ…」
もう涙が溢れて止まらなかった
「先輩…俺達は…」
「分かっている…スレイ、俺達の目的を忘れるな…この娘にはすまないと思うがな」
あれからどれだけの時間が経ったのだろうか
馬車に乗せられて随分経ったけど…そんなとき、馬車が止まった
「ここからは歩く、くれぐれも逃げようとはしないでくれよ…?」
レリックの問いにカオリは諦めたように「…はい」とだけ返事を返して黙りこんだのを見ると3人は歩き始める
それからほどなくして目的の場所に到着するとそこには重装騎士6人、ローブを着た男が1人その場に待っていた
「さすがですねぇ、仕事が早くて助かりますよ。では早くソレを引き渡して貰いましょうか」
ローブを着た男はカオリを指差す
「分かった、今からそちらに渡す」
レリックがカオリに近づいて
「さぁ、あっちまで歩いてくれ…」
カオリはコクりと頷くとゆっくりと歩き始める
「おぉ、素直な娘ですねぇ…」
ただし…と言いながら男はカオリへ向けて手をかざすと
「良からぬ事を企むのは許せませんね、『ライトニングアロー』」
男の掌から魔術が放たれカオリを弾き飛ばすと、カオリのポケットからボールのような何かが転がり出た
男はそれを拾い上げると
「なるほど、閃光玉ですか…小賢しい娘ですね、まぁ必ず生きている必要もありませんから死んで貰いましょうか」
男は腰に提げたロングソードを引き抜くとカオリに向けて降り下ろしたが…
「させるか!」
降り下ろされたロングソードにレリックがナイフを投擲して弾く
「スレイ!今だ!」
レリックの声よりも前に動き出していたスレイがカオリの元へと近付き、抱き上げてその場を離れる
「…!?…これはなんの真似ですか?裏切るおつもりですか?愚かな事を…」
男と周囲の重装騎士が一斉に構えてレリックに武器を構える
「裏切る?そもそもお前達の仲間になった覚えはないな…俺が受けた依頼はただ1つだ」
レリックも背中に背負った大剣を引き抜いて構える
「最初からお前達に監視されていたのには気づいていた。だから一芝居打たせて貰った…まんまと騙されてくれて助かったよ、まさかあんたの様な大物が来るとは思わなかったがな…帝国魔導研究所副所長…ガレイオス=マーシウス!」
ガレイオスと呼ばれた男はしかし少しの動揺も見せずに
「ほぅ、私の素性まで知っていらっしゃるとは…しかしだからどうだと言うのですかね?貴方方二人が幾ら強かろうとこの人数には歯が立たないでしょう?それにですね…」
ガレイオスは懐から笛を取り出して鳴らす
すると上空から物凄い勢いで何かがその場に飛来する
「…!ワイバーンか!」
彼等の前に現れたワイバーンはガレイオスの隣に着地してレリック達を威嚇しはじめる
「グルルゥ…」
「あなた方に倒せますかな?野生のワイバーンとは比べ物になりませんよ?」
確かに目の前のワイバーンは普通のワイバーンよりも遥かに格上だと言うことが見てわかる…体格も普通のワイバーンよりさらに大きい上にしっかりと頭部や弱点であるお腹の部分を鎧で守っている
「…厄介なやつが来たもんだな、スレイ…その娘を守れ!そして…もしもの時は俺を置いてその娘を連れて逃げろ…いいな?」
スレイはレリックの目をみて意思を曲げるつもりが無いことを見てとると
「…わかりました。ただし…倒しちまえば問題ないっすよね?先輩?」
手に持った愛用の槍…雷槍『トルスニク』に魔力を送り紫電を纏わせたスレイが深く腰を沈め槍を構える
「おや、向かって来ますか…ならば」
ワイバーンが雄叫びを上げると同時に口内に濃密な魔力が収束していく
それを見た二人はそれぞれ行動を起こす
スレイは構えを解いてカオリをブレスの射線から守り、レリックは二人の前に移動して大剣を盾にして立ち塞がる様にしてブレスに備える
次の瞬間には直撃するであろうブレスの衝撃に備える為に全身に力を込めているとレリックの耳に何者かの声が響く
その場に伏せなさい!!!
咄嗟にレリックが伏せるとその上をその声の主と思われる人影がワイバーンへと向かっていくのが一瞬見え、次の瞬間には轟音と共にワイバーンが吹き飛ばされた。
「…一体なにが……?」
土煙が晴れていくとそこには一人の女性が立っていた
すらりとした身体つきに腰まで伸ばした銀髪を無造作にリボンで結び、顔には特徴的な二筋の傷跡…そして何よりも眼を奪われたのはその瞳だった
真紅と黒の双眸で睨み付けているその眼光は鋭く、そして今まで見たどんな女性よりも美しかった……




