第38話 リンはその日〇〇〇〇を手に入れた!
初仕事?のその夜、晩ご飯を作っているとレンがキッチンを覗きに来たのが気配で分かった
「レン、どうかしたの?」
「母さん…今日の晩ご飯はなに……?」
レンが恐る恐る聞いてくるのを見てちょっと…ほんのちょっとショックを受けた……
私の料理はそんなに恐ろしいものなのか……!
「母さん…オタマ落としたよ?」
レンの声で我にかえる
「はっ…晩ご飯だったわね、今日はカレーよ!」
レンは首を傾げて
「母さん、カレーってなに??美味しいの?」
レンの疑問に私は自信をもって宣言する
「カレーは私の得意料理よ!カレーは私が最初に覚えた料理なの。作り方も簡単だし、これは間違いなく美味しいわよ?どこにも失敗する要素が無いからね」
レンにカレーの説明を意気揚々と語る
今日の帰り道、私は食材を買って帰ろうと思って市場に寄ったんだけど…そこで私は奇跡の出逢いを果たしたのである
夕方の市場にて
「今日はなにを作ろうか…ただ焼くだけとか煮るだけなら大丈夫かもしれないし…」
そんなことを呟きながら歩く私を見て道行く人々が避けていく…
無理もない。そもそも私の顔も左目の上から頬の傷や顔の斜めに入った傷が目立つから余計に恐いのかもしれない
「はぁ、レンに怖がれてないだけまだマシかな…っとそれよりも料理の材料……ん?あれは…?」
私の目線はある店の棚に並んだ物体に釘付けになる
棚に近づいてソレを手に取ってみる…これって…まさか………
「お!ねえちゃんはソイツに興味があるのか??この前東方から来たって言う行商から買ったんだが使い道がサッパリでな…行商の説明じゃ数種類のスパイスを調合した物らしいんだが…」
店の主人が話しかけてくる
「ねぇ、聞いてもいいかしら?これくらいの小さい粒みたいな物もあったりするかしら?」
リンは指で米粒の大きさを示す
「あぁ、それなら一緒に買い取ったが…どちらも説明は受けたがイマイチ理解できなかったな。ねえちゃんは使い方わかんのか??」
店の主人が別の棚から袋を取り出して中身を少し私の手のひらに乗せてくれた
「やっぱりお米もあったわね、勿論知ってるわ」
日本人なら知らない訳がない、日本人のソウルフードであるお米が目の前に……!
「こっちの茶色っぽいのはカレー粉よ、まさかこっちにあるとは思わなかったわ…、ねえ?これ幾ら??全部買うわ!」
カレー粉と米を指差しながら店主にそう言うと
「全部買うのか?ちょっとまってくれよ…っと、全部で銀貨84枚になるんだが…もし頼み事を聞いてくれるんなら半額で良いんだが?もしねえちゃんさえ良けりゃだがな」
「そのままでも買えるけど…安くなるならそれに越した事は無いわね、その頼み事ってなにかしら??」
店主…ライアンが頼みたいことは簡単だった。
「いやなに、そいつを使った料理ってのを食べてみたいと思ったからな。その料理が出来たら俺にも分けてくれないか?ってのが俺の頼みだ…どうだ?受けてくれるか?」
ライアンが手を差し出して来たので私はその手をガッチリと握り返しながら
「いいわよ、ちゃんと完成したら食べさせてあげる。楽しみにしてなさい!」
「交渉成立だな!つかねえちゃん力強えぇなぁ?!痛てて…」
「ごめん、ちょっと力入れすぎたわ…そういえば名前を教えて無かったわ、私はリンよ。これからよろしく…ライアンさん」
私がにこやかにそう挨拶するとライアンが呆けたような表情でこちらを見る
「どうしたの?」
「…っ!いやいや、なんでもない!あまりにも迫力がある笑顔だったからつい…」
「やっぱりこの傷顔じゃ…怖がられるのが普通よねぇ…」
顔の傷を指でなぞりながら溜め息を吐く
「いや、そんなつもりじゃなかったんだが…」
「いいわよ、そんなに気にしてる訳じゃないもの」
暫くカリムと喋った後、銀貨42枚を払って麻袋二袋の米とカレー粉が入った木箱を受け取る
「リンさん、本当に配達しなくていいのか?これでも結構な重さになるぞ?」
心配しているライアンの目の前で
「大丈夫よ、荷物は持つ必要ないからね」
そう言って米とカレー粉をアイテムボックスに念じて収納する
するとライアンが
「!?、……こりゃあ驚いたな。亜空庫持ちだったのか」
「ええ、だから荷物は問題ないのよね…それじゃ、私は帰って晩ご飯の支度をするわ…また米とか仕入れたら教えて頂戴ね?買いにくるから」
「おう!また仕入れとくよ!また来てくれや」
リンは手をヒラヒラさせながら帰って行く
「……なんか不思議な奴だったな。よし、また色々仕入れておくか!」
ライアンはそう呟きながら店の奥へ戻っていった……
再びキッチンにて
リンはカレーを作っている鍋の前で静かに目を閉じてその時を待っていた
それから暫くしてからオタマで少しだけ中身を掬い味見してみる
「……よし、カレーは出来たわ!後は…米ね」
隣の鍋では米を炊いていたが、もうそろそろ蒸らしも終わった頃合いだ
「さて、炊飯器以外で炊くなんて久しぶりだから上手く出来てるかしら?」
蓋を開けてみるとそこには日本で食べていた物と変わらない白米が見事に炊き上がっていた
「…おぉ。ちゃんと炊けてるわ!レン!!食器を用意して、さっそく食べるわよ!!」
レンと二人で食器を用意してテーブルに並べ、私がカレーの鍋とお米の鍋をテーブルに持っていく
「母さん、すごく美味しそうな匂いがするね!」
レンがスプーンを持って私がカレーを皿に盛るのを待っている…とても可愛い。
二人分用意し終えると早速二人揃って
「「いただきます」」
いつものように手を合わせてそう言ってから食べ始める
「…?!母さん!これ美味しいよ!?凄く美味しい!」
レンは口の回りにご飯粒やカレーがついてるのも気にせずカレーを食べている
「ふふん、私が本気を出せばこれくらい当然よ…ゴメンね、今まで我慢させて…。これからは毎日カレーよ!!!」
「母さん…毎日はやめようね…」
毎日は飽きるわね…やっぱり他の料理もどうにかして美味しく作るしかないか
「ちゃんと他の料理も美味しく作るように頑張るわ」
しかしふと疑問が浮かぶ。
自分で作っててなんだけど…なぜカレーは美味しく作れたのだろう?確かに作る前からなんとなくちゃんと作れる気がしてはいたけど…謎ね…
ま、いいわ…やっと私の料理でレンが喜ぶ顔を見ることが出来た。
お母さんが教えてくれた料理…シチューは駄目だったけど、カレーはちゃんと作れたよ…もっと他にも教えて貰っとくべきだったわ…お母さん、ありがとう。
「母さん?急に黙ってどうかしたの??」
「なんでもないわ…さぁ、食べ終わったらお風呂に入って明日の準備をしないとね」
そうして楽しい晩ご飯の時間は過ぎていった…




