第37話 レン、友達が出来る
騎士学校中等部の教室にて
「スタン?ちゃんと課題はやってきたの?」
お前は俺のかーちゃんか…めんどくさい
「ちゃんとやってきたに決まってんだろ?シアこそ今日の実技の授業は大丈夫なのかよ?」
スタンと呼ばれた少年は気だるそうに机に突っ伏しながらシアに返事を返す
「わたしは大丈夫…とは言えないけどなんとかするもん」
シアは実技が苦手だからなぁ…今度から始まる野外活動なんて出来るのかよ…
二人が話していると教室の扉が開き、担任のワルド先生が入って来て皆に席に着くようにと促した
「えー、今日から皆さんと一緒に学ぶ事になるお友達を紹介します…入って来てください」
こんな時期に転入生?どんな奴が来たんだろう…
教室に入ってきたのは銀髪の美少年だった
まじかよ…俺よりもイケメンだ…羨ましい。
「…えと、皆さんと今日から一緒に学ぶ事になりました、レンと言います!よろしくお願いします!」
レンが頭を下げるとパチパチと歓迎の拍手がレンを迎えてくれる
「それでは…レン君はあそこの空いてる席に着いて下さい」
って…俺の隣じゃん!
ワルド先生が窓際にある席を指差していたのでそこに座るレン
「あの、これからよろしくお願いします!えと…」
「俺の名前はスタンだ、よろしくな!レン」
手を差し出して握手を交わす二人
それから午前の座学が終わり昼食の時間がやってきた。
スタンが弁当箱をバックから取り出して机に置くとチラっと隣を見る…レンもバックから弁当箱を取り出しているところだった
「なぁ?一緒に食べようぜ?レンの事色々聞きたいしな」
「いいの?他の生徒と食べたりするんじゃ…」
そういいかけたレンの元へ
「スタンはいつも私と食べてるよ?友達少ないからねスタンは」
レンの目の前にはくすんだ金髪に特徴的なアホ毛をピコピコさせ、可愛らしい弁当袋を手に下げた少女が立っていた
「シア…確かにお前と食ってるのは間違ってないけどよ、たまに食堂で皆と食べるときもあるだろが!誤解を招く言い方するなよな…俺にも友達くらい…って、それは置いといて…レン、こいつは俺の幼馴染みのシアって言うんだ。こいつも一緒に弁当食べるけど良いか??」
レンはニコニコしながら
「僕は構わないよ、皆で食べたりするのって楽しいし…家では母さんと二人だけで食べてるから皆で食べるのは新鮮なんだよ、それに誘ってくれたのはスタン君だろ?シアさん、これからもよろしくね」
レンは手を差し出してシアとも握手を交わす
「レン君、私達の事は呼び捨てでいいよ?私達もそうするし」
「そうだぜ、レン!俺達友達だろ?」
「ありがとう!スタン、シア…初めて友達が出来たよ」
それからは三人でご飯を食べながら色々な話をした
「…へぇ、ならレンは最近この街に引っ越してきたんだな…なら今度一緒に街を見て回ろうぜ?俺達が案内するからさ!」
スタンがそう言うとシアも名案ね、と言いながら賛成する
「じゃあ今度の休校日にしようぜ?」
「わかった!じゃあ母さんにその日は遊びに行くって言っとかないとね、鍛練を休みにしてもらう」
「鍛練?レンは家でも鍛練してるの?」
シアが感心したようにレンに問いかけ、それにレンは頷き
「うん、母さんに頼んで毎日武術を教えて貰ってるんだよ。と言っても今は母さんと一緒に体力作りの為に家の庭を走ったりしてるだけだけど…」
頬を掻きながらレンはまだ始めたばかりだからと言う
「そういやレンは武器ってなにを使うんだ?俺はショートソードに盾を装備する軽装戦士、シアは法術で回復担当の法術士…法術士は凄いんだぜ?その人の腕次第で重症でもある程度治せるんだ。まぁ使い手が少ないから皆は基本的に傷の手当てとかは治療院に行くんだけどな」
スタンは自慢気に語る
「でも私はまだまだ未熟だからあまり酷い怪我は治せないよ」
「それでもすごいよ、他の人には無い特技があるんだから。それで…僕の武器だったよね?これだよ」
レンはそう言って机の上に腰のベルトから外したコンバットナイフを置く
「ナイフみたいだけど、普通のナイフに比べて随分と大きいな。レン、抜いてみていいか?」
レンがいいよ、と言ったのを確認してスタンがナイフを鞘から抜いてみる
「普通のナイフより重いな、しかもこれって材料はなんで作ってるんだろう?これってどこで買ったんだ?」
「それは母さんから貰ったんだよ、前に母さんから貰ったナイフを無くしたから…」
一瞬寂しげな表情を浮かべたレンに二人は気付かなかった
「てかレンの母ちゃんって何者だよ…鍛練をつけてくれるってのもそうだけどさ、そのナイフって多分だけどかなり等級高いもんだぜ?俺のスキルに鑑定があるんだけど…そのナイフの詳細が鑑定出来なかったからな。俺の鑑定スキルじゃ鑑定出来ない位の等級って事だ」
スタンはナイフを眺めながらそう語る
「そんな凄い武器を持ってるなんてレンのお母さんってなにをしてる人??」
シアの問いにレンは
「母さんは冒険者なんだ、でも今日からこの学校で先生をしてるよ?とっても優しくて強いし…ただ怒ると恐いってベアトリクスさんが言ってたけど…」
レンの言葉に二人は驚く
「ちょっとまって、色々衝撃的な事を聞いた気がするんだけど…レンのお母さんってあの『灰塵』と知り合いなの!?」
「『灰塵』?よくわからないけどこの前母さんと一緒にご飯を食べたときに一緒だったんだ、ベアトリクスさんは紅い髪の人だったよ?」
「間違いない、ギルドランクSSランクの『灰塵』ベアトリクスだ。めっちゃ有名人じゃんか!ほんとにレンの母ちゃんって何者だよ…」
「今度遊びに来る?母さんに友達を紹介したいしさ」
「まじか!行く行く!レンの家にも興味あるし」
「レンのお母さんかぁ、どんな人なのか楽しみね」
三人で楽しく喋っている内に昼休みも半分が過ぎて行く
「そういえばさっきからお弁当食べてないけどどうかしたの??」
シアがレンの弁当箱を覗きながら不思議そうな顔をしてレンに聞くと
「うーん、母さんって他はなんでも出来るんだけどさ、料理だけはすごく下手なんだよね」
申し訳なさそうな顔を浮かべて弁当箱の中身に視線を落とす
リンはレンの為に朝から弁当を作っていた。だがリンの料理は不味い
「え?でもすごく美味しそうに見えるよ?」
「食べてみる?食べたら分かるよ…」
レンが弁当箱を二人の前に差し出す
「んじゃ遠慮なく…」「私も」
二人はそれぞれ口に運ぶと……
「うぐっ!?」「!??」
二人の顔がみるみる歪んでいく
「というわけなんだよ。母さんは毎日練習してるし…一生懸命作ってくれるから食べない訳にもいかなくてさ…」
「そ、そうなんだ…、頑張ってねレン」
シアとスタンは心の中で願う
『『どうかレンのお母さんの料理の腕が上達しますように…』
そんな二人をよそにレンは残った弁当を黙々と食べ続けるのだった…




