第31話 話のあとは噂話…良い噂ではない。
「と、まぁその時は死んだと思ったんだけど自称神様に助けられてそのままこの世界に送られたのよ」
マリーが淹れてくれた紅茶を飲みつつ一旦話を締める
「「……」」
あ、あれ??やっぱり信じて貰えないかしら…、しかし困ったわね…
「リアクションが無いのは信じて貰えない…とか?」
「あ、あぁ…すまない、そういう事ではないんだ。まさかそこまで壮絶な話になるとは思ってなくてな…だがこれでその年齢に似合わない雰囲気、リンが使っている武器や常に身体強化の魔法が発動しているがごとき身体能力の謎が解けたよ、それだけの修羅場を経験してるならな…しかも、まさか神様のギフトが関わってるとは…まったくリンには驚かされてばかりだな」
「私も驚いたけど、リンの故郷の話を聞いてみたいと思ったし、それに“送り人”自体は過去にも例があるのよ?でもその人達は黒髪黒目だったらしいけど…」
黒髪黒目ねぇ…それってまんま日本人の特徴よね
「それは私と同郷の人かもね、私の故郷は黒髪黒目が普通なんだけど…私は他の人とは見た目が全然違うから」
つい遠い目になる…
あの頃は苦労したわ…小学校までは割と普通に他の子とも仲良くやってたんだけど、やはり中学に上がる頃には見た目の違う私は遠回しに避けられるようになったしね。
高校では髪を黒に染めてカラーコンタクトで誤魔化して…友達なんてほとんど居なかったから毎日バイトに明け暮れてたけどね。
今考えるとほんとにロクな青春時代じゃないわね…
「…なるほどな、今までの話を纏めると前の世界では傭兵でその戦闘中に神様から呼び出されてそこで神様からギフトを貰いこの世界に送られた…という事なんだな?」
「そうね、それで間違いないわ」
これで私が隠してた事は話した…やっぱり恩人に何時までも黙ってるのは嫌だし、なにより変な嘘もつかなくて済むしね
「あの時クライスに出会って良かったわ、出会って無かったらワイバーンに襲われて仮に倒したとしてもあの怪我じゃその内死んでただろうし」
「本当に危なかったのよ、リン。最初クライスがあなたを抱えて帰って来た時は驚いたけど、あなたの怪我を診てみて更に驚いたんだから…普通ならとっくに死んでもおかしくない傷だったのよ?全身どこもかしこも怪我だらけ…手、足、肩、お腹…とにかく危なかったのよ」
「あはは、本当にマリーは命の恩人ね。感謝してもしたり無いと言うか…本当にありがとう」
佇まいを直して頭をテーブルに付けるように頭をさげる
「気にしないで、私は治療はしたけどあんなにすぐ回復するとは思わなかったわ…良くて2ヶ月から3ヶ月はあまり動けない位と思ってたんだけどね…一体リンの身体はどうなってるのかしらねぇ?」
今一瞬背筋がぞわっとしたわね…
「ははは、リンならもしかしたら腕とか切り落とされても普通にくっつけたり生えたりするのかもしれんな」
「いやいや、私をなんだと思ってるのよ…まぁ、いいわ…後なにか聞きたい事とかあるかしら??」
「そうだな…聞きたい事ではないんだが、ちょっと不穏な噂を聞いたんだが…」
「不穏な噂…?」
「あぁ、リンはこの世界に来たばかりで知らないかもしれないがこの街…カルドナが属しているオルトヘイムと言うのだが厄介な事に周辺の国との関係が良好とは言い難い。まだ噂程度なんだがそう遠くない内に周辺国と戦争が始まるかもしれん」
クライスが説明してくれた話によると
まずこのカルドナの街が属しているオルトロス
それからオルトヘイムの西に広がる平野…『ダノン平野』を挟んで位置するのが獣人の国であるヤード王国
東に広がる森林を抜けた先にある…エルフの国アルフヘイム王国
北にはトーラム山脈があり、その山脈の中腹辺りに国を築いているドワーフ達の国タルタロス
南にはこの大陸で最大の規模を誇るヒューマンの国であるガルバトス帝国
この四国があるらしいんだけど、そこで問題になったのがこのオルトロスの王族や貴族の現状である
オルトロスの今の王であるロレンス王の評判は悪い、政治は私には分からないからなんとも言えないけれど…ロレンス王は女グセが悪いと評判らしい…
「…それで?女グセが悪いのは分かった、でもそれだけじゃ戦争にはならないと思うのだけど…」
「そうなんだが…女グセだけなら良かったんだが政治に関しても優れているわけじゃない。この国が存続しているのは単に各領主の方々がキッチリ領地を統治しているからにすぎない」
そこまでクライスが言い終えると今度はマリーが口を開く
「でもねぇ、一番の原因はやっぱり女グセなのよね…ロレンス王は獣人だろうとエルフだろうと美しければ妾にするって話よ。噂だからなんとも言えないのよね、表向きは相手が望んで嫁いだと言ってるみたいだけど…」
「…つまり、それが周辺国との不和の原因かもって事さ、実際の所はわからんがな…ちなみにリンも気を付けた方がいい。君はかなり目立つ」
「…忠告は覚えとくわ、まぁないでしょうけどね」
それからも故郷の話や両親の話をしている内に夜も遅くなったので話を切り上げる事になった
部屋に戻ると寝間着に着替えてベットに入るとレンの頭を撫でる
「よく寝てるわね……おやすみ、レン…」
リンの異世界での夜はこうして更けていった………




