第25話 店に居たのは……
アルバートの部屋から出た後私がレンを迎えに行くとレンは私に気付くなりこちらに走ってくる
「母さん!用事は終わった??」
走ってきたレンを受け止める
「終わったわよ、レンは良い子にしてた?」
「もちろんだよ、色々な人と話をしてたんだ!」
なんだか嬉しそうにしているレンを見ていると私も自然と頬が緩む
「そっか、どんな話をしてたの?私に聞かせてよ?」
「えっと、母さんの事ばかりだったよ?でもまだ分からない事ばかりだから分かる事だけ答えたんだ!」
レンは話した内容を聞かせてくれたんだけど……
「誰よ?!レンに私のスリーサイズなんて聞いたのは!」
他愛のない話の中にそんな単語が出てきたからつい叫んだ、まぁレンはよく分かってないみたいだったから分からないって言ったみたいだけど……
「ねぇ、すりーさいずってなんなの?」
「レンにはまだ早いから意味はその内教えてあげるわ」
それから私が叫んだ時にビクッとした男どもを睨み反省した頃合いでカウンターにいく
「あ、リンさん!用事は終わりましたか??さっきはすいません!慌てちゃって…あ!緊急依頼の報酬ですよね?今からお渡ししますね」
フランは一旦奥に行くとしばらくして戻ってくる
「えーと、こちらが緊急依頼の報酬です!金貨30枚が緊急依頼の正規報酬で……」
フランが机に皮袋を置く
「そしてですね、こちらがギルドマスターよりの個別報酬の金貨50枚で、合計80枚になります!」
金貨80枚…これってもしかして結構な金額なんじゃ……
これなら生活にはしばらく困らないかな?
「80枚あるわね、確かに受けとったわ…ところでフラン、あなたに聞きたい事があるんだけど」
「はい!なんでしょうか??」
「この街で服や下着を買うならどこがいいかしら?まだこの街に慣れてなくてわからないのよね……」
フランは少し考えた後
「えっとですね、ギルドから出て少し歩いた場所にある『クレハ服飾』が結構品揃えと品質はいいですよ?あと子供用も売ってますし」
あら、通り道にあったのか…全然気付かなかった
「ただ…腕は確かなんですけど、お店の店員が……」
「ん?なにか問題があるの?」
「行ってみたら分かると思いますよ、とにかく品物は満足出来ると思いますから!」
フランの言葉が気になるけどとりあえず行けば分かるらしいから行ってみるしかなさそうね
「分かったわ、ありがとう…早速行ってみるわ」
そして私は今その店に居るんだけど…………
何故か私は店に居たエプロン姿の厳ついマッチョに絡まれていた
「美しい…!分かる、私には分かるわ!貴女、その細い体の中にとんでもないモノをもってるわね!?」
ヤバい、すごく面倒くさい感じが……
「えっと…なんのことかしら?」
おネエのマッチョとか需要ないでしょーに…どこの世界にも酔狂な人はいるのか……。
まぁ個人の自由だから私に迷惑かけなければ好きにしてちょうだいとは思うケド…
これは確実に駄目な方に行ってる気がする
「んまぁ!まだ分からないの?!素晴らしいと言えば…筋肉よ!き・ん・に・く!」
おネエマッチョ店員はそう言いながら上半身の服を筋肉でぶち破る
もうなにに反応していいやら分からないわ
「……レン、帰ろっか…」
「……うん」
そうして振り返り店の入口へ…
しかし先回りされてしまった!!
「この肉体美をみて逃げ出したい気持ちは分かる、すごく分かるけど…もう少し…」
……目の前の筋肉が盛り上がって暑苦しい…室内の温度が2、3度上がった気がする
「とりあえず、邪魔よ…!」
リンはマッチョの腕を掴むとポイっとゴミでも投げるかの様に放り投げると店の床に激突して気絶してしまった
「…さて、やっと帰れるわ……」
そうして店を出ようとした時またしても声がかかる
「待って!待ってください!!」
先程とは違う声だったので振り返ると
「申し訳ありません!!うちの兄が失礼を働いたみたいで…」
出てきたのは見た感じいかにも職人という格好をした若い女の子だった
「え、いや…別に良いんだけど…あれがお兄さん?」
「はい…残念ながら…ちょっと変ですけど普段は優しいんですよ??それよりも…服をお探しではなかったのでしょうか、お詫びになるかは分かりませんが精一杯サービスしますので見ていってください!」
兄は放置する事になったらしい、まぁもともと服を買いに来たんだから私はそれでいいかと納得する
にしても似てないわねぇ…妹はこんなに可愛らしいのに……翡翠色の瞳はすこし大人しそうな印象を与え、髪は茶色、腰まで届くストレートヘアを腰で瞳と同じ色のリボンで纏めてる
「それならお願いするわ、私は今まで服とか興味無かったからセンスないのよね…この子の分だけでも選んで貰えたら助かるんだけど」
「もちろん!…でも意外ですね、そんなに美人でスタイルも抜群なのに…、お洒落したら道行く男性は皆振り返りますよ」
「うーん、今までがそんな余裕もなかったしね。とりあえず私は普段着と寝間着、下着があればそれで満足だけど…レンは欲しい服とかある??」
キョロキョロと店内を見渡していたレンに聞いてみるが
「母さんが買ってくれるならなんでもいい」
と言うので店員さん…クレハにお任せすることにした
「それでは、レン君のから選びましょうか!下着と普段着、寝間着を……」
レンの分は意外と早く選び終わった、レンは普通のTシャツとズボン、それからどこからか持ってきた冒険者に憧れる子供に人気の外套を欲しいって言ったからそれも買う事にした
後は私の分なんだけど…
「このレースの物はどうでしょうか??リンさんの魅力を引き立てますよ?」
普通でいいんだけど…まぁ勧めてくれるから一枚位は買っても良いけどね
「下着は大体それでいいわ、服はなるべく動きを阻害しない物がいいわね」
それなら…とクレハは店の中から幾つか服を持ってきて私の前に並べてくれる
「へぇ、色々あるのね…これなら問題ないわ」
見ると今私が履いているズボンに似たような物やタイトスカート、上着はTシャツやジャケットに似た物まである
「これ全部貰えるかしら?あとお願いがあるんだけど……」
それからクレハに頼み事を伝えると服の会計を済ませて店を出る
全部で銀貨20枚だった、値札を見ても軽く銀貨80枚コースだったんだけど…
クレハは兄が迷惑をかけたお詫びです!と言って最後にまた頭を下げて謝ってくれた
ちなみに兄……名前はガデスさんって言うらしいけど最後らへんで気がついたがクレハに怒られて大人しくしていた
「騒がしかったけど良い店だったわね、レン」
「そうだね、また行こうよ」
「ええ、また今度ね」
それから二人で手を繋いでクライスの家に向けて歩いていると
「あれは…」
特徴的な赤髪の女性が遠目に見えた
「ベアトリクスじゃないかしら?」
目で追っているとある建物に入っていく
「ここは…酒場?」
建物の前に着くと中から笑い声やらが聞こえてくる…
「レン、ちょっとだけ寄り道しましょうか、仕事仲間に挨拶だけでもしておきたいのよ」
「母さんの仕事仲間?あの時の黒い人??」
レンはガストロノフの事を言ってるようだけど…
そう言えばレンは気を失ってたからベアトリクスの事は知らないか
「あの人とは別の人よ?レンは気を失ってたから分からないだろうけど…ちゃんとレンの事紹介しないと」
酒場の扉を開くと何人かがこちらに視線を向けるが私を見た所で視線を反らした
店内を見渡すと端の方のテーブルに目的の人物が居た
近くまで行くと私に気付いたらしく手招きしてきた
「やっほー、リンも酒場に来たりするんだ?とりあえず座りなよ」
私とレンは椅子に座るとまずベアトリクスにレンを紹介した
「しかし改めて見てみると本当にそっくりだよね、あんた達」
ベアトリクスはそう言いながらジョッキに並々注がれた酒を煽る
レンは隣でジュースを、私はベアトリクスと同じ物を頼んで飲んでいる
「私も結構驚いてるんだけど、まぁなんと言うか母さんと呼ばれる事が特に違和感ないのが不思議ではあるけどね」
「本当の母親ともそっくりなんだからなんか意味があったのかもねぇ、まぁなんか困ったら言ってよ?リンのおかげでまた酒を飲める、命の恩人の頼みならなにを置いても駆けつけるからさ」
「その時は遠慮せず頼むわね」
暫くこの街の話や噂、オススメの店などを教えて貰ったり、私が使う武器や技の話なんかを話していると入口から聞き覚えのある声が聞こえてきた
「今日も巡回は問題なくおわったなぁ!一杯飲んで帰ろうぜ、クライス」
「お前は一杯じゃなくいっぱい飲むの間違いだろ」
入口に視線をむけて見るとクライスともう一人の騎士がこちらの方に歩いてくる
まぁ隣のテーブル…というか私達のテーブルの周りは誰も座ってないからだけど
「クライス、お疲れ様。こっちに座ったら?まだこのテーブル椅子の空きが2つあるし」
すでに私に気付いていたのかさして驚いた様子もなく
「いいのか?そちらの方と飲んでたんじゃ……」
そしてベアトリクスの方を見て固まった
「私なら全然構わないよ、酒は皆で騒がしく飲むもんさ」
「おい!クライス!この美人二人と知り合いか?!誰なんだよ」
隣の騎士がクライスの肩を掴んで揺さぶる度にガチャンガチャン鎧が音を立てる
「とりあえず座りなよ?皆の視線が痛いしさ」
見渡すと先程まで騒いでいた皆がこちらを注目していた
「そ、そうだな。ボルド、とりあえず座るか?」
それから店員が注文を取りに来ると二人はエールを頼む、ついでにレンのジュースのおかわりと私とベアトリクスのエールも追加で頼んだ
「リン、一応紹介するがこいつが俺の相棒のボルドだ、最初街の外でリンをみつけときに居たからボルドはリンの事を知ってる…顔は初めて見るがな」
「あぁ、あの時先に行った騎士さんね?どうもはじめまして、リンと申します…以後お見知りおきを」
リンは軽く頭を下げて挨拶する
「こ、こちらこそ宜しくお願いします!まさか包帯の下がこんなとんでもない美人だったとは…驚きました」
「いえ、傷だらけでお恥ずかしい限りです」
「ボルド、お見合いしてるわけじゃないんだから…リンも普段通りでいいぞ?こいつに畏まる必要はないからな?それでリンの隣でジュースを飲んでるのが彼女の息子のレンだ、それから……」
クライスはベアトリクスの方を見ると私にはやく紹介してくれと目で合図を送る
「それでこっちがこの前の緊急依頼で一緒になった…「ベアトリクスよ、まぁどっちかって言えば『灰塵』って言ったほうが有名かしら?」
ベアトリクスが通り名を言った時にわかに周囲がざわめいた
「おい、やっぱりあいつ『灰塵』だってよ…やべぇ危うく声をかけちまう所だったぜ」
「まじかよ…とゆうか『灰塵』と平然と喋ってるあの女は…」
ちらほらと会話が聞こえてくるけど…
ちなみにクライスとボルドは
「…!やっぱりか、前に1度遠征中に会ったことがあるんだ…あの時はまだ『爆炎皇』の通り名だったがな、まぁ彼女が魔族を焼き尽くしたお陰で俺達は無事帰ってこれたんだがな」
クライスとボルドは語る、あの時の指揮官は最低だったやら相手の魔族の統率が見事で隙がなかったなど…
「あぁ!あの時の戦いに居たのねぇ、あの貴族のボンボンは酷かったわ!ほんとにね」
ベアトリクスも思い出しながら笑っていた
レンも私達の話が面白いのか目を輝かせて話に聞き入っているみたい
こうやって皆で騒がしくするのは好きだ…たまにはレンを連れてこんな風に酒場で話す機会をつくってみようかしら?
そんなことを考えながら温いエールをまた喉に流し込むリンだった




