第23話 朝の鍛練からの……
次の日の朝……
「………んっ」
リンは寝苦しさで目をうっすら開けた後一瞬目を見開く
「…そうだった、レンと一緒に寝たんだった……」
見てみれば自分の胸に顔を埋めて寝てるレンの姿がある
「……んー、これはあれかな?やっぱり母親が恋しいのかしら」
外を見るとまだ早朝のようで、子供が起きるのには早いと考えたリンはしがみついているレンをそっと離してベットから降りる
着崩れた下着やらを直すと村雨を持って外に出る
「さて、鍛練はしておかないとね」
クライス邸の庭で準備運動をする。それからリンは一旦村雨を置くと構えをとる
それから暫くは基本の型を繰り返し行っていると
「……リンか?鍛練とは感心だな」
声のほうを振り向くとクライスも鍛練をするつもりだったのか長剣型の木刀を持っている
「おはよう、まぁ日課みたいなものだから。クライスも鍛練のようだけど?」
「あぁ、毎朝素振りだけはやるようにしてるんでな」
そういってクライスは素振りを始める
私も基本の型を数回やったあと村雨を持つ
鞘と鍔を紐で括り抜けないようにすると今度は早坂流剣術の型を始める
リンは下段に構えるとフッと息を吐く
「……早坂流剣術『半月斬』」
リンの持つ村雨が三日月のような軌跡を残して振り抜かれると数瞬遅れて音と風が走り抜ける
「…………凄いな」
「…ふぅ、いえ…まだまだね。これじゃあ本来の威力は出せないかな」
「そうなのか?俺には充分に見えるが…そもそも音と風が斬撃に遅れて走るなんて初めてみたんだが…リンは剣も使えるのだな、あの妙な武器しか見たことなかったが、剣術も練度が高い」
「まぁ…ね、お爺ちゃんと両親に散々鍛えられたから。それこそ色んな技術を学んだわね…空手、八極拳、柔術、CQC、組手甲冑術…武器は剣術、槍術、鉄扇術、棒術とかね…とにかく色々よ」
「聞いたことない物もあるが凄いものだな…。まぁなんだ、折角だし俺に稽古をつけてくれないか??」
「いいけど、クライスは剣が主なのよね?私はどっちがいい?素手でもいいけど…」
「リンに任せる、それと実戦形式で頼めるか?」
クライスはいつの間にかカイトシールドを持ち出して来ていた
「…なるほど、なるほど…そのカイトシールドはこの前装備していた物よね?じゃあ……」
リンは無手の構えをとる
「では…いくぞ!!」
クライスは盾に半身隠れるようにして突進してくるが
しかしリンは構えたまま動かない
「貰った!!『シールドバッシュ』」
リンの体がシールドの射程に入ると同時に技を使って吹き飛ばそうとするが…
「遅い!」
シールドを左腕で受け流し、力の方向を変えるとクライスはバランスを崩してしまう
「っく!だがまだだ…!」
クライスは受け流されたシールドの先端部をそのまま地面に突き刺し体を捻り右手に持った木剣をリンに叩きつける
「今の狙いは凄くよかったわ、だけど…不安定な体勢から繰り出す一撃は防がれる可能性が高い。実戦で使うならもう一手工夫を凝らした方がいい…」
クライスはリンに自身の木剣が当たったと思ったが目の前の光景はそれを完全に否定していた
リンはクライスが繰り出した木剣を二本の指で挟んで止めていた
「そして…実戦で隙を見せたら死ぬ!」
そう告げるとクライスの木剣に拳を叩きつけるとその衝撃でクライスの腕が跳ね上がり脇ががら空きになる
「しまったッ…!」
「さぁ、こちらの攻撃いくわよ?」
がら空きになった脇腹へと狙いを定めたリンは
「耐えてよね…『烈天掌』」
リンは脚を地面へと力強く踏み抜いてクライスの体に拳を叩き込んだ
「がはっ…」
ドンッとクライスの身体に衝撃が駆け抜けた
すると
「クライス!!鍛練なら静かにやりなさいよ!ご近所に迷惑でしょ!」
マリーの怒鳴り声が聞こえた
「ぬぉぉ、すまん…マリー。騒がしくしすぎた……」
そうクライスは言うとその場で崩れ落ちた
「しまった…加減を間違えたわ……」
「まいった、リンは強いな。まったく勝てる気がしなかった」
あのあと倒れたクライスを運んで汗を流した後、部屋に戻ってレンを起こし、マリーから朝食の準備が出来たと言われてからの今である
「もう、朝から騒々しい!鍛練するならもう少し静かにやってくださいね?ご近所から文句言われるのは私なんだから……」
マリーが頬を膨らませて文句を言っていると
「すまん、リンの鍛練を見たらつい…しかしあんなレベルの高い技を見れるとは思わなかったがな」
クライスがパンを食べつつ今朝の光景を思い出す
「母さん…は、強いのか…?」
まだぎこちない感じではあるもののレンが母さんと呼んでくれるのは意外と心地がいい
「そうねぇ、強いわよ?その辺の奴らは相手にならないくらいには」
レンは目を輝かせながら
「すごい!俺も強くなれるかな?」
「ええ、ちゃんと鍛えたら誰でも強くなれるのよ?私も最初は弱かったんだから」
「ははは、レン君は強くなりたいのか!ならばその内騎士学校へ入るといいぞ?学問から戦闘訓練、魔法修練…すべてを学ぶことが出来るからな、基礎を学ぶならだが…な?俺レベルならすぐに追い付けるさ」
「あら?クライスも中々良かったわよ?自分を過小評価してはいけないわね、色々工夫したらいい感じになるんじゃないかしら」
「ありがとうなリン。とまぁレン君が興味あるならリンに頼んでみたらどうだ?」
騎士学校ねぇ、まぁ子供が学校に通うのは良いことよね、学費とかの問題はあるだろうけど…
「レンはどうしたいのかしら、学校に行きたい??」
「…でも、お金とか……」
「レン?私はあなたが行きたいか、行きたくないかを聞いてるのよ?お金なんてなんとでもなるんだからレンは気にしないの」
「行ってみたい…です」
「わかったわ!私に任せなさい!クライス、後から騎士学校の事を詳しく教えて頂戴!」
「お、おう…分かった」
「はいはい、話もまとまったところでそろそろお片付けして仕事に行かないと」
マリーが食器を片付け始めるとレンも一緒に片付けを始める
「リンはどうする?俺は詰所、マリーは診療所に向かうが…」
「私はレンと自分の服を買いに行った後ギルドに報告に行こうかなと思ってるんだけどね」
「そうか、なら気を付けて行ってくるんだぞ」
それから部屋に一旦戻って準備する
リンはホルスターを装着し、腰のベルトに村雨を下げるとレンの準備を手伝う
「ベルトはこうやって調節するのよ、覚えてね」
レンの腰にベルトを合わせると調節してずり落ちないようにする
「これでよし、あら?似合うわね、ナイフが大きいから丁度良い感じになったわ」
レンには悪いけど、見た感じあれね……
『チビッ子剣士』
私の頭にはそんな言葉が浮かんでいた(笑)
「…母さん?」
「さ、さて準備も出来たし行きましょうか」
そうして二人で街に出かけていった




